恋するジャガーノート

まふゆとら

文字の大きさ
上 下
52 / 325
第三話「進化する生命」

 第一章「見知らぬ旧友」・①

しおりを挟む
◆第一章「見知らぬ旧友」


 「わぁっ! 流れ星だ!」

 ──今日もまた、夢を見ている。

「ねぇ知ってる? 流れ星って、隕石なんだよ!」

 記憶を失って目覚めてから、毎晩毎晩、何千回と繰り返されている日課──

 朝になれば太陽が昇るように、夜眠ればこの夢を見る。それが僕にとっての日常だった。

『へぇ、そうなの』

 夢の最後でクロの声が聞こえたあの夜の後・・・

 自称・妖精と出会ったり、拾った動物が人間になったり、新しい怪獣が現れたり・・・激動の数日が過ぎた。

「夜空の星って、ずーっと昔の光が届いてるんだよ!」

 ・・・それでも、この時間、この夢だけはやっぱり変わる事がない───

『へぇ、そうなの』

 ────そう、思っていた。


「ちょっとハヤト! その話、前にも聞いたわよ!」


 ─────ッ⁉

「■■■■ちゃんには確かに話したけど・・・」

 聞いた事のない少女の声が僕の名前を呼び、夢の中の僕も当然のようにその声に答える。

 ・・・・・・なんだ? なんだこれ・・・?

 初めて見るシーンだ・・・ッ‼

「ハヤトの話にはバリエーションがないのよね! いっつも星の話ばっかだし」

「あはは・・・ごめんね■■■■ちゃん・・・」

「男ならすぐ謝らないっ!」

 ぷりぷりと怒っている少女・・・しかし、彼女に呼びかける僕の声にはノイズがかかって、その名前を聞き取る事が出来ない。

「もうっ! ハヤトにはしっかりしてもらわないと困るんだからっ! 私の・・・その・・・」

 僕と手をつなぎ、隣で佇む女性の向こう側──

 その少女の姿だけでも見ようとして、夢の中で、何とかもがく。

 しかし、なかなかその姿を捉える事ができない。

「私の・・・なに・・・?」

「なっ、何でもないったら!」

 そこで幼い頃の僕が、首を傾げ、女性の向こう側に、視線を向けた───

 
 その先にいたのは────紅い──髪の少女───


「────ハヤトさんっ‼」

「ッッ‼」

 呼ばれて、息を切らしたまま、目が醒める。

 カーテンから差し込む朝の光でぼやけた視界の中に、こちらを心配そうに見つめ、今にも泣きそうな──いや、既に涙を浮かべている──女性の顔が、あった。

「・・・お、おはよう・・・クロ・・・」

 心臓がバクバクと暴れている。汗でびっしょりと濡れた寝間着が肌に張り付いている。

 今の夢は・・・一体・・・・・・夢の途中で起こされて、最後まで見れない事はこれまでだって何度かあったけど・・・今日に限っては、出来る事なら最後まで見たかった。

 とはいえ、自分の今の状態を鑑みるに、うなされていたに違いない。クロはきっと心配して起こしてくれたんだ。

 その心遣いは、純粋に嬉しかった。

「ハヤト・・・さん・・・うっ・・・ひぐっ・・・」

 真上にあるクロの瞳から、僕の顔へと涙の粒が落ちてきて───

「って熱ッ‼ あっつッッ‼」

 淹れたてのホットコーヒーをこぼしてしまった時の、あの感覚──それが今、僕の顔面を襲っていた。

 恥ずかしがるだけでヒーター並みの熱を身体から発するクロ。

 そんな彼女の涙が、人間のように生易しい温度なわけはない。

 慌ててローリングし、投下される爆弾から身をかわして起き上がった。

「えぐっ・・・わ、わたっ・・・は、ハヤトさ・・・まだ・・・いなぐな・・・っでぇ・・・」

「く、クロッ! だ、大丈夫! 大丈夫だから、僕元気‼ 元気だから‼ ねっ⁉」

 黙っていれば凛々しく美しいその顔が、まぁもう跡形もない程にくしゃくしゃだ。

 いや。ここはね? オトコなら抱きしめて安心させる場面なのはわかってるんだよ?

