うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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六章 侵略者と荒地 

第66話 早く

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 宇宙船を降りて出迎えてくれたのは、ギャラクシー。ピシと執事服をまとい、いつもと変わらない余裕な感じだが、表情は焦燥しきっていた。
「おかえりなさい」
「ただいま?」
「ただいまー!」
「ただいま」
「こら! ちゃんと言いなさい!」
 ギャラクシーは表情を鬼のように変え、オカンの如く叱った。ここは家じゃないと反論するコスモ。元気よく挨拶したのにと怒るスター。ちゃんと言ったと不服を訴えるダスク。

 ギャラクシーはコホンと咳払いした。
「まったく。べスリジア星と戦ったのに、元気ですね。あなたたちは」
 眼鏡を指で押し上げた。ほんとは、こんなことをしている場合じゃない。王なしの惑星が他国から侵攻、虐殺、侵略してくるかもしれない。

「まだサターン様が逝去したこと、我々しか知りません。国民に知らせる前に、準備があります。手伝っていただけますか?」
 ギャラクシーは微笑した。コスモたちは一言返事して承諾。宮殿の中は静まり返っていた。お世話する執事もメイドもいない。ギャラクシーは全員手払って貰っていると。
 どうりで静かなわけだ。
 静かすぎて、耳がおかしくなりそう。夜のような物静かだ。

 宮殿内にいるのは、ギャラクシーとコスモたちだけ。加えるなら……。サターン様の弟君。
「いる気配がない」
「ちゃんと生きておられます」
 ギャラクシーが少し睨んだ。床に伏せているがしっかり生きている。新たな王を決めるとき、候補に上がるのが最低。だが、先代のころから国民に顔を出していないやつが突然、新たな王になることは非常に無理がある。王位継承権に最も上がるが、国民からの支持率は最も低い。 
「後々、王位争奪戦が始まります。荒れますよ。これから」
 ギャラクシーが静かに、でもつり上がった口調。ギャラクシーの後ろについて歩いていた三匹は、暗い表情をおとす。

 向かったさきは、応接間。広くて椅子がたくさん並んでいる。そのうちの三つの席にコスモたちは座った。ギャラクシーはべスリジアの復興について話しだした。
「ダスクから事前に聞いています。禁忌を犯していたとか、まったく……困った星ですね。ですが、あちらも王なしの星。他国から侵略されるかもしれません。べスリジアと新たに和解しましょう」
 スターがムッとした表情になった。
「反対。あんな星と和解しても意味ないし、利益ない」
「そう言っても、べスリジアと和解するのは王でしょ。サターン様がいないのに……」 
 ダスクが言葉を詰まらせた。和解するために握者する王がいない。それなのに、どうやって和解しようと。
「ねぇ、責務て何?」
 コスモがいつになく真面目な表情で問いただす。ギャラクシーが指で眼鏡を押し上げた。
「そうですね。まず、そこからですよね。では、あなたたちにやっていただくことは――掃除です」
「掃除っ!?」
 コスモたちは口をあんぐり。ギャラクシーは話を続けた。
「そうです。この応接間をみてごらんなさい! 埃があるでしょう」
 光沢のある机に指先を掠めると、若干、黒いものが白い手袋に付着している。ギャラクシーは手袋を取り、それを顔の前にあげた。
「直ちに掃除です!」
「はぁ!? なんでそんなことやらなきゃいけないのよ!」
 机をバンと叩いたのはスター。
 ダスクもコスモもギャラクシーに詰め寄る。ギャラクシーははぁと呆れた表情でため息を吐いた。埃がついた手袋をぽいとゴミ箱に捨てる。
「いいですか? これも立派な責務なのです。ここは今から王位争奪戦の会場になります。王位に近しい者たちがここに集うのですよ! こんは見苦しい場所を見せられますか! 今から宮殿内をくまなく掃除です!」
 ギャラクシーの表情は本気だった。
 だったら手払っているメイドたちを連れ戻したらいいじゃん、とダスクが言うが、ギャラクシーは即否定した。

 手払っている理由は、サターン様が逝去したことを他の外部に知られないようにするため。メイドたちは宮殿内で働いていても、ギャラクシーは不安しかなかった。そこで全員手払い、掃除するのに困っているという。

「それをすれば、帰れる?」
 コスモがじっとギャラクシーを見つめた。不安を帯びた助けを求めるような目。ギャラクシーはコスモの目を見て、無感情。
「……そうですね。戦争の最中で別れて、ずっとさよならは、わたくしもさせたくありません。一樹殿も不安になっているかもしれません。一時間地球に降りることを許可します」
「えー何で一時間? 短すぎ。ギャラクシーのケチ」
「そうよそうよ。たったの一時間って、たったの一日じゃない」
「一日あれば結構です!」
 地球に降りる許可をいただき、コスモはぱぁと笑った。地球に一時間でも降りられるなら、それだけで満足だ。

