異世界でも馬とともに

ひろうま

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第1章 異世界転移

閑話3~ステラの想い~(ステラ視点)

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アタシは、小さい時から周りの魔物たちに避けられていて、独りぼっちだった。
母もバイコーンだったが、私が生まれてすぐに死んだらしい。誰かが見ていたわけではないから、アタシが生まれたときに残されていた角からの推測でしかないが……。
何もしていなくても、人間にも恐れられるので、人間の近くにも住めない。
森の中の魔物が少ない場所を見付けて住み着くようにしたが、そういう場所はアタシも住みにくく、何年かごとに居場所を求めて各地を点々とした。

そのようにしてさまよってここに辿り着いたのだが、その時にユニコーンに会った。
またいつものように避けられるかと思ったのだが、彼女はなんと、アタシを見るなりいきなり攻撃を仕掛けて来た。
「強い!」私は直感的にそう感じた。
私の直感は正しかったようで、彼女は様子見程度と思われるのに、私は全然歯が立たなかった。
アタシが力尽きると、彼女が寄ってきて言った。
「つまらないわね。もっと強くなりなさい。また、来るから。」
それが、彼女の最初の言葉だった。

彼女が去ってから、彼女の言ったことについて考えた。
思えば、アタシは強くなろうとしたことがなかった。戦いにならないように、逃げて来たからだ。
本能が、彼女とアタシは能力的にそう違いがないと告げている。
彼女もそれを感じたから、攻撃してきたのだろう。おそらく、大きな違いは経験値だ。
突然攻撃してくるとか、とんでもない相手だが、しかし彼女と出会えたことを喜んでいるアタシがいた。

~~~
彼女とバトルを繰り返すうちに、何とか対抗できるようになってきた。
今日も、そこそこのバトルが出来てると思ったが……。
「ちょっと、なに邪魔してるのよ!」
まさか、人間が邪魔して来るとは思わず、反射的に文句を言った。
しかし、考えてみると、ユニコーンとバイコーンの攻撃をまともに受けて平然としてるのはおかしい。
しかも、アタシたちを恐れた様子もなく話しかけて来る。

ユニコーンが何を思ったか、人間と一緒に行くと言い出した。しかも、自分から従魔になってるし……。
でも、不思議なことに、アタシもそうしなきゃいけない気がした。ユニコーン――クレアと名付けられた――に対抗したいんだ、と自分に言い聞かせてみたが、本当はわかっていた。アタシは、この人間――ユウマというらしい――に惹かれてるんだと……。

ちなみに、彼の奥さんになったという銀色の馬――こちらは、ルナという名前らしい――には、すごく気高さを感じた。
あのクレアが、『さん』付けで呼んでいるくらいだ。

~~~
「本当にアタシのところに来るの?」
アタシはその日ねぐらに向かう途中で、クレアにそう聞いた。
「もちろんよ、私のねぐらは取られちゃったんだから。」
「取られたって、アナタが譲ったんでしょうに。」
「そ、それは……。」
「まあいいけど。それよりさっきのバトルの続きは良いの?」
「しないわよ。ステラは私のことなんだと思ってるの?」
「戦闘狂?」
真っ先に浮かんだのが、それだった。
「マスターたちといると、なんか戦う気がなくる感じなのよね。」
「そう言われてみれば、そうね。それにしても、不思議な人よね。」
「マスターのこと?そうね、確かに不思議な人。ステラ、マスターのこと好きになったんでしょ。」
「な、なんでアタシが?」
クレアに指摘されて、動揺してしまった。
「じゃあ、なんで従魔になったの?しかも、キスしてたし。」
「も、もちろん成り行きよ!そういうアナタはどうなの?」
「もちろん、好きよ。」
「えっ?」
クレアが、まさかそんなことを言うとは思わなかった。
「ステラも素直になりなさいよ。楽になるわよ。」
「ウグッ!」
「あら、ここなのね?その辺で休ませてもらうわね。」
「……。」

ねぐらで休みながら、アタシは彼に撫でられたことを思い出した。アタシが人間に撫でられる時が来るとは、想像もしてなかった。
ユニコーンのいう通り、アタシも彼が好きなのだと思う。でも、どうしても距離をおいてしまう。
なぜかはわかっている。彼に嫌われるのが怖いのだ。
癪だけど、クレアに相談に乗ってもらおう。
そう言えば、クレアとまともに話したのって、今日が初めてではないだろうか?

~~~
翌朝、思い切って『ユウマ』と呼んでみた。
これは、クレアの提案だ。
恥ずかしかったので、クレアが作ってくれた話の流れの中でさりげなく言ったのだが……。
「ステラ、おはよう。初めて僕のことを名前で呼んでくれたね。」
彼はそれに気づいたようで、嬉しそうに撫でてくれたが、やっぱり居心地が悪かった。
「もう、じれったいわね。」
「きゃ!」
と、その時、後ろからクレアがぶつかって来た。そのせいで、彼に抱きつかれる形になった。
アタシは、今まで感じたことのない、他人の温かさに感極まったようだ。無意識に涙が流れ出した。
その瞬間、これまで恐れていたことが、馬鹿らしくなった。
「ユウマ、もう少し、このままで……。」
そう言ったのは、彼に涙を見せたくないからだけでなく、この温かさをずっと感じていたいからでもあった。
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