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【1章】晶乃と彩智
28.中学時代の水谷晶乃
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彩智が体育館の横開きの扉を開こうとしたらやたらと重くて、晶乃と二人掛かりで何とかこじ開けた。
古い体育館の古い扉で、滑りが悪くなっているためかやたらと重い。油を塗ってもダメなのだと晶乃が言うので、ひょっとしたら歪んでいるのかもしれないと彩智は思った。毎日、練習には一番乗りだった晶乃が、放課後、この体育館の扉を開ける担当だったらしい。中学卒業までに懸垂が複数回出来るようになったのはこれのおかげだと、晶乃は真顔で語った。
中では女子バスケットボール部と、女子バレーボール部が、体育館を半分ずつ使いながら練習している。女子バスケットボール部は、入り口側のコートを使って練習していた。
再び、出入り口の扉を閉めなおし、それから「こんにちはっ!」と、晶乃が大きな声を上げる。
学校の指定のジャージ姿の女生徒が顔を上げ、こちらに目を向ける。赤、青、緑のジャージの女生徒が総勢で25人くらい。一番多いのが青いジャージの生徒で、10人くらいはいるだろうか。
それから、黒いジャージの教師がいる。彼女が顧問なのだろう。30歳くらいの長い黒髪の、遠目には美人の先生だった。彼女は咥えていたオレンジ色の笛を離して、晶乃と彩智の方に向けて手を上げる。
彩智は小さく会釈した。
「ほら! 練習の手を止めない!」
緑色のジャージを着た女生徒が声を上げる。ショートカットの凜とした印象の女の子だ。その口から、よく通る声で叱咤の声がかかると、練習の手を止めてこちらを――晶乃を見ていたバスケットボール部員たちが弾かれたように動き出す。体育館にボールをつく音が響き始めた。
「ちゃんと、キャプテンが板についてきたみたいね。なかなか堂に入っている」
晶乃が小さく笑みを浮かべたのを横目に見ながら、首から下げたEE-MATICを握りなおして、
「そろそろ、顧問の先生に挨拶をしておきたいのだけれど」
と晶乃を促す。
「ああ、ごめんごめん」と笑った晶乃と一緒に、黒いジャージの女性教師のもとに向かう。
「ご無沙汰しています。今日は、お世話になります。こちらが、バスケ部顧問の杉内佳代子先生」
晶乃の紹介を受けて、彩智が自分の名前を名乗ってから「今日は、ご無理を言って申し訳ありません」と頭を下げる。
「いいよ、いいよ。練習の邪魔さえしなければ。でも、生徒の顔が写っている写真は外部には絶対に流さないでよ」
にこやかな笑顔の杉内から、きっちりと釘を刺された。
その様子を横で見ていた晶乃が、「じゃ、私、何をすればいいですか?」と肩を回しながら尋ねた。それを聞いた彩智は、晶乃が今日の写真撮影の許可を「晶乃が後輩の練習の手伝いをする」ことと交換で取ってくれたことを思い出した。
申し訳ない……と内心で思う。
「今日は1年の練習を見てやってよ。なかなか、私も1年生の練習に目が回らなくってさ。基本的なことをしっかりと教えてやって」
「了解。じゃ、着替えてきますね」
そう言って晶乃は体育館の奥の方に去っていく。多分そこに更衣室があるのだろう。
晶乃がいなくなったので、彩智はファインダーを覗く。
「アキ――水谷さんは、写真関係の部にいるの?」
杉内が声をかけてきた。
「あ……いいえ。そういう訳では。色々あって、一緒に写真を撮りに行っているんです。部活にも入らないといけないんですけれど、2人ともまだ決まっていなくて……」
「そう……水谷さんは、高校ではバスケットボールは続けなかったの……」
「別に、高校では中学の頃とは別の部活をすることなんて、珍しくないと思いますけれど?」
彩智は杉内の声が沈んだ声になったのを訝しく思う。
