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第二章 魔導士学園 編
事実は小説よりも奇なり
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~罠解除師・エルナトの視点~
私を追いかけていた不死者達はさっきの魔道兵器が消滅させてしまったので、仲間たちが戦っている大広間までは難なく辿り着くことができた。
「あれが、そのトラップよ。」
私は広間に続く扉に現れた格子状の光の筋を指さした。
その向こうでは今でも不死者とみんなが戦い続けているようだった。リゲルの無事がここからでは確認できない。
「さっきと同じやつね。楽勝じゃない。」
少年の後ろを走る少女が口に出した。
「マスターに任せておけばいいにゃ。アスカができることはマスターにもできるにゃ。」
少年の頭の上に乗っている猫が振り返り少女に言った。
「何言ってるのよ。私ほどの水魔法の使い手でなければ細かい光魔法の分散はできないわ。」
「じゃあ、任せた。俺は不死者の一掃に集中するから、扉を通れるようにしたら、俺の後ろから離れるなよ。」
少年は振り返らずに少女に声をかけた。
「それもそうにゃ。適材適所にゃ。あっちはマスターが討ちもらした不死者を片付けるにゃ。」
本当に大丈夫だろうか………
私の不安を他所 に、少女は魔法を詠唱し始める。それも2つの詠唱を高速で唱えていた。
その詠唱が唱え終わると、扉の周りに水のレンズが多数出現し光の軌道を捻じ曲げた。そして、向こう側が見えなくなるほどの霧が扉の中心部分を覆ったのだ。
少年と少女はその霧の中を躊躇なく飛び込んだ。
2人は何事もなく扉を通過しているようだった。私は2人の無事を確認した後、後を追うように霧の中に飛び込んで扉を通過した。
これなら皆を逃がすことができる。広間に入った私は皆を逃がすために大声で叫ぼうとした。
そのときである。広間全体を少年を中心として光魔法が展開されたのだ。
この光魔法は………
これは光魔法の最高位浄化魔法『 聖光魔浄陣 』。
その光は死霊や不死者、魔に属する全ての生命を浄化するという伝説の魔法。
その昔、イーリス帝国の初代皇帝とその一族が大賢者の力を借りて創り出した秘術と聞いている。その魔法の力は、東の大陸から押し寄せる悪魔族の進軍を止めるほどだったと伝えられ、以来大陸の東に位置するイーリス帝国は東の悪魔族の防波堤となっているのだ。しかし、発動させるのに初代皇帝とその他数人の光属性の膨大な魔力が必要な魔法のはずなのだ。
何故この少年が使えるのか。そして何故一人でこの魔法操る事ができるのか。
疑問が次から次へとよぎった。しかし、その疑問は少女の悲鳴でかき消された。
少年から光魔法が広がり始めた瞬間、少女の周りが水球と霧で覆われたかと思うと悲鳴と共にその場に崩れ落ちたのだ。少女が崩れ落ちたと同時に少女を覆っていた水球は形をとどめることができずに辺り一面の床を水に濡らした。
少年は振り返った。
「どうしたにゃ。何も攻撃は受けてないはずにゃ。………分かったにゃ。いい所を見せようと、はりきりすぎにゃ。魔力切れにゃ。だから言ったにゃ。大人しくしてれば良かったにゃ………これを飲むといいにゃ。」
少年の頭に乗っていた猫が少女のそばに行くと、時空の切れ目から一本の瓶を取り出した。
なんなんだ、この猫は………時空間魔法など滅多に使えるものはいないはず………
次々と起こる事態に私の理解は追いつかなかった。
しかし、そんなことを考えている暇は私にはない。あたりを見回すと、不死者は消え去っていた。
