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68『ヘビーローテーション』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

68『ヘビーローテーション』




 秀美さんは、明くる日の夕方までいて、病院やら警察との事務的な処理をしていった。

 さすがに元秘書。てきぱきと話をつけていく。
 その間、いろんな話をした。
 ネット通販の仕事が軌道に乗り始めていること。それまでの苦労。

 そして……この秋には正式に入籍すること。

 そして、お父さんが東京の病院に転院できるようになるまでは、わたしが看護すると。

「たいへんよ、こういう怪我人さんの看護は。なんせ脚以外は健康だから、ワガママ。リハビリ始まったら、いっそうね。わたしもはるかちゃんぐらいの頃に、兄貴が事故って看病したんだけど、いらだちとか不満とかが全部わたしにくるの。フフ、ヘビーローテーションだわよ」
 お母さんも、秀美さんもアニキが、若い頃事故ってる。で、今度は、お父さん。
「オレは、我慢強いから大丈夫さ」
 と、身体を拭きながらの仮免夫婦の会話。

「ヘビーローテーションって、なんですか?」

「同じ事を何度も繰り返すって意味。AKBのヒット曲にあったでしょ?」
「あ、ああ……」
 そう言えば、幼稚園のころ回らない舌でクネクネしてたっけ。
「元は、放送局の用語。同じ曲を繰り返し流すこと。オリコンで上位の曲とか、独自のお勧めとかね。好きな曲でも三日もやってりゃ耳にタコ。怪我人さんの看護もいっしょよ」
「詳しいんですね」
「うん、学生のころラジオ局でバイトしてたから。ジョッキーのアシスタントしてたの」
「うちの社に採用するとき、最終選考で、それが決めてになった」
「え、そうだったの?」
「専務の平岡が、聞いてたんだって」
「まあ、それでかな。平岡さんには二度ばかり誘われましたけど」
「あいつ、手出してたのか!?」
「出していただく前に会社つぶれちゃいましたけど。あら妬いてるんですか?」
「ばか、はるかの前だぞ」
「あ、わたしタオル替えてきます」

 抑制のきいたじゃれ合いだった。わたしに気を使っているのが分かる。変によそよそしくされるより気が楽だ。

 ヘビーローテーションは当たっていた。
 
 三日目から始まったリハビリ。

「なんで、健常な左足からやるんだよ!」

 から始まって、あそこが痛い。どこがむず痒いとか、きりがありませんでした、はい。
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