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第六話「狙われた翼 前編」
第一章「来訪」・⑥
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「えぇっ⁉ ちょ、ちょっと何して・・・」
<・・・見~つけた♪ やっぱりこの子の言った通りね♪>
「声」が、弾んだ。
不思議に思って、抉られた場所に目を向けると・・・そこには、硬そうな鉄板で出来た、もう一つの地面があった。
<上にあった建物は、こっちの方を隠すカモフラージュだったようね>
冷静な口調とは裏腹に・・・鉄の地面を見据える眼差しは、静かな怒りを感じさせた。
<・・・ここに、この怪獣の子供が捕らわれているのよ。この子は本能のままに暴れていたんじゃなくて・・・自分の子供を取り返そうと必死だっただけなの>
「ッ‼ そう・・・だったんだ・・・・・・」
「建物を破壊した」と聞いた時は、凶暴な怪獣なのかな・・・と思ったけど・・・そういう事情なら、暴れるのも無理はない。
・・・でも、ティターニアさんがいなければ、その事には気付けなかっただろう。
もしも・・・彼女が現れず、僕とクロがその状況を目にしたなら・・・きっと、今まで通り怪獣を倒して終わりだったに違いない。
<それで、頼み事っていうのは、ハヤトにその子供を助けてもらいたいのよ。私がやりたいのは山々なんだけど、サイズ的にちょっと難しいのと、ついでに・・・>
ティターニアさんがちらと顔を横に向ける。
視線を追うと・・・そこには、JAGDの制服を着た男性が数人、岩陰に隠れているのが見えた。
<人の目があるから、あまり荒っぽい事は出来ないのよ>
・・・・・・う、うーん・・・さっき地面突き刺したのも充分荒っぽいと思うんだけど・・・。
<・・・ハヤト、今はあなたの思考が読めないけど、沈黙は時に最大の雄弁よ?>
「すっ、すみませんっ‼ やりますっ‼ やらせて頂きますっっ‼」
見えないと判っていても、思わず背筋が伸びた。
・・・隣で浮いているシルフィが、じとっとした目でこちらを見ているのがわかった。
<いい返事ね♪ やっぱり、最初に貴方を訪ねて正解だったわ。出血大サービスで入り口は開けてあげる>
嬉しそうな「声」が聴こえると、ティターニアさんの左眼──紅玉の瞳が、ぎらりと光った。
──すると、鉄の地面がぎしぎしと音を立てて、ひとりでに盛り上がり始める。
「す、すごい・・・!」
・・・やがて、分厚い鉄板が果実の皮のように裂けて、その内部に隠されていた地下の空間を晒した。
絶海の孤島の地下にある謎の施設・・・まさに、秘密基地って感じだ・・・。
と、そこで、空間の奥から、武装した男性が二人駆けつけて来ると・・・矢庭に銃を構えて、穴をのぞき込むティターニアさんの顔めがけて銃を乱射し始めた。
「うわっ! だ、大丈夫ですかっ⁉」
<・・・・・・あらあら。かわいい兵隊さんね。・・・でも私、悪い子には容赦しない主義なの>
・・・・・・何となく、何となくだけど、顔を狙われた事にイライラしている気がする。
傷一つ負わなかった紅玉の瞳が、再び輝くと・・・さっきの怪獣のように、男たちが赤い光に包まれ、その体が風船のように浮き上がった。
何が起きているのかもわからず、男たちは悲鳴を上げながら、何とか逃れようと必死に両手両足を振り回している。
<後は頼んだわよ、ハヤト>
「は、はいっ!」
返事をしつつ、シルフィに目配せする。球体は滑るように下降し、ティターニアさんが開けた穴から地下の施設に入っていく。
『・・・・・・全く・・・ハヤトってばお人好しなんだから』
「あはは・・・ごめん・・・」
突然現れたシルフィが、瞼を少し下げたまま、ちくちくとこちらを責めてくる。
「・・・でもやっぱり、ティターニアさんは良い怪獣・・・怪蝶だと思うんだ。怪獣と戦わずに話し合うなんて、僕たちにはなかった選択肢だし・・・僕だってそれが出来るなら、そっちの方がいいしさ」
「わ、私も・・・! そう思います・・・!」
後ろに立っていたクロも、力強く同意する。
さっきティターニアさんが言ってた「一方的に倒す事はしない」っていう考え方に、何か感じる事があったように見えたけど・・・
どうやら、クロも彼女を好意的に思っているらしい。
『う~ん・・・まぁ確かに、平和主義のハヤト的には願ったり叶ったりかもね?』
言葉の上では納得した様子だけど・・・どこか、シルフィは腑に落ちていない様子だ。
クロに「守ると決めたなら余所見しちゃいけない」と言っていたように、シルフィは一本気と言うか頑固と言うか・・・「決意したならこうあるべき」みたいなのが強い気がする。
・・・普段おちゃらけている分、そういう面が目立つというのもあるかも知れないけど。
『え~っと・・・あそこの部屋だね』
シルフィが気配を察したのか、通路の奥にあった部屋の前で止まる。
ここに来るまで誰ともすれ違わなかったところを見ると・・・この施設にはさっきの二人しかいなかったのかな?
