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第十話「運命の宿敵 後編」
第二章 「明かされる過去‼その力は誰が為に‼」・①
しおりを挟む◆第二章「明かされる過去‼その力は誰が為に‼」
<ゴガアアァ───ッッ‼>
大型のNo.005が1体、FIM92から放たれたミサイルの爆風で吹き飛ぶ。
そして、なおも爆風の中を突っ切ってきた個体を1匹ずつ確実に処理して──ようやく、追撃してきたNo.005の群れは全滅した。
・・・気付けば私達は、先程No.017と邂逅した横穴の入口付近まで後退しており、実に20キロ近くも追い回された事になる。
『──周囲に高エネルギー反応なし。これで一段落でしょうか』
「だといいが・・・総員、無事か!」
テリオに周辺のスキャンをさせてから、オープンチャンネルに呼びかけた。
『はい! こちらは・・・あー・・・ティエ、大丈夫?』
『ぜぇ・・・ぜぇ・・・・・・ブ、無事・・・でス・・・・・・』
ヤツらを撹乱させるために無茶な運転を強いてしまったせいか、ピン少尉は肩で息をしているのが聴こえた。
かたや、助手席に座っていた柵山少尉はまだ平気そうだ。
『わ、我々も守っていただいたお陰で無事です・・・!』
次いで、<ドラゴネット>の運転手たちからも通信が入る。
非戦闘員である彼らを守りながらの撤退戦だったので、大事が無くて何よりだ。
思わず胸を撫で下ろしたところで──
『・・・ひぐっ・・・えぐっ! う、うぅぅ・・・・・・』
突然、迷子の少女のようにすすり泣く、か細い声が聴こえた。
それがカルガー少尉のものである事を察して・・・皆、言葉を失ってしまう。
『ず、ずびばぜっ・・・! わ、私・・・そんなつもりじゃ・・・なぐっでぇ・・・っ!』
陽気で快活な普段の彼女からは想像出来ない、弱々しく震えた声──
先程からすんでのところで堪えていた涙が、遂に決壊してしまったようだ。
「・・・・・・」
軍の上官としては、「甘ったれるな!」と今すぐ頬の一つも張った方が良いのだろうが・・・とてもそうする気にはなれなかった。
初めての実戦で立て続けに巨大なジャガーノートを目にして、頼りの相棒は行方不明、おまけについ先程No.005に殺されかけて・・・冷静でいろと言う方が酷だろう。
むしろ、彼女はよくやっている方だ。
己の許容を超える恐怖を体験してなお・・・この撤退戦に於いても先陣を切り、しっかりと務めを果たせてみせたのだから。
・・・だがそれでも、私はまだ「よく頑張った」とは言ってやれない。
「少尉、3分やる。足りるか?」
心苦しいが、この中で<ファフニール>の操縦が出来るのはカルガー少尉のみ・・・
だからまだ・・・私は彼女を、この地獄から解放してやれないのだ。
『ずびっ! そっ、それだけもらえれば・・・大丈夫でずっ!』
涙は止んでおらず、鼻水をすすりながらではあったが・・・少尉には、JAGDの戦士たる自覚がしっかりと残っていた。
無意識に口角が上がったのと同時、柵山少尉から通信が入る。
『・・・隊長。これからどうしますか・・・?』
サラとルクシィ少尉の件については、道すがら柵山少尉とピン少尉にも説明してある。
故に今──これから行うべきは「救出」なのか「撤退」なのかを、少尉は私に問うたのだ。
『キリュウ様! 何卒・・・お嬢様の救出を・・・!』
すると・・・私が答える前に、<ドラゴネット>の運転手たちが声を上げる。
先程の一件で判ってはいたが、やはり彼らの意思は固いようだ。
・・・しかし、冷静に現状を鑑みれば──「地底世界」の探索を開始してからの僅かな間で、既に我々はかなりの消耗を強いられてしまっている。
弾薬や燃料も今の撤退戦でかなり消費してしまい・・・頼りの新兵器も、操縦士が一人では威力を十全に発揮出来るとは言い難いだろう。
そのような状態で、大小のジャガーノートが跋扈する中、地図もなしにどこにいるかも判らない人間を探す──
おまけにそもそも救出対象の生死すら不明であり、人員も少なく隊を分けることも出来ないとなれば、それは無謀と言う他ない。
やはり、何度考えても・・・隊長としての私は、彼らの熱意に応える事が出来なかった。
「・・・今は一度撤退し、救出のための準備を整えるのがセオリーだ」
『し、しかしっ!』
「救出を諦めるわけではない 。・・・だが、外部へ通信も出来ず増援も呼べないこの状況では、たとえ救出に向かったとしても、いたずらに犠牲者を増やす可能性の方が高い」
