うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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八章 侵略者と再会

第77話 侵略

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 宇宙人が地球に降りてきた。地球を侵略することは変わらない。そして、その面子も変わらない。また会える、あの想いは実現となった。

 相原家では早速、宇宙人が集っていた。一階におりて、テレビゲームをしている。止まっていた時間を埋めるかのように、ゲーム内のエリアが増えていく。
「レベル一で進まない」
「ダスク、ちょっと退きなさいよ」
「あんたが退きなさいよ。あそこはあたしが押すところだったのよ」
 コスモはレベル一の格闘技ゲームで止まっていた。一方スターとダスクはダブルスを組んで揉めあっている。あのころの光景だ。あのころの光景が今まさに、目の前に。

 カチカチとリモコンの音がやけに響き渡る。コスモたちが遊んでいる間に朝飯をつくる。その香りに釣れられて、ペットたちがわらわら尻尾を振って寄ってくる。
「後でな」と言うと寂しい表情でクゥーンと泣いた。

 その香りに釣れられてくるのは、ペットだけじゃない。大きなペットも乱入してきた。
「まだ?」
「まだ」
「何秒?」
「そんなすぐに終わるか!」
 コスモは台所まで来て、料理している俺の隣で様子をうかがっている。よだれがボタボタとたらしている。

 コスモに朝飯がすでにロックオンされたので、早めに軽めのものを。スターとダスクは相原家に来るまでにそれぞれの家で朝食を食べてきたらしい。ダスクは金城家に戻って、金城家の優雅な朝食を食べてきたと自慢。

 それを聞いたコスモが目を輝かせこちらに顔を向けた。
「出来ないぞ」
 一言そう言うと、キラキラ輝いていた目がすん、と暗くなった。終いには大胆に舌打ち。せっかく作った朝飯を没収すると、情けないほど足元にしがみついてきた。

 ゲームに飽きてきて、宇宙人たちは二階の俺の部屋に上がり込んできた。話題は言わずもがな地球侵略。
「どうする?」
 コスモが訊いた。
「どうするって、イチからやり直しよ」
 スターがはぁ、とため息ついた。
「二年ぶりだし。あたしたちが帰ってきたこと知らない地球人はいると思う。だから、挨拶回りと行こうじゃない」
 ダスクが胸を張って言った。
「ぶらぶら歩いているの面倒くさい」
 コスモが机の上に顎を置いた。
「そんなだからいつまで経っても侵略出来ないのよ! エンド様が怒るわよ!」
 スターが立ち上がってコスモの脇に腕を回して立ち上がろうとしている。それでもダランとしており、ペラペラの布扱いされている。
「あ、そういえば、忘れてた」
 ダスクが懐からタブレットを取り出した。
 俺を手招きする。怪しい。怪しいしか言えない。

 タブレットを取り出して、いいことあったか、と問われると永久にない。いつまでも来ないから、ダスクは睨んでいる。行きたくないんだよ、絡まれたくない。が、早く来いと急かされては行くしかない。

 恐る恐る寄ってみると、ダスクがタブレットを見せてきた。タブレットの画面には、見覚えのある景色が。でもそこに映っている人物に見覚えがない。

『うわわわ! ほんとに映っている!』

 大きな椅子に座っている青年が慌ただしく足をばたつかせた。体格にそぐわぬ大きな椅子に、眩しいほどの白い壁と天井。青年の横には執事服を着ているギャラクシーがいた。

 この室内は見たことある。サターン様がかつて座っていた場所だ。サターン様が座っていた玉座に、知らない青年が座っている。
「誰?」
 俺は指差して問いた。
 スターとダスクに睨まれる。画面越しのギャラクシーにも睨まれた気がした。

『は、初めまひて! エンドです。姉の、サターンの弟です』
 
 エンドと名乗る青年はもじもじし、顔を赤くしていた。そういえば、弟がいるって言ってたな。あの部屋にいたのは、こんなウジウジしていた青年だったか。
 どうして姉弟、姉妹は似てないのだろう。家は似てすぎてるのかも。 

 ダスクがどん、と背中を叩いた。そちらに顔を向けると「挨拶して!」と小声で言われた。そうだな。相手が名乗ったのにこちらも名乗らないのは不公平だよな。

「えっと、初めまして相原一樹です」

 エンド様はぱぁ、と笑った。アクアマリンの瞳がキラキラ輝いている。まるで、親に褒められた子供のような表情だ。

『えええと、一樹さんと話したかったです……姉が興味を持った人間を見たかったので』

 エンドは顔をうつむかせた。さっきからこいつのもじもじ感はなんだ。もっとしゃっきりしろ。とは言えない。この青年が今や、王となっているから。

 十八~十九の容姿なのに、実年齢は俺より三倍も年上なんだろうな。

『初めて人間と話した……これが噂のE・Tてやつ?』

『少し違います』

 横にいたギャラクシーがツッコミを送る。ギャラクシーは眼鏡を指先で押してE・Tのあらすじを語る。
「ちょっとちょっと!」
「本題がずれている!」
 スターとダスクが間に入ってきて脱線した話を戻す。ギャラクシーはコホンと咳払いしつつ、エンド様に視線を送った。送られたエンド様は大きく頷く。
 