ドアノブを回し、中に入る。部屋の中央には手術台のようなものがあり・・・そこには、先程の怪獣をそのまま小さくしたような動物が、四肢に拘束具をつけられ、寝かされていた。
「ハヤトさん・・・! 私が・・・!」
言うが早いか、クロが球体から飛び出した。
手術台に近づくと、「えいっ!」と、拘束具を握力だけで引き剥がしてしまった。
・・・・・・えっ? クロって亜獣態にならなくてもあんなにパワーあるの・・・・・・?
「えーっと・・・あっ・・・は、ハヤトさん・・・!」
「ひゃ、ひゃいっ‼」
・・・さっきからまともに返事出来てなくないかな僕。
「あの・・・この子を連れていくの・・・お願いしてもいいですか・・・?」
クロが手術台の前で立ち止まって、こちらに視線を向けてくる。
そうか・・・クロは、自分が持ったら火傷させてしまうだろうと考えて・・・。
「・・・わかった! 任せて!」
何だか心に苦いものを感じながら・・・表情には出さないよう、努めて明るく返事をして、怪獣の子供を抱きかかえる。
大きさは、初めて出会った時のクロより二回り小さいくらいだろうか。
体重は40キロくらい・・・あまり長くは抱えていられなさそうだ。
「し、シルフィ・・・帰り道は急ぎめで・・・」
『せっかくだし、このまま施設の中探検していかな~い?』
・・・丁重にお断りして、入ってきた穴から地上へと戻った。
「戻りました! 子供は無事です!」
<おかえりなさい。それは良かった・・・じゃあ、お母さんの元へ返してあげて>
「声」が、柔らかに微笑んだ。
彼女からは見えないのも忘れて頷いて、翼の下でぐったりとうなだれていた怪獣の目の前に着地する。
・・・思わずそのまま出て行きそうになったけど、JAGDの人たちの目もある。
ここは、いつぞやの手榴弾の時と同じ手法で行こう。
砂浜に怪獣の子供をゆっくりと下ろして、そのまま球体ごと後退する。
外から見たら、何もない空間に突然子供が現れたように見えたかもしれない。
<・・・ミャッ⁉ ミャゴオッ! ミャゴオオォォッ‼>
そこで、子供の存在に気付いた怪獣が声を上げ、駆け寄って来る。
声が聴こえたお陰か・・・眠ったままだった子供も、うっすらと目を開ける。
お母さんの大きな手に抱かれ、安心した様子で「ミャア」と一つ鳴いた。
ジャガーノート・・・人類の天敵だと言われている存在であっても・・・そこには、間違いなく「家族」の姿があった。
「良かった・・・良かったです・・・! 本当に・・・!」
後ろに立っていたクロが、眼を潤ませながら、手で口元を抑えている。
カノンも「家族」に凄いこだわりがあるけど・・・クロの場合は、自分の「家族」を覚えていないからこそ、目の前の光景に何か感じ入るものがあるのかもしれない。
<・・・さて。これで一件落着と言いたいところだけど、まだ少し仕事が残ってるわね>
そう言うとティターニアさんは、息を潜めていたJAGDの人たちの方に顔を向ける。
<・・・見~つけた♪ やっぱりこの子の言った通りね♪>
「声」が、弾んだ。
不思議に思って、抉られた場所に目を向けると・・・そこには、硬そうな鉄板で出来た、もう一つの地面があった。
<上にあった建物は、こっちの方を隠すカモフラージュだったようね>
冷静な口調とは裏腹に・・・鉄の地面を見据える眼差しは、静かな怒りを感じさせた。
<・・・ここに、この怪獣の子供が捕らわれているのよ。この子は本能のままに暴れていたんじゃなくて・・・自分の子供を取り返そうと必死だっただけなの>
「ッ‼ そう・・・だったんだ・・・・・・」
「建物を破壊した」と聞いた時は、凶暴な怪獣なのかな・・・と思ったけど・・・そういう事情なら、暴れるのも無理はない。
・・・でも、ティターニアさんがいなければ、その事には気付けなかっただろう。
