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第十話「運命の宿敵 後編」
第一章「獰猛なる紫の雷王‼ 恐怖の地上侵攻作戦‼」・⑤
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──三年前 インド・マハーラーシュトラ州 バティーニ村──
「サラ様。到着いたしました」
その日──十四歳だった私は、社の車でバティーニ村へと赴きました。
・・・いえ。「赴いた」などと能動的なものではなく、「運ばれた」と言った方が正しいですわね。
あの頃は、何一つとして自分で決めた覚えがありませんから・・・
当時の私は、お父さまを亡くしたばかりで・・・生きる希望を見い出せず、先程も申し上げた通り、希死念慮に囚われていたと言いましょうか・・・自分への関心を失くした状態でしたわ。
「・・・そうですか」
リムジンから降りると、JAGDの隊服を着た男性が二人、出迎えて下さいました。
・・・ですが、彼らは開口一番、私に挑戦的な言葉を浴びせて来たのです。
「へぇ~! アンタが噂の「神童」か!」
「こうして見てみりゃあ、ただのか弱いお嬢様だな」
おそらくは、「テレビやネットで騒がれている小生意気なガキをからかってやろう」くらいのお気持ちだったとは思うのですが──なにぶんこの時の私は、自分と同じくらい他人にも興味がありませんでしたので、特に言い返す事もせず、ただ黙って立っておりました。
お父さまが亡くなった時から、私の心は凍りついてしまったのだと・・・その時は本気で思っていたんですの。
私の時間は止まったまま、後はただ朽ちていくだけだと・・・・・・
・・・ですが、私はそこで出会ったんです・・・あの方に───
「──おい、弱虫はとっととママのベッドに帰るんだな」
第一印象は、よく通る声をしている女性だな・・・というだけでしたわ。
髪が紅いですとか、目付きがとても鋭いですとか、もっとあの方を象徴する所はたくさんありますのに・・・如何にその時の私に余裕がなかったかの証拠ですわね。
「うっへぇ! 女同士ってのは悪口もキッツイなぁ!」
「言うねぇ赤毛サン! 聴こえたかよお嬢様! 判ったらとっとと──」
そして、余計に調子付いた二人に・・・
その女性──アカネ・キリュウ少尉は、吐き捨てるように言い放ちました。
「何を言っている? 私はお前たちに言ったんだ。やり返して来ない相手にしか強がれない、図体ばかりデカくなった弱虫どもに、な」
いま思い返しても、随分と安い挑発だったとは思うのですが・・・
「あんだとぉ・・・?」
彼らには、効果覿面のようでした。きっと、カルシウム不足でしたのね。
「・・・・・・フン。暴力は嫌いなんだがな・・・」
──そして、その後は・・・本当に一瞬の出来事でしたわ。
気付けば、大の男二人が空中で一回転していたんですの。まるで、大道芸のように。
「ぐはァッ‼」
彼らは砂利道に叩き付けられて、苦悶の声が漏れておいででした。
「腑抜け過ぎじゃないか? この後の任務、辞退した方が身のためだぞ」
お姉さまは、表情一つ変えずに──勿論、この時はただ表情筋の動きが乏しいだけだと知らなかっただけなのですが──
男たちを見下ろしていらっしゃいました。
「痛つっ・・・てっ、テメェ! ナメてんじゃ・・・」
一方、彼らは土をつけられても構わず、お姉さまに再度襲いかかろうとして──
「おーう、どうやらみんな早速仲良くなったみたいだな~!」
朗らかな声が、その動きをぴたりと止められました。
声の主は、立派なお髭を蓄えた、アーリア系の顔立ちをした男性でした。服の上からでも判る隆々とした筋肉で、ひと目で軍人だと判りましたわ。
「たっ・・・隊長っ!」
