うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

文字の大きさ
68 / 100
六章 侵略者と荒地 

第68話 一時

しおりを挟む
 作ったものをコスモの前に出すと、五分も経たずに完食した。まぁそんなのは想定内なわけで、冷蔵庫の中にしまっておいたプリンをデザートに出す。
 そばに控えていたペットたちが、自分たちも欲しいといいたげにこっちに向かってくる。ぶんぶん尻尾を振って、与えると信じて疑わない目をむける。そんな眼差し向けられたら、こっちは応えるしかないだろう。
「夕御飯ちゃんと食べたろ?」
 冷ましたウインナーを与えると、ぺろりと食べ終えた。コスモかよ。食欲旺盛なのがこんなにいる。コスモはその様子をじっと見ていた。

 この展開は「自分にもくれ!」て言いそうだぞ。だが、予想とは裏腹にコスモはそんなことを言わなかった。食べたペットの頭を撫でていた。コスモにも一応与えると、一秒で喉の奥に。

 久しぶりに地球の食べ物を食べたから、今夜はペットもコスモもぐっすり眠った。翌日になると、当たり前のように宇宙人が相原家に集った。宇宙人三匹が揃って部屋の中にいるのは、ほんとに懐かしい。揃っていたのは、いつぶりか。

 思い返すと、三日前だ。たったの三日なのに、懐かしく感じるなんて感性がおかしくなったかもしれない。
「はぁ~ついに地球侵略できなかったわね」
 スターが机の上にうつ伏せになって倒れた。
「そうね。地球に来たのは四月で今は九月。六ヶ月間何していたのかしら」
 ダスクも頬杖ついた。
 数で表してみると、コスモたちと過ごした期間は六ヶ月だったのか。一年ぐらいだと思っていた。春に来て夏を一緒に過ごして、一年も経たずに地球から離れる。
 目的だった地球侵略をまともにできていない。

「思い返してみると、ほんとに何やってたんだか……」
 スターがうつ伏せになりながら、悲しい表情になった。
「宇宙船から墜落して、民族に殺されかけ、サバンナで二週間も過ごして水も飲み物もない所から知識と体力を使ってサバイバルして、初めての獲物を獲った瞬間……あの感動は今でも覚えている」
「ダスクの思い出は、サバイバル生活なのね。ここで過ごした思い出はないの?」
「そんなのあるわ! 非常食としてとっておいたコオロギが猫によって食われた事! 食べ物の恨みは恐ろしいてことを知らない生物に天誅をしてやったわ」
 ダスクは怒りを顕にして、ぷるぷると震えている。スターははいはい、と軽くあしらった。
「今からでも、地球侵略」
 コスモがぽりとスナック菓子を頬張った。 
「今からは無理でしょ」
 スターとダスクが一緒に言った。

 三匹が揃って部屋にいる。俺は決まって聞いてないふりして、勉強をしている。実は聞こえている。無駄に大声で言っているから聞きたくなくても聞こえてしまう。

 机の上にあるテキストは、全然埋まっていない。いつも土壇場にするのが、くせになっている。スターとダスクがここにいるのは、思い思いに好きなことをやり遂げてきたのだろう。

 この二匹の趣味嗜好を六ヶ月間、嫌というほど知っている。だから、好きなことが分かってしまう。スターは好きな同人誌を読みあさってたり。あくまで妄想だけど。ダスクは金城家の大きな庭で、サバンナ生活をしていたり、あくまで妄想だけど。

「そうね。今から地球侵略するのは難しいけど、やれなかったことを成し遂げる時間じゃない?」
 ダスクがおもむろに立ち上がった。
 コスモがガリ、とスナック菓子を頬張る。
「やれなかったこと……そんなのいっぱいあるわよ!」
 スターが机をバン、と叩いた。机の上にあったオレンジジュースがトプッと溢れる。三匹分のコップから溢れ出て池になっていた。
 池になった水面に、コスモの顔面が映り込んでいた。
「先日予約したバイブとローションが買えなかったこと! 届くのは明後日……こんな残酷なことある!? ないわ! ネットで色々調べてどれにしようか迷って届くのを待ち望んだあの瞬間……そしてそれが手に届かないと知ったこの瞬間、胸が! 胸が苦しい!」 
 スターは胸を抑えて、ヘナヘナと地面にへたり込んだ。顔を地面にすり寄せて大泣き。

 コスモがぽんと肩を叩いた。
「心臓が悪いの?」
「コスモそれ違う。頭がおかしいの」
 ダスクがはぁと大きなため息をついた。
 スターのやりたかったことは重いな。それが発注されて受け取った委員長はどうするのやら。
 
 ダスクが次に矛先を向けてきたのはコスモ。
「コスモは? やれなかったことある?」
「ない」
 即答で言われて、ダスクは目を丸くした。切れ長の瞳が大きく見開く。そっか、と一言返事した。逆にコスモがダスクにやりたかったことを聞く。ダスクも即答でないと応えた。
「はぁん!? あんたら何いい子ちゃんぶってんだよ。欲がないなんて、おかしいだろ」
 地面にすり寄って大泣きしていたスターがゆらり立ち上がった。コスモとダスクを人差し指で刺すように指差す。