もしも・・・彼女が現れず、僕とクロがその状況を目にしたなら・・・きっと、今まで通り怪獣を倒して終わりだったに違いない。
<それで、頼み事っていうのは、ハヤトにその子供を助けてもらいたいのよ。私がやりたいのは山々なんだけど、サイズ的にちょっと難しいのと、ついでに・・・>
ティターニアさんがちらと顔を横に向ける。
視線を追うと・・・そこには、JAGDの制服を着た男性が数人、岩陰に隠れているのが見えた。
<人の目があるから、あまり荒っぽい事は出来ないのよ>
・・・・・・う、うーん・・・さっき地面突き刺したのも充分荒っぽいと思うんだけど・・・。
<・・・ハヤト、今はあなたの思考が読めないけど、沈黙は時に最大の雄弁よ?>
「すっ、すみませんっ‼ やりますっ‼ やらせて頂きますっっ‼」
見えないと判っていても、思わず背筋が伸びた。
・・・隣で浮いているシルフィが、じとっとした目でこちらを見ているのがわかった。
<いい返事ね♪ やっぱり、最初に貴方を訪ねて正解だったわ。出血大サービスで入り口は開けてあげる>
嬉しそうな「声」が聴こえると、ティターニアさんの左眼──紅玉の瞳が、ぎらりと光った。
──すると、鉄の地面がぎしぎしと音を立てて、ひとりでに盛り上がり始める。
「す、すごい・・・!」
・・・やがて、分厚い鉄板が果実の皮のように裂けて、その内部に隠されていた地下の空間を晒した。
絶海の孤島の地下にある謎の施設・・・まさに、秘密基地って感じだ・・・。
と、そこで、空間の奥から、武装した男性が二人駆けつけて来ると・・・矢庭に銃を構えて、穴をのぞき込むティターニアさんの顔めがけて銃を乱射し始めた。
「うわっ! だ、大丈夫ですかっ⁉」
<・・・・・・あらあら。かわいい兵隊さんね。・・・でも私、悪い子には容赦しない主義なの>
・・・・・・何となく、何となくだけど、顔を狙われた事にイライラしている気がする。
傷一つ負わなかった紅玉の瞳が、再び輝くと・・・さっきの怪獣のように、男たちが赤い光に包まれ、その体が風船のように浮き上がった。
何が起きているのかもわからず、男たちは悲鳴を上げながら、何とか逃れようと必死に両手両足を振り回している。
<後は頼んだわよ、ハヤト>
「は、はいっ!」
返事をしつつ、シルフィに目配せする。球体は滑るように下降し、ティターニアさんが開けた穴から地下の施設に入っていく。
『・・・・・・全く・・・ハヤトってばお人好しなんだから』
「あはは・・・ごめん・・・」
突然現れたシルフィが、瞼を少し下げたまま、ちくちくとこちらを責めてくる。
「・・・でもやっぱり、ティターニアさんは良い怪獣・・・怪蝶だと思うんだ。怪獣と戦わずに話し合うなんて、僕たちにはなかった選択肢だし・・・僕だってそれが出来るなら、そっちの方がいいしさ」
「わ、私も・・・! そう思います・・・!」
後ろに立っていたクロも、力強く同意する。
さっきティターニアさんが言ってた「一方的に倒す事はしない」っていう考え方に、何か感じる事があったように見えたけど・・・
どうやら、クロも彼女を好意的に思っているらしい。
『う~ん・・・まぁ確かに、平和主義のハヤト的には願ったり叶ったりかもね?』
言葉の上では納得した様子だけど・・・どこか、シルフィは腑に落ちていない様子だ。
クロに「守ると決めたなら余所見しちゃいけない」と言っていたように、シルフィは一本気と言うか頑固と言うか・・・「決意したならこうあるべき」みたいなのが強い気がする。
・・・普段おちゃらけている分、そういう面が目立つというのもあるかも知れないけど。
『え~っと・・・あそこの部屋だね』
シルフィが気配を察したのか、通路の奥にあった部屋の前で止まる。
ここに来るまで誰ともすれ違わなかったところを見ると・・・この施設にはさっきの二人しかいなかったのかな?
