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三章 侵略者とガーディアン
第34話 旧ガーディアン
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一日明けてダスクは烏を使って全国各地の情報を集めた。昔の情報までも。そして、こんなことまで発覚する。
アポロが昔言っていたことだ。
ガーディアンの長、つまり、機関の最も上の人間がガーディアンの子供となるべく人間を選び、機関に招き入れて組織の人間にさせる。そのとき、親は子を売るらしい。ほんとの名前も捨て。『アポロ』『ルナ』『レイ』という仮初の名前は、長がつけたもの。
アポロは今、普通の女子高生として隣の県の老夫婦と共に過ごしている。アポロの本名、北山 刹那としての名前で。その老夫婦は奇しくも売った親の親戚である。刹那はそこで『両親を亡くし叔父と暮らしている』設定だ。
ガーディアンとしての記憶もない。周りは知らない。そこで、明るく元気にやっているそうだ。
ルナは大きな病院で寝たきりになっている。複数のコードに繋がれて、一日中看護師に世話されている。ルナの本名、由利島 詩歌。彼女は元々事故で親を失くしガーディアン機関に入ったため、身寄りがいない。
コスモたちと一緒に病院に行ってみたが、生きている気配はしなかった。呼びかけにも応えない。
レイは記憶有りで過ごしている。二人が病んだほどの凄惨なものをはっきりと覚えて。レイは隣の隣の隣の街で過ごしている。
来たことがない場所なので不安だったが、駅の前で知っている背中を見つけた。俺たちを出迎えてくれたのはレイ。
「久しぶり元気にしてた?」
歳のわりにやんわり落ち着いた声。
三つ編みは変わらないが、なんか雰囲気が変わった気がした。茶色のブレザーに膝丈まで隠す長いスカートを履いているからなのか。いや違う。レイはいつも猫背で寝ていて、寝癖やら鼻ちょうちんがいつもだった。
なのに、今日会ったレイはあの頃と違う。
「なんか、大人びてる」
スターが仰天して言った。レイは苦笑する。
「いつも寝てたからね。あれ、薬の副作用だよ。筋肉の保持とか肺の薬とかいっぱい飲んでたの。今はすっかりやめたから、こうなった」
俺たちはまだ開店したばかりの店の奥にいた。まだ人はいない。時間になれば、人が多く寄るだろう。
向かい側に座っているレイは、寝癖もなければ、鼻ちょうちんも作らない。これが本来のレイ。いいや、今は立野 絵梨佳。
「それよりコスモはどうしたの?」
コスモの潰れた目を見て、絵梨佳は心配そうに覗く。
「これは昨日、新しくなったガーディアン機関の子が襲ったの」
ダスクがお茶を啜りながら、刺のある口調で言った。ガーディアンと聞いて、絵梨佳は大袈裟なほどに体を震わせた。
「おいもう絵梨佳にガーディアンの話は関係ないだろ。八つ当たりはよせ」
「あらそう聞こえた? ごめんなさい」
ダスクは軽くさらりと謝った。謝った気がしない。
「新しい子……ソレイユちゃんたちか」
絵梨佳は知ってるような口振り。レモンティーを口に運び机に置いた。目を細めてカップの中の波紋を見下ろす。寂しげに映る自分の姿が映し出されていた。
「ソレイユちゃんは強いよ。なんせ口寄せの術を使えるからね」
「あれ口寄せだったの?」
スターが前乗りになって絵梨佳に問い詰める。絵梨佳はうーんと少し考えた様子をみせてからまた、口を開いた。
「口寄せというか、相手の心をコントロールするの」
「は? どうやって」
ダスクが眉間にシワを寄せた。絵梨佳は視線をあげた。真面目な表情。
「相手の心を見て、その心の中に願ったものを口にする。ソレイユちゃんは人の心を読めるの。心を支配することも可能なんだ」
ダスクは口をパクパクする。人の心が読める人間なんていない、と主張。宇宙人の防壁を破いたのは、スターの心の中に入ってきて『割れろ』と語りかけてきた。
宇宙人たちは「ありえない」の一点張り。新しい体制になった機関。ソレイユを中心としたガーディアンになった。刃物女は、コメットという優秀な女子生徒。
身体能力はもちろん、頭脳明晰。ルナよりも勝っている。勝っているのは、頭だけじゃない。服がはちきれそうなおっぱい。
あんなおっぱいしてるけど、まだ中学生である。
