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15 公爵邸での生活

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 公爵邸からは随分と使用人の数が減っていた。マッサージをしつつ聞きだしたところによると、公爵様は自らの将来を見据えてこの一年の間に少しずつ人員整理を進めたらしい。

 公爵様の言う『将来』が何を指すのか考えると胸が痛くなるが、それでも彼が特に信頼を置いている使用人たちは残されていた。その中には私の世話をしてくれていた年配メイドのシェリーもいた。

 彼女は私が公爵家へ戻った時も、

「奥様よくぞ戻って来てくださいました……」

 ――と、涙ながらに喜んでくれた。

 人形だった私が人間として戻ってきたことに対し、彼女が驚いたのはほんの一瞬。細かいことを気にしない姿勢は素直にすごいと思った。

 ただ、歓迎してくれているのは嬉しいが、公爵家の使用人として働いている私を今も『奥様』と呼び、気を抜くと世話をしようとしてくるので困る。今の私は彼女と同じ立場なのに。
 彼女から言わせれば、公爵様の寵愛を受けていた私はいつまで経っても『奥様』なのだそうだ。否定しても聞き入れてくれないので困ってしまうが、それでも大好きだった彼女に自らの口で『ありがとう』と言えるのは本当に嬉しい。


「ふふ…」

「どうしたんだ? フェデルタ。随分と嬉しそうだけど」

「……はい。こうして公爵様やお世話になった皆様とお話しできるのは幸せだなと思いまして」

「そうだな。……君は、あれからずっとあの人形師と二人で暮らしていたんだっけ。彼とは親しいの? 君からしたら人形にされた憎き相手だろ?」

「ええ。でも、恩人でもありますから」

「――焼けるな」

「……え?」

「いや――。ありがとう、お陰でずいぶん楽になった。今日はもう大丈夫だ。下がっていいよ」

「……失礼します」


 彼との時間が終わってしまった。使用人となった私と公爵様との接点は、彼にマッサージを施す朝の一時間。あとは昼と夜にストレッチをする間の僅かな時間だけ。

 さっきみたいにほんの少し嫉妬心を見せてくれることもあるけれど、決してそれ以上距離を縮めてくることはない。それがとてももどかしい――なんて。

 贅沢よね。あくまでも彼の妻だったのは『人形だった頃のフェデルタ』だもの。あの頃と共通するのは魂だけで、彼が抱いていたのも人形師に作られた人形の身体であって――私じゃない。

 肌を合わせた温かい彼の体温を思い出して寂しさから心がつらくなるときもあるけれど、使用人でもいいからと公爵様の傍にいることを望んだのは自分自身。

 こうして、日々公爵様の役に立てることを感謝しなくては。




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