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第四話 魔法や剣技を教えてもらえるらしい

その三

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 場所はガイアの部屋に戻る――

 ソファーの上に寝そべっていたはずの自称女神が見当たらない……


 いや、ソファーからずり落ち、床に転がっていた。

「な、な、な……何よあれぇぇぇーーーーっ⁉」

 エルが放った最弱魔法「ファイアボール」で山一つが吹っ飛び、もう驚きを通り越して、ショック死するレベルだった。

 床から起き上がると、現在のエルの能力表ステータスを表示させる。

「ちょっと……あのコって、確かMPゼロだったはずよね……いったいどういうこと⁉」

 能力値が表示されるとガイアはまずMPを見る。

「な、な、なんなの? この値……」

 その数字は今まで見たことがないMP値だった。おそらく、すべての世界を対象にしても、ここまでMPを持った大魔王は存在したことがないだろう。

「ど……どういうこと?」

 しかし、それだけではない。

「…………ん?」

 ガイアはMP値がリアルタイムで少しずつ増えているのに気付いた。

「な、なんで?」

 MP値の右にスラッシュがありその右に数字の羅列があるのに気付く。あまりににも沢山の数字が連なっているので、模様か何かと勘違いしていたのだが……これって?

「普通に考えればスラッシュの左側が現在のMPだよね……ということは右は?」

 ガイアの顔が青ざめる。そう、右はMPの最大値、つまり完全回復時の値だ……

 ガイアはその桁を数える。
「えーと……一、十、百、千、万……億……兆」
 そこまでで数えるのをやめた。兆まで数えて、すべての桁の十分の一ほどだ。それ以上は桁の数え方がわからない……

 つまり、エルはまだMPが完全回復していないということになる……

 それだけではなかった。

 攻撃力、生命力、防御力、知力、魔法抵抗力、器用さ……全ての能力値が画面の端ギリギリまで数字の羅列が続いている……いや、どうも画面の端を超えても数字が続いているように思える……
 
 ガイアはぶるぶると体を震わせた……この値って……

「……………………バグってる」


 いくら神がチート操作可能だとしても、生体データの仕様上限値を越えて設定はできない……しかし、エルの生体データはその上限値を軽く超えている……

 通常なら、設定できない値として、システムはエラーを返すはずなのに、何故かバグったまま能力値になってしまっていた……

 もちろん、そういった生体スキャナーの読み取りエラーを事前にチェックして修正するのが、ガイアの仕事。だが、本人の怠慢で完全に見落としている。

 仮にそんな異常ステータスを普通の生命体であった転生者に運悪く設定してしまったとしよう……その場合、転生前に培った精神が順応できず発狂してしまう……しかし、エルは元々機械。精神そのものが存在しなかった。新たに作られた精神だったので異常ステータスでも問題なく順応できた……つまり、エルでなくてはこのステータスは存在しない。まさに奇跡のステータスだ。

 しかもこのステータスは神のレベルもはるかに逸脱している。全ての世界の勇者や魔王、それに神達が寄ってたかって戦いを挑んでも、エルただ一人に余裕で滅ぼされる。それほどのレベル差だ。


 つまり、ガイアのミスで、神でさえ対抗手段のない超怪物を世に送り出してしまった……ということになる。


「これって……始末書、減給……だけでは済まない……よね……」

 ガイアは混乱した。いったいどうすれば良い?

「そうだ……まずはアスタリアに伝えないと……」

 ガイアはちゃぶ台に黒電話を乗っけてダイヤルを回す……せめてプッシュフォン回線工事くらい済ませておいてください。

 何度も呼び出すのだが、アスタリアは電話に出ない……留守なのか?

 ガイアは精神的に追い詰められた……

 誰にも相談できず、一人で悩んだ結果……


「……………………逃げよう」


 逃げたからって、何の解決にもならない。しかし、もう彼女に冷静な判断力など残ってなかった……

「逃げよう……でも、逃げるって何処に⁉」

 自分の世界はもう焼け野原で隠れるところがない。かといって他の世界では捕まりに行くようなもの……

 ガイアは考えた……
「やっぱり……あそこしか……」

 ガイアはディスプレイに映るエルとフィスを見た……
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