上 下
15 / 63
番は特別らしい

8 レンの変身事情

しおりを挟む
目が覚めた。
その途端いきなり健康チェックや水分補給と、人がバタバタ走り回る。
その渦の真ん中で、レンはぼんやりとそれを見ていた。
何がなんだかわからない。
ここが何処で、何故自分がこんな世話をされているのかわからない。

ただハナがぶるぶるしていた。
青褪めて、でも鼻は真っ赤で、涙製造器になってる目は腫れている。
いつもサラサラな髪はぐちゃぐちゃで、いやぁブスだぞって言いたかった。
「良かったぁ…」掠れた声は溜め息みたいで。
あ?俺、なんかしたのか?って思った。


合格判定されてソファでお茶を飲んでたら
慌ててやって来たカールさんが頬をプルプルしながら真面目な顔で
「申し訳ございませんでしたぁ‼︎」と90°のお辞儀をした。
自分よりデカい男の頭頂部が目前に晒される。
豊かなほっぺがその髪の塊の両横にふるんと覗いて、レンは口がへにょっとなった。

いや、俺、白い閃光しか覚えてないし…


レンはハナの番という男に、殴り飛ばされて落ちたらしい。
そしてそのまま一週間も寝てたらしい。
既にお披露目会は終了してて、他の人はお大事にと旅立ったらしいのだが
いや。全く覚えてないし。

でも一撃で落ちたのか…
不甲斐ないぞ日本男子‼︎とレンはがっくり思った。
でもこっちの人はデカくてなんか狩猟民族で肉食います!って感じだし。
米をひたすら育ててきた日本人とは、もう体の構造からして違う気がする。

それよりもその男のパワーだ!
たった一撃で顎が砕けて頬骨が折れて目玉が潰れて…
うわぁ、スプラッタ系だぁ!
でも今、痛みも違和感も無いけれど。

なんか治癒魔法をありったけ使ったらしい。
お披露目会の王宮では、擦り傷や回復魔法(♡♡の)程度しか必要なくて。
上級や中級の治療師は緊急討伐に駆り出されていて、初級だけが在駐してたらしい。
とりあえず治そうと初級治療師を神殿からも、質より量でありったけ召集したらしいけど。レンはりっぱに生死の境をふらふら行き来してたそうで…

「初級では眼球修復までは出来ませんしね、
上級が来るまでと欠損部位を魔石の力で覆っておりましたら…」

何故か魔石が染みて溶け込んで身体に吸収されてしまった。
おかげで傷も欠損も塞がったのだけれど。

ニャウムさんがそっと手鏡を差し出した。
カールさんが申し訳無さそうに眉を下げる。
ハナが胸の前で両手を揉みしだいて、意味ありげにこっちを見てる。

そして鏡を見て、レンはぽかんと口を開けた。
周りはレンの狂乱を鎮める為に息を潜めて待機してる。


ああ、なんという事でしょう。
そこには見慣れない顔が、こっちを見返しておりました。

割と丸いどんぐりの様な、精悍さの無かった目だったのに。
片方の目の色は夜空のような藍色に変わっていた。
しかもその中に銀粉が散って、ミルキーウェイのような光が煌めいている。
ふわんと猫っ毛だった髪はシルバーなポイントメッシュが入って、それが後光のように光っている。
キューティクルによる天使の輪というよりも、これはまさしくオーラの光だ。
そう"影のある主人公"のようにババンと
輝くオーラを纏わせた顔が、こっちを見ていた。

周りの人達は固唾を飲んでいる。
レンの動向に息さえ止めて見守っている。
それこそ悲鳴をあげたらと、構えている。

甘い。
レンはそのままを受け入れる事ができる男だ。
そこしか選択肢が無ければ楽しみに変える事さえできる。
幼い頃からハナを鼓舞して過ごす事で、それを極めた男だった。


唇の端をクイっとあげたら、なんか訳ありでシニカルな顔がこっちを見てる。

「いいじゃん。」

いや、これだよ。
異世界ってこれだよ。
チートもハーレムも無いなら、ちょっとくらい特別感が欲しいよね。
うんうん。
なんかやっと"異世界キター‼︎"って思えるぞー

うきうきとやけるレンに、心配していた周りはほっとした後で確実に引いていた。


ずびずびと鼻を啜っていたハナがくふっと笑った。

「レンちゃん。"左眼が疼くぜ"なんて言っても無視だからね」

泣いて腫れぼったい目のまま、笑顔をみせるハナにレンはほっとした。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様

佐藤 あまり
BL
 猫を助けて事故にあい、好きな小説の過去編に出てくる、罪を着せられ処刑される悪役に転生してしまった琉依。            実は猫は神様で、神が死に介入したことで、魂が消えかけていた。  そして急な転生によって前世の事故の状態を一部引き継いでしまったそうで……3日に1度吐血って、本当ですか神様っ  さらには琉依の言動から周りはある死に至る呪いにかかっていると思い━━  前途多難な異世界生活が幕をあける! ※竜公爵とありますが、顔が竜とかそういう感じては無いです。人型です。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

処理中です...