恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第一章「来訪」・⑤

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『お待たせ~。もう出てきていいよ~』

 シルフィがそう言うと、何もない空間に球体の輪郭が浮かび上がって、それが光の粒子に変わって解けていく。

 ・・・さっきはうるさいから閉じ込めたような口ぶりだったけど、直後にアカネさんが現れたところを見るに、彼女の気配を察したシルフィが気を利かせて隠してくれたんだろう。

 普段は飄々としてるくせに、結構素直じゃない所あるからなぁ。

 球体が完全に消えると・・・そこには、オロオロしているクロと・・・地面に倒れ、ぐったりとした様子のカノンの姿があった。

 か、カノンがクロの熱で蒸し焼きに⁉ と、慌てて駆け寄ろうとしたところで──

「はら・・・へったぁ・・・・・・」

 ・・・いつものが聴こえて、思わずコケそうになった。

 おそらく、クロに向かって考えなしに放電し過ぎて、エネルギー切れを起こしたのだろう。

「カノンちゃん・・・! し、しっかりしてくださいぃ・・・!」

 焦って余裕がないせいか、クロの身体も赤熱化している。

 必死にカノンの身体を揺する両手から香ばしいニオイがして来たところで、慌ててクロを止めた。

 ・・・深夜だというのに、ティターニアさんに起こされてから、息つく暇もない。

『それで、この後どうするの?』

 何とかクロを落ち着かせたところで、シルフィが問いかけてくる。

「うぅん・・・」

 腕を組みつつ、しばし考える。

 突然の来訪者に振り回されっ放しだけど・・・このまま何も見なかった事にして布団に戻ると言うのは、何とも気持ち悪い感じがする。

 乗りかかったというよりは、放り込まれた船だけど、最後まで見届けたいと言うのが本音だ。

「とりあえず着替えてから・・・ティターニアさんを追いかけたいんだけど、ダメ?」

『・・・そう言うと思ったよ。ほんっとハヤトは妖精使いが荒いんだから・・・』

 溜め息混じりに了承してくれる。
 ・・・出会ってから今まで、本当にシルフィには頼りっ放しだ。

「は、ハヤトさん! 私も・・・行きたいです・・・!」

 ぐったりとしたカノンを家の中に引っ張り込んでいる途中で、クロが鼻息荒く言ってくる。

 「戦いたい」という事ではなく、純粋にティターニアさんに興味が湧いているようだ。

「わかった。一緒に行こう!」

 思わぬ夜ふかしになっちゃったけど・・・内心、ドキドキして目が冴えてしまう自分もいる。

 ・・・心のどこかで、「シルフィの力がなくても会話できるジャガーノート」という存在に興奮しているのかも知れない。

『は~い。それじゃあ二人とも目を閉じて~』

 寝かせたままのカノンに「戻ってきたらすぐご飯作ってあげるから!」と心の中で謝りつつ、急いで着替えて・・・シルフィに言われた通りに、瞼を下ろす。

 そして数分後───目を開けると、そこには───

「・・・・・・島?」

 眼下には、真っ暗な夜の海。

 辺りを見渡すと・・・前方に、鬱蒼と茂る森と、その手前に砂浜を携えた、「孤島」と呼ぶのに相応しい小さな島があった。

 目を凝らすと、砂浜に灯りが見える。

 球体が近づいていくと、その光は、島に乗り上げたボートに積まれたライトによるものだと判った。

 ──そして、ライトが照らす先には、今さっき飛び去ったティターニアさんと・・・

 彼女の目の前で、見たこともない怪獣がいた。

「・・・・・・ど、どういう状況・・・・・・?」

 怪獣は、ティターニアさんに比べると小型に見えるけど・・・体長30メートルはあるだろう。

 無重力に慣れていない宇宙飛行士のように、空中でじたばたと体を動かし、何かに掴まろうと藻掻いているが・・・巨大な手は、ただただ空を切るばかりだ。

 朱色の毛に、体中についた鎧・・・。

 翼のようなものの先端と額には宝石が嵌まっていて、まるで「ファンタジー世界に出てくる聖獣」と言った印象も受ける。

 浮かされている怪獣がぼんやりと赤い光を纏い、ティターニアさんの左瞳が同じ色に光っているのを見るに、この状態は彼女の仕業という事で間違いなさそうだ。

「ティターニアさんは・・・一体何を・・・?」

 いくら観察しても、怪獣はあくまでだ。

 ティターニアさんは、そこから手を出すような事はせず、じたばたと暴れる怪獣をじっと見つめている。

<・・・? ハヤトの声・・・?>

 と、そこでティターニアさんが僕の声に気づいた。

 普段なら球体の外に声は届かないはずだけど・・・シルフィがまた気を利かせてくれたんだろうか。

「あ、はい! 近くにいます!」

<へぇ・・・姿を完全に隠せる上に瞬間移動テレポートまで出来るだなんて・・・驚きの多才さね?>

 蝶々に似た顔がきょろきょろと辺りを見回し、こちらの姿を探す。

 声は聴こえても、球体自体は見えないままのようだ。

「あ、あはは・・・恐縮です・・・えっと・・・ティターニアさんは、この怪獣を倒しに・・・?」

<まさか。事情も聞かずに一方的に倒すなんて事しないわ。対話の手段があるなら、ね>

「っ!」

 隣で、クロの肩がぴくりと動いたのがわかった。

「えーっとそれじゃあ一体──」

<ミャア・・・ミャアアァァ・・・・・・>

 事情を聞こうとしたところで、浮いている怪獣が弱々しい声を上げた。

 ライオンのような勇猛な顔つきをしているが、声の方は小動物のようなか弱い印象を受ける。

<少しだけ待ってて頂戴ね、ハヤト。この子、暴れ回ってここにあった建物を破壊してたみたいで、落ち着くまで待ってたんだけど・・・この状態じゃゆっくり話も出来ないわよね>

 そう言うと、怪獣がひとりでに地面に降りていく──いや、彼女が降ろしたのか。

 怪獣は疲れ切ってしまったようで、舌を出して息を切らし、砂浜に体を預けてしまった。

 ティターニアさんがそちらへ向き直ると・・・「キュルルル」と聴いた事のない音──いや、「声」が聴こえた。

 すると、怪獣がぴくりと頭を持ち上げて反応する。

 今のは・・・ティターニアさんの「肉声」という事だろうか。

 起き上がった怪獣は、何かを訴えかけるように何度も鳴き声を上げ、その度にティターニアさんが頷く。

 ・・・間違いない。今、彼女たちは、

 人間だけでなく、怪獣とも話が出来るなんて・・・やっぱり、今までに出会ったどの怪獣たちとも違う──全く異なる存在なんだと、改めて感じた。

<・・・・・・成程ね>

 ぼんやりとその光景を眺めていると、ティターニアさんが独り言のようにそう呟く。

 どうやら、会話が一段落ついたらしい。

<・・・ねぇハヤト。今この子から話を聞いてみたんだけど・・・一つ、私の代わりに頼み事を引き受けてくれないかしら?>

 再びこちらを振り向くと、何やら、不穏な気配を感じさせる事を言ってくる。

「・・・? えーっと・・・何をですか?」

<怪獣奪還作戦♪>

「えっ───」

 そして、こちらが聞き返すよりも早く───

 ティターニアさんが、鋭く尖った前脚を、
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