うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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九章 侵略者と未来人

第95話 崩壊

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 鹿室が部屋を出ていき、格闘戦は一時休止になった。いや、もうすでに決着がついている。鹿室のライフは10。対してダスクのライフは90。竜と蟻の差である。
 鹿室の用事が済ませてまたリトライしても、負けは決まっている。ダスクは余裕におしゃべりを咬ましている。

 向こうから話し声がするが、内容は聞き取れない。機関からの連絡と聞いだが、あそこまで震えるなんて。
「そういえば、今頃だけど宇宙人を滅する目的であれば、トト機関よりガーディアン機関のほうが良くない? だってトト機関て書物をかく機関だし」
 オレンジジュースをズズと口に運び、スターは言った。
「まぁ確かに。トト機関は書物を書くだけだし、特別に訓練されたガーディアンより弱いのは明白ね」
 ダスクは奥の棚から柿ピーを持ってきて、小皿に添える。添えた柿ピーは瞬く間にコスモの餌食に。
 ダスクはむっとコスモを睨みつけた。餅を食べてなお食欲がある。ダスクはコスモのお腹を捻るように掴みあげ、コスモはぶっと食べたものを吐き出した。
「だぁれが食っていいといった。どちらが強者か決めておかないとね」
 激昂したダスクはコスモでもひねり潰す。柿ピーを巡る小さな争いが始まった。だからといって、コスモも負けない。そこに食べ物がある限り、粘り続ける。

 夜遅いから小さく物音をたてて。が、争いの前に俺のげんこつをくらって終息。二匹の頭には同じようなたんこぶが。それを見ていたスターがやれやれ、と天を仰いだ。
 すると、鹿室が戻っていた。いつからそこにいたのか、もしかわ、ずっとそこにいたのかじっ、と棒のように佇んでいた。
「よぉお帰り。機関からの連絡は何だった?」
 さり気なく聞いてみると、鹿室は青白い顔していることに気がつく。俯いて項垂れていたせいで、気が付かなかった。
「大丈夫か?」
 そっと駆け寄ると、懐に隠してあった銃をコスモたちに突きつけた。俺を足で蹴ってコスモたちに詰め寄る。
「機関から連絡が入った。宇宙人がトト機関第一部署を崩壊した。僕はトト機関として任務を遂行する!」
 周りの空気を吸って、銃口から火が出現。訳がわからない。さっきまで仲良く距離を縮めていたのに、あれは幻だったのか。

 鹿室は戸惑いも見せずに引き金を引こうとしている。銃口は青い炎と赤い炎が出現し、まさしく爆発を引き起こそうとしている。そんな前にコスモが立ちはだかる。

 銃口を手で抑える。
「壊したらだめ」
 コスモは強く言った。
 この家を破壊したらだめ、と言っている。その台詞に鹿室はかっ、と目を見開かせそのまま引き金を引いた。


 雷鳴が落ちたかのような大きな音と途轍もない衝撃波が襲った。一瞬何が起きたのか理解出来なかった。
 辺りを見渡すとコスモたちがいた部屋の半分がなくなり、切れ目が黒く変色していた。そこに置いてあったテーブルもまるで、包丁で切ったかのように真っ二つ。
 ソファーなんかも真っ二つで別れた切れ目には中身が覗いていた。部屋中が焦げ臭い。鼻が曲がりそうだ。
 一体、何が起きたのかさっぱりだ。 
 コスモたち三匹の姿はない。庭の草も燃えているし、路上も溶けている。あそこまで届く距離の弾劾なら、コスモたちは吹き飛ばされたのか。
 頭がガンガンする。
 衝撃波で頭を打ち付けたせいだ。鈍器で殴られたようにガンガンする。眼魔もする。そのせいで震えが止まらない。視界がグワングワン揺れて、天と地が何度も逆になる。

 俺は頭を抑えて、腰を浮かせた。
『宇宙人の生命反応あり。上空に全員いる』 
 アイスの声がやたら響く。
 思考が現実に追いつかないまま、状況は悪化していく。
 未だに銃口からは白い煙が出ている。鹿室がもう一度引き金を引こうとした。
「まて」
 俺は静止の声をかけた。頭が猛烈に痛い。眼魔も激しく、鹿室の姿が二重になっている。ポタポタと赤い血が頭から滴り落ち、よろめきながら、歩いていった。
「まて……これ以上は」
「任務の邪魔する者は排除する」
 聞いたことない低い声。 
 その声に、姿に、戸惑いも恐怖も焦燥もなかった。その姿は見たことない。出会ってから一日も経っていない関係で見たことない一面なんてあるかもしれない。だが、目の前にいるのは、本当に俺が知っている少し臆病で生意気な鹿室じゃない。

