恋するジャガーノート

まふゆとら

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第九話「運命の宿敵 前編」

 第三章「戦慄‼ 地底世界の真の覇者‼」・③

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       ※  ※  ※


 ───突然、まぶたがチクッとして、目を開ける。

 ・・・見えたのは、だだっ広い緑と、その上でどこまでも続いてる青い空。

 ・・・・・・あんだぁ? どこだここは・・・?

 アタシは確か・・・わけわかんねー変なガキに眠らされて・・・それから・・・・・・

<クルルルルルッ!>

 ・・・・・・えっ・・・?

 懐かしい声に・・・思わず振り返ると・・・

<クルルル~ッ!>

 ・・・弟と、妹が・・・・・・チビたちが・・・そこに、いた。

 生えたばっかの小っせぇ角で、突き合ってじゃれてやがる。

<クルルル・・・>

 チビたちを眺めてると、後ろからお袋もやって来る。

 もう一度振り返りゃ、遠くで呑気に草食ってる親父の姿も見えた。

 そうだ! そうだよッ! ここは・・・アタシの住んでた場所じゃねぇか・・・!

 ・・・・・・けど・・・ほんの少しの間、見てなかっただけのはずなのに──

 皆とこうして会うのが・・・とてつもなく、久しぶりな気がしてならねぇ・・・

 ・・・・・・い、いや、そんなワケ・・・ねぇよな。

 大体、前だったら・・・そんな事、考えた事だってなかった。

 そうだ・・・アタシは、「アタシの家族を守る」・・・それしか考えてなかった・・・

 ・・・・・・それだけ考えてれば、良かったんだ。

 ・・・だってのに最近は・・・・・・どうして余計な事ばっかり・・・・・・

<クルルルルウゥゥゥ───‼>

 ・・・ッ⁉  こ、この声は・・・まさか・・・姉貴か・・・⁉

 でも、なんでだ・・・? いつもの声じゃねぇ・・・

 今のはまるで・・・悲鳴・・・みてぇな・・・


<バオオオオオォォォォッ‼>


 ・・・・・・ッ‼

 ・・・今した声の方は・・・・・・間違えるはずもねぇ・・・ッ!

 ──だ・・・‼ あのクソ野郎だッ‼

 ・・・・・・そうか・・・! これは、なんだ・・・‼

 なんて事のねぇ・・・いつも通りだった・・・・・・あの日───

 突然現れた、ヤツが・・・・・・・・・あの野郎が・・・・・・・・・・・・ッッ‼



「───ッ⁉」

「・・・おや。お目覚めになりましたか」

 記憶の景色の中にいたカノンは──何の前置きもなく、現実へと引き戻される。

 そして、密閉されているはずのコンテナの暗闇の中・・・どこから入り込んだのか、カノンのすぐ側には、彼女をこの場所へと導いた少女の姿があった。

「その声・・・! てめぇ! あの変なガキだなッ‼」

 カノンはがむしゃらに少女の位置を特定しようとするが・・・

 彼女の野性的な勘を以てしても、すぐ近くにいるはずの輪郭を捉える事すら出来ずに居た。

「ふふっ。先程の騒ぎの中でもぐっすりとは。さすが、豪胆でいらっしゃいますね」

「・・・・・・あァ? 何の話だ?」

 ころころ笑う声に、カノンは首を傾げる。

 常人であれば、少女の透き通るような声音に、とっくに毒気を抜かれていてもおかしくはなかったが・・・しかし。

 カノンはすぐに気勢を取り戻し、吼える。

「答えろ! ここはどこだ‼ アタシを・・・どこへ連れてこうってんだッ‼」

 少女は、誰にも見られていないというのに、微笑みを絶やさないままに答えた。

「最初に申し上げた通り、あなたが「会うべき者」のもとへ・・・です」

「またワケのわからねぇ事を・・・」

 相変わらずのらりくらりと解答をはぐらかし続ける少女に、カノンは頭を抱える。

 すると・・・その様子に思うところがあったのか、少女は再び口を開いた。

「・・・ですが、一つだけ確かなのは、その者と会う事で、あなたはきっとまた強くなれます。あなたが「王」の器足り得る方であれば、必ず」

 そして一拍置いて、少女は続ける。

「これは──あなたの迷いを晴らすための「道」なのです」

 暗闇の中でも、少女が真っ直ぐにこちらを見つめているのを感じ・・・カノンは舌打ちした。

「・・・ケッ! アタシは迷ってなんかいねぇし、ビビってもねぇよ!」

 少女の言葉を拒絶し続けるカノン。しかし、そんな態度を取られ続けてもなお──少女は、どこまでも優しい声音のまま、カノンへと語りかける。

「・・・・・・数日前、初めてお会いした時に現れた、「オリカガミ」と呼ばれていた銀の怪物・・・あれは、遥かな昔──かつての「王」が生み出した力の残滓なのです」

「・・・・・・?」

「「銀」は、記憶します。始まりから終わりまで、全てを。・・・オリカガミは、その身に映した者の記憶を読み取る事で、姿へと形を変えます」

 言いながら・・・少女の右腕に嵌まった「銀」の腕輪が、暗闇の中で輝いた。

「フの・・・カンジョウ・・・?」

 カノンは理解出来ない言葉につまずくが、少女は構わず話を続ける。

「あなたの仰る通り、あの時のオリカガミの姿が、あなたの恐怖の象徴でないなら──あの姿は・・・あなたにとって、憎むべき者の姿なのではないでしょうか・・・?」

「・・・・・・ッ!」

 少女の問いかけに、カノンは言葉を詰まらせた。

 それは、「憎しみ」という感情が理解出来なかったわけではなく──

 言葉にされて初めて──が故の、反応だった。

「「憎い」・・・のか・・・アタシは・・・ヤツの事が・・・・・・」

「・・・それもまた、あなたしか知らない事です」

 初めて会った時と同じように、少女は疑問に対する答えを持ち合わせては居なかった。

 ・・・しかしそれでもなお、彼女は微笑みを絶やさずに続ける。

「ですが、これからあの者に会えば──全ては、明らかになります」

 堂々巡りの問答に、カノンは深い溜息を吐きながら再び問いただす。

「だから・・・そいつは一体誰の事だって聞いてん───」

 ──しかしそこで、突如、二人のいるコンテナが大きく揺れる。

「あっ、あんだァッ⁉」

 カノンが叫んだ直後・・・コンテナの外から、低く唸る咆哮が響いて来た──

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