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第二章 魔導士学園 編
神 or 悪魔 それとも………
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~罠解除師・エルナトの視点~
私は走った。そして、元来た道を一心不乱に戻っていた。
なんとしても第六皇子はお救いせねばならないのだ。この命が尽きようとも私は私の使命をやり遂げねばならない………
魑魅魍魎が跋扈する遺跡のニ階層を走りながら、私はこれまでの事が走馬灯のように思い出された。
この遺跡にはイーリス帝国の第六皇子であるリゲルとその側近であるブルータスと私、そして集められた数人の冒険者や軍の者達でやってきていた。
この世界で各地から発見された遺跡からは、使い方の分からない遺物や軍の力を飛躍的に向上させる兵器、日常生活を一変させる道具、魔法理論を揺るがすアクセサリー等、あらゆるものが発見されてきた。
しかし、各地の遺跡には様々なトラップが存在しており、侵入者を縦横無尽に排除する。
遺跡ハンターたちは自己責任で遺跡に挑み、そこから得られるリターンのために命を惜しまず探索をする。
基本遺跡で見つかったものは、発見者のものになると各国の取り決めでなされている。
ほとんどの探索者はその取り決めを守り、誰かが発見したものを横取りしようとは考えない。
だが中には、発見したものを横取りするような輩が一部いることも否定できない。さらに遺跡内部にはそこに巣食う魔物がいる場合もあり、様々な危険にさらされている。
そんな危険なところにどうして第六皇子が来なければならなかったのか・・・
イーリス帝国の現皇帝は各国に間者を放ち、世界を一つに統一するという野望を持っている。そして、その野望のために遺跡から発見させるかもしれない兵器を望んでいた。その任務として第六皇子であるリゲルが探索隊のリーダーに選ばれたのだ。
リゲルは武力、知力、そして統率力において他の皇子達の頭を一つ抜きんでている実力の持ち主である。そのため、次の皇帝の座を狙う皇子達から疎まれる存在であった。
さらに、その危険思想のため現皇帝からも煙たがられていた。
リゲルは皇帝の地位を形骸化させ共和制という、新たな政治形態を考えていた。その政治の仕組みは国民から支持されたリーダーを国のトップに据えるべきだという画期的にも思える考え方であった。
そしてその考えを推進しようとしているのが権力者側の皇子であるというのが凄いことなのだ。権力者が自らその権力を放棄するという事は絶対にできる事ではない。
そんな第六皇子の考え方に賛同するものは多数いたが、実際には現皇帝の顔色を伺って声に出して賛同するものは少なかった。
そして最近イーリス帝国に隣接するラグーン公国でクーデターが起きたという情報が伝わった。そのクーデターで国のトップが変わったというのだ。
皇帝はその革命の波が自分の国にも飛び火するのを恐れラグーン公国に軍を差し向けた。そして、それと同時にその戦いで必要な兵器を最近発見した遺跡から発掘するように第六皇子のリゲルに命令を出したのだ。
本来、ラグーン公国のような小国に対してそのような未知の兵器を必要とするとは思われなかった。つまり、これはリゲルを排除するための陰謀に他ならない。クーデターを起こすリゲルとその信奉者を一挙に遺跡で亡き者にしようと画策したに違いないのだ。
このような馬鹿げた命令等、素直に聞かずともどこかで時間を潰して国に戻ればいいのではという意見を私達側近はリゲルに進言した。
しかし、私達が安全な中、何もせずにして国に戻るというのは戦争に向かった軍の者達に顔向けできないとの事だった。皇子の性格上ずるをするという事はできなかった。そしてそんな皇子だからこそ、私達側近は彼に従っているのだった。
また、本来は発見した遺跡の情報は秘密にされ広まることはないのだが、現皇帝は発見した遺跡の情報を広く公開した。これにより、皇子の動向は世間に知れ渡ることになる。もはや遺跡から逃げるという選択肢は許されない状況になっていたのだ。