 未来人トト機関の鹿室の姿だった。
「全く。いきなり襲撃とは。やるわね」
「ひぃえ、何この有様。コスモありがと~命の恩人!」
「家をめちゃくちゃにした。柿ピーまだなのに」
 姿をくらませた三匹が上空から現れた。実は引き金を引いた瞬間にコスモはスターとダスクを抱えて、窓を飛び降り、地面を大きくジャンプして銃丸から免れた。

 あれは大砲のような威力。
 狙いは真っ直ぐで高さはそれほどない。

 あぁ、良かった。生きている。
 姿を見て、安堵した。足の力が緩み地に吸い込まれるようにして倒れた。意識が遠のいていく。視界が狭窄していく。少しでもこの状況がどうなるのか知りたくて頑張っても、どんなに頑張っても、狭窄していく。
 視界が狭窄していく中で、鹿室とコスモたちが言い争っているのが見える。そして、それが最後の光景だった。
「どうして?」
 コスモが真剣に問いかける。
「どうして? それはこっちが聞きたい。どうして、僕がいつも仲良くなれるのは宇宙人なんだ? どうして貴様らは宇宙人なんだ。第一部署が崩壊した。トト機関の要が、だ」
 鹿室は銃を突きつけながら、静かに、でも殺気を放っている。冷たい殺気だ。
「それは50世紀遥かな未来で、でしょ? あたしたち何もやっていないし、関係ない」
 ダスクがひときわ冷たく言った。
 鹿室はクス、と笑った。ふふふ、と嘲笑う。
「それじゃあ、貴様は道端に寝ているみずぼらしい子供がいても、関係ないと言えるのか? 貴様らが宇宙人が招いたせいで世界が混乱に満ちているのに、何も関係ないと?」
 鹿室はふふふ、と薄気味悪くじろりとダスクを睨みつけた。赤い目が野獣の牙のように鋭く、生々しく光っている。

 鹿室は話を続けた。
「僕の使命はこの時代にいる宇宙人を倒すこと。この時代から宇宙人が招来し、着々と文明を破壊していった」
 鹿室はコスモ、スター、ダスクを一匹順番に指差した。まるで、お前たちのせいだ、と言うように。コスモはむっとした。
「さつりくはしない」
「そんなの、分からないでしょ。僕は僕の使命だけを考えればいい」
 鹿室の銃口がまた、赤く燃えている。
 あの大砲丸のようなものを撃ちだす。

 コスモが攻撃態勢に入ったその直後、静止をかけたのはスター。
「待って! 何かおかしいものが来る!」
 スターのどよめきに、鹿室の動きも止まった。アイスの目の色も青から黒になる。
『機関から連絡! 機関から連絡!』
「下? ううん、上!? 異次元から何かこっちに近づいてくる!」
 〈探索〉に長けているスターが何者かの気配を感じ取った。機関からの連絡が来て鹿室は、通話ボタンをすぐに押した。 
『コードネーム、カナム。機関の伝達――第一部署を崩壊した宇宙海賊団が船を盗んで二十一世紀に向かった。歴史が変わるかもしれん! 鹿室、すまないが討伐してくれ!』
 男性の声が響きわたった。
 焦りと緊張が走った声で、息が乱れている。鹿室は通話を聞いて顔を青くさせた。持っている銃に力が入らず、傾いている。


「コスモ、地中から現れる!」
 スターが甲高く叫んだ直後、庭の地中から大きな建築物が現れた。土埃を舞わせ、満月の光がその建築物を照らす。
 大きな船だ。海賊船が乗るような白い凧に、その頂点には旗があり、骸骨が描かれている。 


『宇宙海賊団っ出没っ!!』
 アイスが目の色を青くさせた。
 鹿室は戸惑っていた様子を見せたがそれは一瞬で、すぐに冷静になり、銃を構えた。赤い炎が銃口から出て爆音と共に放出する。

 道路も草木も溶けさせる地獄の炎を連想させるものを、たったひと振りのバズーカで打ち消した。
 宇宙船に乗っていた宇宙海賊団の一人。全身赤く、牙があり鋭い角がある。鬼と例えるなら早い。バズーカを持って、鹿室のあの一撃を打ち消した。
 また仕掛けてくる。
 鹿室は懐からもう一丁の銃を取り出した矢先、その腕が吹っ飛んだ。ゴロン、と銃を持った白い手首が転がる。

 宇宙船から刃物が飛び出し、それは無数の鞭のように降り注いだ。
「きゃあ!」
「何これ、痛いっ!」
 スターとダスクはバリアを張るが、傷ついた箇所は中々治らない。しかも掠っただけなのにジンジン熱く、まるで毒に犯された気分。

 鹿室はバリアを張れない。全身にその刃が掠め、分厚い肉を貫通し、心臓を貫いた。赤黒い血があたり一面に広がり、ドサリと倒れた。

 猛攻は続くのかと思いきや、コスモが宇宙船を真っ二つにさせた。足で蹴って。
「お帰り下さい。客人が来ても、私、お茶の組み方知らない」
 そう言って刃物を投げた数人の首を捻じ曲げた。
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