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惑星ファンタジー迷走編

第75話 山のほこら

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 この時代に召喚されたマイは、行方不明になった仲間のケイを探しに、惑星ドルフレアにやってきた。
 そこでマイは、ケイは千年前にタイムスリップした事を知る。
 ケイは千年前の時代から、マイ達に三つの封印のほこらを託す。
 ふたつ目のほこらの封印を解く前に立ち寄ったアムテッドの冒険者ギルドで、ゴンゴル三姉妹のエアレーに出会う。
 エアレーのメドーに対する歪んだ愛情表現に、マイはキレる。
 エアレーは密度の調査任務でその場から立ち去り、マイの怒りの矛先が消えてしまう。
 マイはその怒りを追っ手にぶつけようとするのだが、メドーラにたしなめられる。
 マイは追っ手をメドーラにまかせ、山のほこらへ向かうのであった。


「ねえ、ミイ。ちょっといいかな。」
 山のほこらへと馬を走らせるマイとローラス。
 マイはローラスの馬に一緒に乗るミイに話しかける。
「どうしたの、マイ。」
 ミイには、マイが聞きたい事が、なんとなくだが分かってた。
「エアレーの事なんだけどさ。」
 マイはゴンゴル三姉妹のエアレーの名前を持ち出した。
「エアレーって、以前ケイと一緒に宇宙怪獣を討伐したんだよね。」

 ああ、やっぱり。
 ミイはそう思った。
「ええ、討伐したわよ。それがどうしたの?」
 ミイはそう答えるが、マイの聞きたい事も分かる。
「あの時、ケイとエアレーは、仲良くなったんじゃないの?
 少なくともケイは、星間レースの時、エアレーの仇を取ろうとしてたわ。」
 ミイは首をふる。
「それは分からないわ。」
「分からないって。」
 ミイから返ってきた答えは、マイの望む答えと違っていた。
 マイは戸惑う。
 そんなマイに対し、ミイも答えなければならない。
「だってあの時、お互い戦闘機に乗ってたのよ。
 通信でやり取りしただけで、顔も見てないわ。」
「そう、だったの。」
 またもや、マイの望まぬ答えが返ってくる。

「ただ、お互いの利害が一致しただけよ。」
 ミイのその言葉は、マイの希望を完全に打ち砕く。
「じゃあ、なんであの星間レースで、エアレーの仇を取ろうとしたのよ。」
 力なくつぶやくマイの瞳から、涙がこぼれる。
「それは、ケイだから、としか言いようがないわ。」
 ケイの行動を表す言葉は、それしかなかった。
「ケイ、バカだよ。あんなヤツのために。」
 ケイが仇を取ろうとしたエアレー。そんなケイの事を思うと、マイは涙を止める事が出来なかった。

「これは、今のマイには言いにくい事なのですが。」
 ケイの行動を非難するマイ。
 ミイは、そんなマイにひとこと言いたかった。
「ケイとエアレーは、どこか似ています。」
「え?」
 ミイのその言葉は、マイには意外だった。
 自分の知らないケイの姿が、そこにある気がした。
「どういう事なの?」
 その理由を尋ねるマイ。
「エアレーのメドーに対する態度と、ケイがマイ、あなたに対する態度は、似ているのです。」
 マイにとって、またもや意外な答えが返ってくる。

「え?僕をペット扱いしてたの?」
 またもやマイにとって意外な答えが返ってくる。
 それにはミイも首をふる。
「いいえ。そこまで酷くはありません。ただ、ケイはあなたを、かわいい妹のように感じていたのです。」
「い、妹って。」
 ミイにそう言われて、戸惑うマイ。

「そう言えば、そうかもね。」
 ここで横からローラスが口をはさむ。
「おケイのあのメッセージ、同僚に対しては、ちょっと馴れ馴れしかったわ。
 姉妹に対して、と言うなら納得出来るわ。」
 ローラスは、森のほこらに残されていた、ケイのメッセージを思い出す。
 マイにとっては聴き慣れたケイの口調も、初めて聞くローラスには、そう感じたのだろう。
 そしてマイは、ケイが初めてメドーと会った時の事を思い出す。
 かわいいと言って、メドーを抱きしめたケイ。
 確かに、エアレーとどこか似ているのかもしれない。
 そう考えると、マイの気持ちも、少しは楽になった。

