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最初Ⅰ
第24話 陰と陽
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俺たちは兵士に見つかり城に再び帰る。姫に素敵な場所を自慢できなかったし、それどころではない。この胸の高鳴りは一体何だ。姫が近くにいるだけで心臓がバクバクして、飽き足らず姫のことを目でおってしまう。尚且つ、目線が合ったら体が火照る。なんだこれは重症じゃないか。何かの病気ではないか。急いでジイジに相談するとジイジは、何食わぬ顔でそつなく解説した。
「それは恋でしょう。王子」
「こ、こい」
「はい。恋です。王子は月姫に惚れたのです。さぁ早速王族としての後継者を」
「ジイジまだ子供なんて気が早い。そ、それに月姫のほうはどうなんだろうか、俺のこと……」
「そんなことお考えなさることはないでしょう。王子はこの世で最も素晴らしいお方。自信を持ってください」
俺は静かに窓の外の景色を眺めた。
民が暮らす家、砂埃が立ち込める道路に店舗が並び、行き交う人々。サンサンに照りつける太陽と同じようにこの街は賑やかで明るい。
月姫はこの街のこと、好きになってくれた。そして我が民も好意を持ってくれた。ならば、あと一押しではないか。
「ジイジ、少し行ってくる。ついてくるなよ」
「承知」
俺は月姫のところまで早足で行った。
足が勝手に進む。早く早くと急かす。月姫の居場所は大きな部屋に振り分けられた。ここから二キロ先のある建物の一番上の部屋。なんて遠いんだ。一緒の部屋がいいとは今更言えない。
ジイジもメイドもつかずに王子が1人でぶらぶら歩いていると奇妙に思われるからヒソヒソ隠れながら向かっていった。
すると、視界の端に知っている影を見て歩を止めた。ゆっくりその影に近づく。
「そんなところで何してるんだ月姫」
月姫は扉の前でウロウロしていた。
「はっ、王子!」
俺に見つかり驚く。バツが悪そうに目を伏せる。
「あの、この部屋から声がしてとても苦しそうで」
「ああ、その部屋は――」
「いけません‼」
メイドたちに見つかった。月国のメイドたちが慌てて姫を部屋から遠ざける。
「入ってはいけません! 姫、ご無事で?」
「ここは姫のような御方が入れる場所ではございません」
と四方八方から怒声のような声を浴びて姫はたじろぐ。
「悪かったわ。もう近づかないから」
姫はメイドたちを宥め、もう近づかないと約束。するとメイドたちはホッとした様子でこの場を去った。全員去ったのを見計らって口を開く。
「この部屋には俺の妹がいる」
そう言うと姫は目を見開いた。
「なぜ皆嫌うのですか? 王位こそ低いですがメイドたちからも忌み嫌うのはおかしい」
姫の端正な顔立ちが歪む。怒っても可愛いな。姫は真面目で正義感が強い御方だな。俺は部屋にいる妹に聞こえないように話した。
「妹は生まれつき蛇病を患ってしまった。だがこの国は太陽の国と呼ばれ飢えも病を持っている人間はいない。だからこそ忌み嫌う。特に王族から出てしまえば尚更。今もこうして生きているのは有名な医者と赤子のときに殺すのを阻止した慈悲深い母のおかげ」
「そうなんですか……」
姫は肩を落とした。
【蛇病】とは体の箇所に黒い蛇のような斑点がある。体が成長するに連れ斑点も大きくなり、それが全身を蝕むと死に至る。薬もない。治療法は陽を避ける。蛇は太陽を嫌い太陽さえも飲み込んだと言われる。この太陽国でその病は災いのもと。
この病は大昔、神話の時代だ。黒い大きな蛇が世界中にばら撒いたパンドラ。大昔からこの病に侵され死した人は千を超える。
「名は、なんと?」
姫はドアを二回くらい叩いて囁いた。
中からの返事はない。待つこと三分。ようやく口を開いた。
「フミです」
おずおずと答え、久しぶりに聞く妹の声。
「フミ、わたくしは月国からやってきた新参者です。どうかお見知りおきを」
姫は笑った。顔も知らないさっき名前を聞いたばかりのフミのことをとても可愛く、さも自分の妹のような声色で。
「姫は怖くないので?」
無意識に聞いていた。
「怖くない、と言えば嘘になります。でも家族ですから。あなたはもしや恐れて?」
姫は核心をつく言葉を口にし、その言葉に震えたことにも感づかれた。姫は責めなかった。ただ寂しそうな笑みを囁く。あんまり部屋の前にいられてもフミが警戒するだろうから、俺たちは一旦そこから離れて塔の上の一番天辺にまで登る。
夕焼け小やけの赤く染まった街を眺め、強い風に頬打たれる。姫の艶のある黒い髪の毛が風に靡いてそれがまた美しいのだ。つい見惚れていると、姫のほうから沈黙を破った。
「あなたは王になり何をしますか?」
いつもそうだ。姫は相手の顔をちゃんと見てくる。その眼差しを欲している。俺は姫の目を見つめながら静かに口開いた。
「俺は病も戦争も飢饉もない。そんな平和な王を目指す。安泰で平和になったら国が栄え国は発展し、この先どこまでも続いていくだろう。まずは戦争をなくす。国中の武器を国が保管し何かあれば兵士が民を守る。病を治すには医学的進歩を進めなければいけない。やることがたくさんだ」