残されたのは重傷を負って倒れこんでいる仲間たちの姿だった。私はリゲルの姿を探した。もし、やられて不死者化していれば、さっきの魔法で消え去ってしまっていることも考えられる。
そして広間の中心付近に青い鎧を纏って倒れている姿を発見した。あの鎧はリゲルのものに間違いないはず。その青い鎧は返り血を浴びて赤く塗り替えられていた。
私はリゲルの元へと駆け寄った。そして、体を起こした。
「………エル………ナトか? ………帰って………きたのか?」
リゲルはかなりの重傷を負っているようだった。鎧の背中の部分に傷が入っており、そこから血が溢れ出ていた。
「はい。助けてくれるものを連れてきました。そのおかげで、危機は去りました。」
早く手当をせねば、手遅れになる。治癒を一刻も早くせねばならない。私は治癒士であるブルータスを探した。
「………他の………ものは………無事か………?」
私はブルータスの姿を探しながら、地面に転がっているものの数を数えた。そして、重症の者もいるが、全員まだ息はあるようだった。
そして、全員の周りには薄く光魔法の防御が張られていた。リゲルである。リゲルが戦いの中、全員に不死化を防ぐために光魔法で防御を付与してくれていたのだ。
「全員まだ無事のようです。………ブルータス…………ブルータス来てくれ。」
全員がまだ生きていることを聞いてリゲルは安堵した。私は先ほど発見したブルータスの方に向かって叫んだ。
その叫びに呼応して、ブルータスが立ち上がり、足を引きずりながら近づいてきた。
「早く。早く治癒魔法を。」
私は急かした。
「す、すまない。魔力切れだ。先ほどまでの戦いで魔力を全て使い切ってしまった。」
なんという事だろう。
他のものをよく見ると片腕や片足を失っているものも中にはいた。このままではリゲルはおろか大半が死んでしまうだろう。
「……私が………死んだら………遺体は………燃やしてくれて………かまわない………」
リゲルは死体となった後遺跡に吸収されて、残ったものを襲わないように配慮していた。
何か………何か救う方法はないだろうか………
その時後ろから少年の声がした。
「俺が治しましょうか?」
「できるの?それなら是非にもお願いしたい。」
私は少年に懇願した。ブルータスも驚いた顔をしていた。
少年がリゲルの体の上に両手を掲げると、リゲルの体が白く発光しだした。
「これは光魔法『 完全治癒 』?!」
治癒が成功し、自らの力で半身を起こしたリゲルは驚きの声をあげた。そして、自分の体が回復しているのを確認していた。私はリゲルの首に手を回し、生還したことを喜んだ。
少年は次々に負傷した仲間たちを回復してくれた。片腕や片足を損傷しているものには、猫から受け取った薬を飲ましていた。驚いたことに欠損した部分が再生し元の状態へと戻ったのだ。
あれは一時期噂になっていた『奇跡の水』というものではないだろうか。たしか勇者一行がメガラニカ王国へと持ち帰ったと聞いていたが………何故、少年がそれを………
「あの少年が我々を救ってくれたのか?」
リゲルは立ち上がり、私に聞いた。
「………あっ、そうです。あの少年とあの少女が………」
私は少女が倒れた場所を振り返り指さした。そこには、立ち上がって猫と口論する少女の姿があった。いきなり倒れて心配だったが、どうやら無事のようだった。
全員の治療を終えた少年は私の方へとやってきた。
「これで大丈夫ですか?」
大丈夫どころではない。私たちはこの少年に助けられたのだ。
「ありがとう。おかげで助かった。私はイーリス帝国第六皇子リゲルだ。」
リゲルは頭を下げて名乗った。
「あっ、いえ。あまり気にしなくて大丈夫です。自分はアギラって名前です。メガラニカ王国の魔導士学園の生徒です。」