遺跡の探索者が増えれば、よからぬ探索者に命を狙われる危険性も強まるし、アイテムを早く発見しなければ自分のところへ持ち帰ることができなくなってしまう。
遺跡のトラップで命を落とすか他の探索者の手によって殺されるか。場合によっては連れてきた軍の中に刺客が紛れている可能性だってあるのだ。この任務はかなり危険がともなっていた。
皇帝にとってはそのいずれでも、第六皇子のクーデターを防げて好都合なのだ。
もし仮に何もせず逃げかえっても、第六皇子のカリスマ性が薄れ、影響力に陰りが見えるので皇帝にとっては問題ないのだ。
もし、遺跡から何か発見したのであれば、リゲルの評判があがってしまうが、兵器が手に入るなら安いものだ。皇帝からすればどちらに転んでも利益しか生まない考えだった。
しかしリゲル皇子からすれば、夢の実現に残された道は遺跡から何か有益なものを持ち帰るという以外選択肢はなかった。
そして私達は万全を期して遺跡攻略へと乗り出した。
時間をかけて1階層を突破したが、成果はいまいちあげることはできなかった。探索者が押し寄せたため、取り分が少なくなってしまったのだ。
それに一階層には真新しい発見物はなく、『隷属の首輪』や既に発見されたような『薬品』しか出てこなかった。
そして、2階層へと到達した私達を待ち構えていたのは、探索者や冒険者の亡骸が不死者となったものだった。
どうやら、この遺跡は生物の死体を吸収しエネルギー源としており、吸収した遺体から不死者を生成しているようだった。不死者の中には1階層で死んでいった者達の姿をしていたことから、その事が推測された。
不死者の対処法は頭をつぶすか、光魔法で浄化するか、火魔法で消滅させるという3つの方法がある。
しかし、頭を潰すために不用意に近づくと、噛まれて自分も不死者化してしまうのだ。
そのため遠距離から魔法攻撃で対処するのがベストである。
皇帝の一族は光魔法に優れており、幸運にもリゲルはその才を濃く受け継いでいた。
2階層が不死者の巣窟であったことはリゲルを強気にさせた。現れる敵をリゲルが中心になり突破し続けた。そして大広間に出た私たちはそこで少し休息をとった。
休息を終えて次に向かおうとした次の瞬間に予測しえない事態が起きた。
遺跡中に響き渡る声がどこからともなく聞こえ、不穏な音がけたたましく鳴り響いた。
『 シンニュウシャヲカクニンシマシタ シンニュウシャヲカクニンシマシタ タダチニハイジョシマス シンニュウシャハ フクスウ タダチニ フェーズツー ヘ プログラムニモ シンニュウヲ カクニン ケイカイレベルA タダチニ フェーズスリー ヘ』
罠がないか先に大広間から出ていた私は、突如として扉に現れた光魔法によってリゲル達と分断されたのだ。
そればかりか大広間の中には地面から大量の不死者が生成され始めたのだ。
いくら何でもあの数はまずい。魔力が持つはずがない。
私は一瞬で事態の不味さを感じ取った。リゲル達は逃げ場を遮断され不死者と戦い続けねばならない。
私は扉に現れた仕掛けを何とかしようと考えたが、解除する手立てが分からなかった。試しに投げ入れた鋼鉄は細切れになって地面へと散らばった。
私の狼狽ぶりから、扉の罠が解除不可能なことをリゲルも悟ったのだろう。
「仕方がない、君だけでも逃げろ。何も君までそこでやられる必要はない。」
リゲルは私に向かって叫んだ。
「いやです。なんとか解除します。」
私の言葉とは裏腹に解除できる算段が思いつかない。私は焦った。どうすれば・・・
「ひとまずそこを離れるんだ。そして、元来た道を戻れ。もし誰かがいれば助けを求めろ。確率的に少ないかもしれないが、それが最善の策だ。もし誰もいなければ、そのまま遺跡から出ても構わない。」
リゲルは不死者と戦いながら私に指示を出した。
私は躊躇した。しかし、それが最善の策かもしれない。少し逡巡した後に私は元来た道を目指して駆け出した。いくつかの分かれ道を過ぎたころ後ろを振り返ると、どこから湧いたのか、大量の不死者が私を追いかけているのが見えた。