その方こそ、JAGDインド支局機動部隊の元副隊長にして・・・私の参加した特別調査隊の隊長だった──ジャグジット・クマール中尉でした。
・・・言うまでもなく、彼についてはあなたの方がお詳しいですわよね。
「隊長! この女が──」
そして、投げ飛ばされた男性がお姉さまを糾弾しようとすると・・・
「オイオイ、まさかとは思うが・・・屈強なインド支局警備課のエースたちが、訓練校上がりたての娘っ子1人に伸されちまった・・・なんて事はないよな?」
「「・・・はっ、はい・・・・・・」」
ジャグジット中尉は、そう仰って、途端に二人を黙らせてしまいましたわ。
「そいつぁ安心だ。・・・ほら、とっとと出発の準備して来い!」
「アイ・サー!」と声を揃えて、彼らがそそくさと退散された後・・・中尉は、お姉さまに笑顔を向けられました。
「──さすがは「灰 狼」の愛弟子だ。ウワサはインド支局まで届いてるぞ」
「いえ、恐縮です。お恥ずかしい所をお見せしました」
「はははっ! そりゃケンソンってヤツか? さすがは日本人だな!」
両手を腰に当てて、豪快に笑っておいででしたわ。
・・・きっと、普段からああして周囲に笑顔を振りまいていらっしゃったのでしょうね・・・。
そしてお姉さまと少しお話された後、次は私の方に向き直られました。
「今日は遠いところ来てくれてありがとう、ラムパールさん。さっきは悪かったな。俺の教育が行き届いてなくてよ。あいつらは後できちんと叱っておくからな!」
・・・ですがやはり、その時の私は、彼の笑顔に応える事は出来ませんでした。
「構いません。別に・・・どうでもいい事ですから・・・」
「・・・・・・そうか。でもこのままじゃ俺の立つ瀬がないから、やっぱりあのバカタレどもには後で拳骨しておくよ! わははっ!」
ジャグジット中尉は笑ったまま、そう仰られました。
・・・今思い返すと、顔から火が出そうなほど恥ずかしい態度を取ってしまいました・・・
本当に、今からでも謝りたいくらいです。
・・・本当に・・・中尉には・・・いくら謝っても、足りないくらいです・・・・・・
「サラ様。到着いたしました」
その日──十四歳だった私は、社の車でバティーニ村へと赴きました。
・・・いえ。「赴いた」などと能動的なものではなく、「運ばれた」と言った方が正しいですわね。
あの頃は、何一つとして自分で決めた覚えがありませんから・・・
当時の私は、お父さまを亡くしたばかりで・・・生きる希望を見い出せず、先程も申し上げた通り、希死念慮に囚われていたと言いましょうか・・・自分への関心を失くした状態でしたわ。
「・・・そうですか」
リムジンから降りると、JAGDの隊服を着た男性が二人、出迎えて下さいました。
・・・ですが、彼らは開口一番、私に挑戦的な言葉を浴びせて来たのです。
「へぇ~! アンタが噂の「神童」か!」
「こうして見てみりゃあ、ただのか弱いお嬢様だな」
おそらくは、「テレビやネットで騒がれている小生意気なガキをからかってやろう」くらいのお気持ちだったとは思うのですが──なにぶんこの時の私は、自分と同じくらい他人にも興味がありませんでしたので、特に言い返す事もせず、ただ黙って立っておりました。
お父さまが亡くなった時から、私の心は凍りついてしまったのだと・・・その時は本気で思っていたんですの。
私の時間は止まったまま、後はただ朽ちていくだけだと・・・・・・
・・・ですが、私はそこで出会ったんです・・・あの方に───
「──おい、弱虫はとっととママのベッドに帰るんだな」
第一印象は、よく通る声をしている女性だな・・・というだけでしたわ。
髪が紅いですとか、目付きがとても鋭いですとか、もっとあの方を象徴する所はたくさんありますのに・・・如何にその時の私に余裕がなかったかの証拠ですわね。
「うっへぇ! 女同士ってのは悪口もキッツイなぁ!」
