うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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五章 侵略者と戦争 

第57話 敵

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 自分の身は自分で守るべし、がモットーだった。なのに、この状況は危うい。喋れないし、助けは呼べない。毒でも吸ったかのように体が動かない。

「コワガラナイデ、コワガラナイデ」

 シュレックみたいなやつが喋った。あざ笑うような声。嫌に耳に残る不気味さだ。怖がらないで、と言われてもうすでに怖いわ。
 こいつは一体何者だ。どうしてこんなことをする。狙いは何なのか、頭の中で悶々と考える。

 こいつは恐らく人間じゃないのが、俺には分かった。頭の上の二本の角を見て、確信している。その角と似ているものを普段から見慣れているからだ。コスモたちと同じ。こいつらは宇宙人だ。

 コスモたちの惑星には、同じくらいの触覚がある。二本の角、ましてや全身緑色の宇宙人は見たことない。コスモたちと違う惑星の種か。
 宇宙人が懐から何かを取り出した。ワイヤレスイヤホンを耳にかけ、二言三言話している。宇宙語だから何を言っているのか分からなかい。

 相槌をうち、俺をじっと見つめている。捕えた獲物を観察している眼差し。すきをみて逃げ出そう。指先が一本動けることを確認した。人差し指だけ。それでも、全く動かないとなると絶望的。

 長話が終わったらしい。ワイヤレスイヤホンを懐にしまって、キョロキョロしだした。周囲には誰もいない。公園の近くは野原で、近いといえば潰れた煙草屋。
 住宅街から離れている。ここらへんは、夜になると照明がないから滅多に人が通らない。表通りを歩く。

 宇宙人は動けない俺を肩に担いで、どこかに向かっていく。どこに向かうきだ。左の親指以外動けた。でもこれだけじゃ満足な抵抗ができない。

 絶対絶命。そんな言葉が頭の中に浮かんだ。すると、宇宙人の体ががくん、と傾いた。
 うわ、落ちる。
 全身麻酔薬打たれたような体じゃ、受け身なんて不可能。宇宙人が倒れるのと一緒で、俺も地面に吸い込まれていくように倒れる。目をつぶって待てど、衝撃がこない。

 恐る恐る目を開いた。倒れているのは宇宙人だけで、俺は地面に座っていた。そばにいたのは、スター。
 明るい金髪を目にすると、それだけで心の底から安心する。スターだけじゃない。コスモとダスクが近くにいた。
「即効性の麻痺毒を吸い込んだわね。これ飲んで。症状を軽く抑えられる」
 ダスクが歩みよってきて、変色した液体をいれた瓶を口の中に咥えられた。つぅ、と冷たい液体が口の中に入ってくる。

 変な臭い。酷いアンモニア臭だ。鼻が噎せ返る。顔を逸したいが、ダスクに強く抑えられ、吐き出すことは不可。ゴクンゴクンと喉に押し込んだ。口の中がカラカラだったから、冷たい液体が異様に気持ちよく感じる。

 口の中はアンモニア臭でいっぱいだ。鼻の奥がつん、とする。変な液体を飲まされてすぐだった。体の重みが解け、動けるようになったのは。
「お前ら……どうし、てここ、が」
 ずっと喋ってなかったせいで、うまく喋れない。ダスクは飲み干した瓶を懐にしまう。スターが自慢気に、勝ち誇ったように笑った。
「そんなの、わたしが探したからに決まっているでしょ!」
「そう、か」
 ゴホゴホ咳き込んだ。

 倒れた宇宙人の足をみると、サイコロのようにバラバラに砕けていた。血は出ていない。肉の隙間から小さな白いものが覗く。宇宙人が再び立ち上がろうとするや、もう片方の足をサイコロにし、それを細切れにさせた。
「お袋がすごい心配している。だから、邪魔」
 コスモの目がいつになく本気だ。
 気だるけで、何も考えていないあいつの目が切れ長になり、目の奥が光っている。 

 サイコロにされみじん切りにされても宇宙人は生きている。コスモの攻撃を受けてもなお、立ち上がろうとしている。
 みじん切りにされても、時間を巻き戻したみたいにパーツが体に戻っていく。二本の足で立ち上がるや、突進してきた。
 雄叫びをあげている。
 コスモは何処かの農具から持ってきた斧を宙に浮かせてそれを飛ばした。斧が腹に突き刺さり、下半身を切断した。

 ズルリと下半身と上半身が別れて、上半身が倒れた。下半身は別れても数歩歩んでく。俺たちの足元まで歩んできてやっと倒れた。膝をついて、バタリと倒れる。
 切断面が目の前に。緑の肉が包まれて臓物がぎっしりと詰まっている。俺は思わず口を抑えた。