そこで私はあの場に残らなかった自分を責めた。
あれは私を逃がすために言ったのではないだろうか。この遺跡で仮に他の探索者に出会っても助けてくれるだろうか。まして、かなり危険な場所なのだ。そんな奇特な者がいるはずはない。
それを分かってあの言葉を言ったのなら、私を遺跡の外へと逃がすために、リゲルは咄嗟に機転を利かしたのだ。
私はそこまで思い出しながら1階層へと続く階段を目指して走り続けた。その視界は涙でぼやけあたりの風景を歪めていた。
誰か。誰か、あの稀代の傑物である皇子をお救いできるものはいないのか。私は願った。神様。いや、お救い出来るのであれば悪魔であってもと私は請い願った。
1階層へと続く階段が見えた時、前方のぼやけた視界少し揺れた。前からも不死者が・・・・いや、違う。獣人だ。獣人の青年と少女が階段から降りてきたのだ。そして、獣人の少女は見慣れぬゴーレムを従えていた。
「大量の不死者にゃ。誰かが追われてるにゃ。ゼロ、薙ぎ払うにゃ。」
獣人の少女はゴーレムに命令を下した。
「カシコマリマシタ。」
獣人の少女の言葉に反応したゴーレムは目を点滅させて、口から一筋の光魔法を放った。その魔法は後ろから迫る不死者を右から左に薙ぎ払った。
あれは、まさか………古代魔道兵器………極秘文献にだけ記され、その実物はどこからも発見されなかったという………
どこで………まさか、ここで発見したのか………
私は様々な疑問がよぎった。しかし、今はそんな事はどうでもいいのだ。まさに救世主ではないだろうか。この力をもってすればリゲル達を助けることが可能に違いない。
私は獣人たちに助けを求めた。
「お願いします。この先で私の仲間が危機に瀕しているので、助けてもらえないでしょうか。」
すぐには返事がなかった。獣人と人間は仲がいい種族とは言い難かった。しかし、今はそんなことを言ってはいられない。せめて古代魔道兵器だけでも貸して貰えれば………
私はそこで余計なことを言ってしまった。
「その魔道兵器をお借りできさえすれば。それだけでも十分です。」
私は焦っていたのだ。こうしている間にリゲル達が全滅しているかもしれないのだ。
「ゼロは兵器でもモノでもないにゃ。一人の個体にゃ。貸すとかそういうものじゃないにゃ。」
「ありがとうございマス。ミネット様。」
魔道兵器は礼を言った。
私は2人のやり取りに困惑した。一体どういう事なのか。私には理解が追いつかなかった。しかし、まずい状況であることだけは確かである。
「いや、そんなつもりでは………」
「遺跡に入ったら自己責任っていうのが一般的だろ。それに、お前たちを助けたら俺達の遺跡からの取り分が減るじゃねえか。」
獣人の青年が最もな意見を言った。私達も逆の立場なら助けるかどうかわからない。しかし………
「私たちが見つけたものは全て差し上げます。だから………」
私にその権限はないが、リゲル達も納得してくれるだろう。
「お前にその決定権があるのか?それに全滅したら、そこから俺たちが回収すればいいんだから、助けなくても俺達のものになるんじゃないのか?」
獣人の青年は痛いところをついてきた。
「本当にゃ。危なく騙されるところだったにゃ。人間は本当に信用ならないにゃ。アタシは以前人間に捕まって売られそうになったにゃ。今回も罠って事があるかもにゃ。」
何か人間に恨みを持っている獣人のようだった。ここで長く問答している時間がもったいない。私はこの場は諦め、1階層にいる誰かに救いを求めた方がいいのではと思い始めた。
その時である。獣人たちの後ろから声が聞こえた。
「俺が助けに行きましょうか。」
獣人の後ろから人間の少年が私に声をかけた。
「ちょっと、本気?そんな面倒な事なんでするのよ。さっきの見たでしょ。不死者がうじゃうじゃいるのよ。さっきまでバイオがハザード、バイオがハザードってわけわからない事言って震えてたじゃない。」
そしてその横にいる幼い少女がそれを咎めた。
「大丈夫にゃ。マスターは強いですからにゃ。アスカが心配する事はないにゃ。」
???
