恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第一章「暗躍する影‼ 秘密部隊を救出せよ‼」・⑤

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「えーっと、それではこれより! 第十六回シナリオ会議を始めたいと思います!」

「「「「はーい!」」」

 時刻はまだ朝の十時──だけど、皆のやる気はバッチリだ。

 会議室のホワイトボードの前には、書紀を務めるみーちゃんが立っている。

「あれ? 倉木兄弟とエミちゃんは?」

 三人の不在を不思議に思ったハルが、僕に問いかけてきた。

「あはは・・・三人とも、また練習したいから欠席だって」

「またそういう口実っスか・・・まぁエミリーサンはともかく、他の二人はいつまで昔のコト引っ張ってんスかね~? 山サンも、もう許してるんスよね?」

 やや呆れ気味に、サキが話を振る。この手のわだかまりが嫌いなのだ。

「う、うん・・・私も色んな人の意見が聞きたいし・・・参加して欲しいんだけど・・・」

 そう言って、山田さんは言葉を濁す。

 彼女に出来る精一杯の事は、既に終わっている。

 だから後は──

「後は、あの二人の問題だしね。待ってあげるのも、友達としての役目じゃないかな?」

 言いかけた事を、代わりにみーちゃんが言ってくれる。気遣いの出来る彼女らしい言葉だ。

「・・・まぁ、それもそうっスね。当事者じゃないアタシが首突っ込むべきじゃない、か」

「そゆこと! じゃ、早速始めよ~!」

 沈みかけた空気をかき消すように、みーちゃんが宣言する。

 今は有り難く、その気遣いに乗らせてもらう事にした。

「えーっと・・・じゃあ先に、現状確認だね。いま演ってるのは、「僕だってライズマン」、「三笠公園危機一髪!」と、再演の「太陽が唄う時」だね」

「「太陽が唄う時」はやっぱりお父さんお母さんからの評判いいね~。SNSでエゴサしても「今日のはストーリー良かった」って結構引っかかるよ!」

 みーちゃんが溌剌な調子で報告してくれる。

 お客さんとの接点が多い彼女には、ついでにネット上での評判も見てもらってるんだけど、再演を推した身としては上々な結果に満足だ。

「うんうん! やっぱ山田さんの脚本はいいよね~!」

「あ、あひ・・・あひょ・・・あひょがひょ・・・」

 山田さんが顔を真っ赤にして小さくなっている。

 本当に素晴らしい脚本を書いてくれるんだけど、彼女はいつまで経っても褒められるのに慣れないのだ。

「再演はどうかな~と思ってたけど、既に練習してあるから時間もかからないし、頻度を多くし過ぎなけりゃ常連さんにもウケいいしで、今後も再演枠は継続して良いかもな!」

 「太陽が唄う時」はハルが出番多いせいで、最初は消極的だったけど・・・いざ客入りを見たらコロッと態度を変えるあたり、何とも彼らしい。

「そうっスね。やっぱドラマパート長いやつは飽きちゃう子もいるんで、再演するならそこのノウハウ出来てからの脚本を使うのが良いとは思うんスけど、再演枠自体は賛成っス」

 照明と音響を統括するサキは、いつもステージ後方の二階にある映写室にいる。

 そこの小窓からステージの様子が見えるため、お客さんの反応を俯瞰してもらっているというわけだ。

「今のところの体制は間違ってなさそうだね。その代わり、再演するプログラム選びと、公演ローテーションには気をつけようって感じで!」

 結論を出すと、皆も頷いた。満場一致と見て、話を続ける。

「えーっと、それじゃあ、今演ってる三本のうち、どれを入れ替えようか?」

 さて、ここからが本題だ。再演枠を取り入れてから2週間。新しいシナリオを導入する以上、どれか1つを削る必要がある。

「順当にいけば「三笠」の方だよな。迫力はあるんだけどなぁ・・・」

 「三笠公園危機一髪!」は、ルナーンが三笠公園の戦艦三笠を「ミカサウルス」という怪獣に変えてしまうというストーリー。

 プロジェクターを使って、ミカサウルスが大暴れする映像をステージの背景スクリーンに映して、ライズマンがタイミングを合わせてそれと戦う演技をする。

「かなぁ。映像がすごかったから、ついつい使いたくなっちゃうんだけどね・・・」

 公演を始めてもうすぐ一ヶ月。評判は・・・両極端と言った感じだ。

 ハルが知り合いの伝手をたどってくれたお陰で、凄いクオリティの映像が出来たんだけど、いかんせん立ち向かうのがライズマン一人だから・・・画的にちょっと寂しいところはある。

