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第二章 新しい生活

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~sideゼル~


「はあ!?」


 ええ反応やなあ。この監督さん、うちのセンセに反応が似とるんよなあ。まあうちのセンセは監督なんか呼べんけどな。


「お前等……洗脳でもしてんの??」


「酷いわぁ。監督、俺等の事そんな奴やと思ってたん?? 洗脳なんかする訳ないやんか。凛くんが俺等を信用して、全部委ねてくれとる証やん」


「まあ、多少は思ってたな。というか、寝かせてどうするんだ??」


「ゼルが寝かせたんは、多分凛くんの脈が早かったからやな。ここでキスしてもええけど、監督が困るやろうから、寝かせたんやろ??」


「まあ、俺等は困らんけどな。それに、ここから先はもっと人多くなるやろ?? 凛は大きい奴等に囲まれるんが、かなり怖いみたいやからな。体育館まで寝かせた方がええかなって」


「それを早く言え。それより起こせるんだよな?? 前に熱出た時も起こしてたし」


「誰が呼んでも起きんけど、俺等が呼んだら起きるで」


 そこから無言になった監督さんに俺達はついて行って、凛が注目されているのか俺等が注目されているのか、とにかく視線を集めていた。そのせいか監督さんの歩くスピードはどんどん早くなり、最終的には走っていたが、めちゃくちゃに揺らされているのに、凛は全く起きなかった。


 そして着いた体育館。中に入ると、前の合同練習で来てた奴の他にも人が居て、一気に視線が集まった。


「はい、お前等。騒ぎたいなら今のうち騒いどけ。凛の事は説明してあるだろ。こいつが起きたら、騒げないぞ」


 その瞬間、ワッと全員のテンションがマックスまで上がる。


「ゼン選手だ!! まじ!?」


「あれ噂の弟か!? 背高ッ!! ありゃブロックの上ぶち抜くわな。それに兄弟並ぶとすげぇ威圧感」


「あの子なんで寝てるんだ?? というかよく起きないな」


「ぬいぐるみ!! あの子SNSで噂の子だろ?? 寝姿可愛すぎる!! 確か選手限定のファンクラブがあるって!!」


 兄貴の話から俺の話、そして最終的には凛の話ばかりになる。合同練習組は、それを遠目から見ていて、こっちの様子をチラチラと伺っていた。そんな中、兄貴は凛を抱えたまま、ベンチ座って凛の様子を見ている。


 アレ、何考えとるんや?? 流石に真顔でずっと見とるのは……気持ち悪いな。


「はい、終わり!! あとは少し離れてろ。ゼン、凛の事起こせるか??」


「んー、監督試してみん??」


 兄貴に言われて、渋々起こしに行く監督さんは、凛の名前を呼んで、最終的に揺すってみるが、全く起きる気配がなかった。


 揺すっても起きないんか。やっぱいまだに俺等だけに反応するんやな。


「凛くん、起きて」


「ゼン……ここどこ??」


 凛が起きた事に、監督さんは若干引き気味で、凛ではなく俺等を見てくる。


「体育館やで。凛くんの知っとる奴も居るやろ??」


 凛は大学生の方を向くと、ピシッと固まった後に、リベロの人達を見つけて、少しホッとした様子だった。兄貴は凛の首に手をあてて、大丈夫だったのか、俺の方を見て軽く頷く。


「挨拶しないと……ゼン、下りれない」


「その前に監督から話あるんやないかな??」


 兄貴に話を振られた監督さんは、凛の前にしゃがんで話し始める。


「凛、こいつ等……見覚えない奴等にも、凛の事は説明してある。みんな知ってても、凛の入学を待ってる。だから安心していい。あんまり気を張らなくていいし、ぬいぐるみも持ってればいい。それでも不安ならゼンかゼルに抱いててもらっても問題ない」


「そう……なんだ。ありがとうございます」


「……こんな良い子が……何でこの二人なんだか」


「何回言うねん!! 監督、ええ加減諦めや!!」


 俺と凛はその後挨拶して、少し練習風景を見ていたが、俺だけは練習に呼ばれてしまった。


「行ってきたらええやん。ここのシャワー借りればええんやし。お前そのつもりで、ジャージ着てきたんやろ??」


 そうなんやけど、凛と離れるんは嫌やなあ。けど混ざりたい気もするし。


「ゼル行ってらっしゃい。俺、ここでどんな練習メニューなのか、メモしておくから」


「凛がそう言うんなら、ちょいと行ってくるわ」


 もう既に、兄貴のタブレットを使ってメモを取る凛は、集中してしまっていて、顔は見れなかったが、なんだか楽しそうにしていた。


 そして俺が練習に混ざって少しすると、合同練習の時によく話していた、MBの水無瀬みなせさんと、同じくMBの進藤しんどうさんが声を掛けてきた。


「よう!! あれから調子はどうだ??」


「水瀬さん……相変わらず軽いっすね。調子は上がってく一方やなって感じですね」


「若いっていいね~。俺なんかもう止まっちまったぞ。内定決まってるのに、どうすんだって今悩んでるとこだわ」


 進藤さんは、ええMBなんやと思うんやけど、確かになんや物足りんっちゅうか……俺とは真逆のスタイルやから分からんなあ。


「進藤さん、それ言ったら全員伸び悩み中じゃないですか。まあ、そういう時期なんだろうけどな。ゼルも成長出来てるうちに、色々試した方がいいぞ~。スランプはくるからな」


「いや、俺今までがずっとスランプみたいな感じやったんで、暫くは……っちゅうか凛が居れば、俺も兄貴もスランプ来ても、すぐ乗り越えれる思っとるんです」


「うわ、出た。凛くんってまじで凄いよな。うちのリベロ、あの合同練習中だけで、かなり調子良くなってる……というか上手くなったんだよ」


「それな。あの二人だけズリィってみんな言ってたわ」


 水無瀬さんと進藤さんが、凛の方を見たため、俺もつられて凛を見ると、何故か手招きされて、二人も監督に呼ばれた。

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