その少女に抱えられた猫が言語を発したように聞こえたけど………
「ムキー。何よ。このバカネコーー。」
少女は猫の尻尾を強く掴んだ………
なんなのだ。この2人はこんな危ない場所に何故こんな子供がいるのだろうか………
私の困惑はとまらない。
「アギラ、本当に助けに行くのか?俺たちはこの階層のアイテムをいろいろ集めておくから行かないけどいいのか?」
獣人の青年は少年に聞いた。
「そうだな。ちょっと行って来て後で合流するというのでいいか?」
「アギラがそれでいいなら別に構わないがな。何かいいアイテムがあれば取っておいてくれ。」
「分かった。アスカは俺と一緒に来てくれ。」
「何よー。結局私に頼る気なのー。まー、仕方ないわね。けど、これは貸しよ。今度私の願いを聞いてよね。」
「いや………そういうわけじゃ。俺の目の届くところにいてくれた方がいいっていうか。何かあったら守れるからな。」
「お兄ちゃん………」
少女は少年の目を見つめた。この2人は兄弟なのだろうか。
「そうにゃ。アスカは足手まといにゃ。大人しく守られていればいいにゃ。そろそろあっちとマスターの本気を見せる時が来たにゃ。」
それにしてもさっきからこの猫はなんなのだろうか。
「足手まといはアンタでしょ。このバカネコ。」
少女は再び猫の尻尾を握っていた。
「ふにゃー。尻尾は掴んだら駄目にゃ。あっちの唯一の弱点にゃ。」
「それじゃあ早く行きましょう。」
少年は私に案内を促した。
私は迷った。どう見ても獣人たちについて来た荷物持ちにしか見えない少年を連れて行ってどうなるというのだろうか。他の誰かを探したほうがいいのではないだろうか。
しかし、そんな時間はないように感じた。今まさにリゲル達が全滅しようとしているかもしれないのだ。
そしてさっきから私の第六感が告げている。
何かが………この一行は何かがおかしい。
私は自分の第六感を信じる事にした。
神でも悪魔でもなく、この目の前にいる自信に満ち溢れた少年を信じる事に………
私は走った。そして、元来た道を一心不乱に戻っていた。
なんとしても第六皇子はお救いせねばならないのだ。この命が尽きようとも私は私の使命をやり遂げねばならない………
魑魅魍魎が跋扈する遺跡のニ階層を走りながら、私はこれまでの事が走馬灯のように思い出された。
この遺跡にはイーリス帝国の第六皇子であるリゲルとその側近であるブルータスと私、そして集められた数人の冒険者や軍の者達でやってきていた。
この世界で各地から発見された遺跡からは、使い方の分からない遺物や軍の力を飛躍的に向上させる兵器、日常生活を一変させる道具、魔法理論を揺るがすアクセサリー等、あらゆるものが発見されてきた。
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ほとんどの探索者はその取り決めを守り、誰かが発見したものを横取りしようとは考えない。
だが中には、発見したものを横取りするような輩が一部いることも否定できない。さらに遺跡内部にはそこに巣食う魔物がいる場合もあり、様々な危険にさらされている。
そんな危険なところにどうして第六皇子が来なければならなかったのか・・・
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リゲルは武力、知力、そして統率力において他の皇子達の頭を一つ抜きんでている実力の持ち主である。そのため、次の皇帝の座を狙う皇子達から疎まれる存在であった。
さらに、その危険思想のため現皇帝からも煙たがられていた。
リゲルは皇帝の地位を形骸化させ共和制という、新たな政治形態を考えていた。その政治の仕組みは国民から支持されたリーダーを国のトップに据えるべきだという画期的にも思える考え方であった。
そしてその考えを推進しようとしているのが権力者側の皇子であるというのが凄いことなのだ。権力者が自らその権力を放棄するという事は絶対にできる事ではない。