ドアノブを回し、中に入る。部屋の中央には手術台のようなものがあり・・・そこには、先程の怪獣をそのまま小さくしたような動物が、四肢に拘束具をつけられ、寝かされていた。
「ハヤトさん・・・! 私が・・・!」
言うが早いか、クロが球体から飛び出した。
手術台に近づくと、「えいっ!」と、拘束具を握力だけで引き剥がしてしまった。
・・・・・・えっ? クロって亜獣態にならなくてもあんなにパワーあるの・・・・・・?
「えーっと・・・あっ・・・は、ハヤトさん・・・!」
「ひゃ、ひゃいっ‼」
・・・さっきからまともに返事出来てなくないかな僕。
「あの・・・この子を連れていくの・・・お願いしてもいいですか・・・?」
クロが手術台の前で立ち止まって、こちらに視線を向けてくる。
そうか・・・クロは、自分が持ったら火傷させてしまうだろうと考えて・・・。
「・・・わかった! 任せて!」
何だか心に苦いものを感じながら・・・表情には出さないよう、努めて明るく返事をして、怪獣の子供を抱きかかえる。
大きさは、初めて出会った時のクロより二回り小さいくらいだろうか。
体重は40キロくらい・・・あまり長くは抱えていられなさそうだ。
「し、シルフィ・・・帰り道は急ぎめで・・・」
『せっかくだし、このまま施設の中探検していかな~い?』
・・・丁重にお断りして、入ってきた穴から地上へと戻った。
「戻りました! 子供は無事です!」
<おかえりなさい。それは良かった・・・じゃあ、お母さんの元へ返してあげて>
「声」が、柔らかに微笑んだ。
彼女からは見えないのも忘れて頷いて、翼の下でぐったりとうなだれていた怪獣の目の前に着地する。
・・・思わずそのまま出て行きそうになったけど、JAGDの人たちの目もある。
ここは、いつぞやの手榴弾の時と同じ手法で行こう。
砂浜に怪獣の子供をゆっくりと下ろして、そのまま球体ごと後退する。
外から見たら、何もない空間に突然子供が現れたように見えたかもしれない。
<・・・ミャッ⁉ ミャゴオッ! ミャゴオオォォッ‼>
そこで、子供の存在に気付いた怪獣が声を上げ、駆け寄って来る。
声が聴こえたお陰か・・・眠ったままだった子供も、うっすらと目を開ける。
お母さんの大きな手に抱かれ、安心した様子で「ミャア」と一つ鳴いた。
ジャガーノート・・・人類の天敵だと言われている存在であっても・・・そこには、間違いなく「家族」の姿があった。
「良かった・・・良かったです・・・! 本当に・・・!」
後ろに立っていたクロが、眼を潤ませながら、手で口元を抑えている。
カノンも「家族」に凄いこだわりがあるけど・・・クロの場合は、自分の「家族」を覚えていないからこそ、目の前の光景に何か感じ入るものがあるのかもしれない。
<・・・さて。これで一件落着と言いたいところだけど、まだ少し仕事が残ってるわね>
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