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第1章

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 高幡沙樹は高校生になった。かつて兄が通った光葉高校。この学校に通うのが夢だった。
 だから今まで勉強を頑張ってきた。

 沙樹はこの街にある呉服屋の末っ子。だが高幡屋の女将の娘ではない。父親は確かに高幡屋の主人だ。主人の愛人の子なのだ。
 母親は沙樹が5歳の時に病気で亡くなり、施設行きになりそうな時に、父親に連れられて高幡家にやってきたのだ。
(ママさんとお兄ちゃんたちには感謝しかないな……)
 真新しい制服を着た沙樹は鏡の前で自撮りをした。そしてその写真を3人の兄たちに送った。

 沙樹の兄たちはもう家を出ている。
 一番上の兄の糾は、結婚してふたりの子供の父親だ。そしてもうすぐこの家を継ぐ。
 二番目の兄の柊は、もうすぐ結婚をする。婚約者のお腹の中には赤ちゃんがいるから、すぐに父親になる。
 三番目の兄の輝は、BLUE ROSEというバンドでベースを弾いている。この三番目の兄と一番仲がいい。子供の頃から一緒に遊びに連れ出してくれた。だから、バンドのメンバーもよく知ってる。
 そんな凄い人が兄だということを、学校の友達は知らない。そもそも学校で仲がいい友人はあまりいない。同中からの子は沙樹が愛人の子だと知ってるから。他校から来た子は知らない子もいるが、自分から話しかけにはいかないから、友人は本当に数えるくらいだった。
 自分には友人はいらないとさえ思っていた。


「高幡!」
 同じクラスになった田山圭太が、沙樹に声をかけてきた。
 他の中学からやって来た圭太は、なぜか沙樹の回りを彷徨く。それが沙樹にはうざったく感じていた。沙樹の出身中学の子から話は聞いてる筈だが、それでもお構いなしだった。
「なに」
 しれっとした顔で圭太に振り向く。
「そんな顔すんなよ」
 人懐っこい顔で笑う圭太が羨ましい。
「なんの用?」
 圭太にそう言うと目線を持っていた本に移す。
「ひとりでいて寂しくない?」
「別に」
「けどさー……」
「どうでもいい」
 ピシャリと言い放つと、それ以上話すことはしなかった。そんな姿を見て圭太は諦めて自分の席へと向かった。



     ◇◇◇◇◇



 沙樹が家に帰ると、珍しい人がいた。
「おかえり、沙樹」
「輝兄ぃ」
 満面の笑みで輝に駆け寄る沙樹は、昔っから輝によく懐く。
「久しぶり」
 輝は現在25歳。アメリカと日本を行ったり来たりしている。レコーディング中はアメリカ。その他は日本といった感じで過ごしている。
「半年ぶり?」
 首を傾げながら言う沙樹に目を細めて笑う輝は、愛しいものを見るように沙樹を見ていた。

「輝」
 奥から出てきた母親が輝に何かを渡した。
「これしかないんだけど……」
 母親が差し出したのは古い着物だった。
「着物?」
「写真集の撮影で、タカに着せてみようって」
「タカちゃんに?」
「似合いそうだろ」
「ふふっ……。それ、見たいー」
「見においでって言いたいけど、言えないなぁ」
 それはAKIRAに妹がいるとは公表していないからだった。
 輝を含めた兄たちが、BRがデビューする際に取り決めただった。

「でも撮影に使う衣装って、スタイリストが用意するんじゃないの?」
 不思議そうに輝を見る。
「零士たちと話しててさ……」
「あ、いつもの悪ふざけだ」
「当たり」
「全く、あなたたちは相変わらずね」
「でもこの着物、売り物?」
 母親に聞く沙樹に母親は「違うわ」と答える。
「じゃ、これ……」
「お父さんがあなたのお母さんに贈ったもの」
「え……」
「あなたのお母さんの親戚の人に持っていかれそうになってたの」
 母親をじっと見る沙樹は、目をパチパチさせていた。
「お母さん……?」
「あなたの本当のお母さん。これを大事にしていたんですって。それをあなたをここに連れてくる時に一緒に持ってきたのよ」
 キレイな深い赤の生地に白い牡丹の花。
 その着物をじっと見る沙樹に「ごめんね。貸せる着物がこれしかなくて。沙樹ちゃん。ちょっと貸してもいい?」と言う。
「うん。だって私、着れないもん」
「これ、振り袖だからあなたの成人の日に着せようかと思っていたのよ」
「でもなんで振り袖をお母さんに?」
「成人のお祝い、してなかったんですって」
 沙樹の母親は、幼い頃に両親を亡くして親戚を転々としていた。
 その為に成人の祝いをしていなかったのだ。それを聞いた父親が振り袖を贈ったそうだ。
「そう……なんだ」
 沙樹はそれ以上なにも言わなかった。
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