「それはそうなんだけれどね。県大会で優勝して、全中にも出たチームのキャプテンが、高校に行ったら辞めたと知ったら、やっぱり惜しいと思うわよ」
「ひょっとして……晶乃って凄い選手だったんですか」
県大会優勝? 全中出場? キャプテン? 全部初耳だったので、彩智は目を丸くする。
「全中では表彰台には届かなかったけれど、負けた相手は優勝した中学だった。しかも、第3クォーターが終わったときは、ウチが勝っていたんだよ。本当にあと一歩だった。その一番の功労者が水谷晶乃だったのは、誰もが認めるところよ」
杉内が顔を上げたので、彩智も顔を上げる。黒いTシャツに黒いハーフパンツに着替えてきた晶乃の顔は、相変わらず人の好さそうな微笑を浮かべていて、とてもキャプテンという雰囲気ではない。先程、声を発していたバスケットボール部のキャプテンとは凛とした雰囲気とか威厳とかは雲泥の差といった感じだ。
こうして眺めて見ると、晶乃とキャプテンとは同じようなボーイッシュなベリーショートに近いショートカットの髪型にしている。やっぱりスポーツをする上では、そっちの方が便利なのだろうかと思ったが、他の部員たちは女の子らしく伸ばした髪形をしているので、そういう訳でもないらしい。
そのキャプテンが、自分の練習の手を止めて晶乃の方に駆けていく。晶乃と一言二言、言葉を交わすと、先ほどと同じよく通る声で、
「1年生は集まれっ!」
と声を上げた。青いジャージの生徒たちが練習の手を止めてキャプテンと晶乃の周りに集まる。シューズの擦れる音やボールの弾む音が三分の一減ると、何だかいきなり静かになった気がする。もちろん、緑と赤のジャージの生徒……2年生と3年生は練習を続けているのだが。
集合している青いジャージの集団を狙ってピントを合わせる。初めて使うカメラだとやっぱり使いにくいなぁと思っていると、すぐに指示出しが終わったのか、キャプテンはすぐにその場を離れて晶乃が中心に移動してしまったのでシャッターを押すタイミングを逃してしまう。
コートには入らないように気を付けながら晶乃たちの方に近づいた。
古い体育館の古い扉で、滑りが悪くなっているためかやたらと重い。油を塗ってもダメなのだと晶乃が言うので、ひょっとしたら歪んでいるのかもしれないと彩智は思った。毎日、練習には一番乗りだった晶乃が、放課後、この体育館の扉を開ける担当だったらしい。中学卒業までに懸垂が複数回出来るようになったのはこれのおかげだと、晶乃は真顔で語った。
中では女子バスケットボール部と、女子バレーボール部が、体育館を半分ずつ使いながら練習している。女子バスケットボール部は、入り口側のコートを使って練習していた。
再び、出入り口の扉を閉めなおし、それから「こんにちはっ!」と、晶乃が大きな声を上げる。
学校の指定のジャージ姿の女生徒が顔を上げ、こちらに目を向ける。赤、青、緑のジャージの女生徒が総勢で25人くらい。一番多いのが青いジャージの生徒で、10人くらいはいるだろうか。
それから、黒いジャージの教師がいる。彼女が顧問なのだろう。30歳くらいの長い黒髪の、遠目には美人の先生だった。彼女は咥えていたオレンジ色の笛を離して、晶乃と彩智の方に向けて手を上げる。
彩智は小さく会釈した。
「ほら! 練習の手を止めない!」
緑色のジャージを着た女生徒が声を上げる。ショートカットの凜とした印象の女の子だ。その口から、よく通る声で叱咤の声がかかると、練習の手を止めてこちらを――晶乃を見ていたバスケットボール部員たちが弾かれたように動き出す。体育館にボールをつく音が響き始めた。
「ちゃんと、キャプテンが板についてきたみたいね。なかなか堂に入っている」
晶乃が小さく笑みを浮かべたのを横目に見ながら、首から下げたEE-MATICを握りなおして、
「そろそろ、顧問の先生に挨拶をしておきたいのだけれど」
と晶乃を促す。