そんな第六皇子の考え方に賛同するものは多数いたが、実際には現皇帝の顔色を伺って声に出して賛同するものは少なかった。
そして最近イーリス帝国に隣接するラグーン公国でクーデターが起きたという情報が伝わった。そのクーデターで国のトップが変わったというのだ。
皇帝はその革命の波が自分の国にも飛び火するのを恐れラグーン公国に軍を差し向けた。そして、それと同時にその戦いで必要な兵器を最近発見した遺跡から発掘するように第六皇子のリゲルに命令を出したのだ。
本来、ラグーン公国のような小国に対してそのような未知の兵器を必要とするとは思われなかった。つまり、これはリゲルを排除するための陰謀に他ならない。クーデターを起こすリゲルとその信奉者を一挙に遺跡で亡き者にしようと画策したに違いないのだ。
このような馬鹿げた命令等、素直に聞かずともどこかで時間を潰して国に戻ればいいのではという意見を私達側近はリゲルに進言した。
しかし、私達が安全な中、何もせずにして国に戻るというのは戦争に向かった軍の者達に顔向けできないとの事だった。皇子の性格上ずるをするという事はできなかった。そしてそんな皇子だからこそ、私達側近は彼に従っているのだった。
また、本来は発見した遺跡の情報は秘密にされ広まることはないのだが、現皇帝は発見した遺跡の情報を広く公開した。これにより、皇子の動向は世間に知れ渡ることになる。もはや遺跡から逃げるという選択肢は許されない状況になっていたのだ。
遺跡の探索者が増えれば、よからぬ探索者に命を狙われる危険性も強まるし、アイテムを早く発見しなければ自分のところへ持ち帰ることができなくなってしまう。
遺跡のトラップで命を落とすか他の探索者の手によって殺されるか。場合によっては連れてきた軍の中に刺客が紛れている可能性だってあるのだ。この任務はかなり危険がともなっていた。
皇帝にとってはそのいずれでも、第六皇子のクーデターを防げて好都合なのだ。
もし仮に何もせず逃げかえっても、第六皇子のカリスマ性が薄れ、影響力に陰りが見えるので皇帝にとっては問題ないのだ。
もし、遺跡から何か発見したのであれば、リゲルの評判があがってしまうが、兵器が手に入るなら安いものだ。皇帝からすればどちらに転んでも利益しか生まない考えだった。
しかしリゲル皇子からすれば、夢の実現に残された道は遺跡から何か有益なものを持ち帰るという以外選択肢はなかった。
そして私達は万全を期して遺跡攻略へと乗り出した。
時間をかけて1階層を突破したが、成果はいまいちあげることはできなかった。探索者が押し寄せたため、取り分が少なくなってしまったのだ。
それに一階層には真新しい発見物はなく、『隷属の首輪』や既に発見されたような『薬品』しか出てこなかった。
そして、2階層へと到達した私達を待ち構えていたのは、探索者や冒険者の亡骸が不死者となったものだった。
どうやら、この遺跡は生物の死体を吸収しエネルギー源としており、吸収した遺体から不死者を生成しているようだった。不死者の中には1階層で死んでいった者達の姿をしていたことから、その事が推測された。
不死者の対処法は頭をつぶすか、光魔法で浄化するか、火魔法で消滅させるという3つの方法がある。
しかし、頭を潰すために不用意に近づくと、噛まれて自分も不死者化してしまうのだ。
そのため遠距離から魔法攻撃で対処するのがベストである。
皇帝の一族は光魔法に優れており、幸運にもリゲルはその才を濃く受け継いでいた。
2階層が不死者の巣窟であったことはリゲルを強気にさせた。現れる敵をリゲルが中心になり突破し続けた。そして大広間に出た私たちはそこで少し休息をとった。
