異世界でも馬とともに

ひろうま

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第2章 神獣の解放

17-戦闘訓練2

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「話がそれだが、あの家は大きすぎて買い手が着かないんだ。ユウマ君が気に入ってくれたなら、安くするからどうかな思ってな。」
「買いたいですけど、安いといっても、かなりの額でしょう。」
「一応150,000Gで考えている。」
「えっ?安くないですか?」
前見た小さい家の値段を考えると、かなり安く感じる。
「さっきも言ったように、あの家は買い手が付かなくて、維持費ばかり掛かるんだ。後は、ユウマ君ということで少し安く設定させてもらった。」
「ありがとうございます。まあ、それでも簡単には払えないんですが……。」
「そこで、この前言ってた例の話だが……。」
ジョーンズさんがクレアを見たので、僕も釣られてそちらを見る。
「何?」
「前、クレアが、角を少し売っても良いということを言っていたよね?」
「ああそれ?もちろん、少しなら全然問題ないわよ。」
「正式ルートで売ると目立ち過ぎるから、ジョーンズさんに相談してたんだ。」
「そうなの?私はその辺のことはわからないけど。」
魔物であるクレアが、人間の商流なんか気にするはずないか……。
「その点について、目処が立ちそうだ。でだ。その利益を、家代に充ててもらうというのはどうだろう?」
「それで良ければ、こちらも助かります。」
「そうか。恐らくなくなんとかなると思うが、念のため契約は確定してからにしよう。もちろん、家はこのまま使ってくれて良い。」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます。」
一度遠慮した方が良いのかも知れないが、じゃあ一旦返してくれみたいに言われると困るからな。ジョーンズさんは、そんなことしないとは思うけど……。

「それで、依頼の方は、いつからですか?」
「おお。忘れるところだった。」
依頼は明後日からで、ギザールさんも一緒らしい。
ルコルさんとライアさんは新婚旅行中ということで、ギザールさんは現在ソロで活動中ということだった。
こっちの世界にも、新婚旅行とかあるんだな。
「是非受けたいんですが、今クレアの訓練もやってるので、調整させて下さい。」
「わかった。ユウマ君が一緒だと移動時間も短いから、出発時間をずらすことも可能だと思う。」
「ありがとうございます。」
明後日は訓練が休みの日なのでちょうど良いが、問題は次の日からだ。

~~~
『昨日はお前の実力を見ることがメインだったから軽めにしたが、今日からはそうもいかないぞ。』
訓練開始早々、セルリアの念話が入った。
これは、クレアに向けて使っているのだろう。
『わかりました。大丈夫です。』
『しかし、お前からは話しかけられないため、いざというときに困るだろう。だから、お前にも我の加護を与えよう。』
『えっ?ありがとうございます。』
あれ?セルリアがそんなことするとは、珍しいな。

================
名前:クレア
種族:ユニコーン
性別:♀
年齢:221歳
HP:5,200/5,200
MP:55,000/55,000
能力値:▼
スキル:光魔法、回復魔法、念話
加護:神竜の加護
契約主:ユウマ
================

確かに、加護と念話スキルが付いている。
『では、こちらからの念話を切るから、話し掛けてみろ。』
クレアは、セルリアだけに話し掛けたのだろう。やり取りは聞こえないが、クレアが嬉しそうなので、上手くいっているのがわかった。
『問題無さそうだな。さて、昨日見ていて気になったことを伝える。』
『はい。』
話が聞こえるようになったから、セルリアから念話をし直したということだろう。
『お前は、これまで自分より強い相手が居なかったせいだろうが、防御に回ったときの行動ができていない。』
『うっ……。』
『自分より強い相手と戦う場合、防御中心でカウンターを狙うということも必要だが、今のお前では、防御の動きにムダが多くて、カウンターどころではない。昨日みたいに、防御中に攻撃されると簡単にダメージを受けてしまう。』
『……その通りです。』
『従って、今日からはそこを重点に鍛える。と言っても、繰り返して体で覚えるしかないからな。先ずは、いくつかの単純パターンで攻撃するから、それを回避してみろ。』
『わかりました。』
今日は、昨日と違ってクレアの動きがほとんど見えない。それでも、時々クレアが飛ばされているので、攻撃を躱し切れてないのだろう。

しばらくして、クレアの動きが止まった。
『少し休みを入れよう。』
クレアは、かなり疲れているようだ。ダメージはヒールで回復できるが、疲れは取れないようだ。キュアで直せるような状態異常とも違うし、ある意味疲れというのは厄介だな。
人でもそうだが、能動的に動いている時より、受動的に動かされているときの方が疲れるものだ。クレアは基本能動的に動くのが常だったので、余計に疲れが酷くなるのだろう。

間もなく訓練が再開され、先程と同じ時間位経った頃終了となった。
クレアのステータスを確認してみた。

================
名前:クレア
種族:ユニコーン
性別:♀
年齢:221歳
HP:600/4,800
MP:200/50,000
能力値:▼
スキル:▼
加護:▼
契約主:ユウマ
================

思った以上に消耗していた。本当にギリギリまでやった感じだ。
二人が戻ってきたので、出迎える。
「二人とも、お疲れ様!って、クレア?」
「少しこうさせて。」
クレアが僕の肩に頸を乗せてきた。少しでも早くMPを回復したいのかな?
クリーンを掛ける余力もないのか、汗びっしょりだ。ユニコーンも汗かくんだな。
「そう言えば、マナポーションとかはどうなの?」
「あれは相当高価だけど、効果はそんなにないわ。人間の魔力回復には役に立つけど、私達には余り意味がないわね。」
「そうなんだ。」
「それより、こうしてマスターにくっついてる方が効果あるのよ。」
より一層、体を押し付けてくるクレア。汗が染み込むが、仕方ないかな?
ついでに、頚に腕を回してやる。こうすれば、より早くMPを回復できるのではないだろうか。
「もしかして、僕、従魔のMP回復屋とかで儲けられるかな?」
「それも有りかもね!」
「ダメよ。人の従魔があなたから離れたがらなくなったら、困るでしょう?」
横からルナのツッコミが入った。
「それもそうね。私も離れたくないもの。」
「確かに、それはお互い困るな。で、そろそろ離してくれない?また、夜には一緒に寝るんだから。あと、クリーンを掛けてね。」
「ごめんなさい。汗で汚しちゃったわね、『クリーン』。」

「仲が良いですね。」
「お恥ずかしい所をお見せしました。」
いつの間にか、カイトさんが来ていたようだ。
「いえいえ、ユウマさんが慕われているのが、よくわかります。」
「明日も来られますか?」
「はい。それで、相談させてもらいたいことがあるんですが。」
「なんでしょう。」
「先ず、訓練の日程ですが、原則3日訓練したら1日休みとさせて下さい。最初の休みは明後日になります。」
「わかりました。問題ありません。」
「もう一点ありまして、訓練の時間なんですが、遅くなっても構いませんか?」
「ここは、今はユウマさんたち専用にしてますので、十の鐘までに終わってくれれば問題ないです。」
「助かります。実は明後日から、護衛の依頼がありまして、当日の護衛が終わってから、戻ってくるので遅くなるのです。」
「戻れるのですか?」
「はい、テレポートして戻ってくる予定です。」
「……。」
「どうしました?」
「いや、ユウマさんを敵に回してはいけないなと、改めて思いました。」
ここでも、言われてしまった。まあ、セルリアもいるし、僕も逆の立場なら敵対しようとは思わないだろう。

家に帰って寛いでいると、ステラが話し掛けてきた。
「あのー。ユウマとルナさんに相談があるんだけど。」
「何?」
「護衛依頼の時、途中だけでいいので、アタシがユウマを乗せてみたいんだけど……。」
「成る程。馬場だけじゃなく、野外での歩きも慣れたいということかな?僕は、構わないけど、ルナはどう?」
「私は戦えないから、ステラがあなたを乗せている間、仕事がなくなっちゃうけど……まあ、クレアやセルリアもいるし、少しなら良いと思うわ。」
「ありがとう。多分最初は慣れなくて、迷惑掛けるかも知れないし、少しづつにするわ。」
「そうだね。ステラは、気疲れするタイプみたいだから、無理しないようにね。」
「ステラ、段々魔物らしくなくなって来てる気がするわね。」
クレアが、誰にともなく、そう呟いた。

