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88 獣人の子供(ジョイ視点)

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 獣人国に帰った後、番だということで周囲からチヤホヤされたティアラは幸せそうだった。少し調子づいた彼女を見てハラハラしつつもジョイの心は期待に膨らんだ。

 なのに――――。

 周囲から望まれている子供が授からないことで彼女は荒れた。



 いっさい避妊をしていないにもかかわらず子を授からないことで何となく察してはいた。けれど、番がいればジョイはそれだけで良かった。アナリーズとの未来を望んでいたが、それはきっと永遠に叶わない。

 だとしたら子供なんてどうでもいい。
 番さえいればそれで十分――――なのに。

 ジョイの番は外に癒しを求めた。

 アナリーズに思いを馳せるジョイのように、ジョイの番は見目の良い獣人に愛を求めては平気な顔でジョイの元へと戻ってくる。まるで、一夜の相手に救いを求めてどうにかジョイとの関係を続けているように――。

 番の誤認の裏返しのような番の行動にジョイの獣人としての本能が傷つきながらも、彼女が戻ってきた喜びに身体と心が満たされる。
 本能から与えられる常軌を逸した喜びがどうにかジョイを支えてくれる。


 最初に拒絶薬を飲んでいたら――。
 最後に拒絶薬を飲まなくて良かった――。


 相反する思いがジョイの心をバラバラに引き裂くけれど、一度本能に身を任せてしまったジョイは一生このままの生活を続けることしかできない。


 浮気を重ねる番に絶望して。
 自分の元に戻ってくれる喜びに歓喜して。

 数年に一度。与えられた仕事のついでに魔法契約の及ばぬ範囲で自らの本心が求める愛しい女性の姿を垣間見ることで荒んだ心を慰めて――。


 そんなとき。


 ジョイはアナリーズを助けた思い出のあの公園で、子供と一緒にいるアナリーズを見た。



 アナリーズの作ったお弁当を口いっぱいに詰め込む男の子は頭にジョイの面影を残していて。

 ジョイはフラフラとアナリーズと男の子に近寄ろうとするけれど、見えない何かに阻まれてそこから先には進めない。
 ジョイの感度の良い耳が無邪気な子供の声を拾う。


「ごちそうさま! お母さん、ボール遊びをして来るね!」


 はじけるような笑顔を浮かべて元気に駆け出す獣人の子供。


 転びそうな子供に思わず駆け寄り手を差し伸べたのは、ジョイではないジョイと同じ特徴を持った男で――――。




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