「話自体は王道なんだけど、スーツのアクション目当てなお客さんも最近多いしねー」

「アタシもサンセーっス」

「わ、私も・・・。で、でも、映像を流用できるシナリオ、今度考えてみる・・・」

 他の三人も同じ意見のようだ。スムーズに意見がまとまったところで、話を次に進める。

「さて次に、新しいシナリオ案だけど・・・山田さん、どうかな?」

「う、うん・・・えと・・・今のところ・・・び、微妙・・・です・・・ハイ・・・ごめんなさい・・・ほんと・・・書けない私なんて・・・生きてる価値が・・・価値が・・・・・・」

「す、ストップストップ! だ、大丈夫だよ山田さん! そのためのシナリオ会議でもあるわけだし!」

 底無しのネガティブスパイラルに入りかけた山田さんを、慌てて引き止める。

 本人曰く「きっかけ」があれば書けるらしいので、シナリオ会議では、ここにいる全員でアイデア出しを手伝うのがお決まりだった。

「あ、ありがとう・・・! ハヤトきゅ・・・くん!」

 書き始めたら、次の日の朝には持ってくるくらい筆早いんだけどな山田さん・・・。

「次は恋愛モノでいいんじゃねぇのか~? ぷぷぷ!」

「なぁ・・・っ! う、うっさいわよ桜井ッッ‼」

 山田さんがハルを指差し、叫ぶ。

 この二人は本当に仲良いなぁ・・・本人たちは絶対認めようとしないけど。

「はいそこ静かに~。それじゃあ、ブレインストーミングといきましょー!」

 みーちゃんが取りまとめてくれる。

 本当に有り難い・・・というか本来は僕の仕事なんだよね。いけないいけない・・・しっかりしなくちゃ・・・。

 皆から色んな意見が上がり、みーちゃんがそれをどんどんホワイトボードに書きこんでいく。

 最終的に、20近いアイデアが上がったが・・・・・・

「う、う~ん・・・」

 山田さんは、ピンときていない様子だ。

「今日はやめとこうか?」

「そういう日もあるっスよ」

「いっつもそんな感じだろ・・・って痛ぁッ!」

 追い打ちをかけようとするハルの顔面に、みーちゃんの投げたマジックが飛来した。

 明日もステージあるから顔はやめた方が・・・と思ったけど、今のはハルが悪い。うん。

「うーん・・・」

 少しでも山田さんの助けになれないかと、頭をさらに絞ったところで──ふと、思いつく。

「そうだ・・・! 味方の怪獣を出す・・・ってのはどうかな?」

「・・・? 味方の怪獣・・・ナイトメアやルナーンの作ったヤツじゃない怪獣ってことか?」

「そうそう! ライズマンと一緒に戦う味方怪獣! ・・・ど、どうかな?」

 最後はちょっと自信なさげに、提案してみる。すると──

「・・・・・・いい・・・・・・! いいよそれ・・・っ! い、行けそうな気がする・・・‼」

 ぱぁっと、山田さんの顔が明るくなる。

「も、もうちょっと具体的にしてみる必要はあるけど・・・味方側が2人以上いれば、ステージも広く使えるし・・・! うん・・・! すごくいい・・・! あ、ありがとう! ハヤトくん!」

