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第2章 二人のための夜会
第9話 花園は男性立ち入り禁止につき
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ドーーンッ!
部屋の外からフェルナン陛下が私を案じる声がすると同時に、鍵の掛かっていたドアが勢いよく蹴破られたのだ。
「生きてるか!? アルヴァ……ろ……」
フェルナン陛下の金色の瞳が揺れた。
ご令嬢に馬乗りされ、下着姿でベッドに押し倒されている私を見て。
「へ、陛下! 助け――」
「すまん! 百合の間に挟まることは死罪だものな! 失礼する!!」
蹴り破られ破損したドアをわざわざはめ直し、フェルナン陛下は大慌で姿を消した。
「いや、待てーーーいっ! そんな法律ないわーーーっ!」
私がツッコミを入れても、フェルナン陛下が戻って来る気配はない。
まさか、襲い襲われではなく、百合認定されてしまうなんて。
「ヴィオラ様、陛下がなんかすみません……。女体化した私とあなたが百合展開とか、そんな噂が立たないよう、後でしぼっときますんで……」
なんだか気まずくなってしまい、私はやれやれとため息を吐き出した。
しかし、さぁ、これでようやくヴィオラ様もどいてくださるかなと思いきや。
「百合……? わたくし、今ユリユリしておりますの……?」
ヴィオラ様の様子がおかしい。
青く澄んだ瞳がキラキラと輝き、指を胸の前でもじもじさせ、頬は美しい薔薇色だ。いや、薔薇とか百合とか花だらけだが、とりあえずヴィオラ様の様子がおかしい。
「今思い出しました……。わたくし幼い頃、お父様の蔵書を覗いてしまいましたの……。女の子たちが仲睦まじくしている日常系の素敵な書物でした……。お父様はそれを『百合』と呼んでいて……。『至高。しかし険しい夢なり』と悲しそうに申しておりました……」
「な、なんかヒース公爵のとんでもない秘密を知ってしまったような……」
私が気まずい苦笑いを浮かべ、ヴィオラ様の下から抜け出そうともそもそとしていると。
「いやん♡ 今は動かないでくださいまし♡」
ヴィオラ様が可愛い悲鳴を上げ、私はギョッと目を剥いた。まるで私が下で何かしたみたいなリアクションはやめてほしい。
「ヴィオラ様、あの、解散しましょう! 何か起こる前に!」
あせあせと私が慌てて彼女の腰を掴んでベッドの下に下ろそうとすると、またヴィオラ様は「きゃんっ」とセクシー&キュートに叫ぶではないか。どうやら私は、ヴィオラ様の新しい扉を開けてしまったらしい。
「わたくし、お家のために陛下のお心を射止めようと必死に努力して参りましたの……。けれど、いつもなぜが虚しくて……。でも今、その理由がようやく分かりました」
「うわぁぁぁ……、これ以上言わないで……」
「わたくし、百合が好きなのですわ!」
(ひぇぇぇっ‼)
ヴィオラ様の両手が、私の肩をがしっと押さえて放さない。青い瞳の中にハートが見える気がして、私は思わず震え上がってしまった。
おそらくヴィオラ様の心の底には、幼い頃に見た百合の書物への感動がずっと眠っていたのだろう。公爵令嬢である彼女は、フェルナン陛下と結婚するようにと親から淑女教育を受けながらも、その胸には百合への憧れがくすぶり続けていて――。
「――なんて分かったところで、どうしろと⁉ 私は女体化してますけど、男ですからね!」
本当は女だが、男推しするしかない。貞操の危機だから。
けれど、ヴィオラ様はにっこにこだった。
「元は男性でも、今は女の子ですもの。一生呪いが解けない可能性もありますし、これはもう、9割9分女の子ですわ。国王付き護衛騎士の身分なら悪くありませんし。それに百合はお父様の夢ですもの。きっとお喜びになられますわ」
「お父様の夢は、娘を国母にすることじゃなかったんですか⁉」
「より険しい夢の方が燃えますわ! ね、アルヴァロちゃん!」
「ちゃん、やめろ!」
話していても埒が明かない。取り敢えずヴィオラ様を落ち着かせなければと思った私は、体を起こし、彼女の耳元でこう囁いた。
男装時のちょっとハスキーな声色で。少しだけ色っぽく――。
「まずはお友達から始めよう。私から誘いに行くから待っていて。可憐で情熱的なヴィオラちゃん……」
「は……はわわぁぁ~~!!」
私の百合のカリスマ口撃を食らったヴィオラ様は、幸せそうに気絶してくれた。うまくいって良かった。男を演じるために、様々な属性の研究をしていた甲斐がある。
