恋するジャガーノート

まふゆとら

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第三話「進化する生命」

 第三章「明日への一歩」・④

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「ハウンド2! 無事か! マクスウェル中尉! ユーリャ少尉! 応答しろッ!」

 避難の邪魔になるため車道が使えず──山道を走りつつ、必死にマイクに呼びかける。

 私は疾走しながら・・・中尉たちの乗ったヘリがNo.008へと向かい──そして、墜落するまでを見ていた。

 脱出したかどうかが確認できず、背筋を冷や汗が伝う。

『──隊長。こちらマクスウェル・・・何とか、無事です』

『こちらユーリャ・・・同じく・・・降下中』

 二人の声が聴こえて安堵して・・・気の緩みを悟られないよう注意しつつ、指示を出した。

「わかった。両名、着陸次第合流し、連絡しろ! 指示はそのタイミングでする!」

『『アイ・マムッ!』』

 ・・・ヘリを落としてみせたあの機転・・・巨体で知恵が回るとは、さすがは小賢しいNo.005どもの親玉なだけある。

「・・・侮るつもりはないが──手強いな」

 思わず歯噛みした所で、柵山少尉から通信が入る。

『隊長! こちらハウンド2! し、至急報告したい事が!』

「落ち着け柵山少尉! どうした!」

『は、はいっ・・・! いま確認したところ──No.008の通ってきた穴から、新たにNo.005が大量に出現しているんです! ・・・しかも、今まで観測されていたNo.005より一回り大きな個体群が!』

「何だと・・・ッ⁉」

 ヤツらの巣で戦った時──確かに、身体の大きさにバラつきがあったのを覚えている。

 しかしそれはあくまで、個体差に過ぎないと思っていた・・・

 だが、柵山少尉の言うように、粒を揃えて来たということは───

「ヤツらは、No.008を頂点とした社会性を持っている・・・という事か?」

 昆虫ならハチやアリ、哺乳類ならハダカデバネズミなどがそうであるように、繁殖個体を中心に、非繁殖個体群が役割分担をして、自らの属する集団コロニーを守る動物は一定数存在する。

『No.008は似通った部分こそあれ、明らかにNo.005とは違う生物なので──「共生」と言ったほうが正しいのかも知れませんが・・・とにかく、No.008の指示で、No.005たちが動いているのは間違いないと思われます!』

 柵山少尉の言う通り、問題は新たに現れたNo.005どもだ。

『今はその・・・何故か先頭集団が止まっているのですが、それを乗り越えるように後続がどんどん押し寄せて──避難している市民の方に向かっているんです! 足も普通のNo.005よりずっと速くて! 竜ヶ谷少尉と必死に向かっていますが・・・!』

 わざわざ先遣隊を引っ込めてまで出してきた連中という事は、今までのNo.005より厄介さも上という事だろう。

 舌打ちを隠せないまま、一旦司令室に繋いだ。

「松戸少尉! 自衛隊と在日米軍の支援スクランブルはまだか!」

『だ、ダメです・・・! ワンダーマン支局長にも尽力していただいてますが・・・まだどちらの承認も下りていません・・・! 前例がないんです・・・っ‼』

「く・・・っ! わかった・・・」

 ・・・現状の最大火力であるヘリも落とされ、巨大なジャガーノートに対して有効な攻撃手段は、此処には既にない。しかしまだ、住宅密集地の避難は済んでいないだろう──

 航空支援が来たとしても、人の残った住宅地のど真ん中でミサイルなど撃てるわけがない。

 現状の火力を鑑み、新たに現れたNo.005の掃討に集中するか──それとも──

 究極の選択を迫られ、息の詰まったその一瞬──夜空を流れる星が光ったのが見えた。

 ・・・・・・いいや、違う──! あれは───ッ!

<グオオオオオオオオオオオオッッ‼>

 まさか・・・こんなところでまでその咆哮こえを聞く事になるなど、誰が想像し得ただろうか──

「・・・・・・No.007ヴァニラスッッ!」

 海底で観たのと同じ──星のような煌めきの後、形を変えた光を殻のように破って、その巨体が宙空から突然現れる。

 住宅地を背に、No.008に立ち塞がるように着地した。

『新たな高エネルギー反応っ⁉ な、No.007が出現っ‼』

 一拍遅れて、松戸少尉の悲鳴混じりの報告が鼓膜を揺らした。

 チャンネルに殺到する隊員たちの驚きに満ちた声をどこか遠くに聞きながら、なおアクセルを回し、山道を走る。

 ・・・理由こそわからないが、No.007とはまた会う気がしていた。

 あの時も、そして今も、ヤツはなぜか他のジャガーノートへと立ち向かおうとする。


 自分以外の巨大生物ジャガーノートを殺して回る暴君か───

 はたまた、人類にとっての白馬の騎士か───


 ・・・・・・考えるまい。ジャガーノートは、全て人類の敵!

 この状況は、利用させてもらう・・・ッ!

 人の波が途切れたのを見計らって、山道から車道へ飛び降り、そのまま加速する。

『──隊長! ユーリャ少尉と合流しました! ご指示を!』

 折よく、マクスウェル中尉から通信が入る。アクセルを回しながら、マイクに叫んだ。

「総員! 新たに出現したNo.005どもを殲滅し、市民の避難を支援しろ! 私はNo.007とNo.008の方に当たる!」

 No.007が再び吼えると、強靭な足を踏み出し、No.008へと突進していくのが見えた。

 巨大なその身体が大地を蹴る度に、コンクリートの道路にひびが入っていく感覚さえする。

 テリオのサポートがなければ、この揺れの中でとても運転などままならないだろう。

「航空戦力が来るまで粘っておけよ・・・・・・No.007ッ!」

 その時にはお前ごと消し炭にしてくれる! と意気込んで、車道の先の民家へ急いだ。

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