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67『この状況……』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
67『この状況……』
「よくまあ、そこまで手の込んだことを……」
異口同音に三人からあきれられた。
「ディズニーリゾートに行く途中だと伺ったもので、ご承知だったかと……」
秀美さんは当惑しながら、わたしとお母さんの顔を交互に窺った。
「わたし、最初はお父さんに会って、なんとか元の家族に戻れないかなって願ってた……でも、東京でお父さんと秀美さんに会って分かったの……」
「なにが……イテテテ」
お父さんが身を乗り出しかけて、顔をしかめた。
「だめですよ」
「じっとしていなくっちゃ」
お母さんと秀美さんが同時にたしなめた。
「この状況……」
「「「え?」」」
「お父さんと秀美さんは、仕事のパートナーとしても……生活上のパートナーとしてもできあがっちゃってる……東京のことは、お母さんの中ではもうケリのついたことなんだ。で……甘ちゃんのはるかは荒川の土手で視界没にしてきた。そういう状況だってことが分かった」
不思議なくらい穏やかに言えた。嵐の前の静けさ……。
「おわかれだけど、さよならじゃない……いい言葉だったわ。はるかなる梅若丸というのがトドメだったわね」
「オレには分からなかったけど……秀美くんは分かったみたいでね」
「それで、わたしから勧めたんです。一度きちんとはるかちゃんに会って話して来て下さいって……でも、事前に連絡ぐらいはするって思ったんですけどね」
「あなたも、あなたね……」
「なんか、気後れしてな……はるか、もうちょっとオレのそばに来てくれないか」
「やだ、まぶしいんなら、スイッチ切ってやる!」
わたしは、照明のリモコンを手にした。
「はるかの後ろにライトなんかないわよ……」
「え?」
「照れかくしですよ、お父さんの」
「え……も、もうやだ!」
病院の中であることも忘れて廊下を走り、階段を駆け上がって屋上に出た。
せっかく、せっかく、荒川の土手でケリをつけたのに……!
心の傷の薄皮がはがれ、血がにじみ出してきた。
「なんとかしてよ、目玉オヤジ……」
目玉オヤジは、夏の西日に際だって飄々とアグラをかいていた。
「はるか」
後ろで、お母さんの声がした。
「……わたしとあの人は、もうとっくにケリがついてるんだけど、はるかはそうじゃなかったんだ」
「……」
「はるかって、何も言わないんだもん。はるかもそうかなって……思いこんでた。物書きなのに、実の娘の気持ちも分からなくって……これじゃ、スランプにもなるわよね」
お母さんが横に並んできた。
ヤバイ。ウルっとしてきた。
西日がまぶしい……ふりをした。
「わたしもいっぱしの演劇部なんだから。フンだ!」
「フ……なんで、このシュチュエーションで演劇部が出てくるわけ?」
「鈍感ね。それだけ青春賭けてるの、いつまでもメソメソしてらんないつーの!」
手すりにかけた腕にアゴををのっけて強がった。
「わたしはもう切れちゃったけど、はるかにはお父さんなんだからね。わたしに遠慮なんかしなくっていいのよ……無理しなくっていい」
同じ姿勢でお母さんが、精いっぱい寄り添ってきた。
「わたし気にいってんの。『おわかれだけど、さよならじゃない』ってフレーズ」
「そうか……」
「そうだよ。あんまり突然のドッキリばっかだから、ナーバスになっただけ。もう大丈夫だよ」
「そうなんだ…………じゃ、お母さん、お店にもどるね。そろそろディナータイムだから」
西日を受けて屋上を降りるお母さんの靴音を背中で聞いて見送った。
代わりに秀美さんの気配がしてきた……。
67『この状況……』
「よくまあ、そこまで手の込んだことを……」
異口同音に三人からあきれられた。
「ディズニーリゾートに行く途中だと伺ったもので、ご承知だったかと……」
秀美さんは当惑しながら、わたしとお母さんの顔を交互に窺った。
「わたし、最初はお父さんに会って、なんとか元の家族に戻れないかなって願ってた……でも、東京でお父さんと秀美さんに会って分かったの……」
「なにが……イテテテ」
お父さんが身を乗り出しかけて、顔をしかめた。
「だめですよ」
「じっとしていなくっちゃ」
お母さんと秀美さんが同時にたしなめた。
「この状況……」
「「「え?」」」
「お父さんと秀美さんは、仕事のパートナーとしても……生活上のパートナーとしてもできあがっちゃってる……東京のことは、お母さんの中ではもうケリのついたことなんだ。で……甘ちゃんのはるかは荒川の土手で視界没にしてきた。そういう状況だってことが分かった」
不思議なくらい穏やかに言えた。嵐の前の静けさ……。
「おわかれだけど、さよならじゃない……いい言葉だったわ。はるかなる梅若丸というのがトドメだったわね」
「オレには分からなかったけど……秀美くんは分かったみたいでね」
「それで、わたしから勧めたんです。一度きちんとはるかちゃんに会って話して来て下さいって……でも、事前に連絡ぐらいはするって思ったんですけどね」
「あなたも、あなたね……」
「なんか、気後れしてな……はるか、もうちょっとオレのそばに来てくれないか」
「やだ、まぶしいんなら、スイッチ切ってやる!」
わたしは、照明のリモコンを手にした。
「はるかの後ろにライトなんかないわよ……」
「え?」
「照れかくしですよ、お父さんの」
「え……も、もうやだ!」
病院の中であることも忘れて廊下を走り、階段を駆け上がって屋上に出た。
せっかく、せっかく、荒川の土手でケリをつけたのに……!
心の傷の薄皮がはがれ、血がにじみ出してきた。
「なんとかしてよ、目玉オヤジ……」
目玉オヤジは、夏の西日に際だって飄々とアグラをかいていた。
「はるか」
後ろで、お母さんの声がした。
「……わたしとあの人は、もうとっくにケリがついてるんだけど、はるかはそうじゃなかったんだ」
「……」
「はるかって、何も言わないんだもん。はるかもそうかなって……思いこんでた。物書きなのに、実の娘の気持ちも分からなくって……これじゃ、スランプにもなるわよね」
お母さんが横に並んできた。
ヤバイ。ウルっとしてきた。
西日がまぶしい……ふりをした。
「わたしもいっぱしの演劇部なんだから。フンだ!」
「フ……なんで、このシュチュエーションで演劇部が出てくるわけ?」
「鈍感ね。それだけ青春賭けてるの、いつまでもメソメソしてらんないつーの!」
手すりにかけた腕にアゴををのっけて強がった。
「わたしはもう切れちゃったけど、はるかにはお父さんなんだからね。わたしに遠慮なんかしなくっていいのよ……無理しなくっていい」
同じ姿勢でお母さんが、精いっぱい寄り添ってきた。
「わたし気にいってんの。『おわかれだけど、さよならじゃない』ってフレーズ」
「そうか……」
「そうだよ。あんまり突然のドッキリばっかだから、ナーバスになっただけ。もう大丈夫だよ」
「そうなんだ…………じゃ、お母さん、お店にもどるね。そろそろディナータイムだから」
西日を受けて屋上を降りるお母さんの靴音を背中で聞いて見送った。
代わりに秀美さんの気配がしてきた……。
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