異世界でも馬とともに

ひろうま

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第1章 異世界転移

閑話2~クレアの想い~(クレア視点)

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ユニコーンという種族は気性が荒く、私も例外ではなかった。
さらに、ユニコーンの角には不思議な力があるらしく、それを求めて人間が何度も捕獲しようとしてきたこともあって、人間とみると攻撃をしかけるようになった。
もちろん、あからさまな敵意を持った人間以外は殺してはいない。
人間側も警戒するようになったのか、あまり近づいて来なくはなって安心していたが、ある日女の人がやって来た。
明らかに普通の人間とは違う雰囲気で、いつもとは勝手が違っていた。後でわかったことだが、この人は勇者で、国の要請で私の捕獲にやって来たらしい。

その戦いで、私は初めて人間に負けた。
彼女は従魔術のスキルを持っており、従魔になれば殺したり閉じ込めたりしないということだったので、それに従った。
元々魔獣は強い者に従うという習性があるため、彼女に従うことにそんなに抵抗はなかった。
その人は優くて、私をある程度自由にさせてくれたし、人間の世界のことも色々と教えてくれた。
従魔になる側の意思だけで従魔契約できるという話しも、その人から聞いた。そのときは、そんな魔物がいるのだろうかと疑問に思ったのだが……。

彼女が年を取って勇者を引退するとき、私は契約を解かれた。彼女がその後どうなったのかはわからないが、今はもう亡くなっているのは間違いないだろう。
その後は、なるべく人間と合わないように、移動を続けた。
バイコーンと出会ったのは、そんな時だった。もう、結構前のことになる。
自分で言うのもなんだが、私は魔物のなかでもかなり強い方なので、私と対等に渡り合える魔物はなかなかいない。バイコーンは、そんな貴重な存在だった。激しいバトルをしても、お互いあまり傷付くことがないため、遠慮なく攻撃ができるのは気持ち良かった。
ただ、最初はバイコーンは戦い慣れていないようだったので、かなり手加減しなければならなかったが。
計算外だったのは、人間の街から近い場所だったということである。人間が時々来るようになって、そのときはバトルを中断せざるを得なかった。場所を変えたいところであるが、バイコーンが一緒に来てくれるとは限らず、ずっとその状況が続いていた。それにしても、捕獲の依頼が出されていたとは……。

~~~
今日もバイコーンといつものように戦っていたら、突然男の人が現れた。森の深部側から人が現れるとは予想していなかったので、そちらは警戒していなかったのだ。
ちょうどお互い魔法を放ったところで、その人に両方の魔法が直撃してしまった。
『殺してしまったら厄介なことになるわね。』と思いつつ近づいていくと、驚いたことにその人はダメージすら受けていない感じだった。服はボロボロになっていたげど……。
しかも、彼――後でユウマと名乗ったが――に近づいた途端、表現し難い不思議な気持ちになった。
「えっと、大丈夫?」
自分でも、とっさに人間を気遣うような言葉が出てきたのには驚いた。
その後現れたルナという馬は彼の妻だというし、かなり混乱してしまったが、彼の話を聞いてある程度理解できた。

私は彼に興味を持ったので、以前聞いた従魔契約を試してみることにした。半信半疑だったが、うまくいったようだ。まさか自分がこんなことをする日が来るとは思わなかった。
ちなみに、キスについては、私がとっさに思い付いたことだ。従魔契約にかこつけてキスしたくなったのだ。
理由は自分でもよくわからない……というのは嘘で、私は明らかに好意を持ってしまったようだ。
私が人間なんかを好きになるはずがないと思って自分の気持ちを否定していたが、後で彼が上位種であるということがわかったため、それを言い訳にして自分の気持ちを認めることにした。
ルナさんも普通の馬とは思えない存在感があると思ったら、こちらも上位種だった。
マスターの奥さんということもあるが、なぜか呼び捨てするのは違う気がして、『さん』付けしている。
私には似合わないなとは思うのだけれど……。

~~~
「本当にアタシのところに来るの?」
バイコーン――マスターにステラという名前を付けてもらっていた――が、ねぐらに向かう途中で聞いてきた。

今日は本当に色々とあった。私もクレアという名前をもらったし。
ステラまでマスターの従魔になるとは思わなかったが、私と同じようにキスを求めていたということは、恐らく同じ気持ちなのだろう。
もしかすると、彼は魔獣を惹き付けるスキルのようなものを持っているのかも知れない。

「もちろんよ、私のねぐらは取られちゃったんだから。」
「取られたって、アナタが譲ったんでしょうに。」
「そ、それは……。」
「まあいいけど。それよりさっきのバトルの続きは良いの?」
「しないわよ。ステラは私のことなんだと思ってるの?」
「戦闘狂?」
うっ、否定できない。
「マスターたちといると、なんか戦う気がなくる感じなのよね。」
「そう言われてみれば、そうね。それにしても、不思議な人よね。」
「マスターのこと?そうね、確かに不思議な人。ステラ、マスターのこと好きになったんでしょ。」
「な、なんでアタシが?」
「じゃあ、なんで従魔になったの?しかも、キスしてたし。」
「も、もちろん成り行きよ!そういうアナタはどうなの?」
「もちろん、好きよ。」
「えっ?」
「ステラも素直になりなさいよ。楽になるわよ。」
「ウグッ!」
話をしているうちに、明らかに誰かがねぐらにしていると思える場所に着いた。
「あら、ここなのね?その辺で休ませてもらうわね。」
「……。」
ステラには偉そうに言ったが、自分も素直になれていなかった。
なので、その言葉は自分自身に言い聞かせたものでもあったのだ。
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