 でもね? この距離でも感じるんです。熱を。

 抱きしめようものなら、僕が朝ごはんカリカリベーコンになってしまうのは間違いない。

「見て! ピンピンしてるでしょ⁉ えっと・・・ほら、ライズマンキックっ!」

 近づかないまま(ここが重要)、元気である事をアピールしようと、その場でジャンプして飛び蹴りの動きを見せてみる。

 すると、そんな僕の姿を見たクロの涙が止まった。

「! す、すごいです・・・!」

 真っ直ぐに見つめられたまま褒められると、悪い気はしない。

 最近になってようやく、クロと目が合う事が多くなってきた。それでも日に3回程度だけど。

「あ、あのっ・・・ら、ライジング・・・フィストは・・・?」

「えっ? あっ、やったほうが良い?」

 クロはブンブンと縦に頭を振る。風が起きそうな勢いで。

 練習では散々やってるんだけど、ハル変身前と違って「面」と向かってお願いされる事が少ないので、何だかくすぐったい。

「そ、それじゃあ・・・」

「あっ・・・ちょっと・・・待って下さい・・・!」

 クロは正座した状態からすっくと立ち上がり、棚の上に置いてあるライジングアームのレプリカを手に取った。

 ライズマンステージを開催している「ワンダーシアター」の物販で売っているものだ。税込み1980円。ボタン電池入り。

「お、お願いしますっ・・・!」

 慣れた手付きで、右手にそれを装着する。子ども用なので、ゴムがだいぶ弛んでいる。

「え、ええと・・・じゃあ、やるね・・・?」

 キラキラした目を向けてくれるのは嬉しいんだけど、何だかとても恥ずかしい。

 でもやるからには真剣に──そう思って予備動作に入り───

「あっ・・・・・・」

 そこで、突然クロがしゅんとしてしまう。

 えっ⁉ なんで⁉ ・・・・・・いや待て・・・・・・まさか・・・・・・

「・・・・・・か、会場のみんな・・・ら、ライジングアームを掲げてくれ~・・・」

「ッ‼」

 しょんぼりした顔が跳ね起きて、鼻息荒く右手を突き出してくれる。

 ・・・仕事場に頻繁に連れてくのが躊躇われて、代わりに昔のステージの録画を見てもらってたんだけど・・・

 そろそろ連れて行った方が良いのかな・・・ここまでやらせるくらいだし・・・・・・

「あ、ありがとう・・・! み、みんなの輝きが今・・・私の拳に・・・光を宿してくれた・・・」

 本来、ライズマンの声はハルが当てている。

 ついでに言えばルナーンとナイトメアを始めとする敵の声も全てハルの声。昔は声優を目指していただけあって、器用なのだ。

 「声優はとにかく大変」というネットの情報を鵜呑みにして、早い段階で挫折してしまったけど。

 というわけで、僕自身には演技力なんてなく・・・タイミングを合わせるためにセリフは覚えてるけど、誰かに披露するなんて初めてだ。

 しかも自室で。6畳の空間で。

「が、がんばって・・・ください・・・! ライズマンさん・・・!」

 頬に紅を刺しながら、ぎりぎり聞き取れるか否かくらいの声量の応援が飛んでくる。

 今僕が戦っているのは自分の羞恥心だけど。

「行くぞ・・・ルナーン・・・ライジング・・・フィストー・・・!」

 その場でジャンプして、叩きつけるように拳を降ろしながら着地する。

 一応、本番のつもりで動いたから、キレは悪くなかったはず・・・・・・

「~~っ!」

 本当はここで効果音が鳴るタイミングで、クロの控えめながらも全力の拍手が聞こえてきた。

「かっ、かっこいい・・・です・・・! ホンモノは・・・すごいです・・・!」

「い、いえいえ・・・クロのには負けるよ・・・その・・・威力とか・・・」

 こんなに褒められる事なんてなかなかないから、恥ずかしいけど嬉しいかも・・・。

 思わず頭の後ろをかいたのと同時───

「・・・・・・終わったか?」

 ドアが開いて、父さんが顔を出した。

「・・・・・・・・・・・・うん」

 今度は、僕が泣きそうになる番だった。

 視界の淵で、大爆笑してる妖精が見えた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。

kaizi
SF
主人公の設定は、30年後の日本に住む一般人です。 異世界描写はひたすらリアル(現実の中世ヨーロッパ)に寄せたので、リアル描写がメインになります。 魔法、魔物、テンプレ異世界描写に飽きている方、SFが好きな方はお読みいただければ幸いです。 なお、完結している作品を毎日投稿していきますので、未完結で終わることはありません。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...