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最初Ⅰ
第23話 距離
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静寂の空間。民は一斉に月姫に視線を注ぐ。何をするのか。何を言うのか。民も軍人も固唾を呑んで見守る。
「その腕を離しさない」
月姫がまず開口一言は俺が握っている月国の兵士の腕。
「月姫、これには訳がある。こいつは一度我が国の子供を傷つけた。報復がしたいんじゃない。だが一言でも謝罪がほしいのだ」
「その手を離しさない」
月姫の態度と口調は一貫して変わらない。
俺はその腕をおずおずと離した。煮えたぎらない想いが腹の奥に無理やり閉じ込める。その奥がフツフツと沸騰してて閉じ込めるのにやっとだ。月姫は子供に向けて歩を進めた。コツコツとしっかり歩き、通りすがりに帽子から目が見えてギロリと睨まれた。大蛇のような目つきだ。
子供と同じ目線に腰を屈む。
「ごめんなさい。痛かったでしょう」
子供たちは突然月姫に話しかけられて口をあんぐりしている。周りはそれを固唾を呑んで傍観していた。叩かれた頬に手を添えて優しく撫でる。二人はたじろぎながら「大丈夫です」と深く頭を下げる。月姫は「このタオルを濡らしてきてちょうだい」と兵士に命令する。引っ叩いた兵士に。兵士はすぐさま行動に移した。一分足らずで兵士が戻ってきて白いハンカチを月姫に。
受け取った月姫はそのハンカチを叩かれて赤く充血している箇所に当てた。
「ごめんなさいね。許してくれる?」
とても穏やかな優しい声に二人も民も先程の刺々しい声の持ち主と同じか、みんな耳を疑う。イレインは撫でられたことでぶわりと泣いて、ルークもまた貰い泣きして空気が少し変わった。その頭を優しく撫で、腰を浮かし今度は民に顔を向けた。
「皆さん、お騒がして申し訳ありません。こちらのご無礼をお許してください」
月姫が頭を下げた。
民がざわざわと小さく声を上げる。こちらも月の兵士たちも月姫の取った行動に目を驚愕する。さっきの兵士が「なりません姫様!」と止めに入るも姫本人がそれを遮った。
「わたしはこの国であなた方と平和に築きたい。ずっとあなた方と仲良く過ごしたい。だからあなた方と仲が悪くなるのは嫌です。国のためにではなく、この街に来てわたしはこの地の民が好きになりました。月の国の者が失態をおかしたならどうぞ、好きになさって、わたしはその覚悟でここに来ました」
民も空気も黙り込んだ。
月姫は顔を上げる。その顔は凛々しく真っ直ぐ先を見据えていた。白い肌に漆黒の髪の毛、そして猛獣のような鋭い金色の瞳。何もかも美しい。この世のものとは思えない絶世の美女だ。
民も兵士もその場で固まる中、後方から大きな影が向かってきて人だかりに道ができた。
「何の騒ぎだ」
駆けつけてやって来たのは男性兵士。赤と白のデザインされた兵服で派手なデザインながら、その行動は王族に仕える者と同じ、いいやそれ以上に奇抜である。一般家庭から輩出されないエリートだけが生ける道。その輩たち。こちらは王族と同じ権力がある『三柱』に仕える兵士たちだ。
三柱とはかつて大厄災が起きた直後天から神様が舞い降りて人間に生き血を与えた。その子孫が三柱。構成員は【大地】【天空】【空間】その子孫たちは神様からの生き血を貰い超能力的な力が備わっている。故に王族からも民からも〝祝福〟されている。
「何もありません。騒がしくして申し訳ない」
俺が一歩踏み出して答えると兵士は頭を下げて踵を返した。残りの兵士たちも止めていた足を動かし街の南方を歩いていく。ざわざわと小さく騒がしくなった頃で、俺は月姫の手を引いて誰も来ない薄暗い路地裏へ隠れた。
「こんな場所ですまない」
「いいえ」
側近でさえ来ないように暗闇に身を隠す。ここに来るとき月姫の黒い帽子がいつの間にか落ちていた。何処で落ちたのか分からない。姫のために帽子を取りに戻ろうと踵を返すと月姫は握った手を強めて「大丈夫です。帽子は変えがありますので」とやんわり断った。
白く透き通った肌が暗闇の中光って見える。装飾品は髪飾りの一つだけになっており頭が揺れるとピカピカ光る。半袖でもムシムシするこの暑さだというのに汗一つかいていない。それが妙に奇異で目を引いた。
「月姫、こんな騒動になってしまい、申し訳ない」
改めて謝罪。
「こちらこそ。最初にけしかけたのはこちらです。あの兵士には帰ったあと謝罪させます。それより……」
月姫は路地裏の奥の今来た道を眺めた。
狭い通りで見える景色はそう多くない。行き交う民。活気盛んな声。兵士たちが俺たちを探している声など。
「あなたは子供、好きなんですか?」
「え」
唐突に聞かれて間をおいて「そうだな。よく一緒に遊んでいるし、自分の国の子供だから好きなんだ」と答えた。月姫はこちらを細目で眺めまた、視線を奥の光の方へ。
「あの二人の子、あなたのこと凄く尊敬してました。この国の王たるものに、畏怖や敬遠もせずに皆、親しくまるで家族のよう。わたしの国と大違いです……あなたのこと、少し誤解してました。勝手にズカズカと上がってくる不届き者かと思ったら民から尊敬される立派な人だと理解しました」
「月姫……」
月姫は俺に顔を向けるソッと微笑んだ。
恥じらいがある困った笑みだが、その笑みを見て俺の体は電流が走ったかのようにビリビリと掛け巡った。なんだこの高揚は。心臓が千切れるほどバクバクしている。汗が、全身くまなく出てくる。顔が熱い。体全身が火照ってる。
これが恋?
