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【1章】晶乃と彩智

27.久々の母校

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「ねぇ……休みの日なのに、制服でなきゃダメなの?」

「私の母校とはいえ、他校にお邪魔するのに、私服ってわけにはいかないでしょう」

 彩智の言葉に、晶乃は答える。晶乃は高校の制服を気に入っているが、彩智は苦手らしい。もっとも制服に限った話ではなく、「チビに似合う服は、そんなに無い」と度々ボヤいている。それなら制服のほうがよっぽどいいと思うのだが、そういうものでもないらしい。

「晶乃と同じ服を着て歩くのが嫌なのよ」

 と言っていたが、晶乃にはその意味が分からないので聞き流した。彩智の不満がどこにあるのかは分からないが、2人が着ている黒いブレザーは晶乃の出身中学校の、濃紺のセーラー服の中に混じればかなり目立つだろうことは分かる。

 そう、今、肩を並べて歩いている先には晶乃がほんの1か月前まで通っていた雀ヶ丘中央中学校がある。雀ヶ丘高校とそれほど離れていないので、今歩いている道は晶乃の毎朝の通学路でもある。

 感動する写真は何か。晶乃が真っ先に思ったのは、「大事なのは「何を撮るか」だよね」ということだった。そして、「感動する写真と言えば「青春の汗」だよね」と考えた。ある意味、体育会系の思考回路といえるかもしれないが、彩智もそれに賛成した。

 かくして、晶乃の母校の、晶乃が所属していたバスケットボール部の顧問に連絡を取って、後輩たちの練習風景を撮らせてもらうことになったのだった。もっとも、練習相手になることが条件にされたので、着替えと練習着を大量に詰め込んだスポーツバッグと、引退してから足を入れていなかったバスケットシューズも持参である。

「新入生がどんな子が入ったのか楽しみだなぁ」

「ほくほくした顔をしちゃって。晶乃は卒業してから、中学校には顔を出してないの?」

「うん。今日が高校生になって初めて」

「そういう私も、一度も顔を出してないなぁ」

 晶乃は彩智と話しながら、中学生の時、3年間通り続けた校門を通った。見慣れた校門も、高校の制服を着て通ると不思議な気分だ。

 来客者用の玄関に向かい、右側にある事務所の窓口に声をかける。応対してくれたのは、顔なじみの中年の女性事務員だった。

「ご無沙汰しています」

「あら、水谷さん。杉内先生から話は聞いているわよ。元気にしてた?」

「ええ。高校の勉強は難しいので、なかなかついて行くのに大変ですけれど」

「ちょっと見ない間に、随分大人びたわねぇ」

 そんな雑談をしながら、すっと外部者が校内に入るための用紙が差し出された。そこに晶乃は、自分と彩智の名前を記入する。

 面会者の欄にバスケ部の顧問の杉内佳代子教諭の名前を記入する。まだ30歳になる前のスポーツ万能の先生だった。もっとも、バスケットボールの経験はなかったから、時間を見つけて初心者向けの本を見ながら練習方法や戦術などの勉強をしていたことを晶乃は覚えている。

「はい。じゃ、これ許可証」

 と首から下げるための赤いストラップが付いたプラスチックのカードケースが2枚渡された。中には『立入許可証』と書かれたカードが挟まっている。1つを彩智に渡した。

 来客用の下駄箱に靴を入れ、代わりに水色のスリッパを履いた。

 それから、練習している体育館を目指す。校舎棟を抜けると大回りになるのだが、彩智には黙ってそちらを歩いた。自分はほんの少し前までここにいた。見覚えのある廊下を歩くと、あの頃に戻ったような気分になる。休日で人のいない教室の中から、あの頃の喧騒が聴こえてくるような気がする。しかし、もう自分の居場所はここにはない。

「中庭の手入れがされている。そう言えば、卒業式の後に業者が入るって、先生が言っていたっけ」

 廊下の窓の外には中庭が広がっている。校舎棟と別棟との間のスペースは木々が植えられ、生徒は入れないようになっていた。晶乃がいた頃は伸び放題だった樹木の青々とした葉が、今はさっぱりと剪定されていた。

「何を見ているの」

 つい足を止めて見入った晶乃に、彩智が声をかけてきた。

「ううん。ちょっと懐かしいと思っただけ」

「いい中学校生活だった?」

 そう問われ、ヨーコの顔が脳裏に浮かんだ。

「うん……楽しかったよ」

 晶乃はそう答えると再び歩き出す。体育館まで、もうほとんど距離はなかった。
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