妻がゾンビになりまして……

Mr.Six

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1-4:妻がゾンビになりまして……

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「無事なんですか? 美鈴は大丈夫なんですか?」

「はい、なんとか一命は取り留めました」

良かった、美鈴は助かったんだ。

俺は安堵して大きく息を吐いた。




ん?




じゃあ、なんで先生は表情が険しいんだ?

助かったのなら、こんな顔にはならない、よな?

もしかして、美鈴はこのまま目を覚まさないとか?

障害をもってしまったとか?

俺はいてもたってもいられなくなり、先生に聞いてみた。

「先生、美鈴はなんともないんですよね?」

「いや、それが、その」

先生は口をごもらせている。

「ちょっと、ママはどうなってるのよ!?」

花音は声を荒げる。

「……ビになったようです」

「「えっ?」」

なんていったんだ? よく聞こえなかったぞ。

ビ?

何かの病気になったってことか?

「すいません、先生よく聞こえなかったんですけど」

「……ゾンビです」

「「ゾ、ゾンビ?」」

俺と花音は顔を見合わせた。

ゾンビになった!?

どういうことだ、この世界でそんなことが起こるの?

「と、とにかく、奥さんを集中治療室へお連れしますのでそこで詳しくお話を」

俺と花音は先生に言われるがままに集中治療室へ案内され説明を受ける。

「前頭葉に損傷を受けて、体温が低い? ですか」

「はい、前頭葉というのは、人間の感情などを司る部分でして」

前頭葉? もしかして美鈴はもう

「じゃあ、美鈴は人間の感情を失ったってことですか?」

「それが、なんでゾンビってなるのよ!?」

「花音、落ち着くんだ」

「これが落ち着いていられるの!? ママは感情を失ったんだよ!」

座っていた花音は大声を出しながら立ち上がった。

すると、美鈴は目を覚まし、突然暴れだした。

「美鈴!」「ママ!」

看護師たちが集中治療室に入って、美鈴を押さえつけるが、数人がかりでも止めることができない。

「がぁあぁぁぁー!!」

美鈴は体についている医療機器を無造作に外し、目の前にいた看護師に噛みついた。

「きゃあぁぁぁー!」

看護師は悲鳴を上げる。

「美鈴! なんで!?」

「鎮静剤を投与するんだ!」

数人の医師が集中治療室に入っていき、美鈴を押さえつけ鎮静剤を投与した。

少しして、美鈴は電池が切れたように眠るように倒れこんだ。

「先生、一体これは!?」

「手術が成功した瞬間もあのように暴れだしたんです」

暴れた、美鈴が?

「ど、どうなってるんですか?」

「見てのとおりです、本能のままに動いているようで」

「まるでゾンビだね」

花音が美鈴を見つめながら、ボソッとつぶやいた

「生きているんですか?」

俺は美鈴を集中治療室の外で見ながら、先生に聞いた。

「えぇ、限りなく体温は低く、心臓もしっかりと活動しています。ですが、見ての通り脳へのダメージが非常に深刻ですね」

「そうですか、よかった、生きてるんですね、美鈴……」

良かった、美鈴は生きてる。

俺にとってはそれだけでいい。

美鈴、君が今ここにいる

それだけで俺は、心が救われるんだ。

ごめんよ、君を傷つけてしまった。

俺は美鈴を見つめながら、静かに涙をこぼしていた。

「ですが」

突然、先生が口を開いた。

「?」

「治療法がわからない、いや、無いといったほうがいいでしょうか」

「治療法がない?」

もう治らない?

このままってことか?

「そんな、どうにかならないんですか?」

「こんなことは初めてで、医学的にも説明が全くできません」

「いいよ、そんなことは」

花音が美鈴を見ながら話しに入ってきた。

「花音……」

「だって、ママはそこにいて、生きてるんじゃん。私にとってはそれだけでいいよ。よかったママ、無事で」

そういうと花音はそのまま崩れ落ちて泣き始める。

「そう、だな」

俺は花音の肩に手を置いて、美鈴を笑顔で見つめた。

「やめて、キモイんだけど」

急に切れる花音に驚き、肩から手を離した。

「ご、ごめん。先生救っていただきありがとうございました」

俺は深く頭を下げた。

「いえ、しばらくは入院すると思いますが、そばにいてあげてください」

先生は俺たちに頭を下げて、仕事に戻った。
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