うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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九章 侵略者と未来人

第99話 帰還

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 次に鹿室も自己紹介した。
 話は早くて、契を結ぶとすぐに即決された。紙もない。口約束のようなものだ。でも、未来では契を結んでいると宣言。
 友好的な惑星と契が結べる。これだけで未来は大きく変わる。人類の文明や科学を使っても遥か高度な文明を持っている宇宙人には敵わない。
 だが、同じ高度を持っている宇宙人がいれば、人類に救いがあるかもしれない。人類を崩壊したのは宇宙人で、救いの手を差し伸べてくれたのは同じく、宇宙人。
 契を結ぶことを約束。

 宇宙海賊団もいなくなり、使命を果たした鹿室は未来に帰ることに。ガーディアン機関と別れ相原家に帰ってきた。
 家に入ることなく、庭に真っ先に向った。でもコスモに止められた。
「一樹に挨拶してから」
 と庭に向った鹿室の腕を取って、引き戻した。鹿室はしぶしふ家の中に入っていく。もう夜遅いので窓から侵入。ちょうど居間には明かりがついていた。

 窓から差し込む光が眩しくて、一筋の光のように淡いもの。窓から侵入すると、迎えいれてくれたのは一樹だった。
「倒したな。烏からの情報から聞いた」
「ガーディアン機関がやってくれて、僕は何もやっていない」
 鹿室は暗い顔をした。  
 契を結んできたこと、未来に帰ることを告げると、悲しい顔をした。 
「そうか。確かにもうやり遂げたもんな。自分の使命とやらを。良かったな」
 一樹はポンと頭を撫でた。
 優しい手のひらでキュ、と心臓が鷲掴みにされた。
「帰るのはすぐ?」
 スターが訊いた。
「別に……機関からすぐに帰ってこいなんて、言われてないから」
「それじゃあ、まだ時間はあるわね」
 ニッと笑った。  
 鹿室は怪訝に思っていても、少し猶予があると分かっていて、ほっとしている気持ちがある。

 鹿室が帰る前にまた、トランプをやろうと。今度は一人混じって。ババ抜きは得意だ。駆け引きに弱そうなのはスターとコスモ。強いのはダスク。運が強いのは鹿室。ダスクがカードをきって、カードを運ぶ。
「言っとくけど、わたしたちはズルとかやらないから」 
 スターは当たり前に言った。
「お手並み拝見だな」 
 ふっと笑って挑発してみせた。

 ババ抜きをするのは久しぶりだ。そうして時計回りでターンを重ねていく。一意に繰り上げたのは鹿室。
「ほんとに強いんだな」
「ふっ、侮るな。貴様はまけそうだがな」 
 鹿室はあざ笑った。俺がババを持っていることに気がついているのか、そんなわけない。最初から俺が持って、ポーカーフェイスを常にしていた。
 もしかして、鹿室は透視とかできるのか。鹿室は何も知らない表情をした。それから二位はなんと、コスモ。駆け引きに弱そうなのに。 
「ズルとかやってないよね? ね?」
 スターがコスモに詰め寄った。
「やってない」
「ほんとに?」
「ほんとに」
 スターはむぅ、とした表情。未だにコスモが勝ち上がったことに納得していない。当のコスモは満足している。三位に勝ち上がったのはダスク。
「良かった。負け犬にならなくて」
「聞こえてるぞ」
 こうして、スターと俺の対決になった。スターはふふふ、と怪しく笑った。最終対決が人間だから。
「おいおい、侮るなよ」
「そっちこそ」
 粘って粘って勝ち上がったのは俺。スターは最後にババを持って惨敗。ダスクは人間に負けるなんて哀れな、と哀しみの表情を向けていた。

 惨敗したスターは終わってもなお、グチグチ愚痴る。すると突然、鹿室が大笑いした。大口を開けて腹を抱えて笑う。
 突然のことに、俺たちはびっくりして固まった。鹿室は甲高く笑って、固まっている俺たちを眺めて、ひーひー言いながら笑を止めた。目に涙をためて、痙攣している。

 一体どこに笑いのポイントがあったのか不思議でならない。
「ごめん。ちょっとこの空間がとても楽しくて」
 やっと落ち着いた鹿室が言った。
 涙をふいて、今まで見たことない幸せな笑みを見せた。
「こんなに、幸せだって感じたのは久しぶりだ。凄く幸せで、胸が温かい。ポカポカする。こんな感情は久しぶり、いいや、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。でも、こんなに幸せなのに僕は帰らないといけない。そう思うと、胸がはちきれそうだ」
 鹿室は暗い顔をおとした。 
 そんな鹿室の頭や背中を優しくさすったのは、コスモたち。
「寂しいのはわたしもよ」
 スターが目に涙をためて言った。
「これが最初。次はいつ来てもいいように、ここの庭は空いている。これが永遠の別れじゃない」
 ダスクはふっと優しく笑った。
「別れの言葉は不要。また会えるから」
 コスモが手を握った。ぎゅ、と悪手のように交わす。
「ほら、これ」 
 鹿室の前に差し出したのはおにぎり。ずっと烏の情報で、契を結んだことと今から未来に帰ることを事前に知っていた。

