恋するジャガーノート

まふゆとら

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第九話「運命の宿敵 前編」

 第三章「戦慄‼ 地底世界の真の覇者‼」・④

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<グモオオオオォォッ‼>
<モオオオオォォォッ‼>

「クソ・・・ッ! こいつら・・・本当に速い・・・ッ‼」

 舌打ちと共に、発した汗が風に流されていく。

 決断が遅かったつもりはなかったが──No.015の脚力を侮っていたらしい。

 こちらは全機が全速力で走っているはずなのに・・・両耳を広げ、獰猛な牙を剥き出しにして駆ける獣たちは、みるみるうちにこちらへ迫って来ていた。

 目指す横穴まではまだ少し距離がある。

 このままでは・・・到着する前に追いつかれてしまう・・・!

 ──するとそこで、並走する<グルトップ>の助手席から、柵山少尉の声が聴こえた。

「隊長!FIM92スティンガーの使用許可を!」

「気が利くな少尉! 許可する!」

 柵山少尉は開いた窓から窮屈そうに上半身を出し、黒い大筒を構える。

「当た・・・れぇっ‼」

 合わせて私が距離を取ったところで・・・間髪入れずに引き金を引く。

 発射されたミサイルには、熱源追尾のシーカーが装備されている。

 竜ヶ谷少尉のような達人でなくとも、大きな的に当てるには充分過ぎる性能を持っているはずだが──しかし──

<<グモオオオォォォッッ‼>>

 驚くべき事に、時速100キロ以上の速度で走っているはずのNo.015たちは、放たれたミサイルにいち早く気付き──

 体ごと横に大きく転がって、左右へ分かれたのである。

「何ッ⁉」

 自動追尾によってミサイルは右へ舵を取るが、既にこちらへ接近していたNo.015を追うには距離が足りず・・・

 曲がりきれずに石柱へ突っ込み、あえなく爆発した。

不會吧そんな‼ 怎麼可能バカな‼ なんテ動体視力ネッ⁉』

 オープンチャンネルに、ピン少尉の悲鳴とも狂喜ともつかない叫びが響く。

 ・・・思い返せば、今まで私達が戦ってきたのは、人間とほぼ同じ大きさのNo.005か、あるいは50メートルオーバーの超大型ジャガーノートのみ───

 デカブツ相手には攻撃が通じない事はあれど、事はほとんど無かった。

 このサイズのヤツを相手にするのは初めてだが・・・思った以上に厄介だな・・・‼

「・・・私が相手をする! ハウンド2は前方を警戒しろ!」

「あっ・・・アイ・マムッ!」

 やや放心状態になっていた柵山少尉へ指示を出す。

 つっかえた腹を無理やり車内に戻したのを見届け・・・スピードを落として殿しんがりに着いた。

 振り返れば、道を逸れた事で2体のNo.015とは少し距離が開いた気もするが・・・稼いだのは数秒と言った所だろう。

 横穴に入れば安全という訳でもないとは言え、2体同時に接近戦をするのは何としてでも避けたい。

「テリオ! バック走行しつつ迎撃するぞ!」

『了解・・・ミサイルを温存しておいたのは正解でしたね』

 指示をしながらハンドルを思い切り右に倒し、背後へ回頭する。

 を使う前に・・・左腿のホルスターから「ニードル・シューター」を抜き、再びこちらの真後ろにつけようとするNo.015たちに向かって、2発連続で放つ。

<───モオオオォォッ!>

 足元を狙い、確かに着弾し、爆発まで起きたにも関わらず・・・足を止める気配がない。

「チッ! 効果なしか・・・。テリオ、ミサイルの準備は!」

『いつでもOKです、マスター』

「よし。蛇行しつつ、時間差をつけて連射する。運転は私がするから制御に集中しろ!」

『お心遣い、痛み入ります。それでは遠慮なくお任せします』

 すぐに背後へ目を向け、ハンドルをしっかりと握る。

 ・・・いつもより体に激しく揺れが伝わって来て、普段テリオが如何に快適なドライブを提供してくれているかを意外な形で知ってしまった。

「いくぞ・・・・・・今ッ!」

 比較的平らな場所に差し掛かったタイミングで、ハンドルをまず左へ──

 指示を出すのと同時に、すかさず右へ切る───

『発射します。煙にご注意を』

 両手へ大きな振動が伝わると、次いで左の臑に熱気が訪れる。

 そして想像通り、数秒後には右の臑に熱気が来た。

 ・・・やはり、ミサイルユニットの位置は変えた方が良いな。

<モオオオオォォッ!>

 持ち前の俊敏さで、再び体を横回転させてミサイルを躱すNo.015───だが──!

