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第一話 人類が滅んだので、知的遺産を残すため異世界へ転移するらしい
その四
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「――承知いたしました。私はエルです」
「それでエルは何処からきたの?」
今「エル」という名前をもらったばかりの元アンドロイドは、その質問に二つの解を考えた。一つは、前の世界の地球という星。もう一つは、この世界に転生して降り立った場所――つまり、ここから八十三メートルほど手前の場所。
状況から考え、少女が求めているのは後述だろう――ということになり、その方向を指差す。
フィスは指された方向を向いた。
「東? 確かそっちの方向には猫人族の集落はなかったはずだけど……」
「猫人族?」
それはどういう人種か? エルはハーミットにたずねる。
『こんなイメージね……』
ハーミットはエルの脳裏に画像データを送る。大きな耳が特徴的の二次元キャラだ。
エルは頭に手を乗せる。もふもふの耳が触れた。自分の手がくすぐったく、耳がピクピクと反応している。
「そもそも、猫人族が里から出てくることは滅多にないはずなのに……まあ、いいか……とにかくその格好では寒いでしょ? 私の家に来て」
木の実を入れた袋を持ち上げると、「こっちよ」と言って歩き始めた。
「えーと、フィスさん? ところで……」
エルが呼び止めるので、フィスが「なに?」と振り向く。
「あちらから来る大きな生命体はお知り合いですか?」
「………………えっ?」
草木が揺れている。そして、何か唸り声も聞こえる。すると突然――
グシャア!
草木が派手に折れる音がして巨大な生物が現れた。
「ジャイアントグロー⁉」
フィスが叫ぶ。
熊のような容姿だが、体長は三メートル近い。そして最も特徴的なのは、攻撃手段となる二本の腕。脚よりも発達したそれはシャベルカーを二体連結したような容姿だ。白目を剥き、大きな口からヨダレが絶え間なく滴り落ちている。つまり、尋常じゃない。
「上級モンスターが何故こんな場所に!」
フィスが声に出して驚きを示した。
「上級モンスターと言ってますが……」
エルがハーミットに報告する。
『上級ということはそれなりに強いのかもね。しかし、情報が足りないなぁ……まずは言葉が通じるか話してみて』
「――話す? 会話するのですか?」
エルと名付けられた元アンドロイドのネコ耳娘は、ジャイアントグローに歩み寄る。それを見たフィスは慌てた。
「ばっ、バカっ! 下がって!」
フィスの忠告を無視して、モンスターの前に立つ。
「――警告します。それ以上接近した場合、攻撃を開始します。直ちにこの場から立ち去って……」
そこまで声にしたところで、ジャイアントグローの長い腕が横から飛んできた! エルの脇腹を強打する!
その反動で十メートルほど吹っ飛ばされて、地面に叩き付けられる。横転を繰り返したあと、紐の切れた操り人形のように、だらしなく横たわった。
「なっ!」
フィスという赤毛の少女は「くっ!」と歯を食い縛り、大きなモンスターに杖を向けた。
その様子を薄目を開けて見ていたエル。だが、カラダは激痛で身動きできない。
『まだ調整ができていないのに、いきなり相手にするから。ちゃんと、準備しないとダメだよ』
他人が聞いていたら、「そんなことを言っている場合じゃないだろう!」と怒りそうだが、ハーミットはのんきにそんなことを言う。
話しかけろと言ったのはそっちでは? と、エルは思ったが、それより……
「痛いです……これが痛覚ですか?」
初めて感じる痛み。カラダ全体に高圧の電気が流れたかのようだ。
『そうみたいだね……かなり派手に転んでいたけど、センサーも駆動部もエラーは出てないよ。念のため自己診断をやってみて』
「了解……」
エルは自己診断を開始する。
「光学カメラ――正常。赤外線センサー――正常。集音マイク――正常。送受信アンテナ――エラー。全てのバンドで受信できず」
『あ。それはスルーで――』
「各駆動部の異常――確認されず。起立開始」
ゆっくりと立ち上がる。足を踏ん張っても違和感がないことを確認すると、再びジャイアントグローへと向かう。
「脚部駆動部の出力調整……最適化。反応速度……最適化……」
エルはぶつぶつと呟きながら、フィスの横を過ぎる。
「エル! だ、大丈夫だったの⁉」
そう呼びかけられるが、何も応えず前進を続けた。
「腕部の負荷リミッター――一万キログラムに変更。ギア比、一倍に設定……モードを『戦闘』に変更――」
再びモンスターに近づいていく猫人族に、フィスは慌てて声をかける。
「ちょっと! 何やってるの! 止まりなさい!」
彼女がどんなに叫んでも、エルは止まらない。
ジャイアントグローは「ガゥルルル……」と威嚇の唸り声をあげた。しかし、それさえ気に留めない。
そして、ジャイアントグローの長い腕が届く位置までエルが進入した矢先、大きく長い爪がエルの頭部に目掛け振り下ろされた!