 だから俺は、鹿室たちが帰ってくるまでにおにぎりを沢山作った。全部鹿室のため。鹿室はおにぎりを詰めた弁当箱を見上げ、キョトンとする。
「未来に行くまで、何日食べないのかもしれないと思ってな、作った。お腹空いたらこれを食べろ」
 風呂敷に詰めたお弁当箱を受け取って、鹿室はゆるゆると顔を上げた。
「こんなの受け取っても、弁当箱返せない」
「返せるだろ。これは交換日記みたいなもんだ」
 ヨダレをダラダラたらしてお弁当箱を狙っているコスモを、片手で押さえ込んで言った。コスモはお弁当箱に手を伸ばそうともがくも、近くにいたスターとダスクもそれを止める。

 結果一人と二匹で動きを封じている。
 鹿室はお弁当箱をぎゅと胸に抱え、ぱぁと笑った。
「この貸し借りは絶対返す」
 庭に置いてあった宇宙船がいきなり、起動した。中にいたアイスがひょっこり顔を出してきて手招きする。
「それじゃあ」
 鹿室は手を振って宇宙船に乗った。
「未来までよろしくな」
 俺はアイス棒を与えて、アイスに優しく言った。アイスはそれを受け取って敬礼した。
『ボクらはパートナー。絶対送り届ける』
 敬礼して受け取ったアイスを頭から齧り付いた。
 


 宇宙船に乗った鹿室たちは上空を飛んでいき、やがて最後は霧となって消えていった。最後まで手を振って。
 姿がきえたあとも、手を振った。上空にはもう誰もいない。住宅街の屋根と電線があるのみ。漆黒の空が広がっている。点々と煌めく星々が広大に広がる空に輝いていた。



§


 宇宙船の中でグズグズ泣きじゃくる。アイスは鹿室の背中をずっとさすっていた。
「いい人たちだった。ずっと敵意を向けていたけど、また、来ていいて言ってくれた」
『感謝』
「うん。そうだね。この御恩は絶対に忘れない。未来を絶対に明るい希望にさせる」
 鹿室は顔を上げて操縦席のスピードを上げた。お腹が空いたら食べていい、と言われたお弁当箱を机に置いて風呂敷を広げた。 
 出てきたのは重箱。ぱかりと開くと白い米粒が輝いていた。一つを手にとって口に運ぶ。タラコ味だ。
「美味しい」
 その味がとても、愛おしく懐かしい。

 契というものは、割と簡単で。両者が手を繋いでアピールすれば、両国民に印象を与え、紙に両者の名前を書けば成立。
 鹿室が過去から帰ってきたころには、成立していた。そして、未来が大きく変わっていた。

 文明は少しずつ戻っており、侵略者が後退していく。日光浴が弱点だっと人類はわかって、幾つもの大砲を空に打ち上げ、何度も試してやっと、青い空を見渡せた。
 この時代で青い空を見るのは生まれて初めてだ。空は時代が変わっても青いのは変わらない。

 鹿室はトト機関として成功を成し遂げた。クオーターとして差別されたけど、ようやく、認められた。


 友好的な惑星の宇宙人が地球に降りてきていると、情報が入り、特別に鹿室に行かせた。何より、その人物が鹿室をご指名だったから。トト機関の大きな部屋でその方は待っている。扉を静かに開けると、一人だけ、ゆったりとお茶を飲んでいた女性が。
「こちらは、アストラ星からやってきた侵略軍監視官、オービット様だ。契を結んだアストラ星からわざわざ降りてきて、お前に会いたいと言い出した」
 機関の上層部が教えてくれた。
「僕に?」
 僕は恐る恐る中に入り、二人きりになった。女性はこちらに手招きした。恐る恐る大きなソファーに座る。ここに来たことは初めてだ。機関の中で差別にあっていた僕に、こんな所足を踏み入れる場所でも無かった。


 空気が静かで心臓の音だけがただただうるさい。女性からは殺気も感じない。三十代前半くらいの大人の女性。頭の上にカチューシャをしてて、黒いゴスロリ衣装を着ている。特に目立つのは、左目を黒い眼帯で隠していた。僕の知っている宇宙人じゃない。恐怖と失望感が湧く。

「あの男に、会えましたか?」
 オービット監視官は、静かに問いかけた。とても落ち着いた女性の声。聞かれた〝あの男〟というのは、分からなかった。
「あの、男とは?」
 身を乗り出す。
「……自分も地球に降りたことがあります。21世紀、相原家。とても、変な男だったでしょう。宇宙人と一緒に暮らして世話をして、それでいて、ご飯が美味しかった。結局、あれっきりだったけど……楽しかったでしょう」
 監視官の右目は穏やかに笑っていた。鋭く尖った切れ長の目が穏やかに。
「ええ、楽しかったです。別れ際おにぎりを持たせて、これ、良かったら……僕一人じゃ、とても食べ切れない」
 僕は風呂敷に包めた弁当箱を机においた。
 オービット監視官は、くすくす笑った。「あの男らしい」と呟く。
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