<グモオォッ⁉>

 回転する方向を見越していた二発目を躱すには足りず・・・右側にいたNo.015の顔面に、小型のミサイルが直撃した。

『やりましたわぁっ! さすがはお姉さまっ!』

「・・・・・・いや、まだだッ‼」

 テリオの車載カメラで様子を見ていたのであろうサラの歓声が聴こえてきたが・・・やはり、敵はそうそう甘い相手ではなかったようだ。

<モオオオオオオオォォォッッ‼>

 見れば・・・ミサイルを受けたはずのNo.015は、噴煙を突っ切り、依然猛進を続けていた。

 顔面からは煙が上がっているが・・・大きな火傷は見られない。

 血走った眼からは、絶対に獲物を逃すものかという執念が伝わってくる。

「俊敏な上にタフ・・・おまけに執念深いとは・・・本当に厄介なヤツらだ・・・!」

 ・・・・・・しかし、決定打にこそならなかったが、時間は稼げた。

 先頭の<ファフニール>に続いて各車両が続々と横穴へ突入し、私の乗る<ヘルハウンド>も無事に追いつく。

 これでひとまず、2体同時に相手にする危険はなくなっ───

<ビ──ッ‼ ビ──ッ‼ ビ──ッ‼>

「なっ、何だとッ⁉」

  気を取り直して迎撃の方法を考えようとした矢先──無情にも、警告音アラートは鳴った。

 まさか・・・No.015どもが我々を挟み撃ちにするため、この横穴に誘い込んだのか・・・⁉

『き、キリュウ少佐! ここっ、高エネルギー反応ですっ‼』

 捉えたのは、<ファフニール>のセンサーだったようだ。

 カルガー少尉の震えた声がオープンチャンネルに飛び込んで来る。

「落ち着け少尉! パターンに該当はあるか!」

 3体目のNo.015なら、先頭の<ファフニール>に相手をしてもらうしかない。

 今の彼女たちにその任を託すのは難しいかとも思ったが──現実は、さらに厳しいものだった。

『え、えぇと・・・あ、ありませんっ! どれとも違うみたいです・・・っ‼』

「クソッ‼ また新種かッ‼」

 舌打ちしつつ、バック走行を続けたまま前方へ目を凝らす。

 No.015たちは諦めるつもりはないようで、前後に並んで横穴に入ってくる。

 ・・・このままでは、我々の逃げ場がなくなってしまう・・・!

「少尉ッ! 新たな高エネルギーの位置は! 何メートル先にいるッ!」

 残された時間を把握するつもりで問いかけると、途端、困惑する声が聴こえた。

『あっ、あれ・・・っ⁉』

「どうした! 装置の故障か!」

 立て続けに訪れる不幸に歯噛みしかけるが──

 返ってきたのは、意外な答えだった。

「・・・えっと・・・あの・・・300メートル・・・後方です・・・もう、通り過ぎてます・・・・・・」

「・・・・・・なに?」

 そして、思わず聞き返してしまった直後・・・低く、大きな、が聴こえた。

<グモオオオオオォォォォッッ⁉>

 こちらへ迫る2体のNo.015のうち、後ろにいた方が何かに足を取られ、転倒したのだ。

 ──すると、驚くべき事に・・・転倒したNo.015は、自らの巻き起こした土煙の中から突如空中へと飛び上がり──

 放物線を描いて、

 突然起きた怪現象に呆気に取られていると・・・倒れ伏す2体のNo.015の背後・・・巻き上がる砂塵を掻き分けながら、巨大なシルエットが浮かび上がる。

 そして、ブン!と何かを振る音と共に、一筋の赤い光が空を斬ると───





 叫ぶ声も無く・・・No.015の、首が落ちた。

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