魔導士学園………だから、あんな魔法を使えるのか………メガラニカ王国の魔法理論はこんなにも進んでいるというのか。確か、うちの国からも何人か魔導士学園へと入学したもの達がいるはずである。
「私からも礼を言う。本当にありがとう。そういえば私もまだ名乗っていなかったな。私はエルナトだ。そして、謝礼の方だが………」
私はリゲルに聞いた。
「実は助けてもらうために遺跡で発見した物を渡すと言ったのですが、よろしいでしょうか?」
「………それは仕方がないな。命には変えられん。また何か発見すればいいだけの事だ。しかし、一階層で発見した物は遺跡の外に保管してあるから、ここを出なければ渡すことができないな。今回発見した物はこのありさまで、ほとんど壊れてしまったからな。」
リゲルが了承してくれて私は安心した。
「その中に呪いを解呪するアイテムとかってありますか?」
「一階層で発見したものの中にはそんなものはなかったと思うが・・・というか、呪いを解呪するアイテムなんてものは聞いたことがないな。」
「そうですか。」
少年は落胆した。
「お兄ちゃんは呪いを解呪するアイテムを探してたの?」
少女は聞いた。
「そうだけど。言ってなかったっけ?」
「初めて聞いたわよ。なんでそんなもの探してるのよ。」
「世話になった人が呪いにかかってるんだ。それにアーサーにかかっている呪いも解いてやりたいからな。」
「何なの。アンタ呪いにかかってたの。どんな呪いなのよ?」
「それは、プライバシーに関わるにゃ。」
「なによー。言いなさいよ。」
少女は猫の耳を引っ張っていた。
「やめるにゃ。唯一の弱点の耳を掴むのは反則にゃ・・・言うにゃ・・・あっちは本来は雄にゃ。雌に変えられたせいで本来の10分の1の力も出すことができないにゃ。」
「ふーん。」
「信じてないのかにゃー。本当のことにゃ。」
「いいわ。私もその呪いを解呪するアイテムとやらを探すのに協力するわ。」
「どうしたんだ。いきなり。呪いに興味があったのか?」
少年は驚いていた。いまいちこの二人の関係性がわからない。私はただ二人と一匹の会話を聞いていた。
「えっ………いやっ………実は、あれよ………私も知り合いが呪いに苦しんでいるのよ。」
「そうなの?どんなのだ?」
「そ、そうね。………あれよ、あれ………そう、何か石になって動けなくなるって呪いよ。実はそれを救いたいのよね。」
「そんな呪いもあるのか………」
いや、そんな魔法は聞いたことないわ。というか話に全くついていくことができなかった。何の話をしているのだろうか。
「あっ、そうだ。じゃあ『浮遊石』か『賢者の石』とやらはありますか?」
少年は思い出したようにリゲルに聞いた。
「遺跡から発見したものの中にはなかったが、『浮遊石』なら国に帰れば、兵器工場にあったはずだ。」
「でもあれは………」
私は口を挟もうとした。『浮遊石』はいくら皇子という立場といえども自由にできる代物ではないのである。ましてや、現状を考えると遺跡で成果を上げれなかった皇子の裁量権は小さくなるに違いない。
「分かっている。普通ならあれは持ち出すことは不可能なのだが・・・助けてもらっておいて、こんな事を言うのもあれなんだが………さっき、部下を治した薬を分けてもらえないだろうか?そうすれば、『浮遊石』を渡すことができると思う。」
私はリゲルの考えていることを理解した。あの薬を遺跡からの発見したものだと言って持ち帰れば面子が保てるのではないだろうか。そして、それを交渉材料にして、『浮遊石』を持ち出そうということだろう。
ただ問題は『奇跡の水』は一本で破格の値段がついていると聞いたことがある。そんなものを分けてもらうことができるのだろうか。
「あー、それなら。おい、アーサー、5本ほど出せ。」
ふぁっ?? 5本???
