サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば

文字の大きさ
上 下
7 / 18
第2章 二人のための夜会

第7話 華麗なるたくらみ

しおりを挟む
「さ、この部屋なら大丈夫ですわ」

 紫の人によって城内の小部屋に放り込まれ、私のドレスとコルセットは豪快に引っぺがされた。

 夜会の会場の近くには、「二人で抜けちまおうか」と会を早抜けする貴族のカップル御用達の個室が存在する。つまりは、まぁ、窓が付いていなかったり、簡易ベッドがあったりするような、いかがわしい行為を想定した場所である。
 フェルナン陛下は城に風紀の乱れた部屋が設けられていることを嫌い、それらの撲滅を目指しているのだが、出生率を上げたいと言って譲らない元老院が許さないらしい。

 まぁ、政治の話は置いておいて、ひとまず私のコルセットはその個室で緩められたのである。
 新鮮な空気が肺に流れ込み、私は「はぁ~~っ!」と生きた心地を実感した。

「助けてくださってありがとうございました。お陰でコルセット死せずにすみました」

 簡易ベッドの上で胸のバンドとドロワーズだけになり、大変開放的になった私は、爽やかな笑顔で紫の人にお礼を述べた。
 しかし私とは対照的に、その紫の人は憎々し気にこちらを睨みつけているではないか。そして私はようやく、それがどこのどなた様なのかに気が付いた。

 紫色のウェーブがかった長い髪。少し吊り気味な碧眼。髪と瞳の色と同じ組み合わせの豪華で煌びやかなドレスに身を包む女性は、ヒース公爵家の一人娘。以前、フェルナン陛下に縁談を断られたというヴィオラ・フォン・ヒース公爵令嬢だ。とても美しく聡明そうな女性で、フェルナン陛下と横に並んでも美男美女で絵になりそうである。

「こ……、これはこれは、ヴィオラ様……。ご機嫌麗しゅう……」
「麗しくありませんわ!」
 
 私はおずおずと話しかけると、淡いグリーンの布切れがたくさん、ベッドにまき散らされた。どう見ても怒っている様子のヴィオラ様は、私のドレスを目の前でビリビリと八つ裂きにしたのだ。
 ヒステリック美人! 控えめに言ってめちゃくちゃ怖い。

「ひぇっ! ドレスが!」
「不必要でしょう! あなたは男なんですから!」

 裂かれたドレスの布を投げつけられ、私は怯えながらそれをキャッチした。せっかくビン底眼鏡メイドが見繕ってくれたというのに、酷い有り様だ。

「ヴィオラ様、どうして」
「これで分かるかしら?」

 私の問に、ヴィオラ様は見覚えのあるビン底眼鏡を掛けて答えてくれた。

「あ! ビン底眼鏡のメイドさんの……!」
「えぇ。わたくし、メイドに化けておりましたの。あなたを近くで観察するために」

 ヴィオラ様はフンと嘲笑うように鼻で笑うと、ベッドに上がり、ゆっくりと私に近づいて来る。まるで獲物を狙う獅子のような目つきをしていて、百戦錬磨の私でもこれはヤバいと感じるほどだ。というか、公爵令嬢が城のメイドに紛れるなんて、ロマンス小説のヒロインみたいなことするなよ。行動力すごいな。

「まさか、コルセットがやたらとキツく絞められていたのは……」
「嫌がらせですわ!」
「ひどい!」

 ヴィオラ様の腕力にも驚かされるところだが、やはり異常な絞め具合だと思っていたのだ。
 だが、嫌がらせ程度ではヴィオラ様の怒りは収まるはずがなく。

「あなた、【女体化の呪い】を受けたでしょう⁉ フェルナン陛下は女性嫌いなのに、どうしてあなたは傍に置きますの⁉ これでは見合いをしてもらえなかったわたくしが、あまりにも惨めではありませんか! 胸ですの⁉ そのメロンが陛下のお心を射止めたとおっしゃるの⁉」

 ヴィオラ様は、私をベッドに押し倒すような恰好で掴みかかって来た。
 嫉妬だ。私は、すごく嫉妬されているらしい。

 どんな悪漢でもなぎ倒す自信のある私だが、さすがに若い女性に反撃するのは気が引けてしまい、ひとまず彼女を宥める方向で頑張ってみることにした。

「いえ、あの、陛下はですね。私が呪われたことに責任を感じておられまして……。慈悲深いお方なので、変わらず護衛の任を与えてくださっていて……」
「お黙りなさいませ! それにしたって、あなたは陛下と距離が近すぎますわ! 二人でダンスの練習をして、二人でめかしこんで夜会に来て……。きっとあなたが陛下をたらし込んだのでしょう! 男なのに!」

 ヴィオラ様は烈火のごとくお怒りで、私の話に耳を傾ける気はないらしい。私が女体化した(ことにした)のは、陛下がヴィオラ様との縁談を蹴ってからのこと。たらし込んだり泥棒したりできるタイミングではないというのに。

(とりあえず八つ当たりしたいんだろうなぁ)

「娘を国母にすることは、お父様の夢! わたくしは公爵家の期待を背負っておりますの!」
「ヴィオラ様のお怒りのわけは理解致しました。陛下と結ばれるため、私めが邪魔だから排除したいということですね?」
「御明答! 社会的に抹殺するのですわ!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。 ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。 ──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。 ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。 しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。 そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり…… 独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに? ※完全に作者の趣味です。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

処理中です...