『こうして繋がっているのは、僕が人間を見たかったことと、挨拶をしたかったこと。宮殿に訪れていたのに、ろくに挨拶も出来なかったから、今度は王の立場として挨拶したかった』

 エンド様は極力詰まらないように頑張って言った。親のように喜んでいるギャラクシー。涙を流して膝をついている。後ろにいるから、本人には見えないけどこっちも見ているということを忘れている。

『あ、それじゃあここで。顔を見れて良かった。また会えるのを楽しみにしてる』

 エンド様の最高の笑顔でそのままプツンと途切れた。画面は真っ黒になり、液晶画面に映っているのは、タブレットを見下ろす俺の姿のみ。
「どうだった?」
 コスモが訊いてきた。
「どうだった、て」
 素直に言ったら殺されそう。ここは穏便に言って「シャイな王だね」と答えるとコスモもスターも謎のドヤ顔で「でしょ」と言った。

 タブレットを懐に戻した。そして、また話題は振り出しに戻る。
「地球侵略て、どうすればいいの?」
 コスモがお菓子の袋を開けながら訊いてきた。一階の棚の奥にしまっていたものをいつの間に。
「だから挨拶周りだって」
 スターがおもむろに立ち上がった。
「当初のことを思い出して」
 ダスクが真面目な低いトーンで話しだした。お菓子をパクパク食べていたコスモの手がピタリと止まった。
「とうしょ……?」
 ぽろりと摘んでいた菓子が落ちた。ダスクは真面目な表情で腕を組んだ。
「思い出して。サターン様は地球侵略と一緒にあるものを願っていた。今となっては分からないけど、たぶん、地球侵略は建前でそっちが本命だったのかも」
「あぁ、地球で確か……なんだけ? 何何を見なさいだっけ?」
 スターは曖昧な口調で答えた。頭の上にあるクエスチョンは見えているし、掴める。

 サターン様が地球侵略は建前で、地球のあるものと接触してほしい、と願っていた。でもその〝あるもの〟が全く思い出せない一行。頭を抱える始末。
「とりあえず、こっちは挨拶周りに行きましょ。この話は一旦頭の隅において」
 ダスクがはぁとため息ついた。
 スターは元気に立ち上がってコスモの腕を掴む。
「さあ! 行くわよ!」
「何処に? もっと食べさせて」
「外に!」
 お菓子を置いて、スターに導かれるまま外に。ダスクはやれやれ、と肩を落とし二匹のあとを追った。


 地球侵略をしに、コスモたちは外に。部屋の中は静寂が生まれた。嵐が過ぎ去ったように静かで、一人でいるとぶるっと震える。
 まだ冬の名残が残っている季節だからかもしれない。窓からさぁ、と冷たい風が吹いてきた。少ししめて、外を覗くと三匹が楽しそうに街中を歩いていた。

 そういえば、昼飯もまだだから恐らく帰ってくるだろうな。コスモ辺りがお腹すいた、といえば撤収してくるだろう。それか、金城家に潜って昼飯を食べていくか、どちらかだな。
 机の上のスマホが鳴った。誰からだろう、と確認して覗くと千枝ちゃんからラインが届いていた。

 宇宙人がそこにいるな? という文面だった。流石ガーディアン機関、ほぼ一日で情報が知れ渡っている。文面的にホラーを感じるけど、それよりも大きな感情が爆発しそうである。
 千枝ちゃんは姉・刹那の話しかしない。路線をずらすと既読無視してくる、とても器用な女だ。でも今日は自分から路線が外れた話題を出してきた。
 こっちも既読無視攻撃したいが、嫌われてしまっては元も子もない。普通にいる、と答えるとすぐに返事が返ってきた。

 やっぱりな、という文面。
 意外だと思ったのが、宇宙人がいることに怒りも感じられないこと。安堵している。それから、ラインは止まったが今はどういう心境なのはよくわからん。

 ガーディアンにも知れ渡っているということは、今日中にも接触してきそうだな。コスモちの帰りを待ちながら、昼飯をつくることに。その頃、コスモたちは久しぶりに街に顔を出したせいで、モテモテ。
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