うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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三章 侵略者とガーディアン

第33話 新ガーディアン

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 突然背後から声をかけられた。
「その怒り、鎮めてやろう」
 凛とした威厳のある声。空気がひんやりした。穏やかな風がピタリとやむ。スターたちも動けなかった。宇宙人が見えるのは極一部の人間とガーディアン。
 ガーディアンの三人組ならいい。でも、ガーディアンの中でこの声と雰囲気を持った人はいない。それ即ち、他の人間が背後にいる。
 気配に気づかなかった。音もしない。まるで、生きていないような。
 スターとダスクは恐る恐る振り向いた。太陽が逆光にあるせいで、黒い影がこちらにまで伸びてきている。

 人数は三人。白髪の少女を真ん中に右には、たわわなおっぱいが特徴的な女と眼鏡をかけた堅苦しそうな男性。
 十五か十六くらいの人間。
 流れる空気が殺気じみている。うまく息ができないほど。ぐうすか寝ていたコスモも当てられ、不意に起きた。三人の眼光が、鋭く牙のように光り宇宙人に刃を向けている。

 コスモが背中をズルズルと降りて三人のほうに向かって行くのを、ダスクが止めた。
「何者?」
 こちらも負け時と殺気を放った。
 流れる汗がひどく冷たい。酷く冷たい空気。殺意に満ちた空気は異様で、息をするたび肺が蒸せる。
 白髪の女がゆらりと動いた。それを見過ごさない。コスモが低い姿勢となり、ダスクもタブレットからやりを取り出した。
 けれど、相手は動いていない。鋭い視線を向けたまま。こちらも動かない。どちらかが動けば待つのは『死』。それを考えられるほど、この人間たちは『やれる』人間だということを、この殺意でわかる。
「新ガーディアンだ。お前たち宇宙人は我らが抹殺する。旧ガーディアンたちのようには行かない」
「新、ガーディアン!?」
 ダスクがオウム返しに喋る。 

 止んだ風が吹いた。とてつもない強風だ。まるで煽るかのような。その風に便乗して動いたのはコスモ。
 白髪の女に飛びかかると、隣にいたおっぱい女に刃物で切り刻まれる。ガードする形で両腕を顔の前に持ってく。が、ひと振りしか斬っていないはずが、10本の指を切断され、目まで縦に斬られた。
 すぐに回復するからといって、目まで失われたら、コスモに勝ち目はない。すぐにダスクが回収した。
「コスモ大丈夫!?」
「見えない」
 指先は回復していってる。だが、目はまだ潰れている。コスモがやられたら、こちらは勝ち目がない。スターがすぐに十個の壁を作った。
「ぎゃあああもうこれ詰んだ! 詰んだよ!」 
「黙って!」
 ダスクの頬から汗が流れた。この状況で逃げられる方法を頭の中で模索する。スターが白髪の女と目が合うと唇が微かに動いた。ゆっくり何かを言っている。何を言っているのか、じっとそれを見ているとパリン、と鏡のように壁が破壊された。

 誰かに壊されていない。自動的に破壊されたのだ。スターはびっくりして自分の両腕を確かめる。壁を張った両腕は切断もされてないし、生えている。一体何がどうなったのか。
「なにしてんの!」
 ダスクに怒られた。
「いきなり割れたの!」
 むっとして言い返す。 
 ダスクはさらに焦った。ガーディアンの特殊能力なのか、宇宙の防壁を割った。考えられない。特別な訓練を受けていても、宇宙人の防壁を破壊するなど、人間ではない。
「さっき、新ガーディアンて言ったけど……アポロたちはどうしたの?」
 恐る恐る訊いてみた。
 すると、刃物を持った女がくすくす笑った。
「あんな人たち、もう忘れちゃったぁ」
 不気味なほど明るい声で妙に頭にまとわりつく。くすくす可笑しく笑っているせいで、口調だけで神経にさわる。
「忘れた? なんで」
 ダスクがさらに聞き返すと、人が通った。家族連れの人たち。手を繋いで歩いていってる。張り詰めた空気すっと穏やかになった。
 もうすぐで切れそうだった糸がもとに戻る。

「我らは旧ガーディアンのように甘くないと宣言するために来た。事を大きく出せば土岐様に知らされる。今日はここまでにしよう。我はソレイユ。我らは必ずお前たちを排除する」