「ああ、ごめんごめん」と笑った晶乃と一緒に、黒いジャージの女性教師のもとに向かう。
「ご無沙汰しています。今日は、お世話になります。こちらが、バスケ部顧問の杉内佳代子先生」
晶乃の紹介を受けて、彩智が自分の名前を名乗ってから「今日は、ご無理を言って申し訳ありません」と頭を下げる。
「いいよ、いいよ。練習の邪魔さえしなければ。でも、生徒の顔が写っている写真は外部には絶対に流さないでよ」
にこやかな笑顔の杉内から、きっちりと釘を刺された。
その様子を横で見ていた晶乃が、「じゃ、私、何をすればいいですか?」と肩を回しながら尋ねた。それを聞いた彩智は、晶乃が今日の写真撮影の許可を「晶乃が後輩の練習の手伝いをする」ことと交換で取ってくれたことを思い出した。
申し訳ない……と内心で思う。
「今日は1年の練習を見てやってよ。なかなか、私も1年生の練習に目が回らなくってさ。基本的なことをしっかりと教えてやって」
「了解。じゃ、着替えてきますね」
そう言って晶乃は体育館の奥の方に去っていく。多分そこに更衣室があるのだろう。
晶乃がいなくなったので、彩智はファインダーを覗く。
「アキ――水谷さんは、写真関係の部にいるの?」
杉内が声をかけてきた。
「あ……いいえ。そういう訳では。色々あって、一緒に写真を撮りに行っているんです。部活にも入らないといけないんですけれど、2人ともまだ決まっていなくて……」
「そう……水谷さんは、高校ではバスケットボールは続けなかったの……」
「別に、高校では中学の頃とは別の部活をすることなんて、珍しくないと思いますけれど?」
彩智は杉内の声が沈んだ声になったのを訝しく思う。
「それはそうなんだけれどね。県大会で優勝して、全中にも出たチームのキャプテンが、高校に行ったら辞めたと知ったら、やっぱり惜しいと思うわよ」
「ひょっとして……晶乃って凄い選手だったんですか」
県大会優勝? 全中出場? キャプテン? 全部初耳だったので、彩智は目を丸くする。
「全中では表彰台には届かなかったけれど、負けた相手は優勝した中学だった。しかも、第3クォーターが終わったときは、ウチが勝っていたんだよ。本当にあと一歩だった。その一番の功労者が水谷晶乃だったのは、誰もが認めるところよ」
杉内が顔を上げたので、彩智も顔を上げる。黒いTシャツに黒いハーフパンツに着替えてきた晶乃の顔は、相変わらず人の好さそうな微笑を浮かべていて、とてもキャプテンという雰囲気ではない。先程、声を発していたバスケットボール部のキャプテンとは凛とした雰囲気とか威厳とかは雲泥の差といった感じだ。
こうして眺めて見ると、晶乃とキャプテンとは同じようなボーイッシュなベリーショートに近いショートカットの髪型にしている。やっぱりスポーツをする上では、そっちの方が便利なのだろうかと思ったが、他の部員たちは女の子らしく伸ばした髪形をしているので、そういう訳でもないらしい。
そのキャプテンが、自分の練習の手を止めて晶乃の方に駆けていく。晶乃と一言二言、言葉を交わすと、先ほどと同じよく通る声で、
「1年生は集まれっ!」
と声を上げた。青いジャージの生徒たちが練習の手を止めてキャプテンと晶乃の周りに集まる。シューズの擦れる音やボールの弾む音が三分の一減ると、何だかいきなり静かになった気がする。もちろん、緑と赤のジャージの生徒……2年生と3年生は練習を続けているのだが。
集合している青いジャージの集団を狙ってピントを合わせる。初めて使うカメラだとやっぱり使いにくいなぁと思っていると、すぐに指示出しが終わったのか、キャプテンはすぐにその場を離れて晶乃が中心に移動してしまったのでシャッターを押すタイミングを逃してしまう。
コートには入らないように気を付けながら晶乃たちの方に近づいた。
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