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押しかけ護衛はNoとは言えない
5 世界のスタンダードギャップ
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ジャダはいわゆるラノベの世界のまんまな男だった。
まず王都から遠い領地の、領主一族だ。
番も無く後を継ぐ事もなく、冒険者ギルドに自分の立身を掛けていた。
ちょっと甘えん坊な従兄弟に泣きつかれて護衛の仕事も受けたりする。
そんなナイスガイでマッチョな男の主食はやっぱり干し肉だ。
齧ってワインで流し込む他は、その辺にあるモノを刻んで煮てぶち込む。
それを基本に生きて来た。
実家や王都のタウンハウスでは、そりゃ豪華で美味い食事が出てくる。
それはコックという生き物のおかげだと思い込んでいたから、自分で生み出せるものでは無いと思っていた。
自分が扱える食べ物は干し肉一択だと信じていた。
その信念がレンに全否定されたのだ。
その玉砕具合は、飛んできたシャトルをラケットどころかロケットランチャーに原型留めないくらいにメタメタにされた様な激しさだった。
ジャダは反撃の言葉すら浮かばずに棒立ちになっていた。
今までおとなしくて我慢強くて可愛いと思っていたレンが
差し詰めポメラニアンがブラッドウルフに変貌したような衝撃だった。
「どうせ街で買い物したり、やがて慣れる為に出るんだからさ」
耳を垂れたようなジャダに、レンはぐいぐいと熱く迫ってくる。
買い物!それも食材‼︎
俺は煮物も炒め物も、コレよりマシに作れる自信があるぞっ‼︎
その迫力と激情に、ジャダは押し流されて行った。
スケジュール的に一週間後に買い物コースのつもりが大幅にずれて来た。
真面目にクソの付くジャダは、ここで膝を屈した訳だった。
思えば"なんとか主導権を握ってね"とリンドルム担当官に念を押されていた関係が、この時に崩壊したのだ。
飛び出さない。
人に付いてったりしない。
そんなお子様な注意を繰り返されて、額に怒りマークを浮かべたままそれでもレンは外に出た。
道行く人はやっぱり賑やかな色合いだ。
女の人はふんわりと袖の膨らんだブラウスと、足首まであるスカートを履いている。男の人は薄茶色のシャツに黒っぽいズボンとベストやジャケットを着ていて、腰から剣をぶらさげていたりしてる。
緑やオレンジの色が溢れる髪色の中で、メッシュ入りの黒髪は地味で目立たずに人目を引かないのに良し!と思った。
「ジャダさん!今日はゴードマトンの串焼きだよ!」
「ジャダさん‼︎メーブナがはいってるよっ!」
キョロキョロ歩いていると物売りの女性から声が掛かる。
その目は明らかに♡だ。
だろうねー ジャダはイケメンマッチョな上に腰の低い出来杉くんだ。
そのスッと伸びた背筋も、わんこ系の笑顔もグッときちゃうよね。
うんうん。
人の恋の攻防戦にニヤついていたら、足元の石畳にすっとかげが横切った。
振り仰ぐと、建物の間の空にでっかいナニかがとんでいる。
あのシルエット。
デカいあのシルエットは。
先細りのごつい尻尾は…
「ドラゴンだぁ‼︎」
レンは石畳を蹴った。
飛んでいく跡を追おうとした身体が、襟を掴まれてぐえっと跳ねる。
ムッとして振り向くとジャダの目が怒っていた。
……すいません…
お子様注意を聞かなかったレンの手はぎゅっと捕獲された。
デカい手に握り込まれて振り払えない。
いや…男同士で手繋ぎって…どんだけダメな子供やねん。
がっくりしたのはレンだけで、
ひゃあぁぁぁっと甲高い声があちこちから上がった。
「あんた誰だい⁉︎」
デカい袋を抱えた洗濯のおばちゃんがストレートに聞いて来た。
「えっと、俺、ジャダの…」言いかけて止まった。
同郷という設定だ。でも俺は何になるんだろう?
友達?親戚の子?あれ?
「あ、レンは…」
言いかけたジャダをおばちゃん達(集まって来ていた)が手で止める。
はあぁんという満足そうな顔のまま、ぽんとレンの肩を叩いた。
「いいんだよ、何も言わなくったって」
「ジャダさんはいい男なのになんで独り身なんだろうって言ってたんだよ」
「あんたがもういたんだねぇ」
「安心おし。あたし達はあんたの味方だよ!」
「ジャダさんはいっつも惣菜買ってくから、身体に良くないっておもってたんだよね」
「嫁さんとして旦那の健康管理もちゃんとしなよ」
「安くて美味い野菜の店を教えたげるからね!」
怒涛のように押してくる言葉は、レンの男心にヒビを入れた。
違う。
そうじゃ無い!