 切断した斧がコスモの横でふわふわ浮いている。
「待ってコスモ。こいつらがどんな惑星から来たのか聞き出さないと」
 ダスクが一歩前に乗り出した。下半身を避けて、先に倒れた上半身のほうに近づく。これで息しているとすれば、化物だ。

「生きているのか、それ……」
 口を抑えながら、どうにか聞いた。
「人間は胸の心臓を踏み潰せば死ぬけど、宇宙人には心臓がない。でも体のどかこに核を持っていて、その核を破壊すれば死ぬ。こいつはまだ生きている。生命体の反応がある」
 ダスクが淡々と言った。
 宇宙人のそばに座り、おでこに手を添えた。あの時と同じ。頭の中の記憶を勝手に読み取っている動作。

 ダスクが集中している間、コスモが駆け寄ってきた。斧を投げ捨てて。
「大丈夫? 夕飯になっても帰ってこないからお袋が心配してた」
「そうか。迎えに来てくれたんだな」
 コスモの頭をポンポン撫でると、コスモはくすりと笑った。その動作を見ていたスターが目を見開いていたことに、気が付かない。

 ダスクがくるりと振り向いた。いつになく真面目な表情で。
「驚かないでね。二人とも」
 念を押すかのようにコスモとスターの顔を交互に見張った。コスモたちは分かった、と同じように頷く。
 ダスクは気まずい表情で俯き、口をゆっくり開いた。
「べスリジア星から来た。べスリジア星人」
 コスモとスターは、固まった。
「なんだ? 何処の惑星だって?」
 俺は聞き耳をたてた。三匹は神妙な顔して黙り込んでいる。変な空気だ。口を開けばおバカなことしか言わないのに、口を固く閉じている。その惑星の名を口にした途端、今までみたことない暗い表情している。

「べスリジア? どんな所だ?」
 聞くと、恐る恐る口を開いたのはダスク。
「この名前は、聞きたくなかった。べスリジアはあたしたちと同じ、地球を侵略しようとしている惑星。こいつらがこうして地球に降りたということは……それよりも、地球を侵略できなかったあたしたちが悪い」
「ちょっとちょっと! まだ侵略してない可能性もあるでしょ」  
 スターが間に入ってきた。

 べスリジアはコスモたちと同じ地球を侵略しようとしている惑星であり、既にその手の内が地球に降りていることは〈探索〉、スターの力で分かった。
「五~六体いる」
「一体じゃない。もうすでに、この異変が起きている」
 ダスクが鋭い目つきになった。
 異変、それは、人間が宇宙人に拉致される事件が既に起きているという。

 コスモたちが異様にその惑星を恐れている。その理由は、べスリジアは地球を侵略するだけじゃない。コスモたちの惑星まで侵略しようと武力を働いたり、他の惑星を消したりしている。
 他の惑星から郡を抜いて武力を働く惑星だ。命をなんとも思わない連中で、コスモたちが地球を侵略しにきたのは、そのべスリジアよりも早く地球を手にし、武力を抑えられるように。

 サターン様は地球で酷い目に合ってきた。でも同じように幸せな時があった。その分、地球を守るため、地球を自分の手のひらに収め、他の惑星から守るためコスモたちを地球に降ろした。

 下半身がピクリと動いた。核を破壊しなければ、ゾンビのように生き返る。下半身が上半身にくっついていく。糸で縫うように切断された肉が縫っていく。

 ギチギチ、と無理やり血管をつなげ合わせる音が静寂な空間で響く。やがて、切断された部分が元通りになり、ピクリと指先が動いた。

 ゆっくりと上体を起こす。コスモたちのほうに顔を向けると、黒い瞳が赤い瞳になった。
「マダシンリャクシテイナイオロカナ子ヨ、オモイシレ、ワガべスリジアノキョウフヲ――」
 意識がはっきりしているのに、声が二重に聞こえる。そいつは、キヒヒ、と薄気味悪い笑い声をあげるや体が爆発した。

 骨の残骸も残らなず、散った肉は灰となる。宇宙人が横たわっていた場所に残っているのは、黒い影だった。
 最後に笑ったあの声が、頭の中にまとわりつく。頭から離れられない。
「自ら……」
 スターが口を覆った。
 べスリジアの恐怖は、その惑星の人々の殆どが星に従順であり、小さな子から捕まったら自害をしろ、と教えている。

 冷たい空気が流れた。背中から吹いてくる風が妙に冷たくて、ひんやりする。震える体を抑え灰となったそれを最後まで見送った。

 俺たちは無事、帰路についた。もう拉致されないよう、コスモがずっと手を握る。もう離さないように、ぎゅと。
 コスモの体温は妙に温かかった。それに少し、ほっとする。
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