 鋭く指刺されたので、ダスクがそれを逸らす。
「別にいいじゃない。逆に言うとあんたは欲張りすぎ」
「はぁん!? はぁん!? わたしだって普通だし、普通だから!」
 スターは赤らさまに動揺している。

 それから三匹は最後の地球侵略をするために外に行った。最後の地球侵略とは、地域の挨拶周りだ。

 この頃、神社を掃除したり地域に貢献してくれる女の子がいなくなった、と近所でも噂している。それを聞いたら、コスモたちは「仕方ないから挨拶行ってあげる」と誰目線でつぶやいて、外に行った。

 コスモたちが部屋から出ると、やけに部屋が静まり返った。嵐が過ぎ去ったようだ。胸がきゅ、と縮まった。
「最後か……」
 ぽつりとつぶやいた。部屋の中には誰もいない。その気持ちをくみ取ってくれる人物はいない。最後なんて嫌だ。このまま、帰らないでくれが本音だ。でも、わがままは通じないだろうな。

 相原家を出ていったコスモたちは周辺を歩いていた。朝日の光が眩しい。焼き付くように痛い。漆黒の闇が解け、建物や植物に彩りの色がついていき、影がついていく。
 朝はやっぱり涼しい。
 風が氷のように冷たくなり、冷えるほどの。さあ、と穏やかに吹いた。
「おはようございます。あら、久しぶりね」
 近所にいるおばさんが、まず声をかけてきた。
「おはよう」
「はよ!」
「おはようございます」
 コスモは目を伏せて言って、スターは友達感覚で挨拶。ダスクはペコリとお辞儀した。おばさんはふふふ、と笑った。

 草むしりの一件のおばさんだ。近くにあの公園がある。先月むしった草原が所々生えてきている。
「ありがとね。あんたたちのおかげさ」
 おばさんが幸せに満ちた笑顔を向けた。コスモたちは褒められて、笑みを隠せない。自然と顔が赤くなる。

 むしった草を焼いていると、消防車が来て大変なことになったのを思い出した。ちょっとした騒動になったので、あのあと、一度もここを通っていない。

 おばさんはあれから、コスモたちを探し回っていたらしい。懐からアイス棒を取り出した。
「お礼を言いたかったの。これ、好きなの食べな」
 差し出されたのは、オレンジアイスに練乳アイスに抹茶アイス。コスモの死んだ目が、ぱぁと光の粒が発現。オレンジアイスを掻っ攫う。
「ありがとございます!」
 スターが練乳アイス棒を取って、ニコニコ笑った。残ったのは抹茶アイス棒。ダスクが受け取ると、おばさんは安堵した表情で帰っていった。

「これ、緑色だけど食べれるのかしら」
 アイス棒を凝視している。
「はむ……早く食べないと溶けるわよ」
 スターが練乳アイス棒を前後で舐めている。
「何言ってんの。気温は二十六℃。今さっき買ってきたばかりのアイスが溶けるには、10分必要。おばさんは多分、そこの近くでアイスを買ったからきっと、溶けるにはまだ時間に余裕があるはず」
「あーはいはい。論文で返さないで。耳が痛い」
 頭を抑えていると、鋭い視線にいち早く気づいた。さっとアイス棒を頭上に掲げる。直感どおり、コスモがスターのアイス棒を狙って来たのである。
「フッフッフ、甘いのぉ。このわたしが気づかないとでも?」
「これ、虫を潰したものなの? ミドリムシ? よく食べたわぁ」
「ダスクは黙ってしゃぶってて」
 コスモの目は、頭上に掲げたアイス棒のみ。コスモはジリジリ近づいてきた。そのたびに後退する。
 黙ってしゃぶってて、と言われたダスクはアイス棒をようやく口にした。途端、切れ長の目を大きく見開かせた。

 顎を使って、前後に舐める。その間、コスモとスターの戦闘は続いている。それは溶けるまで。頭上に掲げたアイスが溶けていき、ポタと鼻先に落ちた。白いものが顔面に。
「あー! コスモのせいで溶けたじゃない!」
「スターがくれなかったから」
「これは元々わたしのよ。なんで、あたしのせいにすんの」
 ムッと睨みつけ、アイス棒を瞬速で口の中に頬張る。が、その寸前にコスモに腕を捕まり、叶わずそれを頬張ったのはコスモ。
「圧勝」
 頬張ったものを瞬時に喉の奥に押し込んでにへら、と笑った。スターは怒りでわなわな震えて、仁王立ち。
「これ」
 ぽんと背中を叩いたのはダスク。食べかけのアイス棒をスターに向ける。

 コスモが暴食で、取っ組み合いになると負けること、これも決まっていること。スターは泣く泣く諦めた。   
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...