そして私はベッドにヴィオラ様を綺麗に横たえると、ひとまず安堵しながら毛布を体に巻き付けて部屋を後にしたのだった。
部屋の外からフェルナン陛下が私を案じる声がすると同時に、鍵の掛かっていたドアが勢いよく蹴破られたのだ。
「生きてるか!? アルヴァ……ろ……」
フェルナン陛下の金色の瞳が揺れた。
ご令嬢に馬乗りされ、下着姿でベッドに押し倒されている私を見て。
「へ、陛下! 助け――」
「すまん! 百合の間に挟まることは死罪だものな! 失礼する!!」
蹴り破られ破損したドアをわざわざはめ直し、フェルナン陛下は大慌で姿を消した。
「いや、待てーーーいっ! そんな法律ないわーーーっ!」
私がツッコミを入れても、フェルナン陛下が戻って来る気配はない。
まさか、襲い襲われではなく、百合認定されてしまうなんて。
「ヴィオラ様、陛下がなんかすみません……。女体化した私とあなたが百合展開とか、そんな噂が立たないよう、後でしぼっときますんで……」
なんだか気まずくなってしまい、私はやれやれとため息を吐き出した。
しかし、さぁ、これでようやくヴィオラ様もどいてくださるかなと思いきや。
「百合……? わたくし、今ユリユリしておりますの……?」
ヴィオラ様の様子がおかしい。
青く澄んだ瞳がキラキラと輝き、指を胸の前でもじもじさせ、頬は美しい薔薇色だ。いや、薔薇とか百合とか花だらけだが、とりあえずヴィオラ様の様子がおかしい。
「今思い出しました……。わたくし幼い頃、お父様の蔵書を覗いてしまいましたの……。女の子たちが仲睦まじくしている日常系の素敵な書物でした……。お父様はそれを『百合』と呼んでいて……。『至高。しかし険しい夢なり』と悲しそうに申しておりました……」
「な、なんかヒース公爵のとんでもない秘密を知ってしまったような……」
私が気まずい苦笑いを浮かべ、ヴィオラ様の下から抜け出そうともそもそとしていると。
「いやん♡ 今は動かないでくださいまし♡」
ヴィオラ様が可愛い悲鳴を上げ、私はギョッと目を剥いた。まるで私が下で何かしたみたいなリアクションはやめてほしい。
「ヴィオラ様、あの、解散しましょう! 何か起こる前に!」
あせあせと私が慌てて彼女の腰を掴んでベッドの下に下ろそうとすると、またヴィオラ様は「きゃんっ」とセクシー&キュートに叫ぶではないか。どうやら私は、ヴィオラ様の新しい扉を開けてしまったらしい。
「わたくし、お家のために陛下のお心を射止めようと必死に努力して参りましたの……。けれど、いつもなぜが虚しくて……。でも今、その理由がようやく分かりました」
「うわぁぁぁ……、これ以上言わないで……」
「わたくし、百合が好きなのですわ!」
(ひぇぇぇっ‼)
ヴィオラ様の両手が、私の肩をがしっと押さえて放さない。青い瞳の中にハートが見える気がして、私は思わず震え上がってしまった。
おそらくヴィオラ様の心の底には、幼い頃に見た百合の書物への感動がずっと眠っていたのだろう。公爵令嬢である彼女は、フェルナン陛下と結婚するようにと親から淑女教育を受けながらも、その胸には百合への憧れがくすぶり続けていて――。
「――なんて分かったところで、どうしろと⁉ 私は女体化してますけど、男ですからね!」
本当は女だが、男推しするしかない。貞操の危機だから。
けれど、ヴィオラ様はにっこにこだった。
「元は男性でも、今は女の子ですもの。一生呪いが解けない可能性もありますし、これはもう、9割9分女の子ですわ。国王付き護衛騎士の身分なら悪くありませんし。それに百合はお父様の夢ですもの。きっとお喜びになられますわ」
「お父様の夢は、娘を国母にすることじゃなかったんですか⁉」
「より険しい夢の方が燃えますわ! ね、アルヴァロちゃん!」
「ちゃん、やめろ!」
話していても埒が明かない。取り敢えずヴィオラ様を落ち着かせなければと思った私は、体を起こし、彼女の耳元でこう囁いた。
男装時のちょっとハスキーな声色で。少しだけ色っぽく――。
「まずはお友達から始めよう。私から誘いに行くから待っていて。可憐で情熱的なヴィオラちゃん……」
「は……はわわぁぁ~~!!」
私の百合のカリスマ口撃を食らったヴィオラ様は、幸せそうに気絶してくれた。うまくいって良かった。男を演じるために、様々な属性の研究をしていた甲斐がある。
そして私はベッドにヴィオラ様を綺麗に横たえると、ひとまず安堵しながら毛布を体に巻き付けて部屋を後にしたのだった。
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