 白髪の女、ソレイユは野獣のような目つきで宇宙人たちを睨みつけると、また強風が吹いた。目を放したすきに、そこには誰もいない。
「何だったの……」
 ヘタリと地面に腰を下ろすスター。
 張り詰めていた緊張が一気に解く。噎せ返るような殺気を当てられたのは初めてだ。本来ならああやって向けられる眼差しなのかもしれない。
 ダスクは汗を拭き取ると、コスモの様態に駆け寄った。指先は完治して、未だに潰れている目を気にしている。
「視神経ごと斬られてるわね。治るのに一日くらいかかるわ」
「見えない」
 コスモは指先を潰れた目に当てた。眼球が反応しない。ピクリとも動かない。コスモはダスクが背負って相原家に帰った。出迎えてくれたのは当然、あの男で。
「どうしたんだこの目。どこのどいつだ! うちのコスモの目を潰したのはっ!」
 目をカッと赤くさせている。
「新ガーディアンだと」
 ダスクがここに来る前に出来事を話した。ソレイユと名乗る女が仕切る新ガーディアン。旧ガーディアンだったアポロ、ルナ、レイは一体どこに。

 烏を使って〈情報〉を集めてみた。 
 すると、一つの情報が入ってきた。

 アポロ、ルナ、レイは今ガーディアン機関をやめ、普通の女子高生として過ごしていると。

「そういえば見かけないとおもったら……」
 スターが顎に手をおいて深刻な表情。それだけじゃない。烏の情報では、どうして彼女たちが機関をやめさせられたのかが分かった。
「侵略者と仲良くし、あまつさえ機関の話を漏らした」
 俺はドキリとした。アポロが機関の話をしたのは気紛れであって、俺を信じてのこと。俺はそのことを誰にも打ち明けていない。
「それで辞めたの……? もう会えないの?」
 コスモが前乗りになって問う。一樹に体をもたしていた。目が見えないせいで、角度が違う方向を向いているけれど、ちゃんとこちらに問いている。

 スターとダスクは何も言えなかった。そうだ、と言えばコスモも、自分たちの心も悲しくなるから。

 烏は何でも知っている。彼女たちがどうやって辞めたのかも。
「制裁?」
 スターが不機嫌になった。その言葉は宇宙人でも知ってる。割と痛感している。彼女たちは辞める前それを受けて辞めたと。

 アポロは酷い制裁を受けて精神が病み、記憶を失くして、普通の女子高生として過ごしている。
 ルナも同じく精神を病み、植物人間。
 レイは普通の女子高生として過ごしている。ガーディアンだった頃の記憶を保有したまま。それは勿論制裁を受けた記憶も。

 コスモたちの顔色がみるみるうちに暗くなっていく。アポロたちとはゲームをしたり、共同して敵を倒していったり、なんだかんだ仲良くやっていた。
 仲良くやっていたからこそ、胸が痛み苦しい。彼女たちが制裁を受けなきゃいけないのは、自分たちが仲良くしていたからだ。
 
 俺も嘘だと思いたい。
 明るくて元気だったアポロたちが、俺たちの知らないところで壊されていたなんて。
「もう会えないの?」
 コスモが不安になって訊いた。
 ダスクが悲しい表情になる。
「きっと、あたしたちに会ったら思い出したくもない記憶を思い出してしまう。あたしたちは記憶の蓋を開ける鍵なの。絶対開けてはならない。開けたら、きっと、壊れるわ」
 コスモが俯いた。
 スターも神妙な顔で黙り込む。
 ダスクも切ない表情で目を閉じた。

 もうすぐ夜になり、ダスクとスターたちは帰っていった。目が見えないコスモは自力で立ち上がり二階にあがろうとする。
 腕を伸ばして手すりを探した。手を伸ばしたり、掴んだり、やっと手すりを掴むと今度は足を動かした。でも、段差に気づかないで躓いて転びそうに。
 俺はそれを支えた。食べているのに相変わらず重さがない。
「俺がいるんだから言えよ」
「だって自力で登れ、て言いそうだから」
「言わねぇよ、鬼畜か。自分が無理だったら俺を頼れ。俺がついてる」
 コスモを担いで二階をあがった。二階は姉貴と俺の部屋とコスモの寝床部屋がある。自分の寝床部屋に帰るつもりだろう。
 俺の部屋の前を通るとコスモは、グンと服を引っ張った。どうやら行き先はここらしい。部屋を開けると、コスモは鼻を頼りにお菓子が置いてあるところに駆け寄った。
 食欲はあるんだな。
 コスモはお菓子のほうに駆け寄ると、微動だにしなかった。どうしんだ。いつもならバリボリ食うのに。俺はハッと気づいた。
「もしかして、開けて欲しいのか?」
「その通り。これ」
 コスモは掴んだお菓子を俺に差し向けてきた。昼間もバリボリ食ったスナック菓子だ。よく飽きないな。俺は菓子袋を開けるとコスモに手渡した。 
 コスモは「サンキュ」と軽く受け取ってポリポリ食べた。

 アポロたちにもう会えないこと、やっぱり気にしている。食い方が違う。いつもはガツガツ手の中いっぱいに集めるのは、今は一つ一つ掴んでいる。俺は頭をポンポンと撫でた。
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