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第四章 縛りと役目

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~sideゼン~


 凛くんが俺等の腕の中で意識をなくすと、ピリついていた空気がなくなり、身体が軽くなる。それはきっと獣にとってはもっと影響がある筈で、その証拠に息が乱れている狼二人は、身体が震えていた。


「お前等は、何を知っとるんや。凛を求める理由はなんや」


「……言えない。けど、魂は兄弟だ。それに凛は、俺にとっても特別で、どうしても欲しい。抱きたい、噛みつきたい、孕ませたい……優しくしたい、大切にしたい、拒絶されたくない。そばにいたい」


 洸と名乗った方は、俺とゼルが凛くんを求めるのと似ているが、洸の場合はそれが一方通行の感情だった。


 グチャグチャやないか。なんで凛くんの事知らん奴が、ここまで求めるんや。好きでもないくせに、魂が求めるからって、普通ここまでになるんか??


「いいな、洸……俺も陣に会いたい。やっと、やっとやっと会えるチャンスなのに……何回も輪廻巡って、逃げられて……まだ会えてないのに。ねぇ、会えるだけで、この渇き収まるの?? 洸、教えて……そばに居れば、潤うの??」


「耀……俺、やっと涙が出た。初めて泣けた。捕まえられないのに、孕ませられないのに……辛くて苦しいのに、それが嬉しい。満たされる」


 こいつ等……俺等に似すぎやろ。執着しすぎや。下手に離したら危険でしかない。俺等に似とるからこそ、考えが分かってまう。


「兄貴、こいつ等危険や。けど、凛をはよ寝かせてやりたい。このまま放っといたら、陣も危ないんやないか??」


「分かっとる。せやから、ここから動いとらんやろ。親父の奴、どこ行きやがった」


「ここに居るよ。ふぅ……凛の怒りはキツイな。耀と洸は、凛と陣をどうしたいんだ。もし今を壊すなら、俺はお前等を天界に帰す。また輪廻を巡れ」


 親父は近くに居たリュカを連れて帰ってきて、珍しく冷たい目をしていた。しかし耀と洸は怯む事なく、親父を見てハッキリと言う。


『ただそばに居たい』


「出来るなら、兄さんとも呼びたい。凛の枷を付けてもいい。だから、陣に会わせて」


「俺も耀と同じだ。凛の枷を付けてでも離れたくない。やっと会えたのに……嫌だ。離れるなんて嫌だ」


 洸はこっちを見ると、リュカが凛くんの額に手を当てているのを見て、リュカと俺達の間に割り込んできた。


「凛に触るな!! 兄さん達に近寄るな!!」


 こいつ……まさかブラコンか?? ちゅーかゼルの事、兄呼びするんは笑えるな。ゼルの奴、なんとも言えん表情しとるやんか。


「おい、駄犬……よう見いてみぃ。リュカの耳飾り見れば分かるやろ。リュカ、氷嚢持ってきてくれたんやろ??」


 俺は洸をどかして、リュカから氷嚢を貰うと、リュカは洸と目を合わせた。


「俺は凛の眷属だ……これは凛がくれた証。魂を捧げたら、俺だけの凛の音をくれた」


「音……凛の音……ネコの音はなくなった筈だ。それに、それは枷じゃない……綺麗な証」


 リュカの奴、序列的には上の双子に、マウンティングしとるんか……珍しいやん。まあ、狼にマウンティングは必須よな。


「ゼル、俺のカバンに解熱薬入っとるから、出してくれんか?? 今なら動いてもええやろ」


「飯は大丈夫なんか?? 胃になんも入っとらんと、まずいやろ」


「大丈夫や。今朝はいつもより食べとったし、凛くんは消化遅いみたいやからな」


 ゼルに探してもらっている間に、俺は凛くんに口移しで水を飲ませると、しっかり飲んでくれたため、座って凛くん上体を起こし、ゼルが持ってきた薬を飲ませた。


「んンッ……ぜん。ぜん、もっとほしい」


「凛くん、起きてもうたんか?? まだ寝とってええよ」


「ふぇ……やだ。ねたくない、ねたくな……」


「わ、分かった!! 起きとってええから、泣かんでや」


 俺が寝かせようとすると、凛くんが寝そうになりながらも泣き始めて、俺はゼル以外の全員に睨まれた。


「凛、寝たくないんか?? なんでや??」


「ぜる……俺、ばれーしたい。みんな倒れちゃった。あやまらないと」


「ぐっ……可愛すぎる!! 凛、気にしなくていいから、今日はゆっくり休みなさい。明日からは、凛にも協力してもらうから、ゼンとゼルに可愛がってもらうんだよ……坊ちゃんコスから、着ぐるみに変更してもいいな」