「その腕を離しさない」
月姫がまず開口一言は俺が握っている月国の兵士の腕。
「月姫、これには訳がある。こいつは一度我が国の子供を傷つけた。報復がしたいんじゃない。だが一言でも謝罪がほしいのだ」
「その手を離しさない」
月姫の態度と口調は一貫して変わらない。
俺はその腕をおずおずと離した。煮えたぎらない想いが腹の奥に無理やり閉じ込める。その奥がフツフツと沸騰してて閉じ込めるのにやっとだ。月姫は子供に向けて歩を進めた。コツコツとしっかり歩き、通りすがりに帽子から目が見えてギロリと睨まれた。大蛇のような目つきだ。
子供と同じ目線に腰を屈む。
「ごめんなさい。痛かったでしょう」
子供たちは突然月姫に話しかけられて口をあんぐりしている。周りはそれを固唾を呑んで傍観していた。叩かれた頬に手を添えて優しく撫でる。二人はたじろぎながら「大丈夫です」と深く頭を下げる。月姫は「このタオルを濡らしてきてちょうだい」と兵士に命令する。引っ叩いた兵士に。兵士はすぐさま行動に移した。一分足らずで兵士が戻ってきて白いハンカチを月姫に。
受け取った月姫はそのハンカチを叩かれて赤く充血している箇所に当てた。
「ごめんなさいね。許してくれる?」
とても穏やかな優しい声に二人も民も先程の刺々しい声の持ち主と同じか、みんな耳を疑う。イレインは撫でられたことでぶわりと泣いて、ルークもまた貰い泣きして空気が少し変わった。その頭を優しく撫で、腰を浮かし今度は民に顔を向けた。
「皆さん、お騒がして申し訳ありません。こちらのご無礼をお許してください」
月姫が頭を下げた。
民がざわざわと小さく声を上げる。こちらも月の兵士たちも月姫の取った行動に目を驚愕する。さっきの兵士が「なりません姫様!」と止めに入るも姫本人がそれを遮った。
「わたしはこの国であなた方と平和に築きたい。ずっとあなた方と仲良く過ごしたい。だからあなた方と仲が悪くなるのは嫌です。国のためにではなく、この街に来てわたしはこの地の民が好きになりました。月の国の者が失態をおかしたならどうぞ、好きになさって、わたしはその覚悟でここに来ました」
民も空気も黙り込んだ。
月姫は顔を上げる。その顔は凛々しく真っ直ぐ先を見据えていた。白い肌に漆黒の髪の毛、そして猛獣のような鋭い金色の瞳。何もかも美しい。この世のものとは思えない絶世の美女だ。
民も兵士もその場で固まる中、後方から大きな影が向かってきて人だかりに道ができた。
「何の騒ぎだ」
駆けつけてやって来たのは男性兵士。赤と白のデザインされた兵服で派手なデザインながら、その行動は王族に仕える者と同じ、いいやそれ以上に奇抜である。一般家庭から輩出されないエリートだけが生ける道。その輩たち。こちらは王族と同じ権力がある『三柱』に仕える兵士たちだ。
三柱とはかつて大厄災が起きた直後天から神様が舞い降りて人間に生き血を与えた。その子孫が三柱。構成員は【大地】【天空】【空間】その子孫たちは神様からの生き血を貰い超能力的な力が備わっている。故に王族からも民からも〝祝福〟されている。
「何もありません。騒がしくして申し訳ない」
俺が一歩踏み出して答えると兵士は頭を下げて踵を返した。残りの兵士たちも止めていた足を動かし街の南方を歩いていく。ざわざわと小さく騒がしくなった頃で、俺は月姫の手を引いて誰も来ない薄暗い路地裏へ隠れた。
「こんな場所ですまない」
「いいえ」
側近でさえ来ないように暗闇に身を隠す。ここに来るとき月姫の黒い帽子がいつの間にか落ちていた。何処で落ちたのか分からない。姫のために帽子を取りに戻ろうと踵を返すと月姫は握った手を強めて「大丈夫です。帽子は変えがありますので」とやんわり断った。
白く透き通った肌が暗闇の中光って見える。装飾品は髪飾りの一つだけになっており頭が揺れるとピカピカ光る。半袖でもムシムシするこの暑さだというのに汗一つかいていない。それが妙に奇異で目を引いた。
「月姫、こんな騒動になってしまい、申し訳ない」
改めて謝罪。
「こちらこそ。最初にけしかけたのはこちらです。あの兵士には帰ったあと謝罪させます。それより……」
月姫は路地裏の奥の今来た道を眺めた。
狭い通りで見える景色はそう多くない。行き交う民。活気盛んな声。兵士たちが俺たちを探している声など。
「あなたは子供、好きなんですか?」
「え」
唐突に聞かれて間をおいて「そうだな。よく一緒に遊んでいるし、自分の国の子供だから好きなんだ」と答えた。月姫はこちらを細目で眺めまた、視線を奥の光の方へ。
「あの二人の子、あなたのこと凄く尊敬してました。この国の王たるものに、畏怖や敬遠もせずに皆、親しくまるで家族のよう。わたしの国と大違いです……あなたのこと、少し誤解してました。勝手にズカズカと上がってくる不届き者かと思ったら民から尊敬される立派な人だと理解しました」
「月姫……」
月姫は俺に顔を向けるソッと微笑んだ。
恥じらいがある困った笑みだが、その笑みを見て俺の体は電流が走ったかのようにビリビリと掛け巡った。なんだこの高揚は。心臓が千切れるほどバクバクしている。汗が、全身くまなく出てくる。顔が熱い。体全身が火照ってる。
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