そんな弱々しい声はおばちゃん達に聞こえなかった。
「弟という事にしましょう‼︎」
その夜、ちゃんとしたスープと野菜炒めを皿に盛ってからレンは主張した。
まず王都から遠い領地の、領主一族だ。
番も無く後を継ぐ事もなく、冒険者ギルドに自分の立身を掛けていた。
ちょっと甘えん坊な従兄弟に泣きつかれて護衛の仕事も受けたりする。
そんなナイスガイでマッチョな男の主食はやっぱり干し肉だ。
齧ってワインで流し込む他は、その辺にあるモノを刻んで煮てぶち込む。
それを基本に生きて来た。
実家や王都のタウンハウスでは、そりゃ豪華で美味い食事が出てくる。
それはコックという生き物のおかげだと思い込んでいたから、自分で生み出せるものでは無いと思っていた。
自分が扱える食べ物は干し肉一択だと信じていた。
その信念がレンに全否定されたのだ。
その玉砕具合は、飛んできたシャトルをラケットどころかロケットランチャーに原型留めないくらいにメタメタにされた様な激しさだった。
ジャダは反撃の言葉すら浮かばずに棒立ちになっていた。
今までおとなしくて我慢強くて可愛いと思っていたレンが
差し詰めポメラニアンがブラッドウルフに変貌したような衝撃だった。
「どうせ街で買い物したり、やがて慣れる為に出るんだからさ」
耳を垂れたようなジャダに、レンはぐいぐいと熱く迫ってくる。
買い物!それも食材‼︎
俺は煮物も炒め物も、コレよりマシに作れる自信があるぞっ‼︎
その迫力と激情に、ジャダは押し流されて行った。
スケジュール的に一週間後に買い物コースのつもりが大幅にずれて来た。
真面目にクソの付くジャダは、ここで膝を屈した訳だった。
思えば"なんとか主導権を握ってね"とリンドルム担当官に念を押されていた関係が、この時に崩壊したのだ。
飛び出さない。
人に付いてったりしない。
そんなお子様な注意を繰り返されて、額に怒りマークを浮かべたままそれでもレンは外に出た。
道行く人はやっぱり賑やかな色合いだ。
女の人はふんわりと袖の膨らんだブラウスと、足首まであるスカートを履いている。男の人は薄茶色のシャツに黒っぽいズボンとベストやジャケットを着ていて、腰から剣をぶらさげていたりしてる。
緑やオレンジの色が溢れる髪色の中で、メッシュ入りの黒髪は地味で目立たずに人目を引かないのに良し!と思った。
「ジャダさん!今日はゴードマトンの串焼きだよ!」
「ジャダさん‼︎メーブナがはいってるよっ!」
キョロキョロ歩いていると物売りの女性から声が掛かる。
その目は明らかに♡だ。
だろうねー ジャダはイケメンマッチョな上に腰の低い出来杉くんだ。
そのスッと伸びた背筋も、わんこ系の笑顔もグッときちゃうよね。
うんうん。
人の恋の攻防戦にニヤついていたら、足元の石畳にすっとかげが横切った。
振り仰ぐと、建物の間の空にでっかいナニかがとんでいる。
あのシルエット。
デカいあのシルエットは。
先細りのごつい尻尾は…
「ドラゴンだぁ‼︎」
レンは石畳を蹴った。
飛んでいく跡を追おうとした身体が、襟を掴まれてぐえっと跳ねる。
ムッとして振り向くとジャダの目が怒っていた。
……すいません…
お子様注意を聞かなかったレンの手はぎゅっと捕獲された。
デカい手に握り込まれて振り払えない。
いや…男同士で手繋ぎって…どんだけダメな子供やねん。
がっくりしたのはレンだけで、
ひゃあぁぁぁっと甲高い声があちこちから上がった。
「あんた誰だい⁉︎」
デカい袋を抱えた洗濯のおばちゃんがストレートに聞いて来た。
「えっと、俺、ジャダの…」言いかけて止まった。
同郷という設定だ。でも俺は何になるんだろう?
友達?親戚の子?あれ?
「あ、レンは…」
言いかけたジャダをおばちゃん達(集まって来ていた)が手で止める。
はあぁんという満足そうな顔のまま、ぽんとレンの肩を叩いた。
「いいんだよ、何も言わなくったって」
「ジャダさんはいい男なのになんで独り身なんだろうって言ってたんだよ」
「あんたがもういたんだねぇ」
「安心おし。あたし達はあんたの味方だよ!」
「ジャダさんはいっつも惣菜買ってくから、身体に良くないっておもってたんだよね」
「嫁さんとして旦那の健康管理もちゃんとしなよ」
「安くて美味い野菜の店を教えたげるからね!」
怒涛のように押してくる言葉は、レンの男心にヒビを入れた。
違う。
そうじゃ無い!
そんな弱々しい声はおばちゃん達に聞こえなかった。
「弟という事にしましょう‼︎」
その夜、ちゃんとしたスープと野菜炒めを皿に盛ってからレンは主張した。
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