「わかりましたにゃ。」
猫はまたしても時空の隙間から瓶を取り出して少年に手渡した。
「どうぞ。この薬はまだ未完成なんで、研究してもっといいものにしてもらえれば。」
そう言って、少年はリゲルに薬を手渡した。
「これで未完成なのか………すごいな。それにこんなにも………この恩は必ず返す。ひとまず『浮遊石』は魔導士学園に届けに行けばいいのか?すぐには無理かもしれないが、なるべく早く届けると約束する。」
「それでお願いします。魔導士学園の寮に住んでいるので、そこにでも届けてもらえれば。」
「分かった。必ず。では、私たちはこの遺跡を去る事にするよ。」
リゲルと少年は固い握手を交わして、別れを告げようとした。
その時私はある事を閃いた。
少年にもイーリス帝国について来てもらってはどうだろうか。それなら、『浮遊石』をそこで渡すこともできるかもしれない。
それというのも、私には一つ懸念すべきことがあったのだ。リゲルの致命傷になった背中の傷は誰かの剣による傷跡のように見えた。混乱に乗じてリゲルを暗殺しようと企てた可能性があるのだ。今までは半信半疑だったが、かなり確信に近いものを感じていた。
私は少年を手招きして呼び寄せた。少女も一緒についてきていた。私は小声で話をした。
「実は皇子はこの中の誰かに命を狙われているかもしれないのだ。だから君が帝国まで護衛してもらえると心強いんだが。謝礼は先ほどの件とは別にさせてもらうが。」
「えっ………」
少年は少し驚いて少考していた。
「ダメよ。もう疲れたから家に帰りましょう、お兄ちゃん。」
どうやら少女は家に早く帰りたいようだった。やはり、無理なお願いだったのかもしれない。
「もう?いや、でも………」
少年は困惑していた。
「それに護衛なんてしなくても、その命を狙ってるものを捕まえればいいのよね。簡単じゃない。捕まえれば謝礼ってもらえるの?」
少女は言った。
「そんな事ができるの?」
それができれば苦労はないのだが。そもそもそれをしてもらうために一緒に来て欲しいのだ。
「そんなことは簡単にゃ。あっちの推理力を駆使すればすぐに暗殺者の正体を突き止めることができるにゃ。」
「全然違うわ。バカ猫は、口を挟まないでくれる。あんたなんかが推理したら冤罪間違いなしじゃない。」
「なんにゃー。バカって言った方がバカにゃ。あっちの推理力を舐めたらだめにゃ。あっちには全てお見通しにゃ。そもそもアスカが突き止めることができるとは思えないにゃ。」
「うるさいわね。誰も推理しようなんて言ってないじゃない。現行犯で捕まえればいいだけじゃない。」
「じゃあ一緒に来てくれるの?」
家に帰るのを諦めてくれたのだろうか。
「そんな面倒くさいことはしないわ。今すぐに捕まえるのよ。現行犯でね。」
「にゃにを言っているかちょっと分からないにゃ。」
猫は頭を振り、やれやれとため息をついた。私にも何を言っているのか訳が分からなかった。
こんな少女に頼っている私がおかしいのだろうか………
この二人の少年と少女に出会ってから私の頭では理解できない事がずっと続いていた。けれども、この後に起きたことはさらに私の想像の範疇を超える出来事だった………
私を追いかけていた不死者達はさっきの魔道兵器が消滅させてしまったので、仲間たちが戦っている大広間までは難なく辿り着くことができた。
「あれが、そのトラップよ。」
私は広間に続く扉に現れた格子状の光の筋を指さした。
その向こうでは今でも不死者とみんなが戦い続けているようだった。リゲルの無事がここからでは確認できない。
「さっきと同じやつね。楽勝じゃない。」
少年の後ろを走る少女が口に出した。
「マスターに任せておけばいいにゃ。アスカができることはマスターにもできるにゃ。」
少年の頭の上に乗っている猫が振り返り少女に言った。
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「じゃあ、任せた。俺は不死者の一掃に集中するから、扉を通れるようにしたら、俺の後ろから離れるなよ。」
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その詠唱が唱え終わると、扉の周りに水のレンズが多数出現し光の軌道を捻じ曲げた。そして、向こう側が見えなくなるほどの霧が扉の中心部分を覆ったのだ。