 親父は凛くんの可愛さに悶え始め、呑気に何を着せるか考えている。さっきまでの冷たい表情とは大違いだが、着ぐるみには俺も賛成だ。


「わかった。ぜん、ぜる……えっちしよ」


「ん!? ちょ、今はアカンから!! 親父、余計な事言うなや!!」


「凛!! 脱ぐのはアカン!! 家帰ってからや!!」


 凛くんは俺達の首に抱きつくと、その後に服を脱ぎ始めようとして、俺とゼルで慌てて服を押さえるが、凛くんがポロポロと泣き始めてしまう。


「ぜん、ぜる……俺やだ??」


「嫌やない!! むちゃくちゃ抱きたいけど、ここは凛くん狙う奴ばっかなんや!!」


 そう伝えると、凛くんは周りを見て、耀と洸をみつけて固まった後に、ふわりと笑った。


「ゼンとゼルそっくり。洸おいで……枷付けてあげる。ゼン、ゼル……動いちゃダメだよ」


 凛くんの言葉に、俺とゼルは全く動く事が出来ず、洸だけが凛くんに近づくと、凛くんに言われた通りに動きだした。


「耀は待て……俺じゃない。洸……全部俺にちょうだい」


「喜んで。凛に俺の全部をあげる」


 嫌な予感するわ。凛くん、それ以上はやめてくれ。


「ゼン、ゼル、大丈夫だよ。二人は特別だ。俺の大事な番……二人の弟なら、洸も大事な家族だよ。許して欲しいな」


「凛……許すんはキスまでや」


 ゼルの奴、喋れるんか!? それなら、条件つけられる。


「凛くんは俺等のもんや。心も身体も、全部俺等のもんや。恋愛感情は俺等だけ、身体も渡さん。孕ませるなんかもっての外や。俺等の契約とは違うちゃうんやろ?? それは枷なんよな??」


 俺がジッと凛くんの目を見ると、幼児化してないのか、ハッキリと答えた。


「そうだよ。鈴の音も、ゼンとゼルとは違う。あくまで枷だ。番でもない……けど、家族にはしてあげよう?? ゼンとゼルにそっくりなんだ。このままにしたら、きっと酷くなる」


 知っとる……俺が洸の立場なら、枷でも愛がなくても、そばに居れるんやったら……凛くんが幸せなら一緒に居たい。離れるのなんか、考えられんのや。


「キスまでや。他は許さんし、凛くんが我慢するんも許さん。嫌ならちゃんと拒否して、凛くんからキスするんも今だけや。一緒に暮らすんも無しやし、家族や言うんなら、陣や佐良さん達と同じ位置や。リュカの言う事は聞け。それなら許す」


「ありがとう。ゼン、ゼル……大好き」


 凛くんは俺等にキスをした後、洸に舌を出すように言って、小さい舌でなぞると、洸の舌には三つの鈴の印がつき、白とグレーと水色の俺等の色になっていた。


「うぅッ……痛い、痛い」


 洸が痛みで蹲っていると、耀は心配そうに洸に寄って行き、声をかけ続けていて、凛くんは俺の腕の中でぐっすり眠っていた。


「兄貴……あれ、足と手と首に枷がついとる。凛、俺等の色も混ぜよって、かなり強力に縛ったで」


「せやな……俺等の事考えてくれたんやろ。不安にさせない為に……アレ、相当痛いで。凛くんが俺等と2回目に番った時の倍は痛いやろうな。意識飛びそうになっとるけど……これ耐えられんかったら、消えるやろうな」


「レオの目的はこれか。凛の性格を把握した上で、問題児二人を凛に会わせようとしたんだろうけど……厄介な事しやがって。俺からみんなには伝えておくから、ゼンとゼルは凛を連れて帰りな。あと、リュカを借りたい。洸の制御にリュカを使う」


 リュカが頷いているため、俺達は凛くんに内緒で買っていた、東京のマンションへ久しぶりに帰る事となった。



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