「ダメーっ!」
「――承知いたしました。私はエルです」
「それでエルは何処からきたの?」
今「エル」という名前をもらったばかりの元アンドロイドは、その質問に二つの解を考えた。一つは、前の世界の地球という星。もう一つは、この世界に転生して降り立った場所――つまり、ここから八十三メートルほど手前の場所。
状況から考え、少女が求めているのは後述だろう――ということになり、その方向を指差す。
フィスは指された方向を向いた。
「東? 確かそっちの方向には猫人族の集落はなかったはずだけど……」
「猫人族?」
それはどういう人種か? エルはハーミットにたずねる。
『こんなイメージね……』
ハーミットはエルの脳裏に画像データを送る。大きな耳が特徴的の二次元キャラだ。
エルは頭に手を乗せる。もふもふの耳が触れた。自分の手がくすぐったく、耳がピクピクと反応している。
「そもそも、猫人族が里から出てくることは滅多にないはずなのに……まあ、いいか……とにかくその格好では寒いでしょ? 私の家に来て」
木の実を入れた袋を持ち上げると、「こっちよ」と言って歩き始めた。
「えーと、フィスさん? ところで……」
エルが呼び止めるので、フィスが「なに?」と振り向く。
「あちらから来る大きな生命体はお知り合いですか?」
「………………えっ?」
草木が揺れている。そして、何か唸り声も聞こえる。すると突然――
グシャア!
草木が派手に折れる音がして巨大な生物が現れた。
「ジャイアントグロー⁉」
フィスが叫ぶ。
熊のような容姿だが、体長は三メートル近い。そして最も特徴的なのは、攻撃手段となる二本の腕。脚よりも発達したそれはシャベルカーを二体連結したような容姿だ。白目を剥き、大きな口からヨダレが絶え間なく滴り落ちている。つまり、尋常じゃない。
「上級モンスターが何故こんな場所に!」
フィスが声に出して驚きを示した。
「上級モンスターと言ってますが……」
エルがハーミットに報告する。
『上級ということはそれなりに強いのかもね。しかし、情報が足りないなぁ……まずは言葉が通じるか話してみて』
「――話す? 会話するのですか?」
エルと名付けられた元アンドロイドのネコ耳娘は、ジャイアントグローに歩み寄る。それを見たフィスは慌てた。
「ばっ、バカっ! 下がって!」
フィスの忠告を無視して、モンスターの前に立つ。
「――警告します。それ以上接近した場合、攻撃を開始します。直ちにこの場から立ち去って……」
そこまで声にしたところで、ジャイアントグローの長い腕が横から飛んできた! エルの脇腹を強打する!
その反動で十メートルほど吹っ飛ばされて、地面に叩き付けられる。横転を繰り返したあと、紐の切れた操り人形のように、だらしなく横たわった。
「なっ!」
フィスという赤毛の少女は「くっ!」と歯を食い縛り、大きなモンスターに杖を向けた。
その様子を薄目を開けて見ていたエル。だが、カラダは激痛で身動きできない。
『まだ調整ができていないのに、いきなり相手にするから。ちゃんと、準備しないとダメだよ』
他人が聞いていたら、「そんなことを言っている場合じゃないだろう!」と怒りそうだが、ハーミットはのんきにそんなことを言う。
話しかけろと言ったのはそっちでは? と、エルは思ったが、それより……
「痛いです……これが痛覚ですか?」
初めて感じる痛み。カラダ全体に高圧の電気が流れたかのようだ。
『そうみたいだね……かなり派手に転んでいたけど、センサーも駆動部もエラーは出てないよ。念のため自己診断をやってみて』
「了解……」
エルは自己診断を開始する。
「光学カメラ――正常。赤外線センサー――正常。集音マイク――正常。送受信アンテナ――エラー。全てのバンドで受信できず」
『あ。それはスルーで――』
「各駆動部の異常――確認されず。起立開始」
ゆっくりと立ち上がる。足を踏ん張っても違和感がないことを確認すると、再びジャイアントグローへと向かう。
「脚部駆動部の出力調整……最適化。反応速度……最適化……」
エルはぶつぶつと呟きながら、フィスの横を過ぎる。
「エル! だ、大丈夫だったの⁉」
そう呼びかけられるが、何も応えず前進を続けた。
「腕部の負荷リミッター――一万キログラムに変更。ギア比、一倍に設定……モードを『戦闘』に変更――」
再びモンスターに近づいていく猫人族に、フィスは慌てて声をかける。
「ちょっと! 何やってるの! 止まりなさい!」
彼女がどんなに叫んでも、エルは止まらない。
ジャイアントグローは「ガゥルルル……」と威嚇の唸り声をあげた。しかし、それさえ気に留めない。
そして、ジャイアントグローの長い腕が届く位置までエルが進入した矢先、大きく長い爪がエルの頭部に目掛け振り下ろされた!
「ダメーっ!」
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