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これなら皆を逃がすことができる。広間に入った私は皆を逃がすために大声で叫ぼうとした。
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この光魔法は………
これは光魔法の最高位浄化魔法『 聖光魔浄陣 』。
その光は死霊や不死者、魔に属する全ての生命を浄化するという伝説の魔法。
その昔、イーリス帝国の初代皇帝とその一族が大賢者の力を借りて創り出した秘術と聞いている。その魔法の力は、東の大陸から押し寄せる悪魔族の進軍を止めるほどだったと伝えられ、以来大陸の東に位置するイーリス帝国は東の悪魔族の防波堤となっているのだ。しかし、発動させるのに初代皇帝とその他数人の光属性の膨大な魔力が必要な魔法のはずなのだ。
何故この少年が使えるのか。そして何故一人でこの魔法操る事ができるのか。
疑問が次から次へとよぎった。しかし、その疑問は少女の悲鳴でかき消された。
少年から光魔法が広がり始めた瞬間、少女の周りが水球と霧で覆われたかと思うと悲鳴と共にその場に崩れ落ちたのだ。少女が崩れ落ちたと同時に少女を覆っていた水球は形をとどめることができずに辺り一面の床を水に濡らした。
少年は振り返った。
「どうしたにゃ。何も攻撃は受けてないはずにゃ。………分かったにゃ。いい所を見せようと、はりきりすぎにゃ。魔力切れにゃ。だから言ったにゃ。大人しくしてれば良かったにゃ………これを飲むといいにゃ。」
少年の頭に乗っていた猫が少女のそばに行くと、時空の切れ目から一本の瓶を取り出した。
なんなんだ、この猫は………時空間魔法など滅多に使えるものはいないはず………
次々と起こる事態に私の理解は追いつかなかった。
しかし、そんなことを考えている暇は私にはない。あたりを見回すと、不死者は消え去っていた。
残されたのは重傷を負って倒れこんでいる仲間たちの姿だった。私はリゲルの姿を探した。もし、やられて不死者化していれば、さっきの魔法で消え去ってしまっていることも考えられる。
そして広間の中心付近に青い鎧を纏って倒れている姿を発見した。あの鎧はリゲルのものに間違いないはず。その青い鎧は返り血を浴びて赤く塗り替えられていた。
私はリゲルの元へと駆け寄った。そして、体を起こした。
「………エル………ナトか? ………帰って………きたのか?」
リゲルはかなりの重傷を負っているようだった。鎧の背中の部分に傷が入っており、そこから血が溢れ出ていた。
「はい。助けてくれるものを連れてきました。そのおかげで、危機は去りました。」
早く手当をせねば、手遅れになる。治癒を一刻も早くせねばならない。私は治癒士であるブルータスを探した。
「………他の………ものは………無事か………?」
私はブルータスの姿を探しながら、地面に転がっているものの数を数えた。そして、重症の者もいるが、全員まだ息はあるようだった。
そして、全員の周りには薄く光魔法の防御が張られていた。リゲルである。リゲルが戦いの中、全員に不死化を防ぐために光魔法で防御を付与してくれていたのだ。
「全員まだ無事のようです。………ブルータス…………ブルータス来てくれ。」
全員がまだ生きていることを聞いてリゲルは安堵した。私は先ほど発見したブルータスの方に向かって叫んだ。
その叫びに呼応して、ブルータスが立ち上がり、足を引きずりながら近づいてきた。
「早く。早く治癒魔法を。」
私は急かした。
「す、すまない。魔力切れだ。先ほどまでの戦いで魔力を全て使い切ってしまった。」
なんという事だろう。
他のものをよく見ると片腕や片足を失っているものも中にはいた。このままではリゲルはおろか大半が死んでしまうだろう。
「……私が………死んだら………遺体は………燃やしてくれて………かまわない………」
リゲルは死体となった後遺跡に吸収されて、残ったものを襲わないように配慮していた。
何か………何か救う方法はないだろうか………
その時後ろから少年の声がした。
「俺が治しましょうか?」
「できるの?それなら是非にもお願いしたい。」
私は少年に懇願した。ブルータスも驚いた顔をしていた。
