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惑星ファンタジー迷走編

第76話 憑依と召喚

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 この時代に召喚されたマイは、行方不明なった仲間のケイを探しに、惑星ドルフレアにやってきた。
 ケイは密輸組織の罠にはまり、千年前にタイムスリップしていた。
 ケイは千年前の時代から、マイ達に三つの封印のほこらを託した。
 マイは千年前にケイと行動を共にした勇者ローランの子孫、ローラスと共に、ふたつ目のほこらの封印を解く。
 この山のほこらに封印されていたのは、ケイのチップだった。


 洞窟の前でたたずむマイとローラス。
 マイはナツキの手を握っている。
 ナツキは神武七龍神のひとり、グリーンドラゴンが化身した少女だ。
 この世界に顕現するために、マイの緑系のマナを必要としていた。
 マナを吸われ続けるマイは、その場にしゃがみ込む。

「ちょっと、大丈夫なの?顔色悪いけど。」
 ローラスは、覇気の無いマイを見るのは初めてだった。
 あのエキシビションライブの後でさえ、疲れ果ててはいても、やる気に満ちた力強さを感じた。
 それを、今は感じない。
 目を閉じてる時に目を離せば、そのまま永遠の眠りについても、気づかないかもしれない。
 そんな不安を、ローラスは感じる。

「大丈夫だよ。」
 マイの言葉を初めて聞くひとには、大丈夫だと思う言葉。
 だが、普段のマイを知る者には、全然大丈夫だとは思えなかった。
「本当に大丈夫なの?嘘はダメだよ。」
 ローラスはもう一度聞き直す。
 今のマイは、明らかに普段とは違う。
 心配させたくないと思っているのか、あるいは、本人は気づいていないのか。
 ローラスには分からなかった。
 これがメドーラだったら、違いが分かるかもと、ローラスは思った。

「んー、ちょっと疲れた感じはするけれど、僕は大丈夫だよ。」
 マイにも、ローラスが不安に思ってる事は、感じ取れた。
 だから、いつもとは違う感じも、伝えなくてはと思った。
「ほほほ、我がマナを吸い取ってるからのう、元気が無くなるのも、無理ないわい。」
 ローラスが感じる不安を、ナツキが答える。
「マナを吸い取るって、全然大丈夫じゃないじゃん。」
 ローラスには、事の重大さがよく分かった。
「このままじゃ、マイ死んじゃうじゃん。」
「え、そうなの?」
 マイは、自分が死ぬ可能性を考えてなかった。

「ほほほ、半日もすれば、おまえさんは死ぬかもしれんが、安心せい。
 その前に我が消えるから。」
 ナツキはマイが死ぬ可能性を否定する。しかしその場合、ナツキは消える。
「ダメだよ、そんなの。」
 マイはナツキに消えてほしくない。
「そうだ、憑依は出来ないの。ミイにしてたように。」
「それは不可能じゃ。」
 マイは憑依を提案するが、ナツキはそれを否定する。
「おまえさんは、身体に魂を憑依させてるじゃろ。ひとつの身体に憑依出来る魂は、ひとつだけじゃ。
 我がおまえさんに憑依したら、おまえさんの意識は無くなるぞ。」
「えと、それはどういう意味?」
 ナツキの言葉を、マイもローラスも理解出来なかった。

 マイの身体は、アバターである。
 そのアバター体に、過去から召喚された魂を入れている。
 この事を、額のチップを通して、マイのパートナーであるサポートAIのアイが伝える。
「ああ、そういう事か。」
 マイはようやく理解出来た。
「でも、ミイには憑依出来たよね、なんでなの?」
 ローラスには、マイに憑依出来ないのに、ミイに憑依出来た事の違いが分からなかった。
「それは、ミイがサポートAIだからだよ。」
 マイには、その理由がわかった。
「サポートAI?」
 それはローラスには聴き慣れない言葉だった。
「機械というか、道具というか。だから、ミイに魂なんてないよ。」
「え、そうなの。」
 ローラスには信じがたい事だが、これこそがミイが憑依の対象に選ばれた理由である。
 そしてこれを言葉にした事により、マイは疑問に思う。
 なぜ、ナツキはミイの存在を知ってたのだろう?
 宇宙誕生以前から存在すると言われる神武七龍神には、全宇宙を知りうる術でもあるのだろうか?

「あら、マイお姉さま。顔色がすぐれませんですわね。」
 ここで、追っ手を追い払ったメドーラが合流する。
 メドーラは馬の足跡を頼りに追ってきたが、途中で面倒になったので、パートナーであるサポートAIのアイツウに、マイ達の居場所を聞いた。
 メドーラに対して、ここまでのやりとりをもう一度繰り返す。

 そうこうするうちに、洞窟からミイが出てくる。
「ミイ、早かったね。もういいの?」
 ミイがひとりで洞窟にこもってから、まだ30分も経っていない。
 マイはてっきり、もっと時間がかかると思っていた。
「ええ。」
 ミイはマイに応えると、ナツキをにらむ。
「マイが人質にとられてますからね。」
「人質って、そんな。」
 マイにはその様な認識はなかった。
 だからミイのその言葉に、そして、そんな言葉を口にするミイの変容に、少し驚く。
「ほほほ、マイを心配しての事か。なら、早くその身体をかしてくれんかの。」
「ええ、ですがその前に。」

 ぱしん。

 ミイはナツキの頬をはたく。
「ちょっとミイ、いきなり何するの。」
「私には、これくらいする権利があるよね?」
 驚くマイを尻目に、ミイはナツキに冷たく吐き捨てる。
 マイはミイの事をよく知らない。
 一緒にいた時間は、そんなにないからだ。
 けれど、そんな短い時間で感じたミイとは、今のミイは違いすぎる。

「そうか、おまえさんは知ってしまったのか。」
 頬をはたかれたナツキは、ミイの行動を理解した。
「ええ、ケイのチップから、ケイの記憶を読み取りました。」
 それを聞いて、マイの瞳が輝く。
「それじゃあ、ケイがこの時代に戻ってくる方法が分かったの?
 ほこらの封印を全部解けば、ケイは戻ってこれるんでしょ?」
 そんな設定は、これまで語られていない。
 封印されてるのは、この星の鉱物資源である。
 だが、一緒にケイのメッセージも遺されていた事で、マイはそう思ってしまったのだろう。

「それは。」
 ミイの表情が曇る。
 ミイは知ってしまった。
 すでにケイは、この世のどこにも居ない事を。
 ミイはその事を言葉にしたくはなかった。
 言葉にしてしまったら、それを認める事になると思ったからだ。
 ケイの消失が事実だとしても、それを受け入れるには、まだ時間が足りなかった。
「マイお姉さま、全てはほこらの封印を解いたら、明らかになりますわ。」
 メドーラはミイの心情を察する。
 それでミイの代わりに答えた。

「そう、だよね。封印のほこらは、あとひとつ。あとひとつで、ケイは帰ってこれるんだよね。」
 マイの言葉は震えている。
 マイも、ミイとメドーラの態度から、何かを感じずにはいられない。
 その何かとは、言葉にする事が出来なかった。

「ほほほ、では先を急ぐかの。」
 ナツキはミイに憑依する。
「最後のほこらは、湖のほこらじゃ。」
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