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『 シンニュウシャヲカクニンシマシタ シンニュウシャヲカクニンシマシタ タダチニハイジョシマス シンニュウシャハ フクスウ タダチニ フェーズツー ヘ プログラムニモ シンニュウヲ カクニン ケイカイレベルA タダチニ フェーズスリー ヘ』
罠がないか先に大広間から出ていた私は、突如として扉に現れた光魔法によってリゲル達と分断されたのだ。
そればかりか大広間の中には地面から大量の不死者が生成され始めたのだ。
いくら何でもあの数はまずい。魔力が持つはずがない。
私は一瞬で事態の不味さを感じ取った。リゲル達は逃げ場を遮断され不死者と戦い続けねばならない。
私は扉に現れた仕掛けを何とかしようと考えたが、解除する手立てが分からなかった。試しに投げ入れた鋼鉄は細切れになって地面へと散らばった。
私の狼狽ぶりから、扉の罠が解除不可能なことをリゲルも悟ったのだろう。
「仕方がない、君だけでも逃げろ。何も君までそこでやられる必要はない。」
リゲルは私に向かって叫んだ。
「いやです。なんとか解除します。」
私の言葉とは裏腹に解除できる算段が思いつかない。私は焦った。どうすれば・・・
「ひとまずそこを離れるんだ。そして、元来た道を戻れ。もし誰かがいれば助けを求めろ。確率的に少ないかもしれないが、それが最善の策だ。もし誰もいなければ、そのまま遺跡から出ても構わない。」
リゲルは不死者と戦いながら私に指示を出した。
私は躊躇した。しかし、それが最善の策かもしれない。少し逡巡した後に私は元来た道を目指して駆け出した。いくつかの分かれ道を過ぎたころ後ろを振り返ると、どこから湧いたのか、大量の不死者が私を追いかけているのが見えた。
そこで私はあの場に残らなかった自分を責めた。
あれは私を逃がすために言ったのではないだろうか。この遺跡で仮に他の探索者に出会っても助けてくれるだろうか。まして、かなり危険な場所なのだ。そんな奇特な者がいるはずはない。
それを分かってあの言葉を言ったのなら、私を遺跡の外へと逃がすために、リゲルは咄嗟に機転を利かしたのだ。
私はそこまで思い出しながら1階層へと続く階段を目指して走り続けた。その視界は涙でぼやけあたりの風景を歪めていた。
誰か。誰か、あの稀代の傑物である皇子をお救いできるものはいないのか。私は願った。神様。いや、お救い出来るのであれば悪魔であってもと私は請い願った。
1階層へと続く階段が見えた時、前方のぼやけた視界少し揺れた。前からも不死者が・・・・いや、違う。獣人だ。獣人の青年と少女が階段から降りてきたのだ。そして、獣人の少女は見慣れぬゴーレムを従えていた。
「大量の不死者にゃ。誰かが追われてるにゃ。ゼロ、薙ぎ払うにゃ。」
獣人の少女はゴーレムに命令を下した。
「カシコマリマシタ。」
獣人の少女の言葉に反応したゴーレムは目を点滅させて、口から一筋の光魔法を放った。その魔法は後ろから迫る不死者を右から左に薙ぎ払った。
あれは、まさか………古代魔道兵器………極秘文献にだけ記され、その実物はどこからも発見されなかったという………
どこで………まさか、ここで発見したのか………
私は様々な疑問がよぎった。しかし、今はそんな事はどうでもいいのだ。まさに救世主ではないだろうか。この力をもってすればリゲル達を助けることが可能に違いない。
私は獣人たちに助けを求めた。
「お願いします。この先で私の仲間が危機に瀕しているので、助けてもらえないでしょうか。」
すぐには返事がなかった。獣人と人間は仲がいい種族とは言い難かった。しかし、今はそんなことを言ってはいられない。せめて古代魔道兵器だけでも貸して貰えれば………
私はそこで余計なことを言ってしまった。
「その魔道兵器をお借りできさえすれば。それだけでも十分です。」
私は焦っていたのだ。こうしている間にリゲル達が全滅しているかもしれないのだ。