「さて、ついたぞ。」
 とある洞窟にさしかかると、ナツキは馬を止めさせる。
 この洞窟の奥に山のほこらはあるらしい。
 マイとローラスは、洞窟の奥へと向かう。
 ナツキも後に続く。

 洞窟の奥には、垂直に切り出した岩の壁があるだけだった。
 他には何も無かった。
「ほほほ、そこにくぼみがあるじゃろ。」
 ここでナツキが、岩の壁のくぼみを指摘する。
 確かに、岩には人工物と思われるくぼみが、ふたつあった。
「そこにおまえさん達の剣を、ぶち込んでみい。」
「剣って、これ?」
 マイはソウルブレイドのクダを取り出す。
「そうじゃ。」
 ローラスもソウルブレイドのクダを取り出すと、お互い顔を見合わせる。
 そしてふたりはうなずくと、岩のくぼみにソウルブレイドのクダを突っ込む。

「あれ、何もおきないよ。」
 岩の壁は、なんの変化もなかった。
「我は、剣をぶち込めって言ったじゃろ。」
 バカ面で聞いてくるマイに、ナツキはため息混じりに応える。
「剣って、これの事か。」
 マイは、ソウルブレイドの剣を展開する。
 と同時に、後方へ吹き飛ぶ。
 壁に当てて剣を展開したのだ。
 前方に伸びる事の出来ない剣は、後方に伸びるしかない。
 よって、剣を握るマイは、身体ごと後方へ吹き飛ぶ。

「違うじゃん。」
「はあ。」
 ナツキはマイの理解力のなさに、ため息しか出なかった。
「ねえ、マイ、これってひょっとして。」
 そんなマイを見て、ローラスは何かに気付く。
 ナツキはニヤリと笑う。
 それを見てローラスは確信する。
「これが、封印のほこらなのよ。」
 目の前の大きな岩の壁。
 これが封印のほこらだとしたら、展開させるソウルブレイドの形は、あれだ。
「そっか、これが封印のほこらか。」
 マイも理解する。

 ふたりはもう一度、ソウルブレイドのクダを岩のくぼみに入れる。
 そして、呼吸を整える。
 この地に漂うこの星の集合意思であるイデに、話しかける。
 この地のマナを借りる許しを得ると、特殊な呼吸法で、イデを体内に取り込む。
 取り込んだイデと、体内のマナとを錬成させる。
 そして、ソウルブレイドの剣を展開させる!
 マイは風の剣を。ローラスは水の剣を。

 岩の壁は、崩れさる。
 壁の向こうには、隠し部屋が存在した。
 隠し部屋の奥の方に、小さな宝箱があった。
 マイは宝箱を開ける。
 中には、小さな薄い板切れが一枚、入っていた。
 マイはその板切れをつまみ出す。

 それを見て、ミイの目の色が変わる!
 ミイはマイから板切れを奪い取ると、その場に崩れる。

「どうしたのよ、ミイ。それってなんなの?」
 形相を変えたミイに、マイは問いかける。
「これは、ケイのチップです。」
「チップって、これ?」
 ミイの言葉に、マイは自分の額を指さす。
 ミイはうなずく。

 マイ達召喚者は、額にはちまきを巻いている。
 このはちまきにチップが仕込まれていて、そのチップが額に当たる事で、サポートAIとつながる事が出来る。
 これにより、サポートAIからの情報のインストールやダウンロードなどが出来る。
 マイ達が言語障害もなく会話出来てるのも、このチップのおかげである。

 その、ケイのチップがここにある。
 それが意味する事は。
「お願いです。しばらくひとりにして下さい。」
 ミイは、マイ達に懇願する。
 マイとローラスは、お互い顔を見合わせて、うなずく。

「あなたも、です。」
 ミイは、自分の身体に憑依しているナツキにもお願いする。
「仕方ないのう。マイ、ちょっとおまえさんの手を借りるぞ。」
「え、どうすればいいの。」
「我を引っ張り出すのじゃ。ほれ。」
 ミイの右手に、ナツキの右手が重なる。
 マイはそのナツキの右手を掴むと、一気に引っ張る。

 ミイの身体からナツキが出てきたが、マイの身体から、ナツキに力を吸われているのを感じる。

「すまぬの、ミイ。思う存分と言いたい所じゃが、マイの身体が持たぬのじゃ。半日経ったら、その身体をまた借りるぞ。」
 ナツキの言葉に、ミイはうなずく。
 マイはナツキと手をつないだまま、ローラスと共に洞窟を後にする。

 ミイは号泣した。
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