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番は特別らしい
9 やっぱり決意表明な
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う”う”う”ぅぅっ。
布団の中で蝉のように唸ってしまったのは無理もない。
レンは頭を抱えて転がっていた、そりゃそうだろう。
自分の危機察知能力はバツグンだと過信してた挙句にやっちまってたのだ。
いや、気付かなかったのだ。寝てたなんて言い訳にもならない。
目が覚めたら蓮華という煩わしさから脱皮して、なんか主人公っぽい色味のレンにグレードアップしていた。
そりゃ浮かれないはずはない。
しかも吸収されたのが風の魔石とかで、パワーアップしてた。
侍従さん達に程々にと言われながらも、脇目も振らずに練習した。
だってなんかちょっとかっちょいいじゃんか。
そして浮かれポンチのまま昼食に行って、愕然とした。
人がいない。
学食みたいに広い昼食室にハナとレンだけ。
勿論給仕してくれる人達はいるけれど、会議テーブルを並べたような長いテーブルに二人分の席がぽんぽんとある。
考えてみたら、皆は番と出逢って旅立ったと言われてた。
そして残ったのは二人。
この学校みたいにでっかい建物に二人なのだ。
それは"無駄"とか"不経済"っていうんじゃなかろうか。
早速ハナに事情聴取した。
旅立つ彼等は「もし行き場が決まらなかったら」とこっそりこれからの住所を残してくれてた。ありがてぇ。
そう、行き場だ。
頭を抱える一番の原因はソレだ。
寝ている間にお披露目会は終了し、レンには誰も現れなかったのだ。
召喚の儀って、国家あげての事業な訳で。
すっごくお金がかかってるわけだよね。
こんなでっかい別館に二人だけって…
光熱費も人件費もそれにかかる食費だって無駄だよね。
レンは知ってる、親方日の丸の公務員は無駄を嫌う。
俺達は結婚相手として召喚された。
つまり俺は子供のできにくいこの世界での種馬って事だよね。
引き取り手の無い種馬は処分や労働が待ってるだろう。
農耕馬としてひたすら働かせるかもしれない。
『聖女』だの『勇者』だのと盛り上がってた人達は、ラノベあるあるで"国に利の無い異世界人の末路"を教えてくれてた。
そりゃあ挨拶された王様は良い人そうで。
カールおじさんも良い人そうだ。
でも本気で縋れる訳じゃ無い。
あっちは為政者でこっちは一般ピープルだ。あ、異世界ピープルね。
しかもどんな事情があったって、集団誘拐という国家ぐるみのテロ集団なのだ。
こっちの事情が通じるとは思えない。
大人を、他人を信じてはいけない。
うっかり信じて懐いたら、気分次第で手のひらを返される。
そんなショックを味わうくらいなら、信じない方がましだ。
レンはん~とのびをした。布団が暖まって眠くなる。
ああ、ハナに番がいて良かった。
俺を殴った奴だからと気を回して言い出せていないが、ハナのソワソワでムフムフ感は丸わかりだ。
伊達に双子をやってないからな。
そりゃ、殴った奴は許せない。
でも"ハナの為に"が付くのは別だ。
ちょっと後先考えない脳筋臭いのが心配だがな。
ハナに昼間ストレートに聞いた。
「番っていうそいつ、どお?」
ニャウムさんが軽く息を呑んだけど、安心して欲しい。
俺達は双子だ。ツーといえばカー。
無駄な言葉を浪費しない。
「サンドロ様は私を殴ったりしない」
ハナはちょっと虚空に目を向けてから言った。耳が赤い。
(殴られて沈んでたレンちゃんに言うことじゃ無いんだけどね)
というのがくっきりと読み取れて、レンはしししと口の端を上げた。
何よりだ。
しかもサンドロ様と来た。
あの駄目男に次々とくっ付いて行った母親と違って、ハナも危機意識が高い。
そのハナが耳と頬を染めるのを見て、レンは複雑だった。
番って魂の半分って言うのは本当なんだろうな、もうハナが懐いてる。
そいつが大事にしてくれならハナは幸せになれるだろう。
これでハナはここから出て行ける明るい未来があるわけだ。
そんな安堵と得心の中で、寂しさが湧く。
そしてやっぱり残ってるのは俺だけじゃん。
という焦りがじりじりと心を炙っていく。
そいつが良い奴なら、まずハナを逃そう。
送り出してから、俺もとっとと出ていこう。
目の色も変わったし、こっちっぽい色味だからなんとかなるさ。
