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地球へ

第195話 閉ざされた巨大研究施設

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代に過去の人物の魂を召喚するきっかけになったもの。
 それはある古文書の発見だった。
 西暦7000年代に起きた、ポールシフトの影響で隆起した地層に、その古文書はあった。
 しかしその時代には滅んだ古代文字で書かれたこの古文書は、解読不能だった。
 長らくその存在を忘れられていたが、人類がレコード次元の存在を知った事をきっかけに、事態は急変する。
 レコード次元とは、ある時代の出来事を記録した、次元空間である。
 古文書を中心にするレコード次元の存在が確認され、古文書の書かれた時代背景も、徐々に明らかになっていく。
 そしてこの古代文字の解読も進んだ。
 だがこの古文書の解読は、困難を極めた。
 手書きで書かれたこの古文書は、文字が汚かったのだ。
 標準とされる古代文字の見本とは、ほど遠い古文書の文字。
 この古文書から多くの発想が得られた。
 だが未解読の部分も多い。
 ならば、書いた本人に、解読してもらおう。
 こうして、禁断の秘技が用いられる事になる。
 それが破滅への道であるとも知らずに。


 停車した列車の中で、マイとマインは同時に目が覚める。
「ふわー、おはようマイン、なんか久しぶりによく眠れたわ。」
「おはようマイ。私もよく眠れたわ。」
 おはようの挨拶を済ませたふたりは、辺りを見渡す。
 アイとミサの姿は、見当たらない。
 よく見ると、列車の扉のひとつが開いている。

 マイとマインは座席から立ち上がり、その扉の前に立つ。
 ふたりは顔を見合わせると、意を決して列車を降りる。
「お、やっと起きたのか。」
「わっ。」
 列車を降りたマイは、横から不意に声をかけられる。
 見ると、列車の扉の横にはミサが立っていた。
「驚かさないでよ、ミサ。」
「お、悪い悪い。」

 列車の停まったこの場所は、巨大なホールの片隅らしい。
 ホールの中は、程よく暗かった。
 文字が読めるかどうかの明るさしかなく、上を見上げると、暗闇に飲み込まれた天井は、その高さが分からない。
 五十メートル程先に、このホールからの出口らしき扉が見える。
 この距離とこの暗さでも扉と分かるのは、その扉が巨大すぎたからだ。
 目の前だったら分からなかったかもしれない。
 しかしこの距離なら、普通に扉と分かった。

 列車の裏側から、カツーンカツーンと足音を響かせ、アイが戻ってきた。
「制御室は、半分死んでたわ。」
「そっか。長い事放置してたもんな。」
 アイの言葉に、ミサは暗い天井を見上げる。
 どこから光源を取ってるのか分からないが、このホールはこれ以上明るくならなかった。
 最低限の機能しか、機能していなかった。

「ちょっと、分かる様に説明しなさいよ、ふたりだけで分かってないでさ。」
 ふたりで分かりあってるミサとアイに、マインは少し腹を立てる。
「そうね、説明がまだだったわね。
 ここはシリウス構想の検証施設。」
 マインの質問に、アイが答える。
 ミサは天井を見上げたままだった。
「シリウス構想?また随分と大げさな物が出てきたわね。」
 マインはホール内を見渡す。
 この様な場所で、何を検証するのだろうか。

「マイ、シリウス構想って分かるわよね。」
「し、シリウス構想?」
 アイは、いきなりマイに話しをふる。
「えと、古文書、古文書があって、僕達が召喚されたんだよね。」
 いきなり話しを振られたマイは、考えがまとまらない。
「古文書によって、アバター体に魂を入れれば、生命体の転送が可能となった。
 でも古文書に書かれてた事は、それだけではなかった。」
 答えをまとめられないマイに代わって、マインが答える。
「その古文書に書かれてた事を、ここで検証してたのよ。」
 アイはマインの答えを補足する。

「こんな所で、」
「何を検証するって言うの?」
 マインとマイは、辺りを見渡す。
 五十メートル程先に扉らしき物があるだけで、他は分からない。
 列車の裏側に制御室というらしい施設が見えるが、他三方は漆黒の暗闇に続いており、何があるのか分からない。

「古文書の解読はとっくに終わっていて、検証もすでに終わったわ。
 いや、終わらせられた、と言うべきね。」
 アイの言葉に、マイとマインは振り向く。
「もう行きましょうか。あなた達に会わせたい人がいます。」
「ひと?」
 マイの聞き返しを無視して、アイは歩きだす。
 前方に見える扉に向かって。

 マイとマインはお互い顔を見合わせ、うなずく。
 そしてカツーンカツーンと足音をたてるアイの後に続く。
 三人の会話に加わるまいと、天井を見上げてたミサも、やっと視線をおろす。
 そして、前を歩く三人の後に続く。

 四人は無言のまま、およそ五十メートルの距離を歩ききる。
 四人の目の前には、巨大な扉がそびえ立つ。
「大きな扉ね。どうやって開けるの?」
 マインはアイに尋ねる。
「マイ、あなたには開け方が分かるかしら。」
 アイはマインに答える代わりに、マイに話しをふる。
「開け方って。」
 マイはおもむろに右手を扉にそえる。

 マイが右手をあてがった扉の部分は、そこだけ材質が違った。
 まるでタッチパネルの様な感じで、ご丁寧に右手の輪郭が描かれていた。
 マイが何気なくそえた右手は、その描かれた右手の輪郭に、ぴったり一致する。
 そしてタッチパネルの上部から、緑色の線が降りてくる。
 マイの右手をスキャンし終えたら、扉からガゴンと大きな音がする。
 そしてゴゴゴゴと音をたて、扉が開く。

「おお、ほんとに開けやがった。」
 目の前の事実に、ミサは驚く。
「そう、あなたには分かるのね。」
 アイも小声でつぶやく。

 ズゴーンと音をたて、扉は奥開きに垂直に開ききる。
 左右に開いた扉の先に、古代ギリシャの神殿にあるような円柱が、奥へと立ち並ぶ。
 まるでその間を奥へと向かって来いと、言われてる様だった。
 マイとマインは、吸い込まれる様に、奥へと向かう。
 その後を、アイとミサが続く。

「ねえ、ここはなんなの?」
 恐る恐る尋ねるマイ。
 だがアイもミサも、無言のまま答えない。

 マイ達四人は最奥にたどり着くが、そこには何も無かった。
 マイは後ろを振り向く。

 ねえ、何もないよ。

 そう言いかけた時、マイとマインの頭の中に声が響く。
「やっと来てくれたんだね。」
 その言葉とともに、床からある装置がせり上がってくる。
 それは以前、マインが入っていたメスシリンダーの様な装置だった。

 その装置の中で液体漬けになってるのは、13歳くらいの少年だった。
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