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第四話 魔法や剣技を教えてもらえるらしい
その四
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フィス達がラクシ亭に帰って来ると、マリアが泣きながらフィスに抱き付く。
「フィスちゃん! 無事で良かったぁ!」
「えっ⁉ いったいどうしたの?」
訳もわからず面食らうフィス。
「どうしたって、あの爆発音聞こえなかったの? 二つ向こうの山が吹っ飛んだって話よ! また、災害級モンスターが現れたんじゃないかって、町は大騒ぎなのよ」
「ああ……あれね。確かにすごい音だったわね……」
フィスの目は泳いでいたが、マリアには気付かれなかったようだ……
「でも二人とも無事で良かったわ……そうそうお客様よ」
涙を拭きながら、奥のテーブルにいる二人を見るマリア。
「フィスちゃん、お久しぶりー!」
少女の声だ。落ち着いた声だが、フィスと同じ年齢、もしくは少し年上か?
その少女は席から立ち上がり、フィスに向かって手を振っている。
「アリゼ⁉ 帰ってきてたんだ!」
フィスはアリゼと呼んだ少女に抱きついた。
フィスより少し背が高く、灰色の修道服を着ている――ということは、彼女は神官職ということのようだ。
まだあどけなさが残る顔だが、修道服という落ち着いた見た目の効果もあり、フィスより大人びた雰囲気がある。
「今、トルトに帰って来たところなの。真っ先にフィスちゃんに会いたくて、パパのところより先にこっちに来ちゃった!」
「……えっ?」
さすがにちょっと……特にあの子煩悩の父親なら、アリゼが自分より先に別のところへ行った――なんて知ったら、仕事そっち抜けで、アリゼを探しに来るはずだ……
厄介事が増える前にアリゼを教会へ帰らせないと……そう、フィスが考えていた矢先……
店の扉が「バンッ‼」とすごい音で開くと、神父の格好をしたひげ面の男性が入ってくる。
「アリゼっ‼ 帰ってきたのなら、何故、真っ先にパパのところに来ないんだよーーーっ‼」
アリゼの父親、テオドール・グルボアである。彼は、フィスを突き飛ばしてアリゼに抱き付く。
「ただいま……って、もう! 抱き付かないで!」
アリゼはテオドールの頭を手で押さえ付けて離そうとした。
「そんなぁ……パパ、パパっていつもくっ付いて離れなかったアリゼがどうしたんだよぅ?」
「いったい、いつの話をしているのよ⁉」
どんなに仲の良い父娘でも、思春期の娘の扱いは難しいらしい……
まったく、この父娘ときたら……と、頭を掻くフィス。
「おじさん……ところで仕事はいいの?」
フィスがテオドールに話し掛けると、それまで、デレデレだったオヤジ顔が急に引き締まり、僅かな微笑みを蓄えた、クールなナイスミドルの顔に変貌する。
「これはフィスちゃん。今日はどうしてここに?」
「いや、ここ私の家だから……それで、仕事は?」
テオドールはクールさを保ちながら、丁寧に応える。
「大丈夫だよ。フィスちゃん。先ほど、冒険者が一人運ばれて来たけど、ほんの右腕が切り落とされたくらいだから」
校閲で指摘されそうな、補語の使い方はやめてください。
「まあ大変! フィスちゃんまたあとでね」
言葉とは裏腹にアリゼは笑顔のまま、楽しそうに手を振って教会へ帰って行った。まったく、この親にしてこの子あり……である。
この世界では、治癒魔法はもっぱら神官の仕事である。
別に神官でなくても治癒魔法は行える。だが、攻撃魔法に比べ、習得に時間を要することが多い。
また、攻撃魔法は、いつでもどこでも、一人でも練習できるのに対し、治癒魔法は治癒の対照がないと術が発動しない。
そのため、怪我人が運び込まれる教会で修行する方が上達が早くなる。つまり、神官見習いが治癒魔導士への近道になり、必然的に神官の治癒魔導士が多くなる。
また、宗教的な意味合いもある。
この世界で最も信者の多い聖神教は、唯一神でこの世界を創造したと言われる女神アスタリアを信仰する。
死後、アスタリアの住まう神の世界に行くためには、現世で善行を重ねる必要がある――という教えだ。
それを教える神官が、他人を治癒するという善行を行うことで、有難味も増すというモノだ。
アリゼは父の血を受け継ぎ、治癒魔法の才能があった。そのため、小さい頃から治癒の仕事を手伝っていたのだ。
そして十五になる来年の春を前に、ニグレアで二ヶ月修行を行い、洗礼を受けてきた。
宗教的には立派なシスターとなったのだが、職業としては十五になって正式に神官となる。
父テオドールは、元々ニグレアで司祭をしていたのだが、二年前にこのトルトに移り住んだ。将来、司教が約束された身であった――のだが、妻が原因不明の病気になったのを機に、自然豊かなこの地へ、出世を捨ててやってきた。
妻は昨年この世を去ったのだが、彼らはそのままこの地に残っている。
非常に優秀な男で、枢機卿からも一目置かれているらしい。
特に治癒魔法は旧王国でもトップクラスの腕前だ。
彼がこの地にいることは、冒険者にとっても心強い。
ただ、度の過ぎた子煩悩は困りモノで、妻が亡くなった後は特に酷くなった。
「フィスちゃん! 無事で良かったぁ!」
「えっ⁉ いったいどうしたの?」
訳もわからず面食らうフィス。
「どうしたって、あの爆発音聞こえなかったの? 二つ向こうの山が吹っ飛んだって話よ! また、災害級モンスターが現れたんじゃないかって、町は大騒ぎなのよ」
「ああ……あれね。確かにすごい音だったわね……」
フィスの目は泳いでいたが、マリアには気付かれなかったようだ……
「でも二人とも無事で良かったわ……そうそうお客様よ」
涙を拭きながら、奥のテーブルにいる二人を見るマリア。
「フィスちゃん、お久しぶりー!」
少女の声だ。落ち着いた声だが、フィスと同じ年齢、もしくは少し年上か?
