恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第一章「暗躍する影‼ 秘密部隊を救出せよ‼」・④

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       ※  ※  ※


「──さて。それではブリーフィングを始める。いいか?」

「は、はい・・・っ!」

 向かいの席に座った柵山少尉が、緊張で震わせた声で返事をする。

「・・・柵山少尉。もう少し肩の力を抜いてくれ。そんな調子じゃこの後もたないぞ」

「は、はい・・・・・・」

 しょんぼりとした様子を見せ、彼は大きく深呼吸をする。

 ・・・私と緊張せずに話すにはそこまでの覚悟が必要なのか・・・?

 配備されたばかりの──と言っても米軍のお下がりだが──輸送機の機内には、操縦を行う整備課員2名の他、私と柵山少尉の2人しかいない。

『マスター。今こそ、日頃必死に練習している笑顔を披露する時なのでは?』

 ・・・忘れていた。機内には、もう1台。うるさいのを連れて来たんだった。

「す、すみません! ブリーフィング、宜しくお願いします!」

 気を取り直した柵山少尉が、見るからに空元気と言った様子で先を促した。

 既に一月以上同じ部隊にいるのだから、そろそろ私の強面にも慣れてほしいというのが本音ではあるが・・・まぁ、仕方あるまい。

「改めて──今回の任務は、「特殊編成部隊」の救出だ。柵山少尉、救出任務の経験は?」

「な、ないです・・・マム・・・」

「案ずるな。JAGDの隊員なら関わった者の方が少ない。私も一度きりだ」

 とはいえ、この人選は妥当と言えば妥当ではある。

 事の発端である「発見」をした柵山少尉と──幸か不幸か、行く先で待ち受けるであろう者の「専門家スペシャリスト」である私。

「今向かっているのは、モンゴルのゴビ砂漠だ。そこに向かった「特殊編成部隊」と、昨日から連絡が途絶えている。最後の通信は、「洞窟の先に人工施設を発見。増援を求む」だ」

「ま、まさか──」

 柵山少尉の顔から血の気が引く。

「そうだ。君の予想は、最悪の形で的中してしまったようだ」

 先週までアメリカ本局の研究課にいた柵山少尉は、東秩父村で大量に出たガラムの死体を解剖している最中──

 そのうちの一体の体内に埋め込まれた「発信機」を発見したのだ。

 陳腐なSFのように生物の脳波を操る・・・などという代物ではなかったが、トロイの木馬である可能性を考慮し、研究課の施設が大急ぎで丸ごと引っ越しする大事件に発展したのだった。