「あの女、年齢詐欺してんじゃね?」
スターが手をわきわきと、いやらしいポーズをした。まだ女子中学生でありながら、ガーディアンの長たちに認められた集団。
「手強いのはもっといる。男の子いたでしょ。ウォーターていう、僅か八歳で長に認められた子。今は十六歳で三大柱に近い存在になっている。あ、三大柱は機関を支える人たちのこと」
絵梨佳はペラペラと話した。
眼鏡をかけた男子は、ウォーターと呼ばれた男子はいた。そんな雰囲気は見せなかったが、現ガーディアンの中で一番敵に回したくないやつだと、絵梨佳が顔を強張って言った。
ガーディアンの情報はそれだけじゃない。烏が掴んだ情報は、ソレイユと刹那の関係性だ。ソレイユの本名はなんと、北山 千枝。北山刹那の双子の妹だ。妹がいる話を聞いたことがある。
『妹もね、あたしと同じ〝太陽〟なんだ!』
アポロがかつて言った言葉の意味がこれだったのか。ソレイユはフランス語で〝太陽〟。アポロは明るくて誰とでも仲良くなるまさに人の器のデカさが〝太陽〟みたいな存在だった。
「全然似てない」
スターが眉間にシワを寄せた。
スターたちからの話では、白髪で切れ長の目で無愛想な女。雰囲気もアポロとは似てもいない。でも烏の情報はいつだって正しい。烏がそう言うなら、この情報が正しい。
絵梨佳は久しぶりにコスモたちに会えて喜んだ。
「ふふふ、三人とも変わらない。なんだかホッとした」
心からの笑みを見せる。いつの間にか、レモンティーを二杯も飲んでいた。人も疎らに通ってきた。店内が静かだったがやがて、ざわざわするようになる。
コスモたちが絵梨佳と再会したかったのは、新ガーディアンの話をするためじゃない。絵梨佳の顔を見たかったからだ。それと、刹那たちとどうなっているか。
「絵梨佳は……刹那たちとは」
「会えるわけないじゃん」
絵梨佳ははっきりと言った。
ニコニコ笑っていた表情が鋭い表情になる。絵梨佳はガーディアンを辞めてから、普通の女の子として過ごしている。
そして、かつての友とも会っていない。顔を見たら、あのときを思い出してしまうから。
「勿論会いたいよ。でも、二人ともわたしのこと覚えてないだろうな。何より、思い出してほしくない。あの頃が恋しい……。でも〝あの頃〟は〝過去〟だから、過去には戻れない。今を、精一杯生きるしかない。あの二人が他の場所で生きている。それだけで、充分だ」
絵梨佳は目に涙をためて、切ない表情で笑った。絵梨佳の涙を見て、スターとダスクは溜め込んでいた涙を流した。
絵梨佳の話を聞いて、本当に会えないと、実感した。いつでも仲良しな三人がバラバラに散り、それぞれはそれぞれの道をゆく。
もう二度と集まることはない。
新ガーディアンたちの情報も掴み、絵梨佳の顔を見て、俺たちは再び駅で別れた。
「あ、今度遊びにこいよ。俺たちはいつでも歓迎してるから」
別れ際そう言うと、絵梨佳はふっと笑った。心からの幸せの笑顔。電車に乗って、鏡越しで手を降った。電車が動き始めるまで手を降った。
絵梨佳が遊びに行けないときは、俺たちが。俺たちなら、ずっと相原家にいるからいつでも歓迎できる。
コスモは、ずっと袖を掴んでいた。電車の窓をずっと眺めている。抑制した表情。コスモが今何を考えているのが、掴んできている手のひらでひしひしと伝わってきた。
「アポロの所に行きたいのか?」
「うん」
「そうだな。でも、暫く無理そうだな」
俺は敢えて『記憶を開けるからだめだ』とは言わなかった。コスモの気持ちを知っているから。敢えてだめだと言わなかったのを、コスモは感づいた。
「いつか行ける?」
「あぁ、遠くからな」
電車がガタンゴトンと揺れ、どんどん遠くに消え去っていく景色。街並みから、畑や田んぼに変わっていく。眩しい陽射しが窓から差し込んできた。
カッと照らす太陽が街並みに色を与えてく。やがて、影をつくり色濃く。地元に帰ると、そのまま別れた。
ダスクは烏を使って情報をさらに集めることに。絵梨佳から聞いた現ガーディアンは、新しい規則としてさらに強くなっている。
今後の侵略が憚れそう。
ガーディアンが新しくなったから、暫くは外に出歩かないように。ガーディアンはこの地域に宇宙人がいるから見張っている。