少年がリゲルの体の上に両手を掲げると、リゲルの体が白く発光しだした。
「これは光魔法『 完全治癒 』?!」
治癒が成功し、自らの力で半身を起こしたリゲルは驚きの声をあげた。そして、自分の体が回復しているのを確認していた。私はリゲルの首に手を回し、生還したことを喜んだ。
少年は次々に負傷した仲間たちを回復してくれた。片腕や片足を損傷しているものには、猫から受け取った薬を飲ましていた。驚いたことに欠損した部分が再生し元の状態へと戻ったのだ。
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「あの少年が我々を救ってくれたのか?」
リゲルは立ち上がり、私に聞いた。
「………あっ、そうです。あの少年とあの少女が………」
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「これで大丈夫ですか?」
大丈夫どころではない。私たちはこの少年に助けられたのだ。
「ありがとう。おかげで助かった。私はイーリス帝国第六皇子リゲルだ。」
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「あっ、いえ。あまり気にしなくて大丈夫です。自分はアギラって名前です。メガラニカ王国の魔導士学園の生徒です。」
魔導士学園………だから、あんな魔法を使えるのか………メガラニカ王国の魔法理論はこんなにも進んでいるというのか。確か、うちの国からも何人か魔導士学園へと入学したもの達がいるはずである。
「私からも礼を言う。本当にありがとう。そういえば私もまだ名乗っていなかったな。私はエルナトだ。そして、謝礼の方だが………」
私はリゲルに聞いた。
「実は助けてもらうために遺跡で発見した物を渡すと言ったのですが、よろしいでしょうか?」
「………それは仕方がないな。命には変えられん。また何か発見すればいいだけの事だ。しかし、一階層で発見した物は遺跡の外に保管してあるから、ここを出なければ渡すことができないな。今回発見した物はこのありさまで、ほとんど壊れてしまったからな。」
リゲルが了承してくれて私は安心した。
「その中に呪いを解呪するアイテムとかってありますか?」
「一階層で発見したものの中にはそんなものはなかったと思うが・・・というか、呪いを解呪するアイテムなんてものは聞いたことがないな。」
「そうですか。」
少年は落胆した。
「お兄ちゃんは呪いを解呪するアイテムを探してたの?」
少女は聞いた。
「そうだけど。言ってなかったっけ?」
「初めて聞いたわよ。なんでそんなもの探してるのよ。」
「世話になった人が呪いにかかってるんだ。それにアーサーにかかっている呪いも解いてやりたいからな。」
「何なの。アンタ呪いにかかってたの。どんな呪いなのよ?」
「それは、プライバシーに関わるにゃ。」
「なによー。言いなさいよ。」
少女は猫の耳を引っ張っていた。
「やめるにゃ。唯一の弱点の耳を掴むのは反則にゃ・・・言うにゃ・・・あっちは本来は雄にゃ。雌に変えられたせいで本来の10分の1の力も出すことができないにゃ。」
「ふーん。」
「信じてないのかにゃー。本当のことにゃ。」
「いいわ。私もその呪いを解呪するアイテムとやらを探すのに協力するわ。」
「どうしたんだ。いきなり。呪いに興味があったのか?」
少年は驚いていた。いまいちこの二人の関係性がわからない。私はただ二人と一匹の会話を聞いていた。
「えっ………いやっ………実は、あれよ………私も知り合いが呪いに苦しんでいるのよ。」
「そうなの?どんなのだ?」
「そ、そうね。………あれよ、あれ………そう、何か石になって動けなくなるって呪いよ。実はそれを救いたいのよね。」
「そんな呪いもあるのか………」
いや、そんな魔法は聞いたことないわ。というか話に全くついていくことができなかった。何の話をしているのだろうか。
「あっ、そうだ。じゃあ『浮遊石』か『賢者の石』とやらはありますか?」
少年は思い出したようにリゲルに聞いた。
「遺跡から発見したものの中にはなかったが、『浮遊石』なら国に帰れば、兵器工場にあったはずだ。」
「でもあれは………」