俺は目をキラキラ煌やかせながら願望を告げた。その様を見て姫は目を丸くする。
「王は玉座に座るなり怠惰になる。それなのにあなたはやることがたくさんだ、と。ふふ。おかしな人ですね」
また笑った。今度ははにかむような。
可愛い。
「それは恋でしょう。王子」
「こ、こい」
「はい。恋です。王子は月姫に惚れたのです。さぁ早速王族としての後継者を」
「ジイジまだ子供なんて気が早い。そ、それに月姫のほうはどうなんだろうか、俺のこと……」
「そんなことお考えなさることはないでしょう。王子はこの世で最も素晴らしいお方。自信を持ってください」
俺は静かに窓の外の景色を眺めた。
民が暮らす家、砂埃が立ち込める道路に店舗が並び、行き交う人々。サンサンに照りつける太陽と同じようにこの街は賑やかで明るい。
月姫はこの街のこと、好きになってくれた。そして我が民も好意を持ってくれた。ならば、あと一押しではないか。
「ジイジ、少し行ってくる。ついてくるなよ」
「承知」
俺は月姫のところまで早足で行った。
足が勝手に進む。早く早くと急かす。月姫の居場所は大きな部屋に振り分けられた。ここから二キロ先のある建物の一番上の部屋。なんて遠いんだ。一緒の部屋がいいとは今更言えない。
ジイジもメイドもつかずに王子が1人でぶらぶら歩いていると奇妙に思われるからヒソヒソ隠れながら向かっていった。
すると、視界の端に知っている影を見て歩を止めた。ゆっくりその影に近づく。
「そんなところで何してるんだ月姫」
月姫は扉の前でウロウロしていた。
「はっ、王子!」
俺に見つかり驚く。バツが悪そうに目を伏せる。
「あの、この部屋から声がしてとても苦しそうで」
「ああ、その部屋は――」
「いけません‼」
メイドたちに見つかった。月国のメイドたちが慌てて姫を部屋から遠ざける。
「入ってはいけません! 姫、ご無事で?」
「ここは姫のような御方が入れる場所ではございません」
と四方八方から怒声のような声を浴びて姫はたじろぐ。
「悪かったわ。もう近づかないから」
姫はメイドたちを宥め、もう近づかないと約束。するとメイドたちはホッとした様子でこの場を去った。全員去ったのを見計らって口を開く。
「この部屋には俺の妹がいる」
そう言うと姫は目を見開いた。
「なぜ皆嫌うのですか? 王位こそ低いですがメイドたちからも忌み嫌うのはおかしい」
姫の端正な顔立ちが歪む。怒っても可愛いな。姫は真面目で正義感が強い御方だな。俺は部屋にいる妹に聞こえないように話した。
「妹は生まれつき蛇病を患ってしまった。だがこの国は太陽の国と呼ばれ飢えも病を持っている人間はいない。だからこそ忌み嫌う。特に王族から出てしまえば尚更。今もこうして生きているのは有名な医者と赤子のときに殺すのを阻止した慈悲深い母のおかげ」
「そうなんですか……」
姫は肩を落とした。
【蛇病】とは体の箇所に黒い蛇のような斑点がある。体が成長するに連れ斑点も大きくなり、それが全身を蝕むと死に至る。薬もない。治療法は陽を避ける。蛇は太陽を嫌い太陽さえも飲み込んだと言われる。この太陽国でその病は災いのもと。
この病は大昔、神話の時代だ。黒い大きな蛇が世界中にばら撒いたパンドラ。大昔からこの病に侵され死した人は千を超える。
「名は、なんと?」
姫はドアを二回くらい叩いて囁いた。
中からの返事はない。待つこと三分。ようやく口を開いた。
「フミです」
おずおずと答え、久しぶりに聞く妹の声。
「フミ、わたくしは月国からやってきた新参者です。どうかお見知りおきを」
姫は笑った。顔も知らないさっき名前を聞いたばかりのフミのことをとても可愛く、さも自分の妹のような声色で。
「姫は怖くないので?」
無意識に聞いていた。
「怖くない、と言えば嘘になります。でも家族ですから。あなたはもしや恐れて?」
姫は核心をつく言葉を口にし、その言葉に震えたことにも感づかれた。姫は責めなかった。ただ寂しそうな笑みを囁く。あんまり部屋の前にいられてもフミが警戒するだろうから、俺たちは一旦そこから離れて塔の上の一番天辺にまで登る。
夕焼け小やけの赤く染まった街を眺め、強い風に頬打たれる。姫の艶のある黒い髪の毛が風に靡いてそれがまた美しいのだ。つい見惚れていると、姫のほうから沈黙を破った。
「あなたは王になり何をしますか?」
いつもそうだ。姫は相手の顔をちゃんと見てくる。その眼差しを欲している。俺は姫の目を見つめながら静かに口開いた。
「俺は病も戦争も飢饉もない。そんな平和な王を目指す。安泰で平和になったら国が栄え国は発展し、この先どこまでも続いていくだろう。まずは戦争をなくす。国中の武器を国が保管し何かあれば兵士が民を守る。病を治すには医学的進歩を進めなければいけない。やることがたくさんだ」
俺は目をキラキラ煌やかせながら願望を告げた。その様を見て姫は目を丸くする。
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また笑った。今度ははにかむような。
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