「力になれたなら良かったよ!」

 実際に新しい怪獣を出すとなれば、スーツを新造しなきゃいけなかったり、少なからず課題も出てくると思うけど・・・

 そういうのは、シナリオが出来てから考える事にしよう。

 予算のやりくりは、僕の仕事だしね。

「えーっと、他にアイデアは──」

「今日はもう空っぽかな・・・」

「左に同じ」

「俺ももう無ぇわ・・・」

 皆も少し疲れ気味のようだ。時計を見れば、もう十二時を回っていた。

「それじゃあ・・・これにて、第十六回シナリオ会議を終わります!」

「「「「はーい」」」」

 皆の揃った声で、会議はお開きになった。


「あっ・・・ハヤトさん・・・! お、お疲れ様・・・です・・・!」

「ごめんねクロ・・・待たせちゃって・・・」

 会議室を出てすぐ目の前のソファに、キャスケットに赤の眼鏡──「擬装態」姿のクロが座っていた。

 時間かかるよとは伝えてたんだけど、どうしても待ちたいと言うので、外に出ても違和感のないこの姿で居てもらったのだった。

「いえ・・・皆さんの話・・・聞くの・・・面白かったです・・・」

 あれ? 会議室のドア開いてたっけ・・・? と思ったけど、クロの聴覚を持ってすればドア一枚くらい有って無いようなものか、と気付く。

 それじゃあついでに・・・。

「クロ、ありがとね。クロのお陰で、いいアイデアが思いつけたよ」

「・・・? 私の・・・お陰・・・ですか・・・?」

「うん。味方の怪獣を出してみないか、って話。あれ、クロを見てて思いついたんだ」

 一応、声を落として耳打ちする。

 マンタの怪獣に続き、爪の怪獣とも──「ヒーロー」に憧れて、怪獣と戦う怪獣・・・。

 クロの姿を思い出して浮かんだのが、さっきのアイデアだった。

 まさか皆に「元ネタはクロだよ!」というわけにもいかず・・・こうしてこっそりと本人に伝えるのが精一杯だけど。

「・・・! 嬉しい・・・です・・・! じゃあ、あの話が実現したら・・・ライズマンさんの隣で、怪獣が戦うかも知れない・・・って事・・・ですよね・・・?」

 両手をぐっと握って、クロが身を乗り出してくる。

「うん! まだわからないけど・・・クロを見ててさ、そういう怪獣がいてもいいんじゃないかな・・・って思って!」

 「ヒーロー」に憧れるクロ自身をステージに出す事はちょっと難しいけど・・・。

 お客さんにも楽しんでもらう大前提をクリアしつつ、擬似的にでもクロがライズマンと並んで立てる姿が見られれば、僕としても嬉しい。

「えーっとぉ、お二人さーん? イチャイチャしてるトコ悪いんですけど~?」

「うわぁっ!」

「はひぃっっっ!」

 後ろから話しかけられて、思わず二人揃って飛び上がってしまった。

「あれ? クロサン久しぶりっスね。服変えました?」

「俺は前の服の方がエロくて好・・・って痛い痛い痛い‼ 美晴痛いって‼」

「か、彼女じゃない・・・彼女じゃないから・・・一緒に寝てても彼女じゃないから・・・」

 わらわらと、会議室から皆が出てくる。

 先日までのクロだったら、緊張でまた隠れちゃうシチュエーションだったけど──

「み、みなさん・・・こ、こんにちは・・・です・・・」

 僕の袖を掴みながら、きちんと挨拶をする。

 良かった・・・クロの成長ぶりには、本当に感心してしまう。

「わっ! そのコーデかわいい~! 誰の趣味? まさかハヤ兄ぃ?」

「え、えーっと・・・ま、まぁ・・・」

『こらこら~! それはボクのセンスだぞ~!』

 どこからともなく現れたシルフィが、僕の頬をぽかぽかと叩く。

 あ、危ない危ない・・・頬や髪を引っ張られてたら怪奇現象と間違われるところだった・・・。

「今度一緒に街に買い物行こうね! クロさん!」

「え・・・あ、あの・・・」

 クロが、どう答えていいかわからず、こちらを見てくる。

 市販の服は燃えちゃうから買っても・・・なんて無粋な事は言うまい。

 ニッと笑ってみせると、クロも笑顔になり、みーちゃんの方を向いて答えた。

「はいっ!」

「・・・・・・うわ・・・どうしよ・・・クロさんめっちゃかわいいんですけど・・・」

 みーちゃんが口に手を当ててつぶやく。

 親代わりとしては、内心鼻高々と言った気分だ。

「あっ! そうだ!」

 と、そこでみーちゃんが手を叩く。

「せっかくだし、皆でお昼にしようよ! クロさんも一緒にさ!」

 ・・・笑顔のみーちゃんには悪いんだけど・・・何だかまた・・・胃痛の予感がした。
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