「言うねぇ赤毛サン! 聴こえたかよお嬢様! 判ったらとっとと──」
そして、余計に調子付いた二人に・・・
その女性──アカネ・キリュウ少尉は、吐き捨てるように言い放ちました。
「何を言っている? 私はお前たちに言ったんだ。やり返して来ない相手にしか強がれない、図体ばかりデカくなった弱虫どもに、な」
いま思い返しても、随分と安い挑発だったとは思うのですが・・・
「あんだとぉ・・・?」
彼らには、効果覿面のようでした。きっと、カルシウム不足でしたのね。
「・・・・・・フン。暴力は嫌いなんだがな・・・」
──そして、その後は・・・本当に一瞬の出来事でしたわ。
気付けば、大の男二人が空中で一回転していたんですの。まるで、大道芸のように。
「ぐはァッ‼」
彼らは砂利道に叩き付けられて、苦悶の声が漏れておいででした。
「腑抜け過ぎじゃないか? この後の任務、辞退した方が身のためだぞ」
お姉さまは、表情一つ変えずに──勿論、この時はただ表情筋の動きが乏しいだけだと知らなかっただけなのですが──
男たちを見下ろしていらっしゃいました。
「痛つっ・・・てっ、テメェ! ナメてんじゃ・・・」
一方、彼らは土をつけられても構わず、お姉さまに再度襲いかかろうとして──
「おーう、どうやらみんな早速仲良くなったみたいだな~!」
朗らかな声が、その動きをぴたりと止められました。
声の主は、立派なお髭を蓄えた、アーリア系の顔立ちをした男性でした。服の上からでも判る隆々とした筋肉で、ひと目で軍人だと判りましたわ。
「たっ・・・隊長っ!」
その方こそ、JAGDインド支局機動部隊の元副隊長にして・・・私の参加した特別調査隊の隊長だった──ジャグジット・クマール中尉でした。
・・・言うまでもなく、彼についてはあなたの方がお詳しいですわよね。
「隊長! この女が──」
そして、投げ飛ばされた男性がお姉さまを糾弾しようとすると・・・
「オイオイ、まさかとは思うが・・・屈強なインド支局警備課のエースたちが、訓練校上がりたての娘っ子1人に伸されちまった・・・なんて事はないよな?」
「「・・・はっ、はい・・・・・・」」
ジャグジット中尉は、そう仰って、途端に二人を黙らせてしまいましたわ。
「そいつぁ安心だ。・・・ほら、とっとと出発の準備して来い!」
「アイ・サー!」と声を揃えて、彼らがそそくさと退散された後・・・中尉は、お姉さまに笑顔を向けられました。
「──さすがは「灰 狼」の愛弟子だ。ウワサはインド支局まで届いてるぞ」
「いえ、恐縮です。お恥ずかしい所をお見せしました」
「はははっ! そりゃケンソンってヤツか? さすがは日本人だな!」
両手を腰に当てて、豪快に笑っておいででしたわ。
・・・きっと、普段からああして周囲に笑顔を振りまいていらっしゃったのでしょうね・・・。
そしてお姉さまと少しお話された後、次は私の方に向き直られました。
「今日は遠いところ来てくれてありがとう、ラムパールさん。さっきは悪かったな。俺の教育が行き届いてなくてよ。あいつらは後できちんと叱っておくからな!」
・・・ですがやはり、その時の私は、彼の笑顔に応える事は出来ませんでした。
「構いません。別に・・・どうでもいい事ですから・・・」
「・・・・・・そうか。でもこのままじゃ俺の立つ瀬がないから、やっぱりあのバカタレどもには後で拳骨しておくよ! わははっ!」
ジャグジット中尉は笑ったまま、そう仰られました。
・・・今思い返すと、顔から火が出そうなほど恥ずかしい態度を取ってしまいました・・・
本当に、今からでも謝りたいくらいです。
・・・本当に・・・中尉には・・・いくら謝っても、足りないくらいです・・・・・・
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