コスモの目が治ってない今、戦いは避けたほうがいいと判断。コスモの目は、今日の風呂上がりになって治った。初めて外の世界を見たような眼差しで、キョロキョロする。
終始、絵梨佳の顔を見たかったと。写真に撮っとけば良かった。
アポロが昔言っていたことだ。
ガーディアンの長、つまり、機関の最も上の人間がガーディアンの子供となるべく人間を選び、機関に招き入れて組織の人間にさせる。そのとき、親は子を売るらしい。ほんとの名前も捨て。『アポロ』『ルナ』『レイ』という仮初の名前は、長がつけたもの。
アポロは今、普通の女子高生として隣の県の老夫婦と共に過ごしている。アポロの本名、北山 刹那としての名前で。その老夫婦は奇しくも売った親の親戚である。刹那はそこで『両親を亡くし叔父と暮らしている』設定だ。
ガーディアンとしての記憶もない。周りは知らない。そこで、明るく元気にやっているそうだ。
ルナは大きな病院で寝たきりになっている。複数のコードに繋がれて、一日中看護師に世話されている。ルナの本名、由利島 詩歌。彼女は元々事故で親を失くしガーディアン機関に入ったため、身寄りがいない。
コスモたちと一緒に病院に行ってみたが、生きている気配はしなかった。呼びかけにも応えない。
レイは記憶有りで過ごしている。二人が病んだほどの凄惨なものをはっきりと覚えて。レイは隣の隣の隣の街で過ごしている。
来たことがない場所なので不安だったが、駅の前で知っている背中を見つけた。俺たちを出迎えてくれたのはレイ。
「久しぶり元気にしてた?」
歳のわりにやんわり落ち着いた声。
三つ編みは変わらないが、なんか雰囲気が変わった気がした。茶色のブレザーに膝丈まで隠す長いスカートを履いているからなのか。いや違う。レイはいつも猫背で寝ていて、寝癖やら鼻ちょうちんがいつもだった。
なのに、今日会ったレイはあの頃と違う。
「なんか、大人びてる」
スターが仰天して言った。レイは苦笑する。
「いつも寝てたからね。あれ、薬の副作用だよ。筋肉の保持とか肺の薬とかいっぱい飲んでたの。今はすっかりやめたから、こうなった」
俺たちはまだ開店したばかりの店の奥にいた。まだ人はいない。時間になれば、人が多く寄るだろう。
向かい側に座っているレイは、寝癖もなければ、鼻ちょうちんも作らない。これが本来のレイ。いいや、今は立野 絵梨佳。
「それよりコスモはどうしたの?」
コスモの潰れた目を見て、絵梨佳は心配そうに覗く。
「これは昨日、新しくなったガーディアン機関の子が襲ったの」
ダスクがお茶を啜りながら、刺のある口調で言った。ガーディアンと聞いて、絵梨佳は大袈裟なほどに体を震わせた。
「おいもう絵梨佳にガーディアンの話は関係ないだろ。八つ当たりはよせ」
「あらそう聞こえた? ごめんなさい」
ダスクは軽くさらりと謝った。謝った気がしない。
「新しい子……ソレイユちゃんたちか」
絵梨佳は知ってるような口振り。レモンティーを口に運び机に置いた。目を細めてカップの中の波紋を見下ろす。寂しげに映る自分の姿が映し出されていた。
「ソレイユちゃんは強いよ。なんせ口寄せの術を使えるからね」
「あれ口寄せだったの?」
スターが前乗りになって絵梨佳に問い詰める。絵梨佳はうーんと少し考えた様子をみせてからまた、口を開いた。
「口寄せというか、相手の心をコントロールするの」
「は? どうやって」
ダスクが眉間にシワを寄せた。絵梨佳は視線をあげた。真面目な表情。
「相手の心を見て、その心の中に願ったものを口にする。ソレイユちゃんは人の心を読めるの。心を支配することも可能なんだ」
ダスクは口をパクパクする。人の心が読める人間なんていない、と主張。宇宙人の防壁を破いたのは、スターの心の中に入ってきて『割れろ』と語りかけてきた。
宇宙人たちは「ありえない」の一点張り。新しい体制になった機関。ソレイユを中心としたガーディアンになった。刃物女は、コメットという優秀な女子生徒。
身体能力はもちろん、頭脳明晰。ルナよりも勝っている。勝っているのは、頭だけじゃない。服がはちきれそうなおっぱい。
あんなおっぱいしてるけど、まだ中学生である。
「あの女、年齢詐欺してんじゃね?」
スターが手をわきわきと、いやらしいポーズをした。まだ女子中学生でありながら、ガーディアンの長たちに認められた集団。
