足元に魔法陣が湧いて召喚されたら、異世界の婚活だった件

たまとら

文字の大きさ
上 下
16 / 63
番は特別らしい

9 やっぱり決意表明な

しおりを挟む
う”う”う”ぅぅっ。

布団の中で蝉のように唸ってしまったのは無理もない。
レンは頭を抱えて転がっていた、そりゃそうだろう。
自分の危機察知能力はバツグンだと過信してた挙句にやっちまってたのだ。
いや、気付かなかったのだ。寝てたなんて言い訳にもならない。

目が覚めたら蓮華という煩わしさから脱皮して、なんか主人公っぽい色味のレンにグレードアップしていた。
そりゃ浮かれないはずはない。
しかも吸収されたのが風の魔石とかで、パワーアップしてた。
侍従さん達に程々にと言われながらも、脇目も振らずに練習した。
だってなんかちょっとかっちょいいじゃんか。

そして浮かれポンチのまま昼食に行って、愕然とした。

人がいない。

学食みたいに広い昼食室にハナとレンだけ。
勿論給仕してくれる人達はいるけれど、会議テーブルを並べたような長いテーブルに二人分の席がぽんぽんとある。

考えてみたら、皆は番と出逢って旅立ったと言われてた。
そして残ったのは二人。
この学校みたいにでっかい建物に二人なのだ。
それは"無駄"とか"不経済"っていうんじゃなかろうか。

早速ハナに事情聴取した。
旅立つ彼等は「もし行き場が決まらなかったら」とこっそりこれからの住所を残してくれてた。ありがてぇ。

そう、行き場だ。
頭を抱える一番の原因はソレだ。
寝ている間にお披露目会は終了し、レンには誰も現れなかったのだ。

召喚の儀って、国家あげての事業な訳で。
すっごくお金がかかってるわけだよね。
こんなでっかい別館に二人だけって…
光熱費も人件費もそれにかかる食費だって無駄だよね。
レンは知ってる、親方日の丸の公務員は無駄を嫌う。

俺達は結婚相手として召喚された。
つまり俺は子供のできにくいこの世界での種馬って事だよね。
引き取り手の無い種馬は処分や労働が待ってるだろう。
農耕馬としてひたすら働かせるかもしれない。

『聖女』だの『勇者』だのと盛り上がってた人達は、ラノベあるあるで"国に利の無い異世界人の末路"を教えてくれてた。
そりゃあ挨拶された王様は良い人そうで。
カールおじさんも良い人そうだ。
でも本気で縋れる訳じゃ無い。
あっちは為政者でこっちは一般ピープルだ。あ、異世界ピープルね。
しかもどんな事情があったって、集団誘拐という国家ぐるみのテロ集団なのだ。
こっちの事情が通じるとは思えない。

大人を、他人を信じてはいけない。
うっかり信じて懐いたら、気分次第で手のひらを返される。
そんなショックを味わうくらいなら、信じない方がましだ。


レンはん~とのびをした。布団が暖まって眠くなる。

ああ、ハナに番がいて良かった。
俺を殴った奴だからと気を回して言い出せていないが、ハナのソワソワでムフムフ感は丸わかりだ。
伊達に双子をやってないからな。
そりゃ、殴った奴は許せない。
でも"ハナの為に"が付くのは別だ。
ちょっと後先考えない脳筋臭いのが心配だがな。

ハナに昼間ストレートに聞いた。
「番っていうそいつ、どお?」
ニャウムさんが軽く息を呑んだけど、安心して欲しい。
俺達は双子だ。ツーといえばカー。
無駄な言葉を浪費しない。

は私を殴ったりしない」

ハナはちょっと虚空に目を向けてから言った。耳が赤い。
(殴られて沈んでたレンちゃんに言うことじゃ無いんだけどね)
というのがくっきりと読み取れて、レンはしししと口の端を上げた。

何よりだ。

しかもサンドロ様と来た。

あの駄目男に次々とくっ付いて行った母親と違って、ハナも危機意識が高い。
そのハナが耳と頬を染めるのを見て、レンは複雑だった。

番って魂の半分って言うのは本当なんだろうな、もうハナが懐いてる。
そいつが大事にしてくれならハナは幸せになれるだろう。
これでハナはここから出て行ける明るい未来があるわけだ。
そんな安堵と得心の中で、寂しさが湧く。
そしてやっぱり残ってるのは俺だけじゃん。
という焦りがじりじりと心を炙っていく。

そいつが良い奴なら、まずハナを逃そう。
送り出してから、俺もとっとと出ていこう。
目の色も変わったし、こっちっぽい色味だからなんとかなるさ。
俺は残飯も漁れるし、畑だって耕せる。


布団の中でゴロゴロと位置を決めてから、レンは目を閉じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処理中です...