一級品の偽物

弐式

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六.

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 源清麿の評価が虎徹と肩を並べるにはまだまだ100年以上はかかるのだろうが、逆に言えばそれなりの値で手に入るということでもある。少なくとも虎徹と比べればずっと安値で手に入るだろう。

 それでも、刀としての出来自体は甲乙つけ難し。そんな逸品同士が、同じ値にならないところが刀剣商という世界なのである。

 近藤という人物は仮にも道場主として門弟を抱え、他流派とも交流を持っている人物。それなりに剣客の差料を拝見する機会もあると思われるので、これを直接渡せばあっという間にバレてしまうのは明白であろう。いくらなんでも虎徹のような古色蒼然とした刀と数年前に死んだ人間が打った真新しい刀の区別がつかないようでは、それこそ見込み違い。伊助の目が利かぬと言われても仕方ないというものだ。

 蔵を出た伊助は、

「ちょっと、あの男の所に行ってまいりますので、お店の方はしばらくお願いしますよ」

 蔵に鍵をかけている番頭にことづけて、再び外出の準備をするために庭を横切っていった。


*   *   *

 いつの間にか太陽が西に傾きはじめていたため、伊助の足は自然に速くなっていた。伊助が向かったのは湯島天神下の細田平次郎直光ほそだへいじろうなおみつという男の仕事場であった。この男は鍛冶平という異名をとる優秀な刀工である。

 ところが彼にも一部の人間しか知らない秘密の顔があった。

 偽銘を切る名人だったのである。

 その技術を利用し、無銘の刀を名刀に見せかけて高値で売り払っては荒稼ぎしているのである。

 江戸の刀剣商で鍛冶平の世話にならなかった者はいなかったし、名刀を収集するのが趣味になっているような大名や直参、金持ちの商人のコレクションの中には、一振り二振りは混じっているのが常であった。

 伊助は到着すると仕事中だからと奥座敷に通され、半刻ほど待たされる羽目になった。

 その間、腕組みをして思案していたのは、どうやって鍛冶平を説得しようかということであった。というのも、この鍛冶平という男、普段は愛想もよく、調子のいい男なのではあるが、少々気難しい所があり、へそを曲げたらなかなか折れてくれないという面倒な面も持ち合わせていたからである。

 散々待たせられた後、座敷に赤く焼けた顔の中年男が入ってきた。その顔は日焼けしたものではなく、鍛冶場で刀を打つときに使われる高温の炎に焼かれてできたものである。

「また、お願いにまいりました」

 伊助は小さく頭を下げた。

「今度は誰の偽刀を仕立てるつもりだい?」

 この鍛冶平は普段は愛嬌のある顔をした酒好きの中年男だが、鍛冶場でのこの男は職人気質の、一切の妥協のない仕事をする男である。刀剣に関する研究にも余念がなく目利きに関しても一級品。そんな男が、偽銘を切って偽の名刀を仕立てる名人なのだから、不思議なものである。

「長曽根虎徹をお願いしたいのです」

「ほう。虎徹かい」

 鍛冶平はにやりと笑う。虎徹の銘は鍛冶平の最も得意とすることは伊助もよく知っていたので、その笑みも納得というところだ。

「この刀に切ってほしいのですよ」

「ほう……」
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