俺は残飯も漁れるし、畑だって耕せる。
布団の中でゴロゴロと位置を決めてから、レンは目を閉じた。
布団の中で蝉のように唸ってしまったのは無理もない。
レンは頭を抱えて転がっていた、そりゃそうだろう。
自分の危機察知能力はバツグンだと過信してた挙句にやっちまってたのだ。
いや、気付かなかったのだ。寝てたなんて言い訳にもならない。
目が覚めたら蓮華という煩わしさから脱皮して、なんか主人公っぽい色味のレンにグレードアップしていた。
そりゃ浮かれないはずはない。
しかも吸収されたのが風の魔石とかで、パワーアップしてた。
侍従さん達に程々にと言われながらも、脇目も振らずに練習した。
だってなんかちょっとかっちょいいじゃんか。
そして浮かれポンチのまま昼食に行って、愕然とした。
人がいない。
学食みたいに広い昼食室にハナとレンだけ。
勿論給仕してくれる人達はいるけれど、会議テーブルを並べたような長いテーブルに二人分の席がぽんぽんとある。
考えてみたら、皆は番と出逢って旅立ったと言われてた。
そして残ったのは二人。
この学校みたいにでっかい建物に二人なのだ。
それは"無駄"とか"不経済"っていうんじゃなかろうか。
早速ハナに事情聴取した。
旅立つ彼等は「もし行き場が決まらなかったら」とこっそりこれからの住所を残してくれてた。ありがてぇ。
そう、行き場だ。
頭を抱える一番の原因はソレだ。
寝ている間にお披露目会は終了し、レンには誰も現れなかったのだ。
召喚の儀って、国家あげての事業な訳で。
すっごくお金がかかってるわけだよね。
こんなでっかい別館に二人だけって…
光熱費も人件費もそれにかかる食費だって無駄だよね。
レンは知ってる、親方日の丸の公務員は無駄を嫌う。
俺達は結婚相手として召喚された。
つまり俺は子供のできにくいこの世界での種馬って事だよね。
引き取り手の無い種馬は処分や労働が待ってるだろう。
農耕馬としてひたすら働かせるかもしれない。
『聖女』だの『勇者』だのと盛り上がってた人達は、ラノベあるあるで"国に利の無い異世界人の末路"を教えてくれてた。
そりゃあ挨拶された王様は良い人そうで。
カールおじさんも良い人そうだ。
でも本気で縋れる訳じゃ無い。
あっちは為政者でこっちは一般ピープルだ。あ、異世界ピープルね。
しかもどんな事情があったって、集団誘拐という国家ぐるみのテロ集団なのだ。
こっちの事情が通じるとは思えない。
大人を、他人を信じてはいけない。
うっかり信じて懐いたら、気分次第で手のひらを返される。
そんなショックを味わうくらいなら、信じない方がましだ。
レンはん~とのびをした。布団が暖まって眠くなる。
ああ、ハナに番がいて良かった。
俺を殴った奴だからと気を回して言い出せていないが、ハナのソワソワでムフムフ感は丸わかりだ。
伊達に双子をやってないからな。
そりゃ、殴った奴は許せない。
でも"ハナの為に"が付くのは別だ。
ちょっと後先考えない脳筋臭いのが心配だがな。
ハナに昼間ストレートに聞いた。
「番っていうそいつ、どお?」
ニャウムさんが軽く息を呑んだけど、安心して欲しい。
俺達は双子だ。ツーといえばカー。
無駄な言葉を浪費しない。
「サンドロ様は私を殴ったりしない」
ハナはちょっと虚空に目を向けてから言った。耳が赤い。
(殴られて沈んでたレンちゃんに言うことじゃ無いんだけどね)
というのがくっきりと読み取れて、レンはしししと口の端を上げた。
何よりだ。
しかもサンドロ様と来た。
あの駄目男に次々とくっ付いて行った母親と違って、ハナも危機意識が高い。
そのハナが耳と頬を染めるのを見て、レンは複雑だった。
番って魂の半分って言うのは本当なんだろうな、もうハナが懐いてる。
そいつが大事にしてくれならハナは幸せになれるだろう。
これでハナはここから出て行ける明るい未来があるわけだ。
そんな安堵と得心の中で、寂しさが湧く。
そしてやっぱり残ってるのは俺だけじゃん。
という焦りがじりじりと心を炙っていく。
そいつが良い奴なら、まずハナを逃そう。
送り出してから、俺もとっとと出ていこう。
目の色も変わったし、こっちっぽい色味だからなんとかなるさ。
俺は残飯も漁れるし、畑だって耕せる。
布団の中でゴロゴロと位置を決めてから、レンは目を閉じた。
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