その少女は席から立ち上がり、フィスに向かって手を振っている。
「アリゼ⁉ 帰ってきてたんだ!」
フィスはアリゼと呼んだ少女に抱きついた。
フィスより少し背が高く、灰色の修道服を着ている――ということは、彼女は神官職ということのようだ。
まだあどけなさが残る顔だが、修道服という落ち着いた見た目の効果もあり、フィスより大人びた雰囲気がある。
「今、トルトに帰って来たところなの。真っ先にフィスちゃんに会いたくて、パパのところより先にこっちに来ちゃった!」
「……えっ?」
さすがにちょっと……特にあの子煩悩の父親なら、アリゼが自分より先に別のところへ行った――なんて知ったら、仕事そっち抜けで、アリゼを探しに来るはずだ……
厄介事が増える前にアリゼを教会へ帰らせないと……そう、フィスが考えていた矢先……
店の扉が「バンッ‼」とすごい音で開くと、神父の格好をしたひげ面の男性が入ってくる。
「アリゼっ‼ 帰ってきたのなら、何故、真っ先にパパのところに来ないんだよーーーっ‼」
アリゼの父親、テオドール・グルボアである。彼は、フィスを突き飛ばしてアリゼに抱き付く。
「ただいま……って、もう! 抱き付かないで!」
アリゼはテオドールの頭を手で押さえ付けて離そうとした。
「そんなぁ……パパ、パパっていつもくっ付いて離れなかったアリゼがどうしたんだよぅ?」
「いったい、いつの話をしているのよ⁉」
どんなに仲の良い父娘でも、思春期の娘の扱いは難しいらしい……
まったく、この父娘ときたら……と、頭を掻くフィス。
「おじさん……ところで仕事はいいの?」
フィスがテオドールに話し掛けると、それまで、デレデレだったオヤジ顔が急に引き締まり、僅かな微笑みを蓄えた、クールなナイスミドルの顔に変貌する。
「これはフィスちゃん。今日はどうしてここに?」
「いや、ここ私の家だから……それで、仕事は?」
テオドールはクールさを保ちながら、丁寧に応える。
「大丈夫だよ。フィスちゃん。先ほど、冒険者が一人運ばれて来たけど、ほんの右腕が切り落とされたくらいだから」
校閲で指摘されそうな、補語の使い方はやめてください。
「まあ大変! フィスちゃんまたあとでね」
言葉とは裏腹にアリゼは笑顔のまま、楽しそうに手を振って教会へ帰って行った。まったく、この親にしてこの子あり……である。
この世界では、治癒魔法はもっぱら神官の仕事である。
別に神官でなくても治癒魔法は行える。だが、攻撃魔法に比べ、習得に時間を要することが多い。
また、攻撃魔法は、いつでもどこでも、一人でも練習できるのに対し、治癒魔法は治癒の対照がないと術が発動しない。
そのため、怪我人が運び込まれる教会で修行する方が上達が早くなる。つまり、神官見習いが治癒魔導士への近道になり、必然的に神官の治癒魔導士が多くなる。
また、宗教的な意味合いもある。
この世界で最も信者の多い聖神教は、唯一神でこの世界を創造したと言われる女神アスタリアを信仰する。
死後、アスタリアの住まう神の世界に行くためには、現世で善行を重ねる必要がある――という教えだ。
それを教える神官が、他人を治癒するという善行を行うことで、有難味も増すというモノだ。
アリゼは父の血を受け継ぎ、治癒魔法の才能があった。そのため、小さい頃から治癒の仕事を手伝っていたのだ。
そして十五になる来年の春を前に、ニグレアで二ヶ月修行を行い、洗礼を受けてきた。
宗教的には立派なシスターとなったのだが、職業としては十五になって正式に神官となる。
父テオドールは、元々ニグレアで司祭をしていたのだが、二年前にこのトルトに移り住んだ。将来、司教が約束された身であった――のだが、妻が原因不明の病気になったのを機に、自然豊かなこの地へ、出世を捨ててやってきた。
妻は昨年この世を去ったのだが、彼らはそのままこの地に残っている。
非常に優秀な男で、枢機卿からも一目置かれているらしい。
特に治癒魔法は旧王国でもトップクラスの腕前だ。
彼がこの地にいることは、冒険者にとっても心強い。
ただ、度の過ぎた子煩悩は困りモノで、妻が亡くなった後は特に酷くなった。
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