私は口を挟もうとした。『浮遊石』はいくら皇子という立場といえども自由にできる代物ではないのである。ましてや、現状を考えると遺跡で成果を上げれなかった皇子の裁量権は小さくなるに違いない。
「分かっている。普通ならあれは持ち出すことは不可能なのだが・・・助けてもらっておいて、こんな事を言うのもあれなんだが………さっき、部下を治した薬を分けてもらえないだろうか?そうすれば、『浮遊石』を渡すことができると思う。」
私はリゲルの考えていることを理解した。あの薬を遺跡からの発見したものだと言って持ち帰れば面子が保てるのではないだろうか。そして、それを交渉材料にして、『浮遊石』を持ち出そうということだろう。
ただ問題は『奇跡の水』は一本で破格の値段がついていると聞いたことがある。そんなものを分けてもらうことができるのだろうか。
「あー、それなら。おい、アーサー、5本ほど出せ。」
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「わかりましたにゃ。」
猫はまたしても時空の隙間から瓶を取り出して少年に手渡した。
「どうぞ。この薬はまだ未完成なんで、研究してもっといいものにしてもらえれば。」
そう言って、少年はリゲルに薬を手渡した。
「これで未完成なのか………すごいな。それにこんなにも………この恩は必ず返す。ひとまず『浮遊石』は魔導士学園に届けに行けばいいのか?すぐには無理かもしれないが、なるべく早く届けると約束する。」
「それでお願いします。魔導士学園の寮に住んでいるので、そこにでも届けてもらえれば。」
「分かった。必ず。では、私たちはこの遺跡を去る事にするよ。」
リゲルと少年は固い握手を交わして、別れを告げようとした。
その時私はある事を閃いた。
少年にもイーリス帝国について来てもらってはどうだろうか。それなら、『浮遊石』をそこで渡すこともできるかもしれない。
それというのも、私には一つ懸念すべきことがあったのだ。リゲルの致命傷になった背中の傷は誰かの剣による傷跡のように見えた。混乱に乗じてリゲルを暗殺しようと企てた可能性があるのだ。今までは半信半疑だったが、かなり確信に近いものを感じていた。
私は少年を手招きして呼び寄せた。少女も一緒についてきていた。私は小声で話をした。
「実は皇子はこの中の誰かに命を狙われているかもしれないのだ。だから君が帝国まで護衛してもらえると心強いんだが。謝礼は先ほどの件とは別にさせてもらうが。」
「えっ………」
少年は少し驚いて少考していた。
「ダメよ。もう疲れたから家に帰りましょう、お兄ちゃん。」
どうやら少女は家に早く帰りたいようだった。やはり、無理なお願いだったのかもしれない。
「もう?いや、でも………」
少年は困惑していた。
「それに護衛なんてしなくても、その命を狙ってるものを捕まえればいいのよね。簡単じゃない。捕まえれば謝礼ってもらえるの?」
少女は言った。
「そんな事ができるの?」
それができれば苦労はないのだが。そもそもそれをしてもらうために一緒に来て欲しいのだ。
「そんなことは簡単にゃ。あっちの推理力を駆使すればすぐに暗殺者の正体を突き止めることができるにゃ。」
「全然違うわ。バカ猫は、口を挟まないでくれる。あんたなんかが推理したら冤罪間違いなしじゃない。」
「なんにゃー。バカって言った方がバカにゃ。あっちの推理力を舐めたらだめにゃ。あっちには全てお見通しにゃ。そもそもアスカが突き止めることができるとは思えないにゃ。」
「うるさいわね。誰も推理しようなんて言ってないじゃない。現行犯で捕まえればいいだけじゃない。」
「じゃあ一緒に来てくれるの?」
家に帰るのを諦めてくれたのだろうか。
「そんな面倒くさいことはしないわ。今すぐに捕まえるのよ。現行犯でね。」
「にゃにを言っているかちょっと分からないにゃ。」
猫は頭を振り、やれやれとため息をついた。私にも何を言っているのか訳が分からなかった。
こんな少女に頼っている私がおかしいのだろうか………
この二人の少年と少女に出会ってから私の頭では理解できない事がずっと続いていた。けれども、この後に起きたことはさらに私の想像の範疇を超える出来事だった………
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