~~~
翌日は、朝から雨だった。
こっちに来てから、初めての雨だな。
クレアに聞くと、この時期は雨は少ないらしい。
昨日はジョーンズさんの所に長居してしまい乗馬に行けなかったので、今日は行こうと思っていたのだが、雨の日に無理に行くことはないのでやめておいた。

依頼のことで話をしとかないといけないから、ジョーンズさんの所には行っておきたい。
皆は家に残して、ジョーンズさんを訪ねた。傘がないので、仕方なく濡れて行こうとしたら、なぜか濡れなかった。もしかして、雨も攻撃とみなされてる?
「ジョーンズさん、おはようございます。」
「おはよう、ユウマ君。今日は早いな。」
「はい。家から直接来ましたので。」
自分で言っておいてあれだけど、この理由、ジョーンズさんには意味がわからないような……。
「そうか。それで、どうした?」
流されてしまった。さすが、ジョーンズさん。
「依頼のことですが、多分調整はいらないと思います。」
「大丈夫なのか?」
「初日は訓練は休みですし、2日目と3日目も、多分移動終わってから戻っても間に合うと思います。」
「前回もかなり早く着いたしな。それにしても、テレポートがあると便利だな。」
「ステラには本当に助けてもらってます。しかも、今回は僕を乗せたいと言ってますし、僕には過ぎた妻です。」
「ハハハ、ユウマは幸せ者だな。」
「ところで、明日は、やはり朝一番で出発ですか?」
「まだ言ってなかったな。一番の鐘が鳴ったら、ここに来てくれ。あと、今回は馬車2台になる。私の扱う商品の関係で、ワーテンからセラネスに運ぶ荷の方が少ないんだ。」
「わかりました。明日はよろしくお願いします。」

~~~
その日のクレアの訓練を終えて、家でゆっくりしていると、人が訪ねて来た。
この家に人が訪ねて来るのは、初めてだな。
もしかして、新聞を取れとか、受信料払えとか……いや、この世界には、そんなのはないか。
出てみると、ジョーンズさんの知り合いということだった。
「はじめまして。ジョーンズさんには懇意にされてもらってる、トリートと申します。」
「はじめまして。雨の中、ご苦労様です。それで、どのようなご用件で?」
『この人から少し悪意を感じるわ。気をつけてね。』
『わかった。ありがとう。』
人の悪意に敏感なクレアが念話で注意してくれた。
「私共も、色々と商品を扱っておりますので、機会が有りましたら、是非ご用命いただきたいと思いまして……。パンフレットをお持ちしましたので、よかったらご覧下さい。」
「あ、はい。」
「では、これにて失礼いたします。お時間をいただき、ありがとうございました。」
ただの営業にも見えるが、クレアが言うのだから、何か裏が有るのだろう。

さて、明日から護衛があるから、今日は早めに寝るか。
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