恋するジャガーノート

まふゆとら

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第三話「進化する生命」

 第三章「明日への一歩」・③

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 視線を向けると、大型怪獣へと飛んでいくダークグレイのヘリコプターが見える。

 ヘリというとバタバタとうるさいイメージがあったけど、あれはかなり静かだ。

「もしかして、アカネさんの仲間・・・かな?」

 ヘリコプターにオレンジのラインが入っているのが見えて、先程のアカネさんの格好や、アカネさんを助けたバイクと同じカラーリングだと気付く。

 クロを連れて行った事といい、今日の事といい・・・

 きっと、アカネさんが属しているのは、怪獣たち──ジャガーノートと呼んでいたけど──それに対処する、専門の組織なんだろう。

「! 誰か出てきた!」

 ヘリコプターの扉が開き、人影が見えた。外側に備えられた機関銃を怪獣へと向ける。

 5秒と待たず──蜂の羽音を思わせる響きと共に、無人の田畑へ空の薬莢が降り注いで・・・同時に、怪獣の背中で次々と火花が散った。

 しかし、怪獣は歩みを止める様子はない。

『効いてなさそうだね?』

 そう思ったのは、ヘリに乗っている人たちも同じなのだろう。

 大きく旋回して距離を取りつつ、怪獣の正面へ回り込む。

 ヘリの機内で、スキンヘッドの大柄な黒人男性が、肩に筒状の何かを担いだのが見えた。

 ロケットランチャーというヤツだろうか。

 ヘリコプターの操縦席に近い小窓のような穴から筒の先端を出し──

 白煙を上げながら出てきたのは・・・細長い、ミサイルだった!

「うわぁっ⁉」

 思わず驚いてしまう。

 白い尾を引きながら、真っ直ぐに夜空を横切ったミサイルは、怪獣の鼻っ面に直撃する!

 赤い爆炎が起こり、次いで真っ黒な煙が上がった。

<ガゴォォオッ‼>

 顔面に一撃を食らって、怪獣が怯んだ。バランスを崩し、左足で一歩下がる。

 踏みしめた足元で、クジラが海面で跳ねたかのように、畑の土が柱になって弾けた。

「やった! 当たった!」

 今度は間違いなく効いてる!

 怪獣も今まで歯牙にもかけていなかったヘリコプターを認識したようで、顔をヘリの方に向けて狙いを定めたのが判った。

<ガアアアアアアアッ‼>

 山を震えさせるような鳴き声とともに、怪獣はその巨大な爪を横薙ぎに振るう!

 攻撃を察知して距離を取っていたために、直撃は免れたものの・・・強い風圧が発生したのだろう。

 機体をガタガタと揺らして、体勢を立て直すのに苦労している。

 あの大きさの爪を思い切り振るうだなんて、凄まじい筋力だ。

 遠心力もとんでもない事になっているだろうと考えると・・・・・・直撃すればひとたまりもない・・・!

<ガアァーゴオオォッ‼>

 獲物を仕留められなかった怪獣が、不機嫌そうに体を揺らした。

 体勢を戻したヘリは、直撃を避けるためだろう、少し距離を取った──が、しかし───

「なっ───⁉」

 怪獣はその巨大な爪を、スコップのように田んぼに深く突き刺す。

 そして体を大きく捻ると、爪で地面を掘り返し──

 ヘリコプターに、

 散弾のように飛来した土砂の雨あられを食らって、ヘリコプターは回転しながら真っ暗な山へと消え───最後に、赤く光った。

 爆炎に照らされた白いパラシュートが、二つ見えた。

 脱出には成功したみたいだけど・・・これでもう、大型怪獣に立ち向かえる者はいない──

 下唇を強く噛み──覚悟を決め、シルフィに話しかけた。

「クロと話せる?」

 シルフィの胸の結晶がオレンジ色に輝く。光が収まった所で、クロに話しかけた。

「クロ! 聴こえる?」

 話しかけると、まだ「亜獣態」だからだろうか。いつもの声で、返事が返ってきた。

『・・・! ハヤトさんの・・・声が、します・・・!』

「今、遠くからクロに話しかけてるんだ! そっちはどう? まだ小さな怪獣たちはいる?」

『えっと・・・いえ・・・見える限りは・・・全部やっつけたと・・・思います・・・』

 ・・・言い方は子供っぽいけど、さっきの戦い方を思い出すに・・・現場は凄惨な状況になっていそうだ。

「ケガはない?」

『はい・・・大丈夫、です・・・! あ、そうです・・・あの・・・さっきから、なんだか凄く嫌なニオイが、してます・・・多分、大きな怪獣・・・います・・・よね・・・?』

 ここからだと山の向こう側にいるクロも、その存在に気付いていたらしい。

「うん・・・ごめん、クロ。お願いがあるんだ。怪獣と、戦って欲しい。このままじゃ・・・たくさんの人が犠牲になってしまうかも知れないんだ!」

『・・・! はい・・・! その言葉・・・待って、ました・・・!』

 クロが、頼もしい返事をくれる。

『ハヤトさんの・・・お願い・・・なら・・・私、頑張れます・・・っ!』

「クロ──ありがとう!」

 彼女の善意に感謝しつつ、怪獣が、もう後少しで住宅地に近づこうとしているのが見えた。

「くっ・・・! 時間がない・・・シルフィ‼」

『はいは~い。いつでもいけるよ~~』

「わかった・・・! ──クロ、お願い! みんなを守って‼」

「はいっ! いってきます・・・!」

 再び、シルフィの胸の結晶から閃光が放たれると──

 山の向こうの暗がりに、真っ白な光の柱が立ったのが見えた。

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