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16 温もりと嫉妬(公爵視点)
しおりを挟むフェデルタに触られたところから熱が広がっていく気がする――。
フェデルタの体温は温かい。それとも以前のひんやりとした身体がそう思わせるのだろうか。
でも、あの頃だって二人で熱を分け合って、朝を迎える頃にはすっかり彼女も私と同じ体温に……。
『あの頃』の詳細を思い浮かべてしまい、現在のフェデルタへの申し訳なさから頭を振る。
毎日毎日、私は何てことをフェデルタにしていたのだろうか。人形の彼女に体力は関係なかったとはいえ、がっつくにもほどがある。
ふと、彼女が出て行ったドアを見る。
あの頃。フェデルタと過ごすひとときは誰にも邪魔をされないように、ドアには必ずカギをかけていた。
それが今では、彼女からマッサージを受けている間は当然のように僅かに開いている。
仕事が終わると彼女はドアを閉めて去って行く。
それが当時と今との心の距離を表しているような気がしてそっとため息を吐いた。
体内の魔力の循環を促すと言う彼女のマッサージは気持ちがいい。温かな体温と、彼女の優しい魔力に促され、呪いで凍り付いていた心と魔力が溶けて動き出すのが分かる。
実際かなり効果もあるようで、彼女が居なくなった後ほぼ寝たきりになっていた私が再び歩けるようになった。
けれど。
温かなマッサージを受ける度に、彼女にそれを教えてくれたという人形師への理不尽な嫉妬で、ドロドロとした何かが心に産まれるのを止めることが出来ない。
解っている。人形だった彼女の今後を愁い、購入した店の店主――――人形師に託したのは私自身だ。
けれど、優しく彼女に触れられる度に、彼女も同じように人形師に触れられたのかと思うと胸が苦しくて堪らない。
マッサージのお陰で呪いの苦しみは和らいでいる筈なのに――。
それはいったい何故なのか。
たとえ一時的に呪いの苦しみは和らいだとしても、その浸食が止まった訳ではない。
再び食事を摂ることが出来るようになったことで、呪いが本来のスピードに戻っただけだ。
そう遠くない未来。
私は兄達と同じ結末を迎えることになる。
『変えられぬ未来』を言い訳に答えに蓋をして。
出かかった答えを見失った思考だけが、ぐるぐると同じ場所を回り続けている。
「……フェデルタの顔が見たいな」
彼女が現在暮らしているのは以前に使っていた公爵夫人の部屋ではなく、使用人棟にある使用人の部屋だ。
彼女を雇い入れる時にけじめとして私がそう決めた。
再び歩けるようになったとはいえ、今の私にその距離は遠い。自分で自分を生きづらくしている気がするが、じゃあどうすればいいのかの答えは出ない。
疑問ばかりが積み重なって何の答えも出せぬまま。私はベッドから起き上がると、引き寄せられるように今は遠くなってしまった彼女の元へとゆっくり歩き出した。
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