無論、見方を変えれば、こうしている間にも生きているかも知れない二人の生存率は刻一刻と下がり続けているという考え方も出来る。だが・・・・・・
「・・・それに、想定外の事態が起きている以上、我々には非戦闘員であるあなた方を速やかに安全な所まで送り届ける義務がある」
いま来た道を戻れば、その先に待ち受けているのは凶悪なジャガーノートたち──
そんな死地へ、用意もなく、軍人でない彼らを連れ立つ事は許されない。
『くっ・・・! それは・・・そうかも知れませんが・・・』
・・・ただ、私個人としては、今すぐサラを救けに行きたくてたまらない気持ちもある。
正論を盾にして折れる事を迫りながら・・・私の心には、迷いがあった。
すると・・・まるでそんな私の心に掴みかかってくるかのように、一度は引き下がったかに思えた運転手たちが、再び声を上げる。
『あの方は・・・私にとっての希望なんです・・・!』
『・・・っ! 私にとってもそうですっ! 出自や経歴に囚われず、「あなたが必要です」と仰って下さったお嬢様を・・・こんな所で置き去りにはしていけません・・・っ!』
彼らは続け様に、サラの救出を進言して来る。
そして、遂には──
『お願いします! 私たちの事は・・・ここで見捨てて頂いて構いません!』
『ですから何卒・・・! お嬢様を救けに行くご許可をっ!』
彼らは、JAGDの助力を得られずとも・・・それでも救けに行くとまで言い出した。
「・・・・・・そこまで・・・サラの事を・・・」
三年前は、「自分の命なんてどうなろうと構わない」とまで言っていたサラが──
いつの間にか、誰かにここまで言ってもらえる人間になっていたんだな・・・・・・
そしてどうやら・・・彼らの心に胸打たれたのは、私だけではなかったらしい。
『・・・隊長。ここまで言われたら、僕らも黙って帰れませんよ』
柵山少尉の、薄く笑いながらも強い意志を感じさせる声が左耳に届く。
『我同意! ソレにボクも、ウチのかわイー新人と特別顧問ヲ置いテ行ケないでス!』
次いで、ピン少尉もそれに同調する。
「お前たち・・・」
『ずびっ! ・・・わ、私も! バーグちんとサラぴょんを救けに行きたいですっ!』
最後に、何とか持ち直したらしいカルガー少尉も声を上げた。
『サラぴょんはうちの支局のマスコットだし・・・バーグちんにはこないだ借りたお金も返さなきゃいけないし・・・あとっ! ポーカーでも負け越してるからリベンジしなきゃだし!』
『ボクもバーグに麻将教えてアゲる約束してるシ! 必ズ救ケるヨ!』
二人は、鼻息荒く宣言する。
言葉の端々から、彼らが如何に後輩を想っているかが伝わってくるようだ。
「・・・皆から好かれているんだな、ルクシィ少尉は」
言いながら──先程、私に銃を向けてきた青年の顔を思い出す。
彼の双眸には、私に対する憎しみと・・・同時に、迷いが感じられた。
それは、単に人殺しをする覚悟がなかっただけなのか──
それとも・・・冷酷になりきれない、優しい心根が彼の中にあったからなのか───
『・・・? 隊長?』
「あぁ。何でもない」
・・・私も、カルガー少尉とピン少尉の信じる彼に、賭けてみるとしよう。
さて・・・そうと決まれば、呆けている時間はないな。
「総員、再度装備及び残弾をチェックしろ! 周囲に警戒しつつ<ドラゴネット>より補給を済ませ──準備が出来次第、二人の捜索に向かう!」
『『『アイ・マム!』』』
頼もしい返事を受けながら、私も今一度、気を引き締める。
『マスター。先程の場所への道案内はお任せを。通った道は全てマッピング済みです』
すると、皆のやる気に当てられたのか、テリオまでそんな事を言い出した。
「言わずもがな、道案内はお前の役目だ」
『了解です。・・・それと、マザーの事、ありがとうございます』
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『これは一本取られました。では、道案内の方はマスターにお任せします』
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軽口を受け取ってから──小さく、息を吐く。
二人とも・・・必ず救けに行くぞ・・・!
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