 その後の調べで、発信機は生物学者が動物に付けるような追跡装置だとわかり、同時に、それがJAGD 製ではない事に、組織には大きな衝撃が走った。

「というと・・・例の発信機・・・出処はモンゴルだったと・・・?」

「あぁ。発信機の逆探知と、東秩父村の大穴・・・「ガラム坑」と名付けたんだったか。そこに逃げていったNo.005どもの痕跡を辿っていった結果、行き着いたらしい」

 JAGD以外に、ジャガーノートの生態を研究しようとしている組織が存在する──

 そしてあまつさえ、JAGDですら成し得ていない生体への発信機取り付けまで行っている。

 上層部は、面目丸潰れだったろう。

「っと・・・ここからは秘匿レベルAの情報だな。少尉」

「はっ、はい・・・!」

 操縦席の整備課員たちに聴こえないよう、少尉がヘッドセットを取り外す。

 私の方も、「集音マイクをミュートしておけ」と右耳のイヤホンを指で2度叩く。

 すると、耳から外したイヤホンのランプが明滅し、モールス信号で「了解」と伝えてきた。

 ・・・洒落た返事に苛立ちを覚えながらも、柵山少尉に向き直り、話を続けた。

「これから救出に向かう「特殊編成部隊」とは、西アメリカ支局の「第四分隊」がメインになって構成された部隊なんだ」

「第四・・・? ま、まさか・・・存在しないはずの部隊・・・という事ですか?」

「察しが良いな」

 西アメリカ支局はカバーする範囲が広く、機動部隊が第一から第三までの分隊に分かれているというのが、JAGDの構成員であれば誰もが知る常識。

 そして、「秘匿レベルA」──即ち、本来なら大尉以上になって初めて解禁されるのが──

 第四分隊・・・通称・「対人部隊」の存在だ。

「知っての通り、JAGDは各国の陸海空軍全てから人材を採っている」

 その関係で色々なルールが入り乱れているのは本当に何とかしたいところだが・・・それは扠置き、と内心の不満を飲み込んだ。

「そして・・・その中には、諜報活動を始めとする、外部組織の調査や干渉を専門とする者たちも存在するという訳だ」

 兵器にすら仰々しいカラーリングを施してまで「対ジャガーノート組織」である事を謳うJAGDの、唯一の目的外の組織が、第四分隊だ。

「成程・・・ないわけがないとは思っていましたが・・・てっきり東海岸本局の方かと・・・」

「私も初めて聞いた時は同じ事を思ったよ。まぁ、ご近所にCIAラングレーがあるというのはまずかったのかもな」

 それはともかく、と話を続けた。

「発信機の存在からして、何処かの組織が関わっているのは必定──そこで投入されたのが今回の部隊で、洞窟の先にその組織の影を見つけることは出来たものの・・・」

「連絡が途絶え・・・今に至る、というわけですか」

「そうだ。特殊部隊の定期連絡から、洞窟内ではNo.005が多数確認されている。救出任務にはスピードと正確さが要求されるため、本来なら隊を離れるわけにはいかない私も駆り出されたわけだな。No.005といえば・・・な扱いは正直不満だが」

「ついでに第四分隊の性質上、人員の補充も最低限で、という事ですね」

 さすがはハーバード卒。一を聞いて十を察してくれるのは話が早くて助かる。

「救出対象は5人。顔写真はこれだ。人相を覚えたら破棄しなければならないから注意しろ」

「アイ・マム!」

 ファイルを渡すと、早速目を通し始める。

 ──先程私も確認したが・・・ウィーナー中尉との2年ぶりの再会がこんな事になるとは・・・

 生きていてくれ・・・と、少尉の手前、口には出さずに内心で独り言つ。

「着陸するのは、特殊部隊が設置した地上の通信ポイントだ。あと三時間程で着くだろう。現着後は、同地に向かっている第四分隊の残りの面々と合流し、共同で作戦を行う」

「共同作戦ですか・・・! い、色々と初めてばかりですね・・・」

「それを言ったらジャガーノートとの戦いだって初めてばかりだろう。とはいえ、私と君は言ってみればNo.005狩り担当だ。実際の救出任務については第四分隊に任せる事になる」

「そ、そうなんですか・・・少し安心しました・・・」

 あからさまにほっとした様子を見せる少尉。

 元は研究課員である彼に、エージェントの真似事をさせるのは私としても本意ではない。

「ブリーフィングは以上だ。何か質問は?」

「あ、ありません! 大丈夫です!」

 そう言うと、ファイルを返される。もう顔を覚えた自信があるらしい。

「よろしい。では、今のうちに休んでおけ。長丁場になる可能性もあるからな」

「アイ・マム!」

 私がいては休みづらいだろうと、席を立った。

 イヤホンを付けながら貨物庫に向かい、<ヘルハウンド>の燃料タンクを二回ノックした。

『──おや。もうよいのですか。良い気分で寝てましたのに』

「電気羊の夢でも見てたのか? ・・・で、脳みその付け替えは?」

『現在、進捗率は30%程度です。着陸までには間に合わせます』

「そうか」

 返事をしつつ、バイクとバイクがコードで繋がっている不可思議な光景を改めて見つめる。

 行き先は砂漠地帯。

 山林を難なく駆け抜けた車体でも厳しい地形なのは明白。

 そこで、換装ユニットと共に送られてきたオフロード版の試作車──<ヘルハウンド・チェイサー>というらしい──を大急ぎで輸送機に積み込んで来たのだ。

 今は、テリオの本体データを転送しているところだ。

 専門外なので言われるがままにしたが、人格を「複製コピー」してしまうと自意識の崩壊を招きかねないらしい。故に 「転送トランスファー」 だ。

「ふぅ・・・」

 溜め息を吐きながら、<ヘルハウンド>のシートに体重を預ける。

 ・・・せっかくの休日もろくに休めず、ディナーの予定もキャンセル・・・

 人の目がないせいか、つい気が緩んでしまったらしい。

『・・・今はお休み下さい。マスターの背もたれになるのも、私の仕事の一つです』

「お前は電柱とまで競うつもりか・・・ふん」

 余計な気を遣うな、と・・・言葉にはせずに燃料タンクをもう一度小突いた。

 目的地まではあと三時間もある。私も少し、休むとしよう──
 
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