妻がゾンビになりまして……

Mr.Six

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2-1:妻が暴れまして……

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少し落ち着いた俺は、花音から離れて務めている会社に連絡をした。

「なに? 奥さんが事故だと!?」

電話越しで、上司が驚いている。

「はい、それで2、3日ほど休ませていただけますか?」

「あぁ、構わんから、しっかりそばにいてあげなさい」

「すみません、はい、失礼します」

電話を切って、集中治療室まで戻る。

花音はまだ、集中治療室から離れない。

「花音、学校にも2、3日休むって連絡しておいたぞ」

「うん、ありがとう」

集中治療室の外から美鈴を眺める。

鎮静剤が聞いているのか、数時間たっても美鈴は目を覚まさない。

花音は、余程心配なのか、窓から美鈴をずっと見つめている。

「花音、大丈夫か?」

「私は大丈夫だよ、あんたこそ大丈夫なの?」

「俺は、ママが生きてるだけで幸せだから」

「あ、そう」

「うぅ、あぁ」

花音と会話をしていると、美鈴が声を出していた。

美鈴が目を覚ましたのだ。

「美鈴? 美鈴!」

「ママ!」

「花音、悪いが先生を呼んできてくれ!」

俺は花音に頼み、俺は集中治療室の扉を開ける。

「う、うん!」

花音は走って医師を呼びに行き、俺はすぐに美鈴に駆け寄った。

「美鈴!? わかるか? 俺だ、亮だよ」

俺は、起き上がろうとする美鈴の背中を手で支えながら起き上がる手伝いをした。

「うぅぅぅぅぅぅ」

美鈴は頭を押さえながら、うめき声をあげている。

だが、俺はこの時、涙を浮かべてしまった。

背中を支えた時に理解したんだ。

冷たい

美鈴のぬくもりはそこにはなく、まるで生きていないのかとさえ思ってしまい、

思わず美鈴を支えていた手を見てしまった。

「美鈴……」

「があぁ!」

美鈴は奇声を上げながら、俺の腕を振り払い勢いよく突き飛ばした。

「ぐあぁ!」 ガシャァン!

「先生! こっちだよ、早く」

花音は医師と看護師を数人連れて集中治療室に入ってきた。

「うぅ、があぁぁぁ!!」

美鈴は医師と看護師を見ると、狂ったように襲い掛かった。

「美鈴……だめだ、美鈴!」

倒れて動けない俺は、精一杯の声を出すしかできない。

美鈴は看護師につかみかかり、噛みつこうとする。

その時、美鈴の後ろから手を回した者がいた。

花音だ。

「ママ、大丈夫だよ、私が、がいるから」

暴れる美鈴を後ろから優しく抱きしめる。

「がぁぁ!」

「ママ、お願い……」

花音の言葉に美鈴は落ち着きを取り戻し始める。

「うぅ、あぁ」

美鈴が、人を襲うのを止めた?

花音の言葉に反応したのか?

「まさか、信じられない。奥さんが人を襲うのを止めるなんて」

その場にいた医師も驚いていた。

「美鈴、ぐぅ」

俺が立ち上がり、美鈴に話しかけると、こちらを見てきた。

「うぅ」

美鈴は俺を睨むと、俺に向かって襲い掛かってくる。

突然のことで、俺は反応ができなかった。

そして、その勢いのまま、俺の肩に噛みついてきた。

「ぐあぁ!」

肩からはじんわり血が服に滲み始める。

俺のことは覚えてないのか?

そんな……

どうやったら、思い出す?

肩に噛みついたまま美鈴は離れず、鈍く太い奇声を上げながら、グチュグチュと音を立てる。

「ぐっ、美鈴」

「グゥゥルルルル!」

花音のことは覚えているんだ、きっと俺のことだって思い出してくれるはず。

(あ、そうだ、美鈴が怒っているときは、確か……)

俺は昔のことを思い出した。

美鈴が怒っているときは、いつも俺はそうしてきたんだ。

今の美鈴が覚えているかどうかわからない。

でも、俺は美鈴がきっと覚えてくれてるって信じてる。

ずっと一緒にいたんだ、俺たちは17年も一緒に。

俺はどんな姿になろうと、君がどうなろうと





愛しているよ





肩に強烈な痛みを感じながら、俺は腕を伸ばす。

そして、俺は美鈴の頭を撫でた。

「美鈴、もう大丈夫だよ、俺だ」

頭を撫でると、さっきまで狂ったように噛みついた美鈴は噛むのを止めた。

「があぁぁ……あぁ」

そういうと、美鈴の表情はゆるくなり、その場に倒れこんだ。

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