「ゼロは兵器でもモノでもないにゃ。一人の個体にゃ。貸すとかそういうものじゃないにゃ。」
「ありがとうございマス。ミネット様。」
魔道兵器は礼を言った。
私は2人のやり取りに困惑した。一体どういう事なのか。私には理解が追いつかなかった。しかし、まずい状況であることだけは確かである。
「いや、そんなつもりでは………」
「遺跡に入ったら自己責任っていうのが一般的だろ。それに、お前たちを助けたら俺達の遺跡からの取り分が減るじゃねえか。」
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「私たちが見つけたものは全て差し上げます。だから………」
私にその権限はないが、リゲル達も納得してくれるだろう。
「お前にその決定権があるのか?それに全滅したら、そこから俺たちが回収すればいいんだから、助けなくても俺達のものになるんじゃないのか?」
獣人の青年は痛いところをついてきた。
「本当にゃ。危なく騙されるところだったにゃ。人間は本当に信用ならないにゃ。アタシは以前人間に捕まって売られそうになったにゃ。今回も罠って事があるかもにゃ。」
何か人間に恨みを持っている獣人のようだった。ここで長く問答している時間がもったいない。私はこの場は諦め、1階層にいる誰かに救いを求めた方がいいのではと思い始めた。
その時である。獣人たちの後ろから声が聞こえた。
「俺が助けに行きましょうか。」
獣人の後ろから人間の少年が私に声をかけた。
「ちょっと、本気?そんな面倒な事なんでするのよ。さっきの見たでしょ。不死者がうじゃうじゃいるのよ。さっきまでバイオがハザード、バイオがハザードってわけわからない事言って震えてたじゃない。」
そしてその横にいる幼い少女がそれを咎めた。
「大丈夫にゃ。マスターは強いですからにゃ。アスカが心配する事はないにゃ。」
???
その少女に抱えられた猫が言語を発したように聞こえたけど………
「ムキー。何よ。このバカネコーー。」
少女は猫の尻尾を強く掴んだ………
なんなのだ。この2人はこんな危ない場所に何故こんな子供がいるのだろうか………
私の困惑はとまらない。
「アギラ、本当に助けに行くのか?俺たちはこの階層のアイテムをいろいろ集めておくから行かないけどいいのか?」
獣人の青年は少年に聞いた。
「そうだな。ちょっと行って来て後で合流するというのでいいか?」
「アギラがそれでいいなら別に構わないがな。何かいいアイテムがあれば取っておいてくれ。」
「分かった。アスカは俺と一緒に来てくれ。」
「何よー。結局私に頼る気なのー。まー、仕方ないわね。けど、これは貸しよ。今度私の願いを聞いてよね。」
「いや………そういうわけじゃ。俺の目の届くところにいてくれた方がいいっていうか。何かあったら守れるからな。」
「お兄ちゃん………」
少女は少年の目を見つめた。この2人は兄弟なのだろうか。
「そうにゃ。アスカは足手まといにゃ。大人しく守られていればいいにゃ。そろそろあっちとマスターの本気を見せる時が来たにゃ。」
それにしてもさっきからこの猫はなんなのだろうか。
「足手まといはアンタでしょ。このバカネコ。」
少女は再び猫の尻尾を握っていた。
「ふにゃー。尻尾は掴んだら駄目にゃ。あっちの唯一の弱点にゃ。」
「それじゃあ早く行きましょう。」
少年は私に案内を促した。
私は迷った。どう見ても獣人たちについて来た荷物持ちにしか見えない少年を連れて行ってどうなるというのだろうか。他の誰かを探したほうがいいのではないだろうか。
しかし、そんな時間はないように感じた。今まさにリゲル達が全滅しようとしているかもしれないのだ。
そしてさっきから私の第六感が告げている。
何かが………この一行は何かがおかしい。
私は自分の第六感を信じる事にした。
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