 コスモたちは早速掃除に取り掛かった。あの広い応接間をコスモ。廊下をスター。ダスクが玄関口。三匹バラバラに散れば掃除も捗ると、ギャラクシーが提案した。

 コスモは力を使って隙間から埃をあぶり出して、掃除機で吸引する。スターはモップをかけて全速力で宮殿内の廊下を走る。
 光沢のある廊下がさらに磨きあげ、キラキラ輝いている。まるで鏡のよう。
 玄関口では、ほうきでさっさと砂をはわいている。然程汚くもないし、ここはすぐに終われそうと思っていた矢先
「きゃあああああ! 退いて退いて退いてぇ!」
 モップをかけて走っていたスターが、磨きあげた廊下で滑ってきた。スターの背後にはキラキラと輝いている廊下が皮肉にみえる。
「うぇえ!?」
「退いて! あ、やっぱ受け止めて!」
 ダスクはどうやって受け止めるのか、おどおどした。とりあえずほうきを捨て、時速六十で近づいてくるスターをどうにか止めようと、腕を広げる。
 ダスクが受け止める前にスターがピタリと止まった。まるで、時間が止まったかのように。
「あ、あれ?」
 意識があるのに、時間が止まったかのように体が動かない。止めたのは、ダスクでもなくコスモ。
「掃除、早くして」
 ギロリと睨まれた。
「は、はい」
 威圧感を感じ、スターとダスクは返事する。
 スターの拘束が解かれると、時間がやっと動いたかのように体がふわりと動いて、そのまま足は玄関先に。

 大きな門に頭をぶつける始末。
 ちなみに腕を広げてたダスクの真横である。恥ずかしくなったダスクは腕を戻した。その腕をスターに向ける。
 門は鉄で出来ており、人間であれば頭蓋骨が折る損傷。宇宙人にはそんな損傷なく、スターは痛みを抑えて、屈んでいた。
 
「なんか、いつになく真剣ね」
 ダスクが捨てたほうきを拾い上げて、去っていった方向を凝視する。屈んでいたスターも立ち上がった。
「そりゃ地球人に会いたいからに決まっているでしょ。わたしだって会いたいわよ。自分だけ焦ったって何にもならないつーの」
 後半ブツブツ言って、今でも痛む頭を抑えて仕事場に戻った。モップをキチンと直し、ズルズルと引っ張る。

 スターが去ったあとの玄関先を凝視した。頭の形がくっきり残っており変形している。その破片も散らばっている。すぐに終われると思ったのに、とダスクは深いため息をはいた。

 それぞれの持ち場をやり遂げ、宮殿内はピカピカ。鏡のように輝いている廊下に、埃一つもない階段。白い壁がより白く神々しい。あと残るのはサターン様の弟様がいる部屋のみ。
「ここもやるの?」
 コスモがジト目にギャラクシーを睨んだ。ギャラクシーは動じない。
「当然です。仮にも王位継承権に一番名前が上がる方。その方のお部屋も掃除するのが基本……かと言うのが建前でして、このお部屋一ヶ月前から立ち入り禁止で誰も掃除してないんですよ」
 ギャラクシーが懐から、ハンカチを取り出して口と鼻を覆うように、頭の裏に巻いた。
「ちょっと何でそんな部屋、わたしたちが掃除しなきゃならないのよ!」
 スターがカッとなって部屋の前で怒鳴った。ダスクが唇に人差し指を翳すが、それでも吐き出した文句は止まらない。ギャラクシーは飄々とした感じで受け止める。
「分かっておりませんか。これも、立派な責務ですよ」
 ため息をついた。
 ダスクは首を傾げる。
「責務て何? 掃除をすれば終わりじゃないの?」
 鋭い口調で追求。
「ええ。終わりですよ。第一段階は」
 第一段階と聞いて、スターは目を丸くする。
「第一段階て何?」
「一回目てこと。次があることよ」
 コスモが聞いてスターが答える。第一段階というのは、まだ何かあること。その次の責務が『エンド様を外に連れ出すこと』。
「エンドて誰」
「しっ! 声が大きい!」
 コスモの口をバッと封じた。コスモは「自分もだったじゃん」とスターを睨みつけるが、スターは気にしてない様子。
「サターン様の弟君」
 とボソと耳打ちした。
 目の前の部屋の奥にいる人物の名前だ。相変わらず、こっちが喧騒な声をあげても、奥の方からは物音しない。生きているのかを疑うほどの物静か。
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