「手強いのはもっといる。男の子いたでしょ。ウォーターていう、僅か八歳で長に認められた子。今は十六歳で三大柱に近い存在になっている。あ、三大柱は機関を支える人たちのこと」
絵梨佳はペラペラと話した。
眼鏡をかけた男子は、ウォーターと呼ばれた男子はいた。そんな雰囲気は見せなかったが、現ガーディアンの中で一番敵に回したくないやつだと、絵梨佳が顔を強張って言った。
ガーディアンの情報はそれだけじゃない。烏が掴んだ情報は、ソレイユと刹那の関係性だ。ソレイユの本名はなんと、北山 千枝。北山刹那の双子の妹だ。妹がいる話を聞いたことがある。
『妹もね、あたしと同じ〝太陽〟なんだ!』
アポロがかつて言った言葉の意味がこれだったのか。ソレイユはフランス語で〝太陽〟。アポロは明るくて誰とでも仲良くなるまさに人の器のデカさが〝太陽〟みたいな存在だった。
「全然似てない」
スターが眉間にシワを寄せた。
スターたちからの話では、白髪で切れ長の目で無愛想な女。雰囲気もアポロとは似てもいない。でも烏の情報はいつだって正しい。烏がそう言うなら、この情報が正しい。
絵梨佳は久しぶりにコスモたちに会えて喜んだ。
「ふふふ、三人とも変わらない。なんだかホッとした」
心からの笑みを見せる。いつの間にか、レモンティーを二杯も飲んでいた。人も疎らに通ってきた。店内が静かだったがやがて、ざわざわするようになる。
コスモたちが絵梨佳と再会したかったのは、新ガーディアンの話をするためじゃない。絵梨佳の顔を見たかったからだ。それと、刹那たちとどうなっているか。
「絵梨佳は……刹那たちとは」
「会えるわけないじゃん」
絵梨佳ははっきりと言った。
ニコニコ笑っていた表情が鋭い表情になる。絵梨佳はガーディアンを辞めてから、普通の女の子として過ごしている。
そして、かつての友とも会っていない。顔を見たら、あのときを思い出してしまうから。
「勿論会いたいよ。でも、二人ともわたしのこと覚えてないだろうな。何より、思い出してほしくない。あの頃が恋しい……。でも〝あの頃〟は〝過去〟だから、過去には戻れない。今を、精一杯生きるしかない。あの二人が他の場所で生きている。それだけで、充分だ」
絵梨佳は目に涙をためて、切ない表情で笑った。絵梨佳の涙を見て、スターとダスクは溜め込んでいた涙を流した。
絵梨佳の話を聞いて、本当に会えないと、実感した。いつでも仲良しな三人がバラバラに散り、それぞれはそれぞれの道をゆく。
もう二度と集まることはない。
新ガーディアンたちの情報も掴み、絵梨佳の顔を見て、俺たちは再び駅で別れた。
「あ、今度遊びにこいよ。俺たちはいつでも歓迎してるから」
別れ際そう言うと、絵梨佳はふっと笑った。心からの幸せの笑顔。電車に乗って、鏡越しで手を降った。電車が動き始めるまで手を降った。
絵梨佳が遊びに行けないときは、俺たちが。俺たちなら、ずっと相原家にいるからいつでも歓迎できる。
コスモは、ずっと袖を掴んでいた。電車の窓をずっと眺めている。抑制した表情。コスモが今何を考えているのが、掴んできている手のひらでひしひしと伝わってきた。
「アポロの所に行きたいのか?」
「うん」
「そうだな。でも、暫く無理そうだな」
俺は敢えて『記憶を開けるからだめだ』とは言わなかった。コスモの気持ちを知っているから。敢えてだめだと言わなかったのを、コスモは感づいた。
「いつか行ける?」
「あぁ、遠くからな」
電車がガタンゴトンと揺れ、どんどん遠くに消え去っていく景色。街並みから、畑や田んぼに変わっていく。眩しい陽射しが窓から差し込んできた。
カッと照らす太陽が街並みに色を与えてく。やがて、影をつくり色濃く。地元に帰ると、そのまま別れた。
ダスクは烏を使って情報をさらに集めることに。絵梨佳から聞いた現ガーディアンは、新しい規則としてさらに強くなっている。
今後の侵略が憚れそう。
ガーディアンが新しくなったから、暫くは外に出歩かないように。ガーディアンはこの地域に宇宙人がいるから見張っている。
コスモの目が治ってない今、戦いは避けたほうがいいと判断。コスモの目は、今日の風呂上がりになって治った。